宵の闇路
幻想詩
夏の懐古。懐かしい人々の悲しい怖い詩。
遠い季節。
遠雷。
夕立、雷。
夕暮れ時は逢魔が時。
…振り返ってはいけない。
君、帰れなくなるよ。
百鬼夜行の通り物。
通り魔。
憑き物が背中に取り憑いた。
とん、と背中を押してくれる人がいる。
黒い靄が離れてゆく。
ありがとう。
というと、影法師が、またね、気を付けてね。
と言って、嗤った。
夏の宿場町。
祖母の背中は、線香の香りがする。
田舎の故郷。
蟻の群れ、ちりんとなる風鈴、凡てが、懐かしく、懐古の夏休み。
夜寝ていたら、大蜥蜴に丸のみされる夢。
座敷童の枕返し。
布団に喰われる。
花火のあとの夢のまにまに、さあおいで、闇が呼んでいるよ。
夏の夕暮れ、蝉時雨。
瞳の中には、過去が裏映りしているのではないか。
そして、赤い灯を燈して、あの日の想い出を隠しているんじゃないか?
B29が焼夷弾を落としています。
防空壕の中の芋の味。空はやけに晴れていて、古い写真には、笑う、兄の姿。
あやとり、毬遊び、お手玉。
あの日遊んだ影は、誰だったのか。
夕暮れ、自分の足から生えている影法師、それらと遊んでいた気がする幼少時代。
帰れる?帰れなくなるよ。
荒れ野の狐が寝る頃には、父が帰ってきて、私も寝ます。
リーリーと庚申堂に轡虫の鳴き声がする頃、罪と罰が、あの蝶の剥製箱の中から、瑠璃蝶が、息を吹き返して、夏の夜空に飛んでいきます。
蔵の裏にある水路には、人魚が住んでいて金魚や鯉を食べている。
その鱗を砕いて煎じて飲むと不老不死になるという。
漢方薬の家の人が来て、祖母が、なにか怪しげな干物をお金と交換しています。
二階に行って、祖母の部屋の秘密の戸棚を覗くと、干からびた人魚の死体がありました。
こんなのもいいと思い。