試してみる
「え?」
みんなは自分の耳を疑った。
「なんて?」
「だから『今日は、コロシアム大会を始める練習をします』っていった」
「でも、ハンター協会の本では、『第5条ハンター同士のバトルは禁止』ってかいてるけど?」
「学園長が許可したもん」
「もんじゃねーよ、誰だよ学園長って」
「ミスター・クレア」
ナンパ教師に文句言っていた生徒たちが口を噤んだ。
彼は勇者として協会に認められているうえ、王族にも物申せるほどの権力を持っている。そんな彼に逆らえるものなどいるわけがない。
「ミスター・クレアには規則関係ないからな。まあ、この世界じゃ力の強いモノが法律だからな」
莫大な力があればその力だけで王様に名乗り出て、王になることができる。そういう世界。
ということで学園裏のコロシアムに来ていた。使い込まれていないのか、って言うぐらい綺麗だ。
逆に違和感しか感じないが。
「さて、今回は分かりやすくお手本を用意したいと思う」
「プロでも来るのかな?」
と皆わくわくする。しかし先生の言った言葉は皆の期待とは違っていた。
「はい、サキとリィシャココに来い」
「え?」
「またかよ」
二人はまさか自分に来てないと思っていたのだろう。いきなりのご指名で困惑した表情を見せた。皆がっかりの声を上げる中先生だけ気にせず笑っている。
「昨日俺がサキが勝つって言ったろ? 俺が言ったことに間違いがないか証明できるってことだ」
あっはっはと笑いながらやってきた二人の肩をつかむ。
「両手に花」
二人同時に殴られた。しかしめげることなく話をすすめる。ここまでくると清々しい。
「じゃあサキはあっちの入り口から、リィシャはその反対な」
先生に言われるままに二人は移動する。他の生徒も自分もやるようになったときのためちゃんと見つめる中、みつこだけその顔に影を落としていた。
(もし、戦って魔法使ったら……ロアと離れ離れに……)
かといって、武器を使わなければ不審極まりない。なによりプライドが許さないそれにコロシアムで手に入る懸賞金も気になる。
ご褒美貰えると聞いたが、いったいどのぐらいの金額だろうか
「じゃあ、俺が口上をいうから、ソレが終わったら入り口から姿見せろよ?」
「わ、わかった」
「?」
まだ分かってないリィシャをよそに始まる。しかし、口上とはいったい
「では……」
――――眼鏡かけてクールビュティー! かと思えばただの凶暴ガール! その眼鏡はいったいなんだ!
赤コーナー! サキ――!!
「ふざけんなぁああ!!」
すばらしいとび蹴りを教師に向ける。攻撃こそ喰らったものの倒れなかった。
口から血を吐いているが文句を言えるだけの元気はあるらしい。それに何気サキの攻撃を和らげるよう回避していたし、結構只者ではなさそうだ。
まあ回避したわりには血を吐いているが。
「痛いぞ! あいつより捻りがあって酷い」
「アイツって誰だよ」
「聞きたい?」
もう一発殴られてる先生をよそに、まだかなー? と顔だすリィシャ
「じゃ、じゃあ次」
――――姿かたちは侍そのもの、しかし中身は天然おばかちゃん。嘘も故意もございません。素です!!
青コーナー! リィシャ――!!
