表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HUNTER・GIRL  作者: 一理
探索というな名ダラダラ
55/57

魔王戦 3

「全く! お前は俺の教えを一切身につけてないな」

「師匠……!?」

 槍を弾き返す、師匠の黒い大剣。

 サキが頭を押さえたまま、何かをつぶやいている。

 リィシャが首をひねり、サキに声を掛けようとして、先ほど怒られたことを思い出し、目をそらした。

「!」

 岩山に閉じ込められていた海里とヤスコを助け出すハズキ。

 剣をコーネリアンに向けたまま、顎で城の方を刺した。

「お前らはさっさと城に行って、ノーワルドの肉体を破壊してこい」

「でも、meらそいつすら倒せなかったのに……っ」

「そうだな」

 師匠は振り返り、みつこの頭にチョップを落とした。

「ふぐぐううう」

 涙目になりながら頭を押さえるみつこ。

 師匠は困ったような笑みを浮かべ、頭を撫でた。

「でも、お前らじゃないと、あいつは倒せん。『お前』だけじゃない。『お前たち』でなければ」

 みつこは、後ろを振り返った

 三人はうん、と頷いた。

「じゃあ、ここは任せたよ」

 そう言ってロットを握り直し、走り出した。

 小さな四つの背を見送りながら、ハズキは笑みを浮かべる。

「……これで、俺の役目は終わった」

 



 みつこは血だらけのサキと、軽いけがをしたリィシャとやすこの体力を回復させた。

「ありがと」

「確か、こっちから来たよな」

 穴があいた壁をすすんでいく。

 歩きながら、みつこは横目でサキを見た。

「魔法で治したはずだけど、頭どっか異常あるの?」

「あ、いや。傷は治ったんだけど……ちょっと、なんか視界に変な映像がチラついてて」

「映像?」

「その映像が鮮明に見えてくるたびに、頭が痛くて……」

 リィシャが剣を手に構えた。

 目の前にはノーワルド。

「おやおや、これまたお早いお戻りですねえ~」

「なんか、あいつの口調腹立つ……」

 サキが頭を抑えながら呟く。

「仕方ないですねえー。まだ体が出来上がっていないのですが……戦います?」

 ごぽぼ……培養器から空気が漏れたと思ったら、ガラスが割れた。

 中から謎の液体とともに、肉体へと変換されなかった魔物の肉片と新しいノーワルドの肉体が出てきた。

「うわっ」

 ノーワルドの肉体は空気に触れると、どんどんその姿が大きく膨れ上がっていった。

 ところどころどろどろで溶けてきている。

「この肉体が朽ちるまで、お相手してあげますね~」

 完全ではないと理解し、崩れ落ちると知っていながら肉体に入り込んだノーワルド。

 その行動が理解できないみつこ

「なに、そんなに切羽詰ってんの?」

 ロットを構え、相手を睨みながら問う。

「時間なら永久にあるんだけどね。進む時間がないんだよねぇええ」

「?」

「何言ってんの?」

 ドロドロの手が蚊をたたくように、力いっぱい素早く振り落とされた。

 蜘蛛の子を散らすように避ける。

 彼の腕がもげた。

「生まれたなら死にたいよねえぇええ? 死ぬために生まれてきたのかなぁぁあああ? 生きてるってどういうことなんだろうねええええ??」

 肉体が不完全ということが、彼の精神までも蝕み始めたのか、言語がところどころ聞き取りにくくなってきた。

「わからないよねええええ」

 足が壁を壊す。どろどろが熱を帯び溶けて消えていく。

「誰かに必要とされたいよねえええ? でもさああああ、一人でいたいときもあるよねえええ。人間ってやつはめんどくさいよねええええ」

「いちいちうるせえ!!」

 サキが炎の如意棒で攻撃すると、ガソリンに火が引火したようにノーワルドの肉体を燃やし始めた。

 しかし倒れない魔王は再び攻撃してくるが、見えないのかみつこたちとは一切関係ない方向に攻撃していた。

 振り回す残った腕も落ち、倒れこむ。

 しかし、息があるのかまだ話し声がする。

「この世界で生まれ落ちて、永いこと肉体を失ったまま生きてきたんだよねえ。君たちが生まれてくるのをずうっと待ってたんだよねええ……」

「meらを?! ……なぜ? 鍵をもってるから?」

「僕は不必要な、不出来なもの。一番最初に、作られたんだよねえ。でもめんどくさくなって殺されちゃったぁ……でも魂はあって、放置されてた。でもまた出番があるってねえ」

