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満天姫、動く2


 蔵の外に大勢の侍たちが刀を抜いて待ち構えていた。


「ま、満天姫様……」


 雪乃はこの状況に恐怖で足が一歩も動かない。殺気だった侍たちは、今にも斬りかかって来そうな気配であった。


「おやおや、大人しく月路の儀に参加し、我が家の嫁になればよかったものの」


 侍たちの中から出て来たのはご隠居。

 いつもの優しい目が今は悪意に満ちたものになっている。


「ふん。秋之助の嫁など願い下げだ。それにご隠居はわらわを嫁にして、取り込んだから毒殺か無礼を働いたから手打ちにでもするつもりだったのだろう。わらわはお見通しじゃ」

「くくく……。全くお前は子供のころから聡い。そうじゃ。お前は我が秋葉藩にとって元凶。矢部家の姫では手が出せぬが、我が家の嫁となれば生殺与奪権はこちらにある」


 酷いことを言うご隠居だ。これでなぜ満天姫が月路の儀に呼ばれたかが分かった。そしてそれに便乗して参加した満天姫の目的も。

 その結果がこの状況だ。


「ふふふ……。仕方がない。ここで斬り殺すしかない。寺部家にはお主が急な病で死んだとでも話すとしよう」

 

 とんでもない台詞を吐くご隠居。もはや、悪の組織の親玉である。


「雪乃、お前は蔵の中におれ。ここはわらわが防ぐ」


 そう満天姫は叫ぶ。紅椿を抜いて戦う構えだ。


「姫様、防ぐと言われましても相手は大勢います。いくら姫様が強くても……」

「心配するな雪乃。お前はわらわが守る!」

(くう~。かっけ~)

(惚れてまうやろ!)


 雪乃は状況の深刻さを忘れてついそう思ってしまった。ここ最近、満天姫のイケメン発言にときめいてしまう自分がいる。


「紅椿の血肉となるがよい」


 今回は刀を返さない。満天姫も本気だ。というより、状況に余裕がないというべきだろう。ここにいるのは秋葉藩でもご隠居直属の侍。この不正行為がばれそうになった時に出てくる暗殺部隊なのである。

 一人目の侍が刀を振りかざして満天姫に向かって来る。満天姫はゆらりと体を動かす。ひと振り目をかわすと一撃をするどく放つ。


「うわっ」


 小さく叫んで一人目が倒れた。すかさず二人が左右から満天姫に襲い掛かる。


「うりゃ!」

 

 紅椿が八の字を描き、二人を瞬時に切り裂く。


「なにをしておる。相手は一人じゃぞ!」


 ご隠居が鬼の形相で叱咤する。侍たちも必死だ。満天姫の剣技は侮れない。これを倒し、蔵の中の侍女を殺す任務は簡単ではないと悟る。


「満天姫様!」


 さらに助っ人が加わる。 甲賀者の有人(あると)である。両手にクナイを握って一緒に戦う。

 侍たちは捨て身で斬りかかる。さすがの満天姫も七人を斬ったところで息があがる。紅椿も血糊で文字通り赤く染まる。

 有人も二人を倒したが、こちらは体を数か所斬られて血まみれである。軽傷のようだが、早く戦闘を終わらせて手当てしないとまずい。


「どうやら、体力の限界のようだな。よくやったぞ、満天姫。我が藩の秘密を知らねば、良い嫁となったろうに。実に残念だ」

「ふん。嫁になどなるわけがなかろう」


 そう満天姫は強気発言したが、後ろで見ている雪乃からするとそれは負け惜しみにしか聞こえない。


 ご隠居の方にはまだ五人も侍がいる。

 どれも手練れの剣士。それが同時に斬りかかってきたら、いくら満天姫でも無事ではいられないだろう。

 すでに小袖もところどころ切られて、左肩はうっすらと血が滲んでいるのが分かる。


(このままでは、満天姫様もアルトも私もここでエンディングだわ。ご隠居に無礼を働いてお手打ちエンド……)


 なんかこういう終わり方があったような気がする。

 もちろん、秋葉藩の不正を暴いてお手打ちなんてストーリーはないが、悪徳非道を尽くした満天姫が斬り殺される場面はあった。


(ああ~っ。私の江戸時代まったりライフが……。やはり、あの占いは当たってたわ)


 雪乃はここへ来る前の満天姫の父親が行った占い結果が正しかったと改めて思った。

 お湯を張った釜が割れ、厄払いをした和尚さんが気絶したエピソード。

 

 やはり未来は暗かった。


「それ、この女を斬り殺せ!」


 五人の侍が同時に斬りかかって来る。さすがの満天姫もどうすることもできない。


「うあっ……」

「ぎゃっ……」


 しかし、目を閉じた雪乃が目にした光景は予想外であった。

 一人の青年が刀を振り下ろしてたたずみ、その足元に倒れている五人の侍。

 そして腰を抜かしているご隠居。


「あ、あなたは……」


 立松寺九郎である。

 長髪ロン毛のイケメン剣士。

 藩を渡り歩く謎の人物。


「ふふふ……。満天姫、よくやりました。あなたの勇敢さ、まさに日ノ本随一ですよ」


 そういうと九郎は腰を抜かしているご隠居を見下ろした。


「観念しなさい。あなたの悪事はすでに露見していますよ」

「な、なにを……」


 そこまで口にしたご隠居は九郎の刀に刻まれた家紋を見て言葉が出なくなった。


「ま、まさか、まさか……」

「しっ……」


 九郎は人差し指の腹を口に近づけた。

 ご隠居が頭を下げた。完全なる土下座である。


(そんな……三十五万石の大名だった人間が頭を下げるなんて……)

 

 雪乃は九郎を見る。

 そして刀の家紋。遠くてよく見えない。


「満天姫、そして雪乃さん。ここは僕に任せて部屋に帰りなさい。明日から忙しくなりますよ」


 そう言った。人が集まって来る。

 屋敷の外から中へ入って来る侍たち。どうやら、九郎の家来らしい。

 九郎の指図を受け、ご隠居に縄をかける。

 満天姫と雪乃は部屋へと送られたのであった。


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