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道場訓 二十八   比類なき決着

 俺はAランクの魔物どもを瞬殺(しゅんさつ)すると、急いでエミリアの元へ向かった。


 そして遠目からでもエミリアが危険に(さら)されていた姿を確認すると、俺は二発の〈神遠拳(しんとうけん)〉を放って二つの巨悪の足を止めた。


 それだけではない。


 俺は〈虎足(とらあし)〉という長距離を一気に駆け抜ける運足(うんそく)を使って、急いでエミリアの元へ()けつけたのだ。


「悪いな、エミリア。来るのが少し遅れた」


 俺はエミリアの(たて)になるような形で二つの巨悪と対峙(たいじ)した。


 顔だけを振り向かせながら、キキョウと一緒にいたエミリアに声をかける。


 エミリアは「そんなことありません」と軽く首を左右に振る。


「私は絶対にケンシン師匠が来てくれると信じていましたから」


 本当にエミリアがそう思っていたことは目を見れば分かる。


 その(ひとみ)には、俺を(うたが)う曇りの色がまったくなかったのだ。


「エミリア……」


 俺は自分を信じているエミリアに思わず目頭(めがしら)が熱くなる。


 心が通い合った弟子というのは、やはり(いと)おしいものなんだな。


 などと思った一方、俺はエミリアを置いて単独行動した自分を()いた。


 一番槍(いちばんやり)を申し出たのだから一時的にエミリアから離れることは当たり前だ、などという言い訳はなしだ。


 最初にギガント・エイプの姿が見えなかった時点で、もっと頭を働かせておくべきだった。


 Sランクの魔物の中でもトップクラスに知能が高いギガント・エイプのことだ。


 遠くから俺の強さをじっくりと観察(かんさつ)していたに違いない。


 そうして他の雑魚(ざこ)どもに俺が集中している頃合いを見計(みはか)らい、まずは俺以外の標的を根絶(ねだ)やしにしようと考えたのだろう。


 まさかレッド・ドラゴンとともに現れることまでは予想できなかったが、少なくともそれに近い打開策(だかいさく)(こう)じておくべきだったのは間違いない。


 いや、絶対にそうしないといけなかったのだ。


 俺はぎりりと奥歯を()み締めた。


 気力(アニマ)を解放させたのだから、エミリアだけは死ぬことはないだろう。


 そんな浅はかな考えが(まね)いたのがこの現状(げんじょう)だ。


 ……ドクン……


 幸いなことにエミリアは無事だったものの、下手をすれば俺が到着する前に死体になっていた可能性だって大いにあった。


 ……ドクン……ドクン……


 周囲に(むご)たらしく散らばっている死体と同じように――。


 ……ドクン、ドクン……ドクン、ドクン……


 考えれば考えるほど、怒りの感情が怒涛(どとう)(ごと)く込み上げてくる。


 ……ドクン、ドクン、ドクン……ドクン、ドクン、ドクン……


 ギガント・エイプやレッド・ドラゴンにではない。


 ……ドクンッ!


 この俺自身にだ!


