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HUNTER・GIRL  作者: 一理
はじまり編
8/57

最終チェック

 目覚めのときは、刻一刻と近づく……。必要な戦士はまだ卵の中……。

 ひなのままではだめだ。大空をはばたく嵐をおこせるほどの精悍な大鳳にならなければいけない。

 早く完成させなければ


 壊れる前に


 後戻りできなくなる前に 


 でなければ意味がない。

 そうでなければ意味がない……。


 無い時間に、追い越されていく


「ねぇ~今度はなにさぁ? こちとら馬鹿師匠のスパルタでくったくたなんだけど?」

「お前もか? あたしもだ」

「うちもぉー!」

「僕も……怖かった。でも、面白かった」

 そろった四人を集めたのはカナタで、目深にかぶったチェックの帽子でその表情は見えない。

「確実に、時は刻む。答えは単純。けどヒントは複雑」

「はぁえ?」

「先に謝っとく、ゴメン」

 カナタが頭を下げた。そして、上げるとともにアポロに手を伸ばし、叫んだ

「アポロ!」

『合点!』

 カンバンを出したネズミの姿から人型に変わる。

 煙から現したその姿は皆のよく知る姿だった


「アポロ先生!?」


 先生は何も言わず、そしてカナタは何処からもなく剣を取り出した。自分の身長にあわせた軽量型らしいが、見るからに切れ味が良さそう。


「ちなみにこれ最高の職人精製の……とても値のはるソードです。」


 自分で金使いました宣言をした。

「いや、説明いらないから、いや要るけどそうじゃなくて……!?」

 みつこは反射的に師匠にもらった薙刀を構え、回避した。

「……」

「――――っうわ!?」

 みつこに向けられた刃は、油断していたサキのほうにも向けられた。

 流れる動作に辛うじて反応したが、混乱したままの作動しない脳のままでは、カナタの行動にどう対処したらいいのか分からなかった

 困惑したままの四人に、カナタはどこからともなく大量の武器を取り出し

「武器ならここに」

 と言って投げつけてくる。

 普通に危ない。

 みつこには見覚えがあるそれは、先ほど師匠が用意したやつだった。

「ちょ! なにしやがんだ?!」

「あぶないやんかぁ」

 四人勿論怒り出すが、カナタはそ知らぬ顔で空を見つめた。

 太陽が高い。

「日が沈むまで、私は本気で君らに」

 こちらに眼を前に向けた。

「殺しにかかる」

 背が小さいから、その場でしゃがみこまれると視界から消えたように見える。

 唐突というのもあったが、その機敏さのせいで反応に遅れた。

「うっ、ぐはあ!!」

 リィシャの体が吹き飛ぶ。

 運悪くその後ろに居たヤスコもリィシャとぶつかり倒れこんだ。

「っリィシャ!!」

「だって~、僕のせいじゃ……! うわっと」

 ヤスコの怒りの声に申し訳なさそうにしながらも、追撃された攻撃を身軽な反射神経で刃から逃れた。

 後ろに居たヤスコは何もできず、目をまんまるにしていたが


「ふざけんな! 痛い目見せてやる! 雷、武器化!」

  ……。

 ―――しーん

「雷?」

 いつも傍らにいるはずの雷が今日、このときになって傍に居ないどころか、どこかぼうっとしたように主人を眺めていた。

「雷!?」

 呼びかけても反応はない。

「?!」

 雷に気を取られカナタの動きに反応できず、難なく蹴り飛ばされた。

 腹部にきれいに残る足跡。

 一週間相方との特訓をしたと思ったら今度はこっちの訓練かよ。くっそ、うっぜえ

 サキは心の中で吐き捨てた。

「いってぇ! くそ、根暗のクセに一体何処にこんな力が」

「もしかして……アポロ、先生が」

 みつこがアポロに眼を向ける。にやりと笑った、かすかに音が聞こえる。

 先生アポロの能力は操り……まさか

「正解、君らのパートナーの意識は封印させてもらっている」

「んでもって自分は人形化の能力で肉体のみ操られているから、反射神経とか運動能力とか関係ないわけだ」

「……あんたらが思うほど、今の私は運動音痴でもないけど? 結局潜在能力は自身のものだし」

 ざしゅうっ!