「……もうでていい? あ、いい」
普通にバカにされているのに、とことこあるいていく。特に突っ込まないらしい。聞いていないだけかもしれないが……。リィシャはこういうことには無頓着らしい。
「まぁ、入り口前で一回止まって客にアピールするんだけど、ソレはまだ今度で良いだろう」
二人真ん中で向かい合う。主人はお互い見あうが勿論パートナーの反応は違う。片一方は主人に釘付けでもう片一方はバナナ見てる。
「バトル開始のベルが鳴ったら武器化だ、それからあとは二人真剣に戦え」
先生が離れ……カァーン!! と開始のベルが鳴る。二人は同時に叫んだ。
「「武器化!!」」
先制したのはサキだった。武器化した雷は電気を帯びた斧になり、リィシャに向かい思いっきり振り上げる。
「あれがサキのパートナー武器化、接近攻撃型」
「ん? あの静電気はなんなん?」
ヤスコが先生に質問すると、いいところに気がついたと先生は褒めた。
「あれは、パートナーが持つ特殊体質、ハンターが持つようにやつらにも備わっている。そして雷はその名の通り電気を放出する能力を持っているってわけだ」
「くらえぇ!」
サキがリィシャに容赦なく襲い掛かる、リィシャは持ち前の身軽さで難なく避けた。しかし、サル吉はまだブーメランになってすらいない。
「サル吉!! バナナくってんからだぁ!」
「リィシャのパートナーは飛行攻撃型本来ならこちらのほうが有利だ」
「あのサルも特殊能力あるん?」
ふと気になったらしいヤスコが教師に声をかけた。
「あぁ、バナナ出してたろ? それはそれは……無限に」
「……。あぁ」
それでリィシャが埋まるぐらいのバナナ出しまくっていたわけだ。納得。
「あと、あのサルの耳の形が変わる」
「戦闘とまったく関係ないな」
「そ~ゆうのもあるってことさ」
「あ反撃に出た」
ブーメランがサキに襲い掛かるがオノであっさり打ち落とされる。そして打ち落とされたサル吉に興味なさげにリィシャは変な構えに入った。そこで中止が入る。
「はい、タンマ」
リィシャの頭を小突く。
「いま、さっさと『真の武器』を出そうとしたろ」
「駄目?」
「あのね、『真の武器』は切り札にもなりうるかもしれん、ソレをこの場で出してどうするよ? この場に将来ハンター狩りになるやつがいるかもしれんだろ?そうでなくてもコロシアムで真の武器使う気かよ」
えへ、とリィシャは誤魔化し笑いを浮かべる。
サキは中断させられて不機嫌そうに渋い顔をしている。おもしろくなさそうだ。
「大体おまえのパートナーは使い捨てか? 拾われんのまってんじゃねーか」
サル吉は武器化したまま動かない。変身は遅いし、頭の回転も悪い。リィシャはため息つきながらサル吉を拾いに行った。
「……」
先生もサル吉の所まで行くと、リィシャが拾う前におもむろにブーメランを踏みつけた。
「うっきーーーー!!」
悲鳴と共にもとの通常モードに戻った。口にはよだれが。寝てたな。
「ちぇ、つまんねー。雷」
ライも元の通常モードに戻る。そしてサキに飛びつく。
「きゅ~ん」
「はいはい、よしよし」
サキは適当にあしらってから教師を見る。
「で? 本番って死亡者でるの?」
「デナイヨ」
((明らかに嘘だ))
みつこはぼーとそれらを眺めていたが正気に戻ったように目を大きくさせた。
全員コロシアムについて話をしている。
「そういやハンターってさぁ何歳から?」
「才能があれば5歳から始めてるな」
「新屋っ若いのにもうハンター始めてやめてるのはそういうことかぁ」
考えているうちに別の方向に思考がいったらしい。
「やすぃんや新屋の年、ハンター候補生は沢山いた。今の比じゃないぐらいな」
ハンターの仕事は安定しており危険も伴うが金もよかった。条件が合う体質者にはこの上のないぐらいの天職だ。しかし、その時期ハンター協会に顔を知れわったっていたミスター・クレアが学園を成立、入学することを義務つけた。そこからがハンターたちにとっての悪夢の始まり『六年制の地獄』がはじまった。
「なにそれ」
「ふ、よそうぜ、この話はよぅ」
自分で始めたくせにといいたかったが、先生も六年制の人らしく顔が暗い。しかし彼の目が死んだので言うのをやめた。
「ま、とりあえずここのコロシアムは基本開いてるから、ココでならバトルも強化練習も暴走もして良いぞ。本試合は一年に一回」
「第6条ハンターは力を振り回さない」
みつこは本を開きながら
「コロシアムで優勝したら『戦士』の称号をもらえるぞ」
「なにそれ? 優遇いい?」
「けっこう中々」
「よっしゃ頑張ろう! ふっふーぃ!」
「おい! みつこ」
やる気満々になっていたみつこはサキにチョップを食らわされ、なんでなん? と言いたげな顔で頭を撫でながらサキをみた。
なにやら小声で怒られた。
「ばれたらどうなるか忘れたのか!?」
「あぁ……! 困った」
「お前実はそんなにこまってねぇだろ」
「困ってないわけないよ! どーしましょ」
どっごぉぉ―――――――ん!!
