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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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4-2

 ライカゲが攻める、攻める、攻める。


 分身を用いて回転特攻弾のように突っ込む、火遁のエンチャントを付与したクナイを放つ、影縛りを応用した無限追跡の手裏剣を放つ、水遁を応用した水弾を浴びせる、土遁で地面から攻撃を加える、挙句は爆弾を投げつける。


 分身があれば何でもできるとばかりに出鱈目だが、全てが即死級。

 今、ハジメは30体以上の忍術を用いる分身に波状攻撃を受けていた。


 だが、ハジメも黙っていない。


 近づいた分身を長剣の居合で両断し、炎のクナイを空中で切断し。影縛り手裏剣には光魔法で影を消し飛ばし、水弾は剣に炎をエンチャントさせて蒸発させ、大地から近づいた土遁分身は再度大剣を地面に叩きつけて全て押し潰す。


 本来、剣士と魔法使いは両立できない。魔法剣士というやり方もあるが、それでは習得できる魔法の種類が限られる。しかしハジメは剣士として超一流の太刀筋を披露しながら、並行して一人で次々に魔法を使いこなす。本来ならばどちらか片方で手一杯、両立は破綻の道だ。

 しかし、ハジメは二つを並列させる戦闘スタイルにそれを昇華させた。


 ハジメの大剣が輝きを増し、剣の極致のスキルを魅せる。


「ストリーム、モーメントッ!!」


 瞬間、ハジメが残像を残す程の超スピードで加速した。

 元より大剣を軽々と振り回していたハジメだが、今回のこれはオーラを全開にしたことで軽々、という次元を超えた神速の連撃となる。


「ちぃ、散開――」

「遅いッ!!」


 ライカゲの分身がそれを口にしたときには、既に分身は頭から両断されていた。分身は忍者刀を使って防御しようとするが、分身すら圧倒する超高速移動と共に放たれる連撃は全ての防御と体術を潜り抜け、一秒にも満たない間に30体いた筈のライカゲの分身を皆断した。


 では、分身ではない本体はどこにいるのか?

 答えは――分身たちより遥か離れた場所だ。


 ライカゲが両手で大地を触ると、彼の背中にあった巨大な巻物が光り、彼の足元を通して大地に莫大な魔力が渦巻く。大魔法に攻撃の隙が必要なように、忍術もまた大きな技を放つには相応の隙がある。それを補う為の分身であり、そして本来もっと出せた筈の分身の数を抑えた理由。


「土遁、万来拍掌連破ッ!!」


 大地が大きく捲れあがり、そこに巨大な土の手が現れた。土の手は周囲の土を呑み込むように肥大化し、次々に大地から同じものが出現し、すぐに町一つを押し潰す程の夥しい手の集合体となる。土の手は拳を作り、或いは熊手、或いは平手と様々な形となって一挙にハジメを襲った。


 ただ一個人のみに向けられた土石流の如き万来の手。

 如何に堅牢な城壁であろうが圧壊させる圧倒的物量攻撃。

 しかし、ハジメは怯まず押し寄せる巨大な土の手に挑む。 


 正面の手を切り裂き、次の手を躱して上に飛び乗りながら隣の手を切り落とし、針の穴に糸を通すように華麗に攻撃を潜り抜ける。その様子を見たライカゲは、すぐさま彼のやろうとしていることに気付き顔色を変えた。


「そう来るか、貴様!!」


 ハジメはいつの間にか杖で地面を擦りながらぶつぶつと何かを唱えていた。

 詠唱破棄は詠唱速度を短縮できる代わりに魔法威力が減退する。

 彼はそれを知っていて、杖の先端で地面を擦って強制的に魔方陣を展開しながら詠唱を溜めては、詠唱中断というスキルで区切って土の腕を潜り抜け――を繰り返して最大威力の魔法の発射準備を整えていた。


 解き放たれる、世界でも数名しか使えない超々広範囲炎熱魔法。


「万象融解、ボルカニックレイジッ!!」


 大地が、世界が、白熱に包まれる。

 炎ではなく、溶鉱炉の如き熱がハジメを中心に周囲数百メートルに炸裂した。ちょうど土遁・万来拍掌連破を発動させた大地に到達する地点で発動できるよう計算され尽くした術は大地を焼き尽くし、融解させる。


 なんとかハジメに到達しようともがく土の腕たちも即座に白熱し、ガラス化し、氷が熱されたようにどろどろと大地に落ちていく。敵味方の区別をつけることが出来ない、禁忌魔法と呼んで差し支えない威力だった。


 焦土と化した大地に残された、二人の戦士。

 もはや障壁で守られている魔王城以外の周辺地形は地獄絵図と化しているが、二人には何ら影響がない。こればかりは金に物を言わせた最高級装備の恩寵もあるが、それだけではない。ここまでの手の内は、互いに知っていた範囲でしかない。


