表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第5話 美味しい美味しい特別な紅茶

――14:19

「んっ、んんっ……くぁぁぁっ……あぁぁぁ……っ」

(ど、どうしよう……トイレっ……トイレに行きたい……!)


 総会開始から40分が過ぎようている頃、アリアは一人、激しい尿意に襲われていた。



(が、我慢できない……! おかしい……っ……おかしいわよっ、こんなの……っ!)



 総会開始の時点で、アリアはかなりの尿意を感じていた。


 結局3時間目に終わりを最後に、トイレには行けずじまい。

 昼休みには水をコップ一杯、紅茶を合計で3杯飲み、食堂でフルーツも食べている。

 さらに、水を浴びて体が冷えた上に、下腹を締め付けるサイズ違いのブルマ。


 既に意識から、尿意を追い出すのは不可能だ。

 平静を装うどころか、この2時間を我慢し通せるかすら、強い不安を感じる程だった。


(大丈夫……大丈夫よっ! 私は、もう、成人したんだから! こんな、みんなが見てる前で、我慢できなくなるなんて……あ、ありえないわっ!)


 何とか心を強く保とうとするが、どうしても最悪の想像が拭えない。


(お願いっ……これ以上……したくならないで……!)


 ゆっくりとした呼吸を繰り返し、少しでも尿意の侵攻を遅らせようとするアリア。

 だが、そんなアリアを嘲笑うかの様に、尿意は加速度的に強まっていった。



(なんでっ!? なんでこんな、急に……!? あぁぁぁ……トイレぇぇ……っ!)




 尿意が急激に上がった原因は、知らず知らずの内に突き立てられた、『2人目の刺客』の刃によるもの。

 アリアが打ち合わせで、2杯飲み干した紅茶に潜んでいた悪魔。


 少女達の計画の中でも最重要の要素――利尿剤だ。


 打ち合わせで飲んでから、総会の最中に効果が出る遅効性のもの。

 そして、アリアの狼狽える姿を長く楽しむため、効果がじわじわと強まるものを選んでいる。


 結果は見ての通り。

 アリアは総会の真っ只中、まだ1時間以上を残した状態で、限界近くまで膀胱を膨らませてしまっていた。


(我慢っ……するのよ……っ! 私はっ、副会長なんだから……! 総会の、途中で……トイレなんて……っ!)


 それは責任感か、それとも、トイレを言い出せない悪癖か。

 何としてでも、最後まで我慢しようとするアリア。


 だが、利尿剤を飲まされた彼女の体は、絶え間なく小水を作り出し、危険水位に達した膀胱を更に圧迫する。


「んんっ! んっ……あっ!? あぁぁっ……!」


 襲いくる波に、アリアの体がブルッと震える。

 ブルマから伸びる脚はもじもじと擦り合わされ、彼女を注視している者達の一部は、アリアの窮状に気付き始めていた。


(ど、どうしようっ……本当に、もう、我慢が……っ! ダメよっ、途中でなんて……で、でもっ……でもぉっ!)


 縋るように時計に目を向ける。だが、針は先ほどから5分と進んでいなかった。



「あぁぁぁぁぁ…………っ!」



 総会は残り1時間と3分。

 とてもじゃ無いが、我慢し切れるとは思わない。


 アリアの、心が折れた。



(も、もう、無理ぃ……! ト、トイレ、行かせて、もらわなきゃ……っ……あぁっ、なんて情けない……!)


 これから自分は、大勢に見られながら、トイレを申し出なければならない。

 あと1時間の我慢ができず、このままでは漏らしてしまうことを、全員に知られてしまう。

 あまりの羞恥に、アリアの目に涙が浮かんだ。


(せ、せめて、不自然じゃ無い、タイミング……私の、連絡事項が、終わったら……!)


 あと5分もすれば、会長の演説が始まる。演説は凡そ10分前後。

 アリアの出番はその次だ。


(私の番まで、15分……その後、ちょっとだけ、早口で……そうすれば、5分くらいで……!)


 合計で20分。

 今のアリアには、それすら果てしなく長い時間だが、耐え抜くしか無い。

 間近に迫った出番すら待てないほど、トイレを我慢していると思われるなど、最後に残ったプライドが許さないのだ。


(20分……たった20分よ……! 我慢できる! 私は、ぜったい、がま、ん……あぁぁぁっ!)


