道場訓 九十七 勇者の誤った行動 ㉜
俺は腹に受けた衝撃によって大きく吹き飛ばされた。
そのまま背中から地面に激しく落下する。
5秒ぐらい経ったときだろうか。
俺はむくりと上半身を起こした。
「……まったく効かねえな」
念のため腹をさすってみるが、やはり肉体にダメージはほとんどない。
いや、ほとんどどころか完全に無傷である。
俺に適合した魔人の力が、常人なら内臓が破裂していた打撃を完全に無効化したのだ。
直後、俺は全身のバネを利用して飛び上がった。
「ほう……今のでも致命傷にはなりませんか」
いつの間にか、俺がさっきまでいたところに般若面の男が立っていた。
どんな魔法かスキルの力を使ったのかは知らないが、俺が瞬きをするかしないかの一瞬に俺の背後へと回ったのだろう。
それだけではない。
般若面の男は以前に俺を失神させた、クレスト教の修道女以上の突きで俺の腹を打ったのである。
その一撃で俺は数メートルも吹き飛ばされたのだ。
俺は通路に威嚇の意味も込めて唾を吐き捨てた。
「この仮面野郎……何が致命傷にはなりませんか、だ。よくも俺さまに不意打ちを食らわせたな」
「これは異なことを言いますね。最初に殺意を向けてきたのはあなたのほうですよ」
やかましい、と俺は怒鳴った。
「そんなことはどうでもいいんだよ。肝心なのは、てめえが俺さまの言うことに大人しく従わなかったことだ」
般若面の男は、あからさまに肩をすくめた。
「どうやら、あなたは普通の人間と違って頭のネジが何本か飛んでいるようだ……まあ、そんな人間でないと適合者にはなれませんか」
このとき、俺の片眉がぴくりと動いた。
適合者。
確かに般若面の男はそう言った。
「まさか、てめえも俺と同じ適合者とやらなのか?」
「私が?」
般若面の男は表情こそ仮面のせいで読み取れなかったが、その仮面の下では不思議そうな顔をしていたのだろう。
それぐらいは俺でも声の感じで予想できる。
「冗談にしては笑えないですね。私があなたたちのような紛い物と同じ扱いをされるとは……」
「はあ? 俺たちが紛い物だと?」
意味が分からなかった。
まるで俺たちが偽物で、般若面の男は本物だと言っているかのようだ。
「おいおい、その言い草だと自分は〝本物の魔人〟だと言っているみたいだぜ?」
もちろん、そんなはずがない。
魔人とは戦魔大陸を根城にしている魔物を超えた化け物どもの総称だ。
この人間界に現れたという噂はたびたび聞くが、それはあくまでも噂の範囲内のことで本物の魔人がわざわざ海を越えて人間界に来ることはほぼないと言われている。
「面白え。どうせ適当なことを抜かしているだけだと思うが、一撃でも俺に入れたことは認めてやる」
だから、と俺はグニャニャと全身の筋肉と関節を動かした。
「もう楽に殺すのはやめだ」
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