「あぁぁああ!! 980円もしたフードがぁ」

「安いんだからそんなわめくなよ」

「ゆるっさん!」

 みつこも薙刀を構え突っ込んでいくが避けられる。

「ほら、さっさと攻撃して来い。時間無いんだから」

「海里!!」

 ヤスコが悲しそうに海里しがみつく。

 そんな彼女を気にせず、リィシャは武器を手に出現させ走り出した。

「うぉりゃああ!」

「はいっとな」

 すばやく背後に立ったリィシャだったが、既に動きを読んでいたカナタは当人によく見えるようにソレを主張した。

「サル吉!?」

 切りつけることが出来ず腕を止める。

「ふ」

 その隙に間合いを取られ、ソードで振り払われる。

「うぎゃ、卑怯だぞ!」

「でもさ、リィはコレのこと、どうでもいいんだろ?」

「!?」

 尻尾を掴んでぶらぶらサル吉を揺らすカナタ。それを投げ捨て、ソードを構え直した。

「あと、真の武器を簡単に出すなっつってんだろ?」

「さっきから陰険なコトばっかしてんじゃねぇええ!」

 サキが大量に積み上げられた武器の一つ、槌で隙だらけのアポロを殴りこもうとした。

「わぉう!?」

 これには吃驚したらしいアポロ、だがLVが違いすぎた。

「残念だったな」

 ぴゅぅ。っという短い口笛で雷がサキに襲い掛かった。

「ぐ!? さっきからお前等卑怯だぞぉおお!! 真面目に戦えよ!」

「真面目も真面目、大真面目」

 楽しそうにアポロはそういった。

 カナタは手を挙げ、ソードを投げ捨て、その手に本を構える。

「いいのか?」

 その動作を見たアポロが問う。カナタは応えずみつこらに手のひらでこいこいと挑発した。

「てめえ」

「ほら」

 アポロが口笛をやめた。

 パートナーがそれぞれの相方のほうへ向かっていく。 

「ほら、返した」

「喧嘩売ってる?」

 みつこはいい笑顔でロアを構えながらカナタのほうへ向ける。

「真面目も真面目、大真面目」

 少し前のアポロと同じセリフを繰り返した。

「【チャージ】」

 みつこは力を蓄える。サキが前に出た。

「【雷斬撃】」

 斧を大きく振り上げ、カナタに向かって振り下ろすが、カナタは側転して転げ攻撃をよけた。地面にぶつけられた雷が跳ねかえる。

「うらああ」

 らいが刃となりカナタに迫る。

「【消す】」

 本を開く。

「!」

 雷が消え去った。

(?、カナタの能力は操る能力じゃないのか? 本は情報を知るだけだろ?)

 みつこは力をためながらカナタの能力を解析する。

 よくわからないが、カナタの口ぶりからすると『六年制』は戦闘能力に優れているとか。

 今回のようにバカ正直に突っ込んでいくのは得策ではなさそうだ。

「うらあああっ!!」

 バカが村正を構えてカナタに突っ込んでいった。

「ほい」

 兜破りの構えも、がら空きの腹に蹴りを入れられリィシャは後ろへ飛ばされたが、バック転を二回繰り返し、もう一度剣をカナタに猛威を振るう。

 きぃん。

 およそ普通の本では聞こえないだろう音が響く。

「何製だよ、その本!!」

 リィシャの突込みも最もだ。剣を受け止めた本は破れるどころか金属音を放ち、つばぜり合いを果たしていた。

「神様製」

 真顔で冗談言いながらカナタは本を開き、剣をはさんで後ろへ引っ張り、体のバランスを崩したリィシャにゆっくりと手を伸ばし、素早く何度もその肉体に蹴りと拳を叩きつけた。