 だが、アリアを蝕む利尿剤は、そんな虚勢を許しはしない。





 ジョロロッ。

「んむうううっっ!!?」



 会長の演説開始から1分。

 ついに、ピンっと張った我慢の糸が、綻び始めた。

 咄嗟に口を塞がなければ、講堂中に悲鳴が響いていたところだ。


(あ、あぁっ、ダメっ! 漏れるっ! もう、漏れちゃうっ! ど、ど、どうしようっ!? どうしたらいいのっっ!!?)


 自分の出番を終えるどころではない。

 アリアはもう、会長の演説が終わるまで、耐えられる気がしなかった。


 今すぐ立ち上がり、両手で出口を抑えながら、反対側の教師達のところまで走り、トイレを願い出る。

 そうしなければ、この壇上で、とんでもない醜態を晒すことになる。



 だが、アリアは立てなかった。


 今回の会長の演説テーマは『責任』。

 主に、責任を途中で放棄することが、どれだけ恥ずべきことかを語っている。

 そんな話の最中に、あと数分後には出番を迎えるアリアが、トイレを我慢出来ずに壇上から逃げ出す。


 間違いなく、全校生徒の笑い者だ。


 だが――




 ジョォォォッ!

「んぐぅぅぅぅっっ!!?」


 再びの放水。

 今度は、先ほどよりも量が多い。

 下着はもうグッショリで、ブルマにも、小さな染みが浮かんでいた。


(あぁぁぁっ……もう、限界……! おしっこ……限界っっ!!)


 体の震えは止まらない。

 生徒達から隠れる方の手は、ピッタリと閉じ合わされた脚の隙間に入り込み、全力で出口を抑えていた。


 ジョロッ、ジョロロッ!

「あぁああっ!? あぁぁあっ!?」


 塞げなくなった口から悲鳴が漏れる。


(もうダメっ! もうダメぇぇぇぇぇっっっ!!! 言わなきゃっ! 言って、今すぐ、トイレに……っ!)


「つ―――は、せ――か―か――連絡事項……」


 会長が話している言葉も、随分前にから耳に入ってきていない。

 もう、本当の本当に限界だ。

 このままでは、アリアは壇上の椅子に座ったまま、ブルマも、脚も、靴下も、全てを水浸しにしてしまう。


 全校生徒の前での、無様な失禁。

 アリアは明日から、影でも日向でも、『お漏らし皇女』と呼ばれることになるだろう。


(い、いい、嫌ぁぁぁっ! そんなの、嫌よぉぉっ!)


 尿意と恐怖が体を動かす。

 アリアはついに、自分の役目を放棄した。


(ごめんなさいっっっ!!!)





「副会長、お願いします」


――えっ?


 それは、アリアが尿意に負け、腰を浮かせたのとほぼ同時。

 目安より2分早く演説を終えた会長が、マイクに乗せて、講堂中にアリアの出番を告げた。


「連絡事項、お願いね」


 全校生徒の視線が、アリアに集まる。

 一瞬、尿意を上回る羞恥心。


「あ、あの、私……っ……トっ……は、はいぃ……!」


『トイレに行きたい』


 たったそれだけの言葉を、アリアは結局、口に出せなかった。


 よろよろと、舞台袖のマイクに向かうアリア。

 その後ろを通る生徒会長が、一瞬、冷たい視線をアリアに送る。


 そう、生徒会長も、少女達とグルだった。


 彼女の実家は、ルーデンベルク家に多額の借金があり、その債権はイライザに譲渡されている。

 イライザは減額を餌に、優秀で、多くの権限を持つ生徒会長を、手駒として使うことができるのだ。


 だが、今回彼女に与えられた本来の役目は、演説を()()()()()、アリアの我慢を長引かせることだ。

 その結果、待機中に限界を迎え、トイレに駆け込まれてしまっても、彼女の落ち度では無い。


 借金減額はなくなり、多少嫌味は言われるだろうが、実質的な被害を被ることはないはずだ。

 彼女はこの会場内で、唯一アリアを救う事ができる存在だったのだ。


 だが会長は、哀れなアリアを、むしろ全力で追い詰めた。

 アリアが、トイレを申告しようとしていることを悟り、敢えて演説を早く切り上げ、出番を早めることでそれを防いだのだ。


 それを、イライザがどう評価するかは、特に重要ではなかった。

 会長は、自分の意思で、アリアの退路を完全に断ち切ったのだ。




 コーデリア・エルスデン。


 皇立学園、ベルンカイト校生徒会長。




 そして数ヶ月前、アリアに中等部歴代最高成績記録を、塗り替えられた、『2番目の女』。

次回、フィニッシュです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