ハンターガールの有意義で無意味な一日
今日の天気は朝から快晴で、雲一つない清々しい朝だった。
昨日買ったばかりの少しお高めの紅茶に、最適な温度まで温めたコップにお湯を注ぎ、甘い匂いが香り立つ。
朝食には焼いたパンの上に、少しだけ焦がしちゃった目玉焼きをのせて、皿の上に置き自身も椅子にかけた。
「さてと、いただきます。ノア・ロア」
先に焼いた魚を与えていた二匹の猫(もっとも、そのうちの一匹は白虎だが)に声をかけて、この少女。ハンター・ガール期待の星、みつこも食事を始めた。
クリーニングからかえってきたばかりのフードは強化も頼んでいたので、強度プラス補正されているだろう。
今日はいい気分だから少しレベルの高めのクエストを受けよう。
そう思っていたみつこの前に、招かれざる客がいた。
「……。なんか用? アポロ」
アポロ。そう呼ばれたモルモットはささっと看板を取り出した。
「なに~? やすぃんやがmeに頼みがある? そっちから来い。手土産忘れんなよって伝えて」
「ちゅ」
「『後日、ハンター救援セットアイテム、10万相当を送らせていただきます』……だと? よかろう。ノってしんぜよう」
みつこは食事を早々に切り上げ、やすぃんやがいるであろうアイテム屋へと足を運んだ。
この初級ハンターが集まる『はじまりの町』一番のアイテムショップの店長、やすぃん屋新家カーニャ
は、みつこの考え通り受付ではなく裏の倉庫の前に立っていた。
「人を呼び出しておいて、仕事してるっていうね。こっちも暇じゃないんですけどー」
「うわっ!! びっくりしたやん!! みつこかあ~急に背後にたたんといて!!」
心底驚いたと言わんばかりのカーニャのリアクションに、みつこは片手を上げて謝罪の意を示す。
「ごめ。んで? 依頼って何?」
「せめて最後まで言って欲しい……。まあ、うちが無理言って呼んで来てもらったしな~」
「そうそう」
みつこの相変わらずの態度に、カーニャは苦笑いを浮かべた。
「実はな……。ここではなんやし、休憩室に移動してもええ?」
「かまへんで」
お店の中の従業員休憩室にある椅子にてふたりは腰掛ける。
出してもらったお茶を手にみつこはもう一度同じことを問えば、彼女は深刻そうな顔で頷いた。
「実は、ヤスコのことなんやけど」
「帰るわ」
「まってー!!」
クリーリングからかえってきたばかりのフードを掴まれ、みつこは心底面倒なものを見るような目でカーニャを見下した。
「どぉーせまた『一人前になるように協力してやって』とかでしょ? 嫌だよ!! 時間の無駄。10万もらっても損だ」
「それならそれなら!! 対ゴーストアイテム五点セットもつけるからー!! っていうか、依頼はそうやないんやってぇー」
みつこは首を傾げた
「ん? じゃ何」
「今日一日ヤスコの後をつけてほしいんよ」
「尾行しろって? 何のために」
「あの子みんなが知ってのとおりハンター家業なんてよほどのことがないとせんやろ? そのくせ、うちの店の手伝いもせずに一日外でなにしよるか知りたいんよ」
「そういえば、なにしてんだろね。たまにお茶飲んでるのはみるけど」
いつも見るのは街中の公園やら、お店の中やら、少し前でいえばハンター養育学校ぐらいだ。
「ま、アイテム付けてくれるって言うし、依頼受けてあげるよ」
みつこは腕の中に抱き上げていたロアをおろし、武器化した。
「ほあっちゃ」
透明なうっすらキラキラと輝くカーテンのようなものがみつこを囲む。
「な、なにしたん?」
「存在感を薄くする魔法をかけた」
「魔法って万能!!」
みつこは店を出るため歩き出す。手をひらひら振りながらカーニャに別れ去っていくのだった。
外に出ると気持ちのいい風が吹いていて
「あー。ヤスコ探しから始まるわけだけどぉー」
依頼がすこぶる面倒になってきた。
「適当に嘘報告すればいいっか。こんな日に尾行とか馬鹿らしいー……」
と歩き出した途端に見えるヤスコの後ろ姿。
巨大なペンギンの上に乗り、のっそのっそと歩いているすがたはいつ見てもシュール。
すでに街の人もなれているので何も言わないし、もはや二度見など遥か昔のこととなっていた。
「やれやれ」
みつこは後を追うと、ヤスコはまずはじまりの森に入っていった。ここは比較的モンスターが出ない一般人向けの森だ
何をするのかと思えば湖まで行き、海里から降りた。
(水浴び……な、わけないか)
ヤスコは手を振って海里と別れた。
(な……んだと)
あの海里大好きっ子のヤスコが珍しい! と思っていると、突如冷気を感じた。
見れば湖を凍りづけにして腹ばいになって滑っている海里の姿があった。ものすごい勢いで速い。
(たまには海里の息抜きをしてやるってことか……で? 一人でどこ行くんだ?)