「ぐふっ」

 サル吉がリィシャに駆け寄る。

「海里!」

 ヤスコが海里にのって氷の息を吐き、そのコースに乗り上げカナタに向かって特攻してきた。

「アポロ」

 先生がふわふわした毛をもつ鼠に姿を変え、カナタの手のひらに乗ると、リコーダーに姿を変えた。

「!!」

 音が出るとともに海里の動きが止まった。

 そして落ちるヤスコ。

「アポロ使うなやあ」

「海里使ってるやつに言われたくない」

 カナタは投げ捨てていた本をいったん消し、再び出現した本を構え、ヤスコに向かって走り出した。

「氷結魔法【凍てつく息吹】」

 みつこはカナタに向かって魔法を放った。

 つららの混じる冬風は容赦なくカナタに向けられたが、落ち着いた様子で本を開いた。

「【消す】」

 魔法が打ち消された。

 先の時と同様、黒い靄に攻撃が包まれるとカナタに届く前に消え去った。

 まさか、ミツコは叫んだ。

「闇属性か!!」

「正解」

 ワーウルフと同じく、遠くにいたはずのカナタはみつこの背後に立っていた。

「くっ」

 ロアはロットから獣化に変わり、カナタに体当たりした。

 さすがによけれなかったらしいカナタは地面に倒れた。

 

「カナタ。もういいんじゃないのか?」

 倒れた主を見下ろす人型になったアポロ。

「痛え……。まぁ、うん。一応危機感はもってもらえたかな」

「何が?」

 また経過したままのみつこが問う。

「シンクロ率&単独のLVのUPもついでにやってみたけど」

「やる意味あったのか?」

 サキの言葉にカナタは顔を歪めた。

「……、なかったらこんなめんどくさいことするかっつーの」

 まぁ、正論ではあるが。

 躰を引きずる様に歩くリィシャに肩を貸すサキ。

「で? 何がしたかったんだ?」

「まだ教えない」

 近づいてきたサキに腕を逆方向に持っていかれる。

「いだだだ?! 暴力反対」

「さっきまで暴力しまくってたのは誰だよ!」

「でもさぁ、サキ考えてみ?」

「?」

 ロアに乗ったみつこが上からカナタを見下す。

「うわ、いやなポジションだな」

「あたしら限定で鍛えるってことはさ、近いうちにあたしらにめんどくさいことが回って来るってことだよ。じゃなきゃこんな急に、しかも強引にレベルUPをカナタがするわけないじゃん? カナタって親切なやつじゃないし」

「なるほど」

 カナタの顔に汗がたれる。図星らしい。

「近いうちに大変でめんどくさいことってゆーたらぁ?」

 自問自答なのかはたまた聞いているのかヤスコはうーん? と唸りながら首をかしげた。

「ジャグラーじゃない?」

 あっさりリィシャは答えた。

「それはさぁー、普通上が処理すんじゃね?」

「あー、そっかぁ」

 四人カナタを見つめる。

「で? 正直にいってごらん?」

「ゲロッちゃいなよ~」

「すっきりするぜ~」

「さぁさぁ」

 思いっきり悪徳セールスマン風に四人は言い、カナタに吐くように尋問するが、中々口を割らない。よほど言いたくないのか、はたまた言えないのか。

 とにかく、答えなかった。

「うっ」

「!?」

 ぱかっ……ふいぃぃ

 カナタがショートした。

「ちょぉお!? カナタさぁああん?!!」

「え? え? え! ちょぉっやばくね?!」

「口から魂でてますやん!!!」

「戻ってきてぇええええ!!」

 演技か本気か分からないが、魂が出てしまったということで、カナタの隠していることを聞きだすことはできなかったのであった。

「カナタぁぁぁああ―――!?」

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