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道場訓 四十一   師匠VS3人の弟子たち

「さあ、遠慮(えんりょ)しなくてもいいぞ」


 3人の視線を真っ向から受け止めながら、俺はぴたりと重ねた4本の右手の指をクイクイッと折り曲げる。


 どこからでも掛かってこい、という俺的な意思表示だった。


 しかし、いくら待てども3人が立ち向かってくる様子がない。


「どうした? 誰が最初に行くかで迷っているのか? だったら、そんなこと気にする必要はないぞ。1人ずつじゃなくて3人まとめてで構わない。いや、むしろそのほうが時間が(はぶ)けていいぐらいだ」


 挑発(ちょうはつ)ではない。


 嘘偽(うそいつわ)りのない、今の俺の本音(ほんね)だった。


 これが3人とも闘神流(とうしんりゅう)空手(からて)を5段以上(おさ)めていたのなら話は別だったが、まだ【神の武道場】から恩恵技(おんけいわざ)の一つも与えられていない今の状態なら3人まとめてでちょうど良いくらいだ。


 などと俺が思っていると、「さすがにそれは……」とエミリアがおそるおそる口を開いた。


「ケンシン師匠相手に(いど)んでも私が勝つことは絶対に無理ですよ」


 確かにエミリアの言うことも一理ある。


 正直なところ、今の3人では逆立ちしても俺には絶対に勝てない。


 だが、これはあくまでも純粋(じゅんすい)な試し合いで殺し合いではないのだ。


「大丈夫、手加減はするから安心しろ……だがその代わり、お前たちは手加減などするなよ。それこそ命懸(いのちが)けで掛かってこい。そうでないと俺も【神の武道場】もお前たちの実力を()(はか)れないからな」


 エミリアが頭上に疑問符を浮かべたのも(つか)()、3人の中で全身から闘気を放出しながら一歩前に出た人物がいた。


 キキョウだ。


「ならば拙者(せっしゃ)から参ります」


 3人の中で一番の武術家気質(きしつ)だったからだろう。


 キキョウはすぐに俺の意図(いと)を見抜いたのだろうが、それでも1人で(いど)んで来ようとするのは問題外だった。


「おい、キキョウ。さっきも言ったが、来るのなら1人じゃなくて3人同時に――」


 来いよ、と俺が言葉を続けようとした直後だ。


「いざ、ご(めん)!」


 キキョウは流水(りゅうすい)のような(なめ)らかな歩法で間合いを()めてきた。


 そして――。


「シッ!」


 間合いに入るや(いな)や、短い呼気とともに鋭い貫手(ぬきて)を繰り出してくる。


 狙いは(のど)か――良い判断だ。


 俺は自分の(のど)に吸い込まれるように放たれた貫手(ぬきて)を、当たる直線に身を(ひるが)すことで難なく(かわ)した。


 しかし、キキョウはそこまで読んでいたのだろう。


 キキョウはすぐさま(そろ)えた指先で突く貫手(ぬきて)から、小指の外面で相手を攻撃する手刀(しゅとう)に切り替えて追撃してくる。


 それでも俺には通じない。


 俺はキキョウの攻撃をすべて()け、その中で一瞬の(すき)をついて反撃した。


 腹部を狙った正拳下突(せいけんしたづ)きだ。


 手の甲を上にして突く正拳突(せいけんづ)きとは違い、正拳下突(せいけんしたづ)きの場合は手の甲が下になった状態で突く。


 上手く決まれば正拳突(せいけんづ)きよりも体重が乗って人体に突き刺さる。


 現に俺の正拳下突(せいけんしたづ)きを食らったキキョウは、苦悶(くもん)の表情を浮かべながら腹部を押さえて両膝を床につけた。


 当然ながら極限まで手加減はしている。


 俺が本気で正拳下突(せいけんしたづ)きを放てば、人体など一発で貫通(かんつう)するからだ。


「何や、一番に名乗りを上げたのに情けないの」


 次に一歩前に出たのはリゼッタだ。


「ケンシンさま、次はうちが行かせて(もら)いますわ。もちろんのこと手加減なんてしまへんで。全力で行かせて(もら)います」


 いや、だから1人ずつじゃなくてだな……。


 俺の思いとは関係なく、リゼッタは1人だけで間合いを()めてくる。


 しかし、その間合いの()め方はキキョウとは対極だった。


 疾風(しっぷう)のように向かってきたキキョウとは違い、リゼッタはまるで近所を散歩するような(ゆる)やかな足取りで距離を(ちぢ)めてくる。


 顔もにっこりと笑みを浮かべ、全身のどこにも力が入っていない。


 まさに理想的な脱力(だつりょく)状態のまま歩を進めてきたのだ。


 なので俺は自分の制空圏(せいくうけん)に、リゼッタの侵入を簡単に許してしまった。


「ケンシンさま。どうかお手を……」


 俺の間合いに入った瞬間、リゼッタは右手を差し出してくる。


 (はた)から見たら親愛の握手を求めたように見えただろう。


 俺は条件反射的にリゼッタの握手に応じた。


 そしてリゼッタの右手を同じ右手で握った瞬間――。


 ズンッ!


