クエスト:音楽会
「???」
なにか、あたしは忘れているような気がする。しかも、ソレはここんとこ毎日繰り返しているような気がする。
__しかし彼女はそう思いながらも、何故かどう頭をひねっても思い出すことはない。
違和感しか感じ得ない、何故だろう。
「ん?」
がさ。
ポケットに感じた違和感の正体はポケットから出てきた5枚のメモ用紙。
(なんだ? これ??)
書いている内容に眼を通して、納得した。
「あぁ、またこれかぁ」
そうして彼女は嘆息しながら家を出るのであった……。
何度目かの、出発。
――――
「みつこ」
「ん?」
少し天然が目立つヘアスタイルをフードに包んだ少女『みつこ』に、彼女―――サキは話しかけた。
クエストがないときは町の噴水のところで猫と戯れているという情報は正しかった。基本ハンターは仕事がないと暇人だから、すぐ見つけれるので、都合がいい。
「助けてほしいんだけど?」
「? ……まぁ、聞くだけなら」
サキは顔をしかめると、みつこは不思議そうな顔を見せた。
普通「助けて」っつたら「いいよ」か「どうしたの?」ぐらいは常識だろうに、まさかの「聞くぐらいは」から入るとは。
さすがだぜ……いろんな意味で。
「まぁ、交渉は後でするとして、実はなアタシ超困ってんだ」
「そうかい、大変だねぇ」
といって歩いていこうとしたので、足でフードの裾を踏みつけて動けなくする。聞く気すらないんじゃないか。
ハンターとどうこうより、人としてどうなんだ。
「で? 何がどう大変なのさ」
「実はさ、五日ぐらい前からあるクエスト受けたんだけど。おいこらその顔やめろ」
心底めんどくさいモノにつかまった顔だ。
とにかく事の説明をする。
「あのさ」
今やってるクエストは難易度が高くて、どうも他のハンターは受けるのを心底嫌がったらしい。そこでハンター初級の中で一番有能なアタシが推薦されたわけだ。まぁクライアントが協会ってのが気になるけどな。
「うへへへ。お前の賛美はいいから」
「笑い方も含めムカつくな。……それで、そのクエストってのが今日を入れて二日後に音楽会が開催されるんだけど……ソレの阻止が任務なんだ」
「ふぅん? 嫌な任務だね」
「そうか? 楽しそうじゃないか?」
「楽しそうって……。いろんな意味で問題だけど、まだクエスト完了してないの?」
「そこが問題でさぁ」
サキはそういうとポケットからメモ用紙5枚を取り出した。どれもこれもクシャクシャになっている。
みつこはつまらなそうにそれを眺めた。
『忘却の町に来た。この町の人が言うにはメモは欠かせないと言うらしいので、あたしもなんか書いてみた(笑)』
「……何? この『忘却の町』って」
「ハイ、二枚目」
『一度この町に来たはずなのに何かした記憶が無い。このメモだけが唯一の手がかりだ』
「サキに一体何が!?」
「さぁ?」
当の本人にも分からないのなら、私にもわからんなぁとみつこが笑った。
「三枚目」
『何気今まで存在を忘れていたが雷がいねぇ! どこいった?』
「雷?」
「あ、本当だ何処行った?!」
サキ、今頃気がついたらしい。大丈夫か? 頭。
ゴス
「いて」
「なんか、ムカつくこと考えたろ」
頭を撫でながら、みつこは次のに手を伸ばした。
「んで四枚目?」
『この町のことについて、調べてみるとメモはかなり重要らしい。それにしてもこの町の人は少々ポケボケしすぎだと思う、料理注文したのにいつまでたってもきやしない』
(後は永遠愚痴ばっかり……。なんて無意味な。何があったのかは不明だがなんと学習能力のないことだ、とは当人にはいえないな~)
「コレがラスト」
『この町について調べてみた。この町は毎日日記のようなものを取っているから、昔の書物などが大量にあり、おかげでやっと謎が解けた』
「よかったね」
「メモに言うなよ」
もう一つ紙があった。古臭いし昔の文献のようだ。しかしまぁ、良く順番どおりに出てくるなぁ
『蒼の町は古くから水月族と深い交流を保っていた。お祭りなどがあるときは同じように楽しんだ。水月族は他の魔物類にも大変好かれており、水月族と一緒にいる限りわれわれ人間が襲われることがなくなった―――』
「いいことじゃない」
みつこが頷く。サキがすかさず次のを渡した。めんどくさそうにみつこはそれを受け取った。
「ンで、続きがコレ」
『最近物忘れが多くなってきた。それに最近水月族の演奏が近くで聞こえるような……』
「……で終わり?」
「終わり、さも書いてる最中になにかありましたてきな」
「んで?」
「ちなみにクエストの書類ね」
『忘却の町の音楽会を全力で阻止せよ、期間:一週間 依頼者:ハンター協会
詳しい内容:町の近くで棲息しているセイレーンの一種『水月族』彼らの演奏はモンスターには深い感銘と評価をうけている。人間の耳にも名演奏らしいが聴いたものは記憶の一部分を失う』
「意味ねぇ!!」
「だから町のやつらメモばっかとってたんだな」
