第5話「迷子の迷子の」
あけましておめでとうございます(フライング)
そういえば大学受験落ちました
「え……迷った……?」
金髪が呆然としながら口を開く。そんな大袈裟な顔せんでもええっちゅうに。
「…………はい……」
気まずい沈黙が流れる。やらかした時特有の本当に沈鬱な沈黙。誰か、なんとかしてください。俺ですか?俺には無理だよ、初対面の人間とコミュニケーション取るなんて。そんなこと素手でライオンを倒すぐらい無理だし。というかそんなことできたらここまで拗らせてない。現実を見たくないからこそ、ゲームやってんだよ。
あぁ虚しい。全てがめんどくさい。所詮俺はどこに行っても役立たずの……
と、そこまで考えてからある事に思い当たった。
待てよ?ゲーム内なら自分の見た目も性格も偽れるのでは?
思えば俺の人生、カスみたいなものだった。負け癖のついた落ちこぼれで、何やろうにも「どうせ俺は無理だ」と思っていた。たしかに俺は何やってもうまくいかねぇし鈍臭いしノロマだし、やることなすこと全部裏目に出る。
でもそれはあくまで現実でのお話だ。
ここはゲームの中の世界で、現実じゃない。失敗しても知らぬ存ぜぬで通すことができる。しかも、俺は表面上だけ見りゃ顔面最強美少女。冴えないキモオタ陰キャの顔じゃないんだ。どうせここで無理なら、逃げて知らないフリすればまたチャンスは巡ってくるハズだ。リセットして何回もできるっていうのがゲームの最大の利点だろう。俺はいつだってそうしてきたんだ。死にゲーは覚えゲーだ。
いや、そういう考えだから失敗するんだろうな。俺はいつもそうだ。イヤな事から逃げ続けてきた結果がコレだ。失敗しても逃げればいいという俺の考えがもう失敗なのだ。
俺は変わる。変えてやる。長らく続いた陰キャ生活に中指立てておさらばしてやる。あばよクソ生活、フォーエバークソ生活、楽しくなかったぜ!じゃあな!
俺は逃げない。やればできる。はず。
いける。やれる。俺ならできる。
Yes we can.
オバマ大統領もこう言っているんだぞ。ここでやらなきゃどこでやるんだ。よぉし、イクぞ!
「……あの、ゆーりさん……でよかったですか?」
俺が恐る恐る声を発すると、彼女は肩をびくりとさせて振り返った。
「あれ?あなたは……?」
……あれぇ?俺もしかして認識されてなかった?マジで?悲しすぎない?
「え……さっきからいましたよ……?」
「すいません……」
逃げていい?俺、もう充分頑張ったよな?
さっきあんなにカッコつけて啖呵切ったけど、正直もう心が折れそうです。話しかける話しかけない以前に、自分の存在が認知されてないというのはキツすぎる。メンタルが音を立てて崩れ去っていくのが目に見える。
「俺……うぇ……おぇ……」
あ、いかん。吐き気が。ショックで胃液が込み上げてきそうになるのをなんとか鋼の意志で食い止める。これ現実でもゲロ吐いてたらウケるな。いやウケない。冗談じゃねぇよ。床掃除なんてやりたくないし寝ゲロと同じぐらいタチが悪い。
「……ごめんなさい。あたふたしてて全然気付きませんでした〜……」
「……や、いいんです……。俺がちっちゃいのが悪いんで……」
だいぶちっちゃくなったしなぁ、俺。20cmっていったら……なんだろう、なんか適当な例えが思い浮かばない。ちょっとデカめのイワシぐらいの大きさ?とりあえずそんくらいの差がある。見落としてもおかしく……いやおかしいだろ。頭ひとつ分にも満たない差なら絶対見落とすハズがない。ふざけてんのか。
「まぁまぁ……元気出してくださいよ。人間誰でも失敗はありますからね」
「うるせーですよ。てかあんたは……いや、なんでもないです」
いきなり口を出してきた金髪に若干の鬱陶しさを覚える。
そう、この金髪は人間じゃねぇしなぁ……。中身はAI。そのくせ反応も人間っぽいし今までの会話も成立しているのは、技術の進化を喜ぶべきか恐るべきか。こんな高性能なAIがあったらもっと有名になってそうなモノだけれど、今までそんな話は聞いたことがない。
それはさておき、グイグイグイグイ押してでもいくしない。俺はやってやるんだ。こんなところで折れててどうする。
「ごほん。え〜……ゆーりさん。もし中央広場に用があるのなら、俺が案内しますよ。そんなに自信はないですけど、マップがありますからね」
「悪いですよそんなの〜!今度こそ私一人でも大丈夫です!」
えっへん、と胸を張る彼女。おおすげぇ、おっぱいがデケ……ごほん。いけないいけない。淑女たるものチラ見で済ますのが礼儀ですわよ。……にしてもデカ……ハッ!危ない危ない。仕切り直しだ。
「まぁ無理強いはしませんけど……。俺もこのゲームはじめたばっかりで色々情報交換とかのおしゃべりしたいですから、それのついでみたいな感じで」
「ん〜……じゃあお任せしちゃいましょうか〜」
「へへ……任せてくださいよ」
なんか……嬉しいな。人に頼られるってのはこうも嬉しいのか。今まで生きてて人に頼られたことなんてほぼ無かったから、なんか新しい感覚だ。むずがゆいような誇らしいような。まぁほぼこっちが頼むような形になってたけど。
「あの〜何か買っていくとかは……」
意気揚々と店から出ようとすると、金髪に呼び止められた。なんだこいつ、図々しいやつだな。ロクな品物揃えてから声かけてください。
「じゃ、また」
「あの、無視は……」
「お邪魔しました〜」
「えっ。ちょっと……あ〜っ!ここに良さげな太刀がありま……」
金髪のわざとらしい呼び声を背にして、俺は晴れがましい面持ちで店を出た。バーカ滅びろぼったくり!……なんかかわいそうになってきた。さすがに今度来た時は何か買ってあげよう。
店を出て、色々な出店の屋台を見ながらしばし無言の時を過ごす。気まずくなって口を開こうとした時、俺よりも先にゆーりさんの方が口を開いた。
「アッくん、ちゃんと待ってくれてるかな〜……」
どうやら誰かと待ち合わせをしていたようだ。俺にはそんな相手いないからいつでもヒマだけどなガハハ。
「あら、誰かと待ち合わせしてたんですか?」
「ん?あー……タメでいいですよ〜。ゲームでまで敬語ってなんか不思議な感じです〜」
「そうです……そうかな?」
「そうですよ〜!もっと気軽にいきましょ〜!あ、ちなみに待ち合わせしてるのは私の彼氏ですよ〜!」
ふんふん彼氏ね……ん?彼氏?
「アッ、ソウデスカ……ヘヘヘ……」
「?とりあえず行きましょ〜!」
彼氏すか……。へへ……。どうしよ、なんか虚しくなってきたな。なんで俺はこんなことしてんだろ……。この人案内し終わったらちょっとログアウトしよ……。なんかもうどうでもいいや……。
別に狙ってたとかそんなんじゃない。俺はゲームに出会いを求めるタイプの人間じゃないからね。でもなんか……ね……。己の器の小ささに嫌気がさしてくる。
もういいや……。とっとと終わらせよ……。
多分俺は今、とてつもなく死んだ魚みたいな目をしてると思う。




