第6話「エスケープフロム仮想世界」
結論から言いますと、ほとんど会話がありません。へへへ。
笑い事じゃねぇぞ。オイ、何やってんだよ俺。あんなに覚悟キメて決行しただろお前。
でもなぁ……。なんかこう、気分がノらないんですよ。片や彼氏とラブラブゲームでおデート、片や予定ナシ時間有り余りまくりの独り身。しかもこっちはネカマときた。社会的な格差をまざまざと感じさせられる。どうして俺はこうなってしまったのだろうか。慢心、環境の違い……。
さすがに何か喋らないとマズいと思ってゆーりさんの方を見やると、興味深げな顔で周囲をキョロキョロと見回していた。俺の出る幕すら無さそうなので、無言の案内人に撤しようと思う。やっぱこうね、考えてる時に話しかけられると気が散っちゃうからね。配慮が必要なんです。陰キャは気配り力がカンストしてるからこの辺は得意ですよ。その代償に色々なものを取りこぼして落ちこぼれ、今のところまで転落してしまったんですけどね。
無言のまま俺たちは雑踏をかき分けて進む。客引きや出店をフル無視して中央広場まで突き進む。金髪が言ってた通り、大通りを北に向かって2分ぐらい歩いていくと、すぐに中央広場に到達した。
「おお、すげぇ……」
「わぁ、すごい……」
思わず2人揃って声が漏れる。これは……すごい。
小さめの公園ほどの大きさがありそうな大きい……いや、大きすぎる噴水を中心にして周囲にベンチや小高い丘を思わせる芝生、雑木林などが広がっている。広場というよりも緑地公園といった方がいいかもしれない。しかも、そこかしこに街灯のような光源が浮いている。地面から生えて設置されているのではなく、本当に比喩表現ではなく『浮いている』。さすがゲームの世界だ……やっぱ違うぜ!
「ここまでありがとうございます〜!……フレンド申請飛ばしてもいいですか〜?」
物思いに耽っていると、ゆーりさんが俺に声をかけてきた。
フレンド。ゲームにはだいたいそういう機能がある。フレンド登録を相互にしていると、誰がいつオンラインでどこにいるかなどを簡易に表示してくれたりする。あとは、個人感でのチャットやパーティ招待などがラクになる。ちなみに俺は今までゲーム内でもフレンド申請するのを躊躇ってたせいでほぼフレンドがいなかった。ゲームでも友達がいない哀れな人間に成り果てている。
現実でもフレンド機能があればなぁ……と考えたが、ブロックされてたり削除されたりすると1ヶ月は寝込む自信があるからやっぱりいいやと思い直した。
「あっ……いいですよ全然。なんか申し訳ないし……」
はい。
オイ!何言ってんだよ俺!ここは承諾しとくべきだろ!そういう流れじゃん!友達の少ない俺がゲーム内で運命的な出会いをした女の子と築く快進撃……的な物語が始まるようなシーンだろ!
「……そうですか〜……?お世話になったし……」
「あ〜!やっぱ欲しいなぁ!フレンド!パーティ組んで遊びたいなぁ!」
「いいんですか〜!やった〜!」
ゆーりさんがメニューを開いて操作してる傍で、つくづく俺は押しに弱いなと嘆息する。まぁでも、結果オーライなのかもしれない。俺から言い出すのは気が重いし、向こうがこれだけ押してくるなら断るのも失礼だ。
あぁ本当に、自分の性格がイヤになってくる。
傷付くのが怖い。及び腰でしか相手との関係を築けない、このクソキモい性格をどうにかして改善したい。願わくば寝て起きたらこの他人任せでヘタレでクズで諦めてばっかりの性格が治っていますように。
「……よし!フレンド申請飛ばせましたよ〜!」
「これどうやって承認すればいいですか?」
「あ、それはメニュー開いでフレンド欄あるのでそこからできます〜!」
五芒星を宙に描き、メニューを開く。フレンド欄を開いて……これで承認。ヨシ。
「よし、ありがとうございました!」
「いえいえこちらこそ〜。じゃあ私はアッくんを……」
「じゃあ俺はこの辺で……」
「また会いましょうね〜」
両手を挙げて手をブンブン振るゆーりさんを尻目に、俺は踵返して立ち去った。
また会いましょうね、か。
現実ではついぞ聞いたことのない言葉だった。なんせ俺はほとんど友達がいないからな、ガハハ。
虚しい。頼れる人間は朝経ぐらいしかいない。友達のいない哀しきモンスターが爆誕している。
「戻るか、現実に……」
バカデカい噴水を見ながらふと口走った言葉に、自分でも驚く。
この俺が?現実世界に戻りたいと?
結局は、単に現状から逃げたいだけだ。付いてしまった逃げ癖はなかなか治らない。人間の癖を治せるのは16歳までらしい、とどこかで見た。それ以降は本当に難しいとか。つまり俺がこの癖を治すには相応の努力が必要である。
やるしかない。今に見てろよ。でもちょっとだけ、ちょっとだけ今は逃げさせていただいてもよろしいでしょうか。すいません。
俺は五芒星を宙に描き、ログアウトメニューをタップして、まるで現実のような空想の世界から逃避することを決意した。




