第4話「見かけ倒しとぼったくり」
めちゃくちゃ遅くなりました。実は大学入試のテスト受けてました。結果としては、普通に落ちました。
「うおあああああああああ!!!!」
自由落下。フリーフォール。
高所恐怖症なら多分失神してるような高さからの、容赦なき落下。人の心とかないのか?
「うおおおおおおおおお!!!!」
緩まることのない速度で落下を続けていき、ついに地面にぶつかる……!
……かと思ったけど、地面に近くなればなるほど速度は減っていくしふわふわと浮遊してるようになる。クソ、最後の最後までわからんやつだ。もっとこう……あっただろ!色々と!ダメだ、語彙力が無くて言葉にできない。死のう。
そうこうしているうちにふわっと地面に着地したのだが、誰も俺のことなど見ちゃいない。もしかしてこの世界で空から人が降ってくるのは普通なのか?親方、空から女の子が!ってやつやってみたいんだけどな、俺。
まぁ、そんなことはさておき。
「さて……何すっかな……」
何しよう。特にやる事もない。
こういうゲームをやるのははじめてだから、そもそも何すればいいか全くわかんねぇ。敵倒せばいいのか?にしてもこんな木の棒じゃあ格好がつかねぇ。
そうだ、散策でもしてみるか。ウロウロしてたらなんか見つかるだろう。なんもなかったら道々考えるとするか。
ぐるりと街並みを見回して、俺は思わず息を呑んだ。
舗装された石畳の道路、その脇に並ぶ商店の数々、そして奥に見える神殿。おまけに近世ヨーロッパのネオ・ゴシック様式で建てられた教会。
間違いない。俺の、俺たちの想像する「近世ヨーロッパ旧市街」が手に取れるような精巧さで目の前に広がっていた。
それに加えて、現実じゃ絶対に再現不可能であろう建築物もちらほら見える。上に行けば行くほど大きくなっていく塔や、雲の上まで突き刺さっていて全容が見えない巨大な円柱、折れた傘のようにぐにゃぐにゃと曲がりくねった教会らしき建物など。こんなもの建てようものなら、建築基準法違反で一発で逮捕だろう。
しかしそれが許されるのがこのゲーム。まさに圧巻。生まれて初めて大きなジオラマを見た時のような感動。そんな記憶残ってないけど、まぁだいたいそんな感じだと思う。
「ちょいとそこのお嬢さん。ウチの店に寄っていきません?なんでもありますよ」
かなり胡散臭そうな声で、俺の左脇から声をかけられた。何事かと思い声のした方を見やれば、少しくたびれた感じのする漢服を纏った金髪アフロの男が、ニコニコと笑いながら立っていた。
身長のほどは俺と同じぐらいで、漢服なのに金髪アフロ。その上ブーツを履いてサングラスをかけている。なんというか、統一感と節操がない。中華料理とハンバーガーとオムライスを一緒に食べているような気分だ。胃もたれしそう。
「いやぁ……ハハ……ちょっと予定があるので……」
さりげな〜く断って、そそくさと立ち去ろうとするも、しつこく追いかけてくる。
「まぁまぁそう仰らずに。多少はオマケしますよ。見ていくだけでも」
「……お金もあんま持ってませんし、あんまり高いのは買えませんよ」
「いいですいいです、ぜひお越しください。空からきた人なら大歓迎ですよ」
「まぁじゃあ……見ていくだけなら?」
押しが強い。ほとんど訪問販売みたいなノリだ。何がなんでも売ってやろうという強固な意思がある。まるでNHKの徴収人みたいな感じ。
しかしまぁ……慣れない。己の口から可愛らしい声が出てくるという件に。ボイス選択とか絶対無かったと思うんだけど、どうしてこうなってしまったのか。見た目は変わっても声は変わらないという最悪の場合を考えて、一切声出さないプレイを強要されても乗り切る覚悟でいたのに。期待外れというか空振りというかなんというか。安堵と落胆で五分五分ぐらい。
「ちゃんと私に着いてきてくださいね、お嬢さん。裏路地に入るんでお気をつけて」
いよいよもって怪しい。普通の店なら表に構えることもできようが、それなのに裏に来てくれと言われる。もしかして、こいつプレイヤーか?そんでもって初心者狩りでもやってんのか?やめとけやめとけ、初心者狩りなんてFPS以外じゃ効率悪いんだぞ。キルレと勝率を手っ取り早く上げるブースト装置みたいなもんだし。