「きゃああ」
「うわぁああ」
コロシアムが崩壊する。何人かの生徒が即座に武器化し、ことの対処をしようと立ち上がった。
しかし先生だけはのんびりコロシアムを眺め、ぼやく。
「こりゃ先延ばしになるな大会」
「なんてラッキーいや、じゃなくて! 何事」
煙の中からごつい大男が現れた。
「くっくっく、ミスター・クレアもこの学園も全部ぶっつぶしてやる!武器!!」
男の傍にいたゴリラが胸を大きく五回叩き鳴らした後大きなハンマーに姿を変える。
「あー……お前は、ビルメイか!」
「ッ!? 俺様の名をしってるらしいが、誰だてめぇ」
「ほぉお? 俺のことをおぼえてねぇのか? まぁ仕方ねえか『六年制』でコロシアムで一番最初に当たって、そのたびにいっつも俺たちにつぶされてたからな」
「何言ってやがる! 俺様のあたる一番手は常に小娘だったはず」
そこで少女たちは頭の上に無数の鳩を飛ばした。鳩がマメ鉄砲を喰らったような顔をしながら先生に問う。
「先生、オカマ? あ、おなべ??」
「違う。断じて違う」
「てか、毎回同じやつに当たって敗退してるってのもかわいそうだな」
「哀れむんじゃねええ!!」
「あいつの、真の武器は『砂』でな、砂を操って目潰しして来るんだ。パートナーはゴリラでハンマー。地面をかち割れるんだ」
「わー」
「人の真の武器ばらすなー!!」
なんだか向こうさんが哀れになってきた。と皆が思い始めてきた。
しかし、先生も詳しい。その口調に誰か思い出せそうな気がしたが、誰だったか……。
「くそぉムカつくぜ! ここいら建物全部壊しつくしてミスタークレアもぼこそうと考えてたけどやめだやめ!!」
ハンマーを大きく振りかぶって大地に叩きつけると。地面が畳替えしのように持ち上がった。生徒の何名かは巻き込まれ、倒れた。
「きゃあああ!!」
「うわぁああ!?」
砂埃と共に悲鳴が上がり、何人かは逃亡を図る。
「ちょーどいい! 前からハンターとやってみたいって思ってたんだ!!」
さっきの不完全燃焼を発散したかったサキが待ってました、とばかりに一番槍に立ち向かう。
「サキやつを甘く見るな!!」
雷をまとい渾身の一撃を浴びせようとしたが。残念ながらサキは雷属性そして相手は土属性……相性が悪い。
「効かねぇな!!」
ばきぃ……っ!! ハンマーでサキは殴りつけられ躰をぶっとばされた。勢いそのままに大地にただきつけられる。骨は何本か逝ったらしいが気絶していない。ライがサキに心配そうにすりよった。
「いっとくが、クエスト経験が少ないが戦闘能力が無駄に高いのが『六年制』だ。やつらの収入源は同じハンター。つまり奴らは『ハンター狩り』だ」
つまり戦闘能力でペーペーがプロに勝てるわけがない。と、いいたいらしい。
「サキ!! 大丈夫か」
「なんとか」
「きゅぅうん! くぅん」
「じゃあ! 次はボクな」
リィシャが緊張感のない声で嬉しそうにかけだした。さっきまでの会話を一切無視らしい。
「サル吉!! 武器化」
武器化したサル吉を投げ飛ばすが男、ビルメイは難なく避けた。誰にでもよけられる飛行攻撃型って一体。
「うりゃあ!!」
いつの間にか、何気に先生が渡した清流刀で襲い掛かる。
「なんのこのぐらい!!」
