第3話「チュートリアル得意」
大学受験の試験受けててバチボコに忙しかったです。文字数少ないですが勘弁してください。
わー眩しいー。
や、冗談抜きで。真っ暗闇から一気に反転させるのは本当に目に悪いのでやめていただきたい。暗闇に放置した時のゲーミングPC並みに目に悪い。
目が慣れてきてようやく明らかになると、俺は思わず息を呑んだ。
目の前に広がる、縹渺たる緑の平原。見渡す限りの芝生の大地。地平線まで全て緑色の芝生で覆われていて、恐ろしく平坦。
「ほ〜……いや、すげぇなぁ……」
思わず独り言を漏らす。それほどまでにすごい。これが本当にゲームなのか疑いたくなるほどに、すごい。もはや恐ろしいと言ってもいい。こんな技術を持った人間がいるとするならば、それは人間じゃなくて神だ。本当の「唯一無二の創造神」に違いない。
顔を上げると、雲一つない晴天に鳥が群れて過ぎ去っていった。吹いてくるそよ風には草の匂いがする。ウソみたいだろ?これ、ゲームなんだぜ。
思わず見惚れてボーっとしていると、突然あの機械音声が聞こえてきた。
『チュートリアルを開始します。準備してください』
まったく逐一丁寧なヤツだ。そう言われたって、チュートリアルの準備なんて何すればいいかわかんねぇしなぁ。とりあえず気を引き締めてくれよって事だと思っておくか。気合いよ気合い。元気があればなんでもできる。
『ステータスメニューの確認について。指で宙に五芒星を切ると、ステータスメニューが表示されます。やってみてください』
なるほどなるほど、五芒星ね。陰陽師みたいでかっこいい。え?お前は祓われる側だって?やかましいわ。
さっそく人差し指で、宙に五芒星を描いてみてメニューを呼び出す。
すると、いきなり目の前にウィンドウが表れた。おお……こりゃすげぇ……。さっきからずっと感嘆し通しだ。でもわかってほしい。こんな技術、本当に今まで無かったから、驚くほかにないんだよ。
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【プレイヤー名】
【ステータス】
Level:1
HP:150/150 MP:20/20
攻撃力:10
守備力:10
魔法攻撃力:10
魔法守備力:10
素早さ:10
【装備】
武器:なし
頭:なし
胴:革の胴当て
腕:なし
腰:革のポーチ
足:古い靴
【服】
簡素な服
【所持金】
2000フルク
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しょぼい。
ラノベとかネット小説特有の、最初からクライマックスみたいなステータスがよかった。まさに文字通りの意味のチート能力や、ぶっ飛んだ効果持ちの称号とか、ぶっ壊れスキルとか、最初からレベルカンストとか、そういうのは一切なかった。かなしいかな、これが普通。これがゲームバランスというものです。一個人にゲームバランスをぶっ壊されたらたまったもんじゃない。
『ステータスが確認できましたら、プレイヤーの名前の入力をお願いします』
名前ね、名前……。いつもならテキトーに決めてるんだけど、今回ばかりはどうもそうはいかないな。どうしようか……本名から取って雪……は安直……とすると、『スノー』かな。なかなかいいんじゃないか?ありきたりなハンドルネームだし。
ウィンドウに名前を入力して決定を押す直前で、俺の指は止まった。いや待てよ、俺の想像している『ネトゲ初心者の女の子』はこんな小賢しい名前の決め方をするか?答えは否だ。そんなことはありえない。と信じている。ではどうするか?