 突如(とつじょ)、俺の肉体に凄まじい〝重み〟が()し掛かってきた。


 まるで巨大な岩を背中に乗せられたような感覚的な〝重み〟だ。


 その突然の〝重み〟によって、俺の身体は(まばた)きを一つするかしないかの刹那(せつな)だけ硬直(こうちょく)してしまった。


 クレスト流の合気(あいき)か!


 などと俺が思ったのも(つか)()、あれほど身体に感じていた〝重み〟が一瞬にして消え去り、今度は重力がなくなったような消失感が襲いかかってくる。


 次の瞬間、俺の視界は反転して肉体が独りでに宙を舞った。


 握手をした右手を支点(してん)に投げられたのだ。


 そして投げられた際に身体の向きが上下逆になっていたため、もしも受け身を取らなかったら頭から床へと熱烈(ねつれつ)なキスをしたことだろう。


 強引な〝力〟による投げではなく、理合(りあい)(ふく)まれた〝技〟による投げによって。


 なるほどな。


 俺は頭が床に激突する瞬間、瞬時に床に左手を突いて頭部への激突を回避(かいひ)する。


 それだけではない。


 そのまま身体を反転させて元の体勢に戻ると、今度は俺がリゼッタに対して見様見真似(みようみまね)の〝合気(あいき)〟を掛け返した。


 先ほどの俺と同じく身体に感覚的な〝重み〟を感じたのだろう。


 リゼッタは驚きの表情とともに、一瞬だけ身体を硬直(こうちょく)させる。


 それだけで十分だった。


 俺はその一瞬の(すき)をついて、リゼッタの首筋に手刀(しゅとう)を走らせた。


 トンッ。


 そして俺の極限まで手加減した手刀(しゅとう)を食らったリゼッタは、全身の力が一気に抜けたように膝から崩れ落ちた。


 さて、最後はあいつだな。


 俺は呆然(ぼうぜん)と立ち尽くすエミリアに顔を向けた。


 全身を震わせてはいないものの、どうしたらいいのか迷っている感はありありと伝わってくる。


「エミリア、そんなに迷う必要なんてない。余計なことは考えず、今のお前が持てるすべての力を駆使(くし)して俺に向かってくるんだ。それこそ殺すつもりでな」


 俺は俺なりに発破(はっぱ)を掛けたつもりだったが、どうやらエミリアには逆効果だったらしい。


 ビクッと身体を震わせるなり、明らかに目が泳ぎ始めた。


 はあっ、と俺はこれ見よがしにため息を吐いた。


失望(しつぼう)したぞ、エミリア」


 続いて俺はエミリアにはっきりと告げた。


「お前はあれか? 目の前で大切な人間が悪漢(あっかん)に殺されようとしているときでも、お前は自分よりも悪漢(あっかん)のほうが強かった場合、その大切な人間に対して「私よりも悪漢(あっかん)のほうが強いので、私はあなたを助けることができません」と言うのか?」


 俺はハッとしたエミリアに言葉を続ける。


「違うだろ? それこそ俺と最初に会ったときのお前は、〈暗黒結社(あんこくけっしゃ)〉の悪漢(あっかん)どもに襲われながらも1人の少女を必死に守ろうとしていたじゃないか」


「あれは私も必死で……」


「そうだ。あのときのお前は必死だった。そして、その必死さが()()()()で出せるかが武人としての運命を決めるんだ」


 エミリア、と俺は闘神流(とうしんりゅう)空手(からて)の構えを取りながら言った。


「迷うな……それは今だぞ!」


 俺の言葉にエミリアは、落雷を()びたように全身を震わせた。


 直後、エミリアの態度が一変(いっぺん)する。


 全身から余計な力が抜けていき、下丹田(げたんでん)にまで重心(じゅうしん)が落ちていく。


 それだけではなく、俺を見つめる目にも変化があった。


 動揺(どうよう)、迷い、恐怖などの負の(にご)りがなくなり、純粋な闘志だけの輝きに満ちていったのだ。


 そして――エミリアは構えた。


 (ゆる)く握った両拳(りょうこぶし)を顔の高さまで持ち上げ、肩幅(かたはば)ほどに開いた両足のうち左足を一歩分だけ前に出す。


 それだけではない。


 リズムよく小刻(こきざ)みに身体を揺らしてステップを()み始める。


 拳を主体として闘う――〈拳術(けんじゅつ)〉のスキルの持ち主らしい構えだ。


 やがてエミリアは大きく目を見開き、


「エミリア・クランリー……参ります!」


 堂々と名乗りを上げて突進(とっしん)してくる。


 俺はにやりと笑い、「本気で来い!」と言い放つ。


 キキョウとリゼッタが見守る中、俺とエミリアの試し合いが始まった――。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3ひめ [一言] リゼッタが合流してからの5章、面白いです〜 修行パートということもありますけど、 テンポの良い化学反応が楽しい。 続きが待ち遠しいです。
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