「サキちゃん、先に思い出してからきてね?」
「あぁ、ごめん」
ちっとも悪びれた風もなく飄々とそういった。状況もわからずただ町へいけばそりゃ何度も無駄足踏むわな。
『今は町のみにしか進出していないが、5年に一度『天音一族』との音楽会交流がある。『天音一族』もまた歌に長けたハーピーの一種だが……先に事項した『水月族』と同じ類である。この二つの一族が揃って大演奏音楽会をすると町だけではなく国全都にまで被害は加わるだろう』
「なんてはた迷惑な!!」
「まぁ、そんなことらしいな。つまり俺は5回失敗してるから……あと二日で何とかしなきゃいけないわけだ」
「いままでどうしていたんだろうな」
だが曲を耳にしただけで忘れてしまうのだから対処の仕様がない。サキはコレに悩まされていた。
「ってことで、手伝ってくれ」
「依頼者:ハンター協会かぁ」
渋る金の亡者。ハンター協会はスポンサーでもあるから、安い。
「……。手伝って、くれる、よな!!」
「ひぃぃ! リョ、了解っす! いやだなぁ、meがサキのお願いを無下に断るわけないじゃなぁい!!」
「だよね~」
ということで、二人はさっそくその町に行くことにした。
しばらく歩くこと数時間
わりと町は近かった。海が近く首都町周辺からは離れている、田舎だけどそんなに田舎じゃないっという微妙なポジションの町についた。
「これが『蒼』町?」
石畳の道がなんか物寂しげに見える。
おぎゃーおぎゃー。
赤ちゃんの泣き声が聞こえた、と思えば赤ちゃんを抱いたまま母親らしき女は正気がないのか、ぽーっと空を眺めていた。まるで心ここに非ずといったようすだ。
「あのぉう!!」
思いっきり窓から叫んでみると、女の人は「きゃあ!」っと悲鳴をあげて飛び上がった。そのとき赤ちゃんを落しそうになったものだから、見ているコッチが冷や冷やする。
「あらあら、よしよし」
やっと赤ちゃんのことに気がついたのか、あやす母親。
「……。何していたかしら?」
母親は困ったように首をかしげた。あえていうなら、何もしてません。
しばらくあやし、ふと何かを見て思い出したように声をあげました。
「そうよ、町を出なきゃ」
「え? なんで?」
みつこが思わずつっこむと、気を悪くしたふうもなく親切に教えてくれた。
「この町では皆いろんなことをすぐ忘れちゃうから、妊婦さんと赤ちゃんと母親は子供が5歳になるまでは、この町から離れなきゃいけないの。私は早産でここで産んじゃったけど」
「なんで?」
「え? ……ん~なんでだったかしら?」
育児忘れるからじゃないスか? またも赤ちゃんのことをわすれていそうな母親を見ながらそう思ったが、さすがに口にするのはやめた。―――時間の無駄そうだったから。
「たしか、西の沖合いにステージがあった気がする……?」
自信なさげな口調で進んでいくサキに、みつこは黙ってついていく。
「ん?」
音楽が聞こえてきた。聞いたら忘れてしまうっていうのに、何も行動せず動き出したサキをみつこは止めた。
「ロア武器、結界魔法【拒絶法衣】」
服にピッタリまとわりつくように薄い結界が張られる。これなら普通に曲を聴いても平気だろう。みつこを連れてきて良かった。
何かみつこは言いたげにこちらを見ているが、見えないふり
「……ほぅ! なるほどいい曲」
落ち着いた中にも明るさの盛り込まれた癒されそうないい曲だった。
「さて、とにかく楽器と歌のハーモニーを邪魔すればいいんでしょう?」
「っていうか、倒しちゃえばいいじゃん」
「悪いことしてないのに、ソレは酷だぜ? サキよ」
いーじゃん、と歩いていると。ステージが見えた。氷でできており、月の光できらきらと輝いている。まさしく光のステージ!
≪しつこい奴だ! また邪魔しにきたんだな!!≫
何処からもなくそういう声が(声だけでも美声)響くと共に、海から魚人間や人魚が現れ襲い掛かってきた。
「うわっと!!」
「思い出した! 二日目は記憶薄れ度が低かったからこのことすぐに思い出したから『魔法の耳栓』買ったんだった! でも!!」
「でも?!」
≪邪魔な方々! 邪魔ばかりなさるなんて人間とは愚かだわ!!≫
雲の間を縫うように天音一族も出てきた。―――なるほどねえ
「って感心してる場合じゃないな!」
「しかもしかも!」
サキが言いたかったであろうことが言う前に出てきた、水月族と天音一族以外の魔物たち。自分たちの楽しみにしている音楽会を邪魔されたくないのなら当然と言えば当然だが……。
「他のハンターが嫌がるわけだぁああああ!!!」
攻撃を避けながらみつこはサキに向かって叫んだ。
「サキ! 残念ながらmeのLVじゃ魔法一つ継続している最中に他の魔法は使えん! つまり」
「つまり?!」
どす! っと杖でモンスターを追い払う。
「致命は負わせれないってこと! 早く雷捜して!!」
天と水なら雷に弱いだろう。しかし当の犬は何処いった?