「あの、さっき言ってた"空からきた人"ってのは一体?」
雑踏を泳ぐように掻き分けて歩く金髪をなんとか見失わずに踏ん張りながら、さっき気になった事を聞いてみた。ここで逃げてもいいけど、知らないことを知れるのであればそちらの方が恩恵がある。あと別に今死んでも大した損はしないし。
「あぁ、お嬢さんさっき空から降ってきたでしょ?よくあるんですよね。空から来た人っての大抵、我々の生活に貢献してくれる。素晴らしい!こんな人たちなら手厚くもてなす他ないでしょう?」
芝居がかったような口調で説明してくれる金髪。うさんくせぇ。怪しすぎる。
「はぁ……。言っておきますけど、俺をどうこうしても大してウマくないですよ」
「とんでもない!こんな上客をハメるワケないじゃないですか!まぁそんなに警戒しなさんな。きっと喜ぶような品がありますよ」
「ハハ……」
じゃあまずはその見た目をどうにかしてくれ!と、心の底から叫びたかった。しかし俺は我慢できる男だ。ぐっと堪えて笑いに変換した振る舞いを、自分でも褒めてやりたいと思った。
しかしまぁ喜ぶ品か。つまり……チートアイテムか?チートアイテム来ちゃったか?いやー悪いね、こんな超絶美少女がチート並みの無双しちゃって。しかも蓋を開けてみればネカマっていうね。笑いがとまらん。朝経にも見せてやろう。あいつなら爆笑してくれるハズだ。裏を返せば、あいつ以外に話す相手がいないってことなんだけど。
路地裏をあっち行ったりこっちへ行ったりしながら進むこと10分ぐらい。そろそろウンザリしてきたところで、不意に金髪が足を止めた。
「さ、着きましたよ。どうぞ中へ」
どこに店があるのかと思って金髪の向かった先を目で追うと、傾いた扉があった。趣があるなぁ。パッと見上げれば店の外観はほぼほぼ幽霊屋敷みたいな小さめの店構えに、電光色の看板と提灯。趣のカケラもないなぁ。
「え、マジでここなんですか?」
素で口に出して言ってしまうと、金髪が少し拗ねたような口調で口を尖らせた。
「いやぁこの見た目結構気に入ってるんですけどね。この提灯がなかなか粋でしょ?そんでもってこの光る看板も蛍みたいでいいじゃないですか」
電光色の看板を見てどこが蛍だというのか。こいつはひょっとすると蛍を見た事がないのかもしれない。そういう俺も見たことないけど。田舎ぐらいにしかいないからな、あの虫。
「あぁ……ハハ……」
「まぁまぁ、お上がんなさいよ。いらっしゃいませ」
傾いたドアを無理矢理こじ開けて入る。
電気が一気に付き中が見えると、俺は息を呑んだ。
「どうです?ここは。確かにちょっと……外観はまぁボロいですけど、品揃えに関しちゃあ他のとこに遅れをとりません。……多分。申し遅れました、『幻影堂』店主のミーティアです。以後よろしく」
「……ユキです。今後とも、よろしくお願いします」
挨拶が終わったあとに流れる、このなんとも言えない雰囲気をどうにかしてくれ。
「まぁその……できれば……よさげな武器が欲しいんですけど……」
「あっ……えっ……ぶ、武器ですか。その辺にありません?多分転がしてると思うんですがね」
オイ。
頼むよ〜金髪、俺の今の希望はお前しかいないんだよ〜。
ガサゴソとモノを探る彼の頭上をふと見上げると、黄色の文字で『ミーティア』という名前が浮かんでいた。
そういえば、黄色が友好的なNPCで紫色が敵対NPC。緑色が自分とパーティを組んでいるプレイヤーで赤色が敵対プレイヤー、黒色が通常のプレイヤーだとロード中の豆知識欄に書いてあった気がする。俺は記憶力がいいんだ。
まぁつまるところコイツは友好的なNPCって事だ。敵対的じゃなくてよかった。神に感謝。
「あっ!あったあった!いや〜よかったぁ〜。これなんてどうです?その昔悪魔が人間に与えた剣だとかそうじゃないとか。お安くしますよ?」
ようやく武器を見つけたかと思えば、ずいぶん物騒な起源付きの剣を渡してきた。禍々しく黒光りする刀身に、無骨な柄。なるほどこれは業物かもしれない────!