 俺は二つの巨悪どもを(にら)みつけながら気息(きそく)を整えると、両足が「ハ」の字になるような独特な立ち方を取った。


 そして背筋はまっすぐに保ちつつ、拳を握った状態の両手の肘を曲げて中段内受(ちゅうだんうちう)けの形――三戦さんちんの構えを取る。


 コオオオオオオオオオオオオ――――…………


 続いて俺は息吹(いぶき)の呼吸法とともに、下丹田(げたんでん)を中心に全身をより強く気力アニマが覆っていくイメージを強めた。


 すると俺の全身に包まれていた気力(アニマ)に変化が起こる。


 ゆっくりと螺旋(らせん)を描くように俺の全身を(おお)っていた気力(アニマ)――黄金色の光が暴風のような勢いで(うず)を巻いていく。


 そんな俺を見てギガント・エイプとレッド・ドラゴンは明らかに動揺(どうよう)し始めた。


 しかし、今の俺には何の関係もなことだ。


 むしろ馬鹿みたいに立ち尽くしてくれていたほうがいい。


 余計な手間をかけずにお前らを地獄へと送れるからだ。


 次の瞬間、俺はギガント・エイプに向かって疾走(しっそう)した。


 ギガント・エイプの戦法は見なくても手に取るように分かる。


 猿の特徴(とくちょう)とも呼ぶべき長い手のリーチと握力を生かし、標的を()らえて仕留めるのだろう。


 それゆえに俺は簡単に捕まらないように低い態勢のまま間合いに入り、ギガント・エイプの両腕を()いくぐって(ふところ)へと一気に飛び込んだ。


 慌てふためくギガント・エイプ。


 俺はそんなギガント・エイプの無防備だった腹部に必殺の一撃を放った。


波状(はじょう)掌底(しょうてい)()ち〉。


 どんなに強固な肉体でも貫通し、内部へと深く衝撃波が浸透(しんとう)する極技(きょくぎ)だ。


「ウキャアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!」


 ギガント・エイプは落雷の直撃を浴びたような悲鳴を上げた。


 やがて全身の穴という穴から大量の血を噴出(ふんしゅつ)させると、全身を痙攣(けいれん)させながらその場へと崩れ落ちる。


波状(はじょう)掌底(しょうてい)()ち〉の衝撃波が、ギガント・エイプの内臓をグチャグチャに破壊したのだ。


 次はお前だ!


 俺は振り返ると、レッド・ドラゴンに渾身(こんしん)の殺意を飛ばした。


 ビクッと一度だけ巨体を震わせるレッド・ドラゴン。


 だが、レッド・ドラゴンはすぐに我に返って次の行動に移る。


 大地を鳴動(めいどう)させるほどの声を上げ、巨大な翼を広げながら天高く飛翔(ひしょう)した。


 逃げるつもりか!


 俺はアリアナ大森林へと飛行していくレッド・ドラゴンを(にら)みながら、両足を開いて腰を深く落とした。


 右拳を(わき)にまで引き、空いていた左手で右拳を(つつ)むような形を取る。


 直後、俺は再び息吹(いぶき)の呼吸法を行った。


 それだけではない。


 全身を包んでいた気力(アニマ)を右拳に集中させるイメージを高める。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――…………。


 俺が気力(アニマ)を練り上げていくごとに、悲鳴を上げるように地響(じひび)きが()っていく。


 やがて俺の右拳が朝日のように(まばゆ)く光り輝き出す。


 そして俺は練り上げた気力(アニマ)とともに、レッド・ドラゴンに向かってその場での右正拳突(みぎせいけんづ)きを繰り出した。


「〈天覇(てんは)神遠拳(しんとうけん)〉!」


 俺の右拳からは黄金色の巨大な奔流(ほんりゅう)()き上がり、上空にいたレッド・ドラゴンへと向かって飛んでいく。


 大勢の生き残った冒険者たちが見つめる中、俺の〈天覇(てんは)神遠拳(しんとうけん)〉はレッド・ドラゴンに直撃した。


 巨大な爆発とともに()端微塵(ぱみじん)になったレッド・ドラゴンを見つめると、俺は全身を覆い尽くしていた気力(アニマ)を静かに解く。


「ふうー」


 最後に残心(ざんしん)をして呼吸を整える。


 これでひとまず脅威(きょうい)はすべて去ったはずだ。


 そう俺が思った直後、いきなりエミリアが抱きついてきた。


「おい、何だ?」


 俺はわけが分からず混乱していると、エミリアは涙で顔をクシャクシャにさせながら「ケンシン師匠! ケンシン師匠!」と俺の名前を連呼(れんこ)してくる。


 ふと気がつくと、周囲にいた冒険者たちも歓喜(かんき)の声を上げていた。


「すげえ! あいつ、すげえよ!」


「これは奇跡(きせき)なのか? 本当の奇跡(きせき)が起こったのか?」


「英雄だ! ケンシン・オオガミは英雄だったんだ!」


 などという声もちらほらと聞こえてくる。


 しかし喜びに(ひた)っている冒険者たちの中に、一人だけ苦虫(にがむし)()(つぶ)したような顔をしていた人間がいたことに俺は気づかなかった。



 数時間後――。


 魔の巣穴(すあな)から出てきた魔物はアリアナ大草原ですべて倒され、魔の巣穴(すあな)自体もケンシンと生き残った冒険者たちによって残らず駆除(くじょ)された。


 その後、街中の人々を恐怖に(おとしい)れた〈魔の巣穴(すあな)事件〉が勝利という形になったことは(またた)く間に国中に広まった。


 けれども、このときは誰も知らなかった。


 この事件はこれから起こる、本当の大事件の幕開けにすぎなかったことに――。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ばとる [一言] 盛り込みすぎでテンポ悪くなったかも。 群れのみかsランクx2のどちらかに絞った方が良かったかな せっかく強くてかっこいいのに 舐めプな印象を受けてしまう。 あと妹ちゃん…
[良い点] ドラゴン君、お猿さん・・・良い引き立て役だった・・・(追悼) ・・・ようやくギャラリーも、ケンシンの実力に気がついた! やっぱりこういう、大したことが無いと思われていた人が、実は凄かった…
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