「おい! そこのきもげろ魚人間!! 雷をそこへやった!!」
≪口の利き方のない無知な人間め! あの獣なら氷付けにしてやったわ!≫
ステージの隅のほうに氷付けされた雷が飾られていた。
「てめぇえええらああああ!!」
怒りに力を振るうサキだが多勢に無勢残念ながら圧倒的不利。
「くそ!」
「このテリトリーならヤスコに頼んだほうがよかったんじゃないの?」
サキの持ってきた剣でなんとか攻撃はかわすものの、普段から武器に頼りっぱなしで他のことに挑戦がしたことがないため、いまだ一撃も与えられず。
―――いや、もし慣れていたとしても、不利であっただろう。
水と天のモンスターは自分のテリトリー内ゆえに普段より数段もスピードが上がっていた。
「どうしたら……っ」
『自分の武器をただの武器と思うな、生きた武器だ』
「!」
一か八か……。
「みつこ!」
「はい?!」
断られても断られなくても、とりあえずは俺は前を見据える。ジレンマなんて俺には似あわねぇ……。せめて、かっこ悪くないぐらいにはな!
「ライに向けて杖を投げてくれ、思いっきり」
「それで?」
みつこは否定も拒絶もしなかった。唯一の武器を飛ばせなんて危険なことを言ったのにもかかわらず。
「雷の氷が割れたらロアをすぐに獣に戻してまた自分の元に武器化して攻撃……できるか?」
「さぁて?」
みつこが笑う、つられて笑う。なんか、コイツとは気が合う。昔からの仲間のように……。
「失敗なんてかっこ悪いまねすんなよ!」
「補償はないね!! ロアOK?!」
思いっきり杖を振りかぶって、投げた。
「「いっけぇえええええ!!」」
―――ぱりんっ
「わん!!」
氷から解放された雷が飛び出す。
「雷!! ≪怒りの雷≫!!」
稲妻に乗って雷はサキのところまで戻ってきた。
「きゅうん」
「よっしゃ、雷行くぞ!!」
雷が武器化する。ライの元々もつ放電がオノにチャージされたままで、接近攻撃型から、進化型に変わった。
「魂の髄まで痺れさしたらぁいやぁあああああ!!!」
雷が一筋の光の柱を創った。
「ロア! 結界魔法!」
―――― かっっ!!!
ピッシャアアアアアアアアアアン!!!!
……。
「サキさぁん、やりすぎ」
みつこは呆然と屍と化した『水月族』と『天音一族』を眺めた。海に今入るのは……。危険だろう。湯気たっている。でも手加減はしていたのだろう。どの魔物も、致命傷ながらも一匹も死んでいない。
「うきゃあああ!?」
久振りに聞いたサキの悲鳴。
「どったの? って、え??」
見知らぬ、少なくともさっきまでは居なかった少年に抱きしめられている。なんとなく見たことのあるような赤毛に、可愛らしい眉毛……。
「サキ~」
「誰だおまえぇええ!?」
みつこからすれば、この一方的な愛の表現を見ればたとえ異常なことであっても、一目瞭然と言うか……。
「サキ、それさぁ……。雷じゃない?」
「はぁ? 雷は犬だし? 俺コイツ知らねぇし?!」
混乱しているなぁ
「カナタのもそうだったじゃん?」
「アポロ?! でも、え? あれ? いや、で、でも」
混乱中、混乱中、只今混乱中。修正します。
「落ち着け」
どす!!
「ぐふ?!」
サキの腹部に杖を叩きつけてみる。……うん、ある意味沈黙。
「雷」
「んー?」
「サキのために獣に戻ってやりなさい」
「あーい!」
ぽふん。本当に獣になった。
みつこは自分で言って実行され、驚いた表情で眺めていた。つかよくアポロ先生のこと覚えていたなぁ。誰もつっこまなかったのに
「本当だ……おぇ」
「わぉん! きゅううん」
すりすり。サキは驚きすぎて吐き気を覚えたらしい。
どうやらサキはLVがあがったのであった。たたたた〜ん
「ぉー、なんだ? もうクエストやっちゃった?」
「アポロ? どったの」
「どうしたもこうしたも、元々このクエストは俺らの仕事だったのよ、ちょっとばっかしめんどくさくて逃げてたけど……その罰で俺一人でやってこいってきたんだけど」
サキの肩が震える。みつこはロアを連れてそそそ……とその場を離れる。
「終わってるみたいで、いやあご苦労ご苦労」
「し」
「?」
「死にさらせぇぇえええええええええええ!!!」
「うぎゃあああああああああ?!」
操りの能力を持つのなら音楽界をつぶすことはたやすい。
全員解散させ、ステージをぶっ壊す。
毎回していたのはカナタでした