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道場訓 二十一   アリアナ大草原の攻防戦

 俺とエミリアは装備を整えた冒険者たちと一緒に目的地へとやってきた。


 アリアナ大草原。


 余計な障害物(しょうがいぶつ)などあまりなく、風に揺られて草の葉がどこまでも平坦(へいたん)に広がっている場所だ。


 だからこそ、そこで何が行われているかは遠くからでもよく見えてしまう。


 戦況は最悪だな。


 俺は両目を細めながら、数キロメートル先の光景に歯噛(はが)みした。


 すでに王国騎士団と魔物どもの殺し合いは佳境(かきょう)に入っている。


「ケンシン師匠、あれでは騎士団の者たちは……」


 エミリアも視力は良いほうだったのだろう。


 俺には(およ)ばないが、数キロメートル先の惨状(さんじょう)が何となく見えているようだ。


「ああ……さすがにもう助けは間に合わないな」


 正直なところ、王国騎士団は壊滅(かいめつ)寸前だった。


 ざっと視認したところでも王国騎士団の9割は全滅している。


 魔物どもはゴブリンやオークが大半で、その他にはヒグマ並みの体格の魔狼(ワーグ)やダンジョンにしか出没しないはずのキメラなどの姿も確認できた。


 そんな魔物どもは生き残っている王国騎士団たちと闘っている奴もいるが、他の大半の魔物どもは殺した王国騎士団たちの死骸(しがい)(むさぼ)り食っている。


 まさに狂乱(きょうらん)(うたげ)とも呼ぶべき凄惨(せいさん)な光景だ。


 それこそ、耐性のない人間など一発で理性が吹き飛んでしまうに違いない。


 現に俺以外の冒険者たちはあっさりと戦意を失ってしまった。


「だ、駄目だ……どうやったって俺たちはここで死ぬしかないじゃねえか」


「何なんだよ、あの魔物どもの数は……確実に1000はいるぞ」


「くそったれ、王国騎士団が勝てない魔物に俺たちが勝てるかよ」


 などと冒険者は口々に(つぶや)くと、自分たちの死を明確に(さと)ったのその場にがくりと(ひざ)を折っていく。


 そのとき、一人の女が大刀をすらりと抜いて天高く(かかげ)げた。


(あきら)めてはなりません! たとえ勝ち目が薄い戦いになろうとも、拙者(せっしゃ)らには街の命運が(たく)されているのです! さあ、立って一匹でも多くの魔物を打ち倒そうではありませんか!」


 キキョウである。


 弱気になった冒険者たちとは対照的に、キキョウだけが必死に恐怖を抑えて戦意を(あら)わにしたのだ。


 けれども、誰一人としてキキョウに賛同(さんどう)する冒険者はいなかった。


「どうしたと言うのです、諸先輩方(しょせんぱいがた)! 魔物どもが本格的に攻め込んでくる前に、こちらから打って出ましょう!」


「お前は本当の馬鹿だな。この状況を見て、そんな気休めの言葉に乗る奴なんているわけないだろ」


 俺は遠くの魔物どもを見据(みす)えつつ、キキョウに言い放った。


「な、何だと!」


 キキョウは俺に大刀の切っ先を突きつけて憤慨(ふんがい)する。


「お主、Cランクの分際でAランクの拙者(せっしゃ)を馬鹿呼ばわりするのか!」


「ランクなんて関係あるか。それに馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。あれだけの数の魔物相手に何の作戦もなしに突撃なんてするのは、切り立った(がけ)の上から飛び降りるようなものだ。お前も陣頭指揮(じんとうしき)を任されたリーダーなら、まずは自分たちが置かれた状況からいかに味方の損害を出さずに切り抜けられるかを考えろ」


「お、お主に言われなくともそれぐらいは考えている」


「そうか? じゃあ、お前は突撃という方法以外でどういう戦略を立てるんだ?」


 キキョウは難しい表情で遠くの魔物どもを(なが)めた。


「う、うむ。そうだな……見たところ魔物の大半はゴブリンやオークどもだ。奴らは森の中では強敵だが、こうした見晴らしの良い場所での戦闘には慣れていない。それならばきちんと隊列を組んで(いど)めば勝てる見込みはある」


 俺は大きく(うなず)いた。


「ああ、ゴブリンやオーク程度ならこちらも隊列を整えて対処すれば苦戦する相手じゃない。お前の言う通り、ここは見晴らしのいい開けた場所だ。不意の襲撃を受けやすい森の中とは違って、罠を仕掛けられたりする心配がないからな」


 しかし、と俺は両腕を組んで言葉を続けた。


「さすがに機動力に()けた魔狼(ワーグ)や、魔力(マナ)耐性に強いキメラ相手だとさすがに分が悪すぎるか。隊列を整えるほど奴らにとって恰好(かっこう)(まと)になる」


 俺はあご先を人差し指と親指でさすりながら思考する。


「……だが、今回は密集陣形(みっしゅうじんけい)を取るのもアリかも知れないな」


「おい、どっちだ! 密集陣形(みっしゅうじんけい)など取れば魔物どもの恰好(かっこう)(まと)になると言ったのはお主だぞ!」


「落ち着け。確かに魔物が約1000に対してこちらは約200。普通に考えれば密集陣形(みっしゅうじんけい)を取るのは得策(とくさく)じゃない……だが騎士だけで構成されていた王国騎士団と違って、ここには弓や魔法に長けた冒険者もそれなりに(そろ)っている。それが吉と出るかもしれん」


 俺はキキョウに自分なりの作戦を提案した。


「いいか? まずは200人を4部隊に分けて、後方に回復魔法や応急処置に長けた援護(えんご)部隊を置け。そして中間には弓や魔法を撃てる狙撃部隊、前線には槍や薙刀(なぎなた)を持った隊を配置して魔物に対処する」


 俺は矢継(やつ)(ばや)に内容を口にしていく。


「残りの部隊には剣術や接近戦に長けた人間たちを集め、前線で仕留め損なった魔物たちを倒していくよう指示すればいい。そうすれば少なくともバラバラに冒険者たちが各個撃破(かっこげきは)されることはなくなって、死傷者――特に援護(えんご)しかできない女冒険者たちの被害数はかなり(おさ)えられるはずだ」


 もちろん、それは俺が一番槍(いちばんやり)(つと)めたあとの陣形だとも付け加える。


 そこまで言ったとき、俺はキキョウが変な顔をしていることに気がついた。


 口を半開きにさせて、大きく目を見張っていたのだ。


「どうした? 俺の顔に何かついているか?」


「い、いや……お主、本当に(うわさ)通りの追放された無能者なのか?」


「どんな(うわさ)かは知らないが、俺が勇者パーティーを追い出されたのは本当だ。そして無能と言うのなら、メンバーのためと思って身勝手に動いていたことに対しては無能だったのかもな」


 そんなことよりも、と俺は強引に話を終わらせる。


「風向きが変わった……そろそろ来るぞ」


 俺の言葉にキキョウはハッとなり、遠くの魔物どもに顔を向けた。


 やがて冒険者たちの間に緊張が走る。


「来たあああああ――――ッ! 魔物どもがこっちにやって来るぞ!」


 時刻は昼過ぎ。


 冒険者たちの悲痛な叫び声が大草原に響き渡る。


 それはこれから始まる戦争の狼煙(のろし)でもあった――。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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