「まぁ、ここは……『ユキ』でいいか……」
我ながらネット初心者をナメすぎではないかと思う。しかしこういうのは、大袈裟なぐらいがいいんだよ。ウソは大きければ大きいほどバレにくいっていうし。
『名前の設定が完了しました。次は装備の装着について説明します。メニューのアイテムポーチから、"木の棒"を装備してください』
ナメてんのか。木の棒ってなんだよお前。こんなんで戦えるのは坂田銀時ぐらいだぞ。木の棒ひとつで敵倒せるかっちゅーねん。
そんなことに文句を言っても始まらないので、アイテムポーチを開く。ご丁寧に木の棒だけが入っていたのでそれを装備すると、急に右手の中に棒が現れた。
「うわぁっ!?えっ、怖……」
こんな演出、ちょっとしたホラーだと思う。想像してみてくれよ、自分の手の中にモノが急に出てくる瞬間を。ホラー映画でしか見たことない。ともかく気持ち悪いったらありゃしない。おててがばっちい。
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【木の棒】
・攻撃力+1
・安心安全の木の棒。思いっきり叩かれると痛い。
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『なお、アイテムポーチはメニュー以外でも確認できます。デフォルトだと腰の右側に付いている革のポーチがアイテムポーチです。それでは、次に進みます。次はモンスターの倒し方をご説明します』
お、いいねいいね。らしくなってきたよ。この辺りからが本番だからね。
にしてもチュートリアルだからといって、木の棒でモンスターを倒すのは滑稽な絵面だよ。まるでアザラシを叩き殺す時のような奇妙さとシュールさがある。俺、初見だとあのシーンでちょっと引いたもんね。
『今からこの世界で最も一般的なモンスターである魔獣、"フロッガー"が出現します。倒してみましょう』
そう告げられるや否や、突如として目の前に、体長1mぐらいのカエルが出現した。苦手な人への配慮だろうか、デフォルメされていてキモさは全く感じない。ぬいぐるみのような見た目をしているせいで、逆に愛くるしさを感じる。しかし俺は今から、心を鬼にしてこいつを叩き殺さなきゃならんのだ。
「ゲコ」
「は?……オォアッ!?!?痛っ……くない?」
急に可愛らしい声で鳴いたかと思えば、いきなり突進をかましてきた。反射的に痛いって言いそうになったけど全然痛くねぇ。クッションを投げ当てられた時のような感じがした。
『体力が0になると死亡し、エリアに持って行ったまたは採取したアイテム及び装備は、全て失われます。アイテムポーチに回復薬があるので使用してください』
サラっとすごいことを言ってきた。死ねばアイテム全損?冗談キツいぜ、持って行った装備も何もかも失うっていうのは変なところで硬派なやつだ。どっかで見たようなFPSみたいな設定しやがって。
今度は腰のアイテムポーチをまさぐって、いつのまにか入っていた回復薬を使う。さきほどカエルに減らされた分のHPを回復すると、回復薬の入った瓶は雲散霧消した。こういうエフェクトはどうやって作っているのだろうか、と考えたが俺には理解できなさそうなのでやめた。
『攻撃の際にはスキルを使用することができます。発動したいスキルを頭の中で念ずるか口に出してスキル名を言えば、自動的に身体が動いてスキルが発動します。まずは基礎の"一閃"を使ってみましょう』
おぉ、もう……。あのSNSで度々ネタに使われる例のラノベみたいな設定。しかしこういうゲームに本当に組み込まれるということは、結構いい設定だったのだろうか。
ま、合点承知ということで。とっとと終わらせちまおうか。久しぶりにゲームで興奮している自分がいることに少しばかり呆れつつも、頭の中で念じる。
("一閃"……うおっ!?)
これは……すごい。頭の中で念ずると、ちゃんと身体が動いてカエルを目にも止まらぬ速さで横薙ぎに切り捨てた。
冗談抜きでこんなに興奮しているのは、人生で初めてかもしれない。高校に合格した時よりも嬉しいかも。歓喜と興奮で身体が震えているのを感じる。これで現実でもブルブル震えてたらウケるな。いやウケるよりもまず怖いかもしれない。
『おめでとうございます、お疲れ様でした。以上でチュートリアルは終了です。使用可能なスキルや獲得できるスキルは、ステータスからご覧ください』
俺の今まで培ってきたゲーム生活の中で、チュートリアルからおもしろいゲームなんて世に名高い名作以外無かった。
顧みてこの作品はどうだろうか。俺が思うにこいつは、おもしろい。目新しさのおかげだろうが。それを差し引きしても……いや、差し引きの仕様がないから仕方がないか。こんな新機軸の作品はどう足掻いたっておもしろい。ゲームがよほどクソゲーではない限り先行きは明るい。
ひとつ問題点を挙げるとするならば、いちいち個人情報を入力するのがめんどくさい事ぐらいだろうか。アカウント作成時に、不正行為防止の為に氏名住所電話番号を入力しないといけないのは気が滅入る。
そんな事を考えながらぼーっとしていると、急に聞き覚えのない厳かな女性の声が、鐘を突くように響き渡った。
『ようこそ"Argent héros"へ。何かお困りごとがありましたら、ヘルプの項目をご参照ください。では』
そう告げられるや否や、周囲の環境が徐々に変わっていく。まるで飴細工を捻じ曲げるようにして、下の芝生が、雲一つない青空が、燦々と照り付ける太陽が、ぐにゃぐにゃと歪んでいく。
頼む、やめて。酔うから。
「は?」
ぐにゃぐにゃに捻じ曲がった世界に耐えきれずに思わず下を向くと、眼下に"街"が広がっていた。
「なんで?」
不意に周囲の風景が全て消え去ると、俺の身体は下に広がる街に為す術もなく落下していった。