男の固い体で余裕で清流刀は折られ、あいた手でリィシャは殴り飛ばされた。いきなりのことだったので受身が取れず地面にめり込む。しかし悲痛な叫びは上げなかった。
体が地面に埋まったままでも、リィシャはマイペースだった。
「痛い」
「ヤスコ助けてやれ」
「はーい」
海里に乗ってリィシャの足を引っ張る。
「はい、次は誰挑戦する? お前どう?」
「挑戦って馬鹿にしてんのか?!」
「なんだ、根性なしか~? ん? じゃ、みつこは?」
「いや、いいっす。金もらえるならやっても」
「おぃ」
「や! 遠慮します、あはは……」
「じゃあ、誰か……」
あえてずっと無視する先生にぶちぎれる男。
「お前さっきからふざけんなぁ!! 武器ももってねぇノーマル野郎が!!」
「やだなー、男のくせに特攻しろよー? え? 何? 何指差してんの? 敵ほっといていいのかって? いいよ別に」
生徒の突込みにすらあえて無視してチャレンジャーを探す教師。ハンマー構えた男の方が震える。怒りの限界を突破したらしい。
「殺す!」
「はん? 俺とやろうってのか? ヤだね俺とやったらさっさと決着ついて面白くない」
「……なろう、言ったな叩き殺してやる!!」
「先生武器は!? 貸そうか?!」
「その必要はない」
先生は笑うと口笛を吹いた。
「!」
男が反応した。
「その音は……まさか」
にや……。勝気な教師がニヒルに笑う。
「ぅがああ!!」
ゴリラが通常モードに戻ると教師の元まで駆けつけた。暴れるわけでも攻撃するためでもなく、―――服従するために。
「残念だったな、俺だけでもこのぐらいはできる。何故なら……格が違うから」
ゴリラの姿がハンマーになり教師の手に落ちた。
「もう一度、てめぇの武器の痛さ思い出させてやる!!」
「てめぇ! アポロか!!」
「あばよ! また来な」
ばっきぃぃぃーッ!
男は自分のパートナーにぶっ飛ばされ飛んでいった。先生が口笛を軽く吹くとゴリラが元の姿に戻り。主人がいないことに気がついて急いで追いかけていった。
その様子を生徒達はぽかーんと成り行きを眺めた後、不思議そうな顔で先生を見た。
「先生アポロっての?」
「おぅ、ま、めったに名前呼ばれないけどな」
「じゃ、なんてよばれんの?」
「ネズミ」
冗談か本気か分からないけど、にかっとアポロはわらった。
「しかし、また壊れたなココまた新築せにゃあ」
ここが真新しい理由は使われていないじゃなくて、使われすぎ、だった。即座に理解いた生徒は何も言わず頷く。
「先生ハンターなの?」
「おぅ! 元……な。いまはただの」
きーんこーんか――――ん
「ながっ!」
「今日はココまでー! んじゃな! さーてナンパナンパ」
(いまはただのナンパ野郎?)
「てことがあってさぁ」
放課後クエスト屋にやってきた。
なんとなくカナタと仲良くなったみつこ。つい一時間前の話をする。
「まぁ、『六年制の地獄』を体験したやつにとってあの学園は悪夢の象徴だからね、壊したがるのも無理ない」
「ところでさぁ? カナタもハンター?」
「元、ね私も『六年制』だから、ハンターより情報屋としているほうが長い」
「てことはさ? パートナーどれ?」
とことこどだどだ
「?、なんの音?」
ネズミが屋根裏で走り回る音が聞こえた。みつこの問いにカナタの顔が苦々しくなる。
「……ネズミ」