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道場訓 十二    勇者の誤った行動 ④

 俺はオークの一撃を受けて大きく吹き飛ばされた。


 そのまま背中から激しく地面に落下する。


「がはっ!」


 凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。


 やがて俺は胃から逆流してきた吐瀉物(としゃぶつ)を盛大に吐き出した。


 何なんだよ、これは! どうしてオーク如きの攻撃がこんなに効くんだよ!


 俺は咄嗟(とっさ)に《神剣・デュランダル》の刀身の腹でオークの突きを防いだが、あまりにも突きの威力がありすぎて身体ごと吹き飛ばされてしまった。


 こんなのおかしすぎる! オークなんて力が少し強いだけのウスノロな魔物だったはずだろう!


 などと(なげ)いていても始まらない。


 俺はクラクラする頭を左右に振りながら、渾身の力を振り絞って何とか上体を起こした。


 いつまでも寝ていてはオークの追撃を食らってしまう。


 俺は嗚咽(おえつ)()らしながらオークを見ると、オークの意識は俺ではなくカチョウへと移っていた。


「オオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!」


 直後、周囲に地鳴(じな)りを思わせる気合が(とどろ)いた。


 俺よりも先に立ち上がっていたカチョウが、再びオークに向かって八相構(はっそうがま)えのまま斬りかかっていく。


 いいぞ、カチョウ! 今度こそお前の剣技でオークをぶった斬るんだ!


「ぐあああああああああ――――ッ!」


 だが、カチョウはまたしてもオークの一撃でぶっ飛ばされてしまった。


「ふざけてんのか、カチョウ! てめえ、それでも勇者パーティーの斬り込み隊長のサムライか!」


 俺は(つば)が混じった吐瀉物(としゃぶつ)を吐き出しながら叫んだ。


「ブギイ!」


 やべえ……オークの野郎、俺の怒声に反応しやがった。


 オークはカチョウから俺に顔を向け、ゆっくりとこちらに向かってくる。


「あひいッ!」


 俺は心の底から恐怖を感じ、慌ててアリーゼに指示を出した。


「アリーゼ、何をボケッとしてんだ! 魔法だ魔法! こんなときに魔法使いが魔法を使わなくてどうする! 何でもいいから早く魔法を撃て!」


 そうだ、まだ俺たちには魔法使いのアリーゼが残っている。


 アリーゼの攻撃魔法でバックアップしてもらい、オークがその攻撃魔法に(ひる)んだ隙に俺の《神剣・デュランダル》で斬れば勝機はあった。


「ば、馬鹿言わないでよ! もう私の魔力(マナ)は光源魔法を使っているだけで精一杯なのよ! あんたこそ国から認められた勇者なんでしょう! だったらあんたが何とかしなさいよね!」


 などと言い訳を口にしながら、アリーゼは俺たちから徐々に遠ざかっていく。


 このクソ(アマ)、まさか機会(チャンス)を見て逃げ出すつもりじゃねえだろうな。


「いいから早く攻撃魔法を撃ちやがれ!」


 俺は殺意を込めた眼光をアリーゼに飛ばす。


「おい、アリーゼ! もしも魔法を撃たずに逃げ出したら――」


 ぶっ殺すぞ、と俺が(おど)しをかけようとしたときだ。


 俺たちの後方からオーク目掛けて一本の矢が飛んできた。


 空気を切り裂きながら飛来した矢は、オークの右目に深々と突き刺さる。


「ブギイイイイイイイイイイイイイ」


 激痛で混乱しながら(わめ)き出すオーク。


 そんなオークに対して、今度は武器の弓矢ではなく()()()()()が飛んできた。


 大量の火の粉を(まと)いながら飛んできた()()()()()()()は、吸い込まれるようにオークの心臓に突き刺さる。


 それだけではない。


 ()()()()()()()から(ほとばし)っていた火の粉は、まるで自分の意志があるようにオークの全身に燃え広がっていったのだ。


 やがて全身火だるまになったオークは、断末魔(だんまつま)を上げながらその場に倒れた。


 魔法使いでない俺でもこの魔法は知っている。


 中級火魔法である〈炎の矢(ファイヤー・アロー)〉ではなく、上級火魔法の〈焔の矢(フレイム・アロー)〉だ。


「誰かと思えば勇者パーティーになった【神竜(しんりゅう)ノ翼(のつばさ)】じゃないか」


 俺たちが呆然(ぼうぜん)としていたのも(つか)()、暗闇の奥から男女二人組の冒険者パーティーが現れた。


 30代半ばほどのヒゲ面の男と、20代前半と思しき金髪の女だ。


 正直なところ、まったく顔には身に覚えがない。


 冒険者なのは分かるが、肝心のランクはどれぐらいなのだろう。


 まあ、俺たちよりも格下なのは間違いないだろうが。


 などと考えながら俺が二人を見つめていると、ヒゲ面の男は「ふむ」と自分のあご先のヒゲをいじり始めた。


「その様子だとクエストだから来た……ってわけじゃなさそうだな。まさか国から認められたSランクの勇者パーティーが、今さらBランクのダンジョンに潜る理由なんてないだろうに。一体、何しに来たんだ?」