 目的は、その先だ。


「では、仕舞いに相応しきものを」

「ああ」


 ライカゲは自らの胸の前で素早く十回印を結び、天から降りて来た何かを受け止めるかのように手を掲げ――そして、空から降り注いだ超特大の雷を握った。

 莫大な力はライカゲの全身を掛け巡り、その体から稲妻として無差別に放出される。眩い閃光の中から現出するは、全身全霊悉く雷を纏いし魔人の姿。


「ライカゲ流奥義――『武御雷タケミカヅチ』」


 それは、雷遁の行き着いた先。

 一瞬だけの加速でも一撃必殺の雷撃でもない。

 自らが雷の化身となることで、最速にして最強に至る。


 無言で抜いたクナイが帯電し、雷撃の刃を形成した。

 ここまで高められた雷は、もはや装備品による電気軽減などで対抗できるものではない。神をも恐れずのたまうならば、ライカゲは今、雷神だ。


 対し、ハジメはふぅ、と息を吐き、吸い込み、そして目を見開く。

 瞬間、ハジメの全身から爆発的なオーラが放出された。


 オーラはハジメの全身を覆い尽くし、その力を何十倍、何百倍にも増加させる。それは数々の技術を習得したハジメが持てる全てのスキルを使って自らの身体能力の限界を超える――理論上は出来たが、放つ相手がいない為に使わなかった、本気の力。


 ハジメの武器が、手を触れずして抜かれ、浮き上がっていく。

 それらはまるで仏の後光の如く円系に並び、ハジメの背で回っていた。


「――『攻性魂殻アスラガイスト』」


 それは、埒外のオーラの濃度と、気を極めた先に辿り着いた神通力に近しき力。ハジメはこの全ての武器を、自らが手にした時と同じように操ることが出来る。

 一人で同時に数多の武の極みを放つ力。

 武神と、そう形容するしかない姿。


「――」

「――」


 二つの生ける伝説は、合図の言葉一つなく衝突する。

 その余波は容赦なく大地を破壊し尽くし、魔王城上空で太陽を覆い隠す瘴気が衝突の反動で消し飛んだ。


  余波はそれだけに留まらず地割れを引き起こし、轟音と衝撃波を撒き散らし、そして魔王城の頂上である魔王の部屋から「ヒィィィィィィィ!?」と甲高く情けない悲鳴が響いた。心なしか女性な気がする。


 『石破れて天驚く』という諺があるが、それは比喩のようなものであり物理的な意味では決してない。しかしこの二人は、それを物理現象としてこの世界に顕現させた。


 これが、世界最強の冒険者たちの所業。

 これが、人間の辿り着いた次元。


「ラァァァァァァッ!!!」

「オォォッッ!!!」


 雷鳴と共にライカゲが残像の見える速度で拳や蹴りを放ち、ハジメが剣でそれを全て正確に武器で切り払う。


 そのたびに、行き場のない雷と衝撃が荒れ狂い、空を幾度となく駆け巡る。


 ハジメが背に舞う武器から槍で刺突を放ち、それをライカゲが神がかり的な見切りで受け流し、ハジメの続く一撃もいなしきる。


 受け流したハジメのスキルの威力はどこまでもどこまでも飛来し、その遠い先に存在した魔王軍幹部の砦に衝突して地盤沈下を引き起こした。


 一度、二度、三度と衝突するたびに地盤が紙のようにめくれがあり、地形が砂を崩すように呆気なく変形していく。


 雷の速度で流麗な連撃を放つライカゲと、それを様々な武器と魔法で迎撃するハジメの殺陣は互いに一切譲る気配を見せない。ただ悪戯に大地は裂かれ、天を雷が貫き、そして魔王城の中から阿鼻叫喚が響き渡る。城の中には一切被害がないが、既に彼らが総力を挙げて二人を襲おうが壊滅する未来しかない。


 やがてその衝突が数十に及び、もはや周辺から魔王城以外全てが消滅するのではという被害規模に拡大した頃――人類頂上決戦に待ったをかける声が響いた。


「ママ~~~!! おじさ~~~ん!!」


 それは、つい最近ハジメが孵化させたエンシェント・ドラゴンの子ども、クオン。くりっとした可愛らしい瞳の彼女はどうやらハジメたちの居場所を何らかの方法で辿ってきたらしい。


「二人ともずるいよ、おシゴトだって言ってたのにこっそりたたかいごっこして!! 私には付き合ってくれなかったくせにー!!」


 不満を露にしたクオンだが、すぐに何かを思いついたようにころりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「いいもんねー、ランニューしちゃうもんねー!! いっくよー!! すぅぅーーー……」

(あっ)

(これアカンやつや)