カナタの情報によれば、二人っきりであったことはないそうだ。
いつも誰かに連れてこられなければ来ないって、ハンターとしてどうよっていうカナタの小言まで思い出し、みつこは小さく苦笑いを浮かべた。
その背は迷わず街へ向かい、森を出た。
「一体どこに」
街のお店が中心的にある場所を、彼女は優雅な動きで歩いている。
こうしてみればまさに花の化身の如く美しい。しかし、気になるのは小さな赤いリボンのついたカバン。一体何に使うのか……と、思っているとすぐに答えが出た。
「今日発売の新商品! ぶどう味のペンギン柄飴ちゃん! どうだーい」
若い兄ちゃんが元気よく商品を売り込んでいる。ヤスコはすすすとお兄ちゃんに近寄り、下から見上げるように目をじっと見つめた
黙っていれば美少女のヤスコに見つめられ、兄ちゃんは顔を真っ赤にさせる。
ヤスコはスっとその新商品を指さした。
「一つ、ちょうだい?」
「よ、喜んで!! なんならこのお菓子セットもどうぞ!!」
「ありがと」
やすこはカバンの中に入れて歩き出す。新商品の飴ちゃんは即開封して食べ始める。
「歩きながら食べて子どもかよ」
「何してんの~?? なあなあ? 何してんのー? 面白いこと? 僕もまっぜてー!」
突如感じた頭の重みに、みつこのご機嫌が急降下で下がっていく。
上目で見れば案の定の馬鹿だった。
「なんで木の枝もってんの? なあ、忍者ごっこ?」
「せめて探偵って言えよ。木の枝持ってんのはなんとなくだし! っていうかうぜえ爆ぜろ」
「僕も僕もー」
「いやだから、こちとら遊びじゃないから!!」
どうあしらっても諦めないリィシャにうんざりしながら、みつこは前を見た。
いつの間にかヤスコの姿が消えている。
「あーもう」
追いかけて進んでいけば、すぐに見つかった。
花屋の青年に小さな花束を貰っていた。綺麗な花々を受け取り、ヤスコは手をふって別れる。
手を振っていったヤスコの背を、鼻の下を伸ばしながら見つめている青年の前を通過し、二人は急いで追いかけた。
果物屋の店主のおっちゃんに林檎を一つもらい、アイスクリームの屋台をやっていた若い兄さんに無料でアイスをもらい。
出店をやっていたチャラい感じの男にも、試作品と言ってアクセサリーをもらっていた。
ここまで来るとさすがに妬ましさを通り越して恐怖を抱くみつこ。
「あいつにそこまでの魅力あったのか……。じゃあ、meでも行けんじゃね?」
「はははは!! あはははは」
「ロア」
武器化したロアを使って思いっきりリィシャを殴った。
魔法? いいえこんなやつに魔法など使いませんよ byみつこ
「また見失ったじゃないか」
「ぼ、ぼくのせいー?」
血を吐きながらリィシャは周りを見て、「お」と声をあげた。
「裏路地入っていったで」
「なんで?」
「さあ?」
ふたり裏路地に入っていけな、猫たちに餌をやっているヤスコがいた。
「あのヤスコが他人に物を恵んでる!」
「君の中でのヤスコってなんなん?」
「しぃ! 誰か来たぞ」
歩いてきたのは温和そうなおばあさんで、ヤスコを見るなり親しそうに会話を始めた。
「ぎっくり腰はもう治った?」
「えぇ、えぇ。もうだーいぶ、よくなりましたよお」
「ほな。餌やりはもうええな」
「えぇ。ありがとうね。これ、お駄賃」
お金と飴ちゃんを大量にもらうヤスコ。
「それから、これもあげるわねえ」
綺麗な造花の髪飾りを手に入れヤスコは歩き出した。
歩くたびに何かを得る彼女に、二人は感心する。
「まるで猫だな」
「確かにー。ええな。僕もやろか」
「お前がもらえるのは塩だけだろ」
「なんで塩?」
不思議そうなリィシャを無視して尚続けると、ヤスコはガラの悪そうな奴らとぶつかった。
初級の町にカツアゲしにくる暇な上級ハンターらしかった。つれているパートナーもなかなか厳つい顔をしている。
ヤスコは謝るだけ謝ってさっさと歩いていこうとしたが、腕を掴まれた。
「おいおい、謝ってハイさようならじゃつまんねえだろ」
「ちょっとぐらい付き合ってくれよ」
「これからケーキバイキングいくねん。邪魔せんとって?」
「そんなのより、楽しいとこ行こうぜ」
具体的にどこだよ、とみつこは心の中で突っ込む。
楽しそうな男たち三人に囲まれても尚ヤスコの態度は変わらない。
「ケーキバイキングより楽しいとこなんて、ない!」
((断言した! さすがヤスコ))
リィシャと心の中で同調したみつこ。
ヤスコが男の手を払って、指をつきつけた。
「これ以上痛い目みたなかったら、さっさとどっかいけ!!」
「偉そうなこと言ってんじゃねえよ」
ヤスコの腕を再度つかもうとした瞬間、ヤスコは叫んだ。
「出番や! みつこ! リィシャ!!」
その手には『ケーキバイキング無料、お友達4人まで』と書かれたチケットが。
みつこは武器化し、ヤスコに結界を張った。
「な、結界!? 魔法属性がいるのか」
リィシャは目を光らせ三人の男の間に立つ。
「いつのま……」
最後まで言う前にリィシャは抜刀し、三人は腹から血を流して倒れた。
深くはない、この程度ならすぐに自己回復して歩けるようになるだろう。
「記憶消しとくか」
みつこはリィシャの攻撃の前に倒れた三人の前に立つ。
「できるん?」
「何事も試さなきゃわかんないよ、ね」
ロアを構えにっこり笑った。
そして鈍い音が三つ、街の中に響いたという。
「にしても、よくmeらの存在に気づいたね。魔法かけてたのに」
「あんだけ騒いどったら誰でもわかるわ」
ケーキバイキングのお店でまったり過ごす三人。
「ところで、みつこ」
ヤスコはにっこりと微笑んだ。
「師匠に頼まれたんやろ。いくらだったん? ……言うてみい」
ヤスコの黒い笑みに、みつこは久しぶりに固まったのであった。
(仮)が描いてくれたので
せっかくなので小説を書いてみました(´∀`)