「それは……」


 俺は返答に困った。


 どうやらこの様子だと、二人は俺たちが【断罪の迷宮】に潜った理由を知らないようだ。


 だったら無理に本当のことを言う必要はない。


 サポーターもアイテムも無しでダンジョンを攻略してやると息巻き、実際に潜ってみたら安全地帯(セーフ・ポイント)も見つけられず、挙句(あげく)の果てにオーク一匹に苦戦していたなんて口が裂けても言えるはずがなかった。


「ねえ、アゼル。とりあえず話し込むんなら周りを明るくしない?」


 俺が黙っていると、金髪の女がヒゲ面の男――アゼルにぼそりと(つぶや)いた。


「ああ、そうだな。もう安全地帯(セーフ・ポイント)も近くだから訓練は終わりでいいだろ。やってくれ、ファム」


 アゼルが言うと金髪の女――ファムは持っていた魔法の杖を天高く(かか)げた。


 そして――。


「〈範囲拡大光エリア・ライト〉!」


 と、光源魔法を無詠唱で唱える。


 すると魔法の杖の先端から大きな光の玉が出現し、天井に向かって勢いよく飛んでいく。


 やがて大きな光の玉は無数の小さな光の玉に分かれ、半径50メートルの広範囲に飛び散った。


 あっという間に俺たちの周囲は昼かと錯覚(さっかく)するほど明るくなる。


「こんな広範囲に光源魔法を広げられるなんてすごい……でも、こんな威力の光源魔法をずっと使っていたらすぐに魔力(マナ)は尽きるでしょう?」


 驚きの表情とともに質問したのはアリーゼだ。


「は? そんなの当たり前じゃない」

 

 ファムは「何を今さら」と言うような怪訝(けげん)な顔で答える。


「だからダンジョンに潜るときは魔法回復薬(マジック・ポーション)を持ってくるんでしょう。ただ、ダンジョンに持ってこれるアイテムの常備数だって限りがある。そのため魔法使いは自分の魔力(マナ)残量の把握(はあく)とパーティーの実力を見極めた上で、もしもの際を考えて魔法回復薬(マジック・ポーション)が無くてもダンジョンを探索できるように訓練するのよ」


 メンバーにも協力してもらってね、とファムは付け加える。


「訓練? 何の訓練だ?」


 俺が訊き返すと、「おい、嘘だろ」と唖然(あぜん)としたのはアゼルだった。


「ダンジョンってのは意志のある迷宮だ。それこそ、俺たち異物である冒険者を排除しようとあの手この手を使ってくる。暗闇なんてその最たる例だな。松明やランタンを使ってもよく火が消えやすかったりするだろう? それは俺たちの視界を奪おうっていうダンジョン自身の力が働いているからだ」


 アゼルは子供に言い聞かせるような口調で言葉を続ける。


「だから上位の冒険者ほど訓練を欠かさない。ダンジョンに気づかれない程度の暗闇でも探索できるような訓練をな。もちろん、そのときに光源魔法なんてもんを気軽に使うのは厳禁だ。光源魔法は松明やランタン以上にダンジョンの逆鱗(げきりん)に触れるから、それこそアホほど周囲の魔物を仕向けられるからな」


 ま、マジか……知らなかった。


 どうりで馬鹿みたいな数の魔物に襲われるはずだ。


 あいつらはアリーゼの光源魔法を嫌った、ダンジョンが仕向けてきた魔物どもだったってことか。


 ……でも待てよ。


 だったら今まで俺たちがダンジョンに潜ってきたときのことはどう説明する?


 これまでだって俺たちはダンジョンの中で光源魔法を使って探索してきた。


 だが、今日みたいに一気に10体以上の魔物に襲われることなんてなかったぞ。


 そう俺が頭上に疑問符を浮かべたとき、アゼルは「本当に知らなかったのか?」と尋ねてくる。


「お前らはSランクの勇者パーティーだよな? だったら当然のように知っていると思ったんだが……」


 俺はハッと気づいた。


 ここでもしも知らないと答えてしまえば、この二人に失望されてしまうだろう。


 そうなるとダンジョンから出たあと、この二人の口からどんな噂が広まるか分かったものじゃない。


「も、もちろん知っていたさ。知っているに決まってるだろ。俺たちは国から認められた正式な勇者パーティーの【神竜(しんりゅう)ノ翼(のつばさ)】なんだからな」


 だから俺は必死に知っている素振りを見せる。


 するとアゼルは「そうだよな。()()()がいるパーティーなんだから知っていて当然だよな」と意味深なことを言った。


 ん? あいつ?


 俺が眉間(みけん)にしわを寄せた直後、アゼルは「そう言えば()()()とも久しく会ってないな」と周囲を見渡した。


「なあ、お前たちのリーダーのケンシンはどこにいるんだ?」


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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