 この瞬間、ハジメとライカゲは空を飛ぶクオンの口元に――自分たち二人の魔力を全て注ぎ込んでも発生させられるかどうか怪しい極大の魔力が収束していることに気付き、顔を見合わせると同時にその場から全力で飛び退いた。


「――くおぉぉぉぉーーーーーーーんっ!!」


 直後、この世の全ての闇を灼き尽くすように煌々と輝くブレスが発射された。

 溢れる魔力と神聖な力を内包したそれは、太さだけで既に数個の町が収まる程の範囲であるにもかかわらず更に拡散されて幅を広めていき、そして偶然にも魔王城の障壁に衝突。


 直後、閃光。

 後れて、大爆発の衝撃が大地を灰燼と帰した。


 文字通り魔王城の周辺全てが木っ端微塵に消し飛び、そこにはもはや足場すら失って空中に取り残された魔王城だけをぽつんと残した、巨大な、とても巨大な――国が一つ収まるほどのクレーターが空いていた。

 空には粉塵がもうもうと立ち昇り、まるできのこのような奇怪な煙が形成されている。


 残された魔王城は障壁に無数の亀裂が入り、あと一つ石ころでも叩きつけられただけで砕け散りそうな惨状に陥っていた。


 思い切りブレスを放出してすっきりしたとばかりにうぅん、と伸びをしたクオンは改めて自らの所業を目視で確認し――。


「あれ? ……やりすぎ?」


 ――可愛らしくこてんと首を傾げた。


 この後滅茶苦茶ハジメに怒られたクオンの情けない鳴き声が霧の森に響き、そしてライカゲは自宅で「また決着が着かなかった」といじけたように呟いたのだった。クエスト失敗である。


 エンシェントドラゴンのクオン――今はハジメの方がレベルは上だが、魔力と破壊力の総量では既に彼女の方が何枚も上手のようである。

 なお、その後一か月間魔王軍の活動が極端に鈍化したのは余談である。




 ◇ ◆




 ――その昔、勇者でもないのに勇者以上の実力を持っていたハジメとライカゲは権力者を含むとある一派に疎まれており、二人とも「魔王軍の裏切り者を討って欲しい」という偽の依頼で衝突させられた。


 二人の戦闘場所は当時遠征をしていた魔王軍の進軍ルートであり、二人を共倒れにさせつつ魔王軍も戦力も削る一石三鳥の作戦の筈だった。


 しかし、予想以上に実力が伯仲していた二人の戦いは決着が着かず、二人がそれほど消耗しない間に魔王遠征軍が現場に到着。二人は自分たちが偽の依頼に引っかけられたことにうすうす気づいていたために戦いを中断し、魔王遠征軍を壊滅させて指揮官の幹部を殺害した。


 なお、偽の依頼を出した者は忍者を裏切った報いを受けたとハジメは聞いている。


 ともあれ、ハジメとライカゲはそれ以来の付き合いだ。

 互いに強くなりすぎて自分の能力把握が難しい者同士、定期的に戦っては自分のレベルを実感し合うのだ。


「ただ、今回はそのあくまで本気ではない部分が裏目に出たようだが……」


 村に戻ってすぐにクオンを一通り叱り、慣れないことをしたとばかりに外の空気を吸うハジメ。その隣で背中から壁に寄りかかるライカゲは「あんなもの予想できるか」と珍しくいじけたような態度を取る。

 一応、あれでもハジメとライカゲは互いに全力の殺し合いなどしていないのだ。


 例えばライカゲは更に強力な分身や大きな術、召喚術、大型手裏剣などの武器、忍術による地形変化や幻術を使用していない。また、体術も更に強力なものを温存していた。

 ハジメもまた杖二刀流、攻撃スキルコンボ、盾の裏の仕込み矢、その他豊富なサブ魔法など使っていなかった技術は多い。また、神器に近い性能を誇る聖遺物級の武具も使用していなかった。


 故に、あれだけの規模に発展してもあくまで手合わせの範疇だったのだ。


「そんな我々を以てして戦慄を覚えるクオンのブレスか……」

「今回ので実感させられた。エンシェント・ドラゴンはたとえ子供であっても俺たちの常識で図れるような力をしていない。より教育に失敗できなくなった」

「弟子共々、手伝いはしよう」

「助かる……」


 少なくとも戦闘技量に関してはないも同然のクオンだが、あの破壊力を遺憾なく発揮出来るのであれば技量差などなんの慰めにもならない。まかり間違って『何か』があれば村どころか『霧の森』そのものが更地になるだろう。

 クオンがうっかり空にブレスを放って神を撃ち落とさないか心配になる転生者たちであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に体力テストが目的だったのか… しかし、実にクオンの存在は爆弾よの…せめてもう少し子供心を抑えられるくらいの落ち着きが身に付く年齢になればよいのだろうけど…竜族がその年齢になるまでには…
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