「まぁ偽物なんですけどね。アスタロトの剣とかいう豪勢な名前の割に普通の剣です。ちょっと硬いものが切りやすいらしくて、魚の骨を断ち切るために魚市場とかでよく見かけますよ」
ゴミじゃねーかよ!オイ!ってか偽物かよ!
「ちょっと!?どうなっちゃってんすか!」
「……ほら、魚市場では重宝されてますよ。きっと……」
「こんなモンとっとと鋳溶かして新しいの作れ!」
「そんなぁ〜!」
久々にキレた。俺はキレた。普段怒らない……いや怒れない俺が、感情を発露できたというのは快挙だろ。ガチギレ記念日。
その後もゴミ武器紹介は続いた。これはホンモノですよと言いながら取り出した名のある名剣は地金を蝕むぐらいボロッボロに錆びていたし、盗賊が盗んできたらしい国宝の聖剣は見事に男児向けのオモチャだった。泣きながら取り出した非売品の魔剣は一見何も問題なかったが、素振りをするとポッキリ真っ二つに折れた。俺の心と金髪の心もポッキリ折れた。
「……もう今日はやめ。やめにします。閉店です。またのお越しを」
「クソ、自分勝手なやつめ。なーにが他のところを遅れをとりませんだ。これで遅れを取らないなら他んとこは鉄屑でも売ってんのか」
「あっ!言うに事欠いて鉄屑はないでしょう。キレますよ」
「俺の方がキレますよこんなの。まともな武器を出してくださいよ!」
一触即発の睨み合いが始まるか、と思った瞬間。勢いよく店の玄関が開いた。
「すいませぇ〜ん!ちょっと聞きたいことがあるんですけど〜!」
間延びしたように話す女の声。なぜか聞いていて安心するというかなんというか……。不思議ですね。
「いらっしゃいませ!ここはなんでもありますよ。果ては日用品から軍用品まで。さあどうです?お客さんの欲しいモノは?」
すわ喧嘩かと睨んでいた顔は、すぐに営業スマイルに色を変えて応対していた。空気感と店の狭さが絶妙にミックスされて、ものすごい圧迫感を感じる。
「私、中央広場に行きたいんですよ〜。なのに道がわからなくて〜。どうすればいいですか〜?」
淡い水色の長い髪をふわふわにカールさせていて、同じ色の目。身長は170cmぐらいだろうか?女の人にしてはかなり大きい。俺と同じような格好をしているから多分、プレイヤーだろう。名前は……『ゆーり』らしい。
「ああ、中央広場ですか?ここを右に曲がれば大通りがあるのでそこを北に向かって真っ直ぐですよ」
「ありがとうございます〜!もしまた来ることがあれば、何か買わせてくださいね〜」
そう言い残してゆっくりと出て行くと、金髪と俺の喧嘩は再開する。
「よぉし仕切り直しですよ。ぶっ殺してやります。空から来た人は死ぬことに対して鈍感ですからね」
「あっ!殺すとか言いましたね!俺が本気出したらイチコロですよ」
「やりますか」
「……俺が負けるはずないですよ」
今まさに飛びかからんとした、まさにその時。
「すいませ〜ん!また道に迷いました〜!」
扉がバン!と音を立てて開いたかと思えば、またあの人が来た。
ポカンとした顔で虚空を見つめる2人。多分人工知能のNPCだとしても、こう思っただろう。俺も同じことを考えたハズだから。
あぁ、とんでもねぇ方向音痴を相手にしてしまったな、と。
もしよければブクマと評価していってください。