 彼の肉体が燃えて炭となり、風に吹かれて消えていく。

「この世界が消えようが、存続しようが、どうでもよかったんだよねえー。ただ、やっとだよ」

 彼の頭蓋骨が見えた。

 ボロボロになって今にも崩れそうだ。

「やっと……死ねる……ね」

 みつこは届くかわからないが、最後に問うた。

「何のために戦ったの?」

「……し、ぬ……ため……だね」

 骨はもう何も言わない。

 何も言わず、ただ見つめていると、サキが炎の如意棒を手から溢れ落とした。

 音に反応し、サキを見つめる。

「……思い、だした」

「!」

 彼女の目が、黒色に染まっていた。急いで間合いを取ったが、彼女から殺気を感じない

「……何を」

 警戒しながら問う。

「無限回廊で、知ったんだ。あたしらはこの世界の」

 がっしゃん。

 音の方を振り向けば、ノーワルドの頭蓋骨を足で踏み潰した人間がいた。

「お前……っ!!!」

 カナタの持つ真の武器を片手に、傍らにパンドラを侍らしている。

 困惑していると、全ての黒幕と思わき人間が本を脇にはさんで、拍手した。


「おめでとう。ゲームクリアだよ。見事魔王を倒したね。これで魔王vs人間の戦いは人間の勝利だよ」

 サキがライを武器化して、斧をそいつに向かって思いっきり投げ飛ばした。

 そいつは驚いたような声を上げてサッと横に避ける。

「ひどいなオイ。せっかく助けてやったのに……。何? もっと俺ツエーのがよかった?」

「お前が、この世界に魔王を呼びこみ、旧首都を潰した神か……」

 みつこが問えば、そいつは頷いた。


「そうだよ。この世界に魔物を入れようと思ってコイツ、ノーワルドを造りあげたけど、世界を壊してしまったから、怒りのあまり殺しちゃったんだよね。元に戻したものの、一から魔物つくるの、めんどくさくなってさ。別世界の魔物のだけの世界と、こっちの世界の空間繋げた。無限回廊でな」

 サキの言っていた無限回廊。

 一体それが何かは知らないが、みつこは目を細めた。

「なんでmeらなのさ」

「違う、みつこ」

 サキが頭を抑えながら、そいつを睨みながら言った。

「あたしらが選ばれたんじゃない……。あたしらだから、こいつは動いたんだ」

「?」

 そいつはカナタの本を開いた。

「記憶、あったんだ? いじりすぎて戻ったかね。どうでもいいや。どうせまた消すし」

「消す?」

 どごぉぉん! 

 天井が崩れたと思ったら、魔王とミスター・クレアだった。

「チッ……。魔王にかけた洗脳解くなんて、さすが勇者だな」

「お褒めに預かり光栄ですねえ。本当は戦いたくありませんが、この世界を消させるわけには行きませんから」

「何から何までおかしいと思っていたが、貴様がやはり原因か」

 二人に睨まれても動揺しないそいつは、本を開いたまま身動き一つしない。

「死ね!」

 魔王がそいつに魔法を発動させたが、本にそっと手を添えるのと同時に魔法は消え、魔王も消え去った。 

「!!!」

 リィシャが目をまん丸に見開き、口を開けた。

 恐怖を抱いたヤスコが海里から降りてみつこのフードを掴んだ。

「死ね? 死んでやるよ。全て終わったらな」

 世界がどろりと溶けた。

 ミスター・クレアは武器を手にしているが、そいつに向かって動くことはしない。

「お前らが邪魔しなきゃ、もうすこしゆっくりゲームを勧めておきたかったんだけどな」

「そうですか」

 まるでノーワルドがそうだったように、全て歪にどろどろに崩れていく。

 溶ける場所から闇が蠢く。

「!?」

「怖い? 大丈夫。目を閉じたらいいんだよ」

 まるで他人事のようにそいつは言う。

「本当に、残念です」

 武器を構えたミスター・クレアはそいつに向かって走り出すが、そいつの視界に入ることなく、闇に飲まれた。

 最後に何か囁き、そいつは少しだけ驚いたように消えたクレアの後をみて、そっと目を細めた。

「いい加減にせえやあああ!」

 サキが叫び、怒り任せに怯えることなくそいつに向かっていった。

 そいつの襟首を掴み、締め上げる。

「……」

「サキ!」

「お前が悪いんだろが、全部よお! えぇ!? いつまで巻き込むつもりなんよ!? 何回やらせんだよ!!!」

「……何回、ね」

 本を閉じ、表紙をサキの頭に押し付けた。

「こっちが知りたいわ」

 黒い影が本から滲み溢れ、サキを飲み込んだ。

「サキ!!!」

 みつこが魔法を放とうとすると、影から手が現れロットを奪い取った。

「これは」

 最初にこの城に訪れたとき、懐中時計を奪った手と同じだった。

「だから、大丈夫だって。この世界は消すけど、君らは消えない。経験値は、まあ、初期値にもどるけど、精神面のレベルは上がったから」

 何を言っているのか、理解できない。

 だけど、そいつの服装や言動、瞳を見ていると、何かを思い出しそうになった。

「安心してよ。君らが協力的だったら……。きっと次で終わる。そしたらまた……」

 そいつは黙った。

 視界が暗闇に染まっていく。

 どうすることもできない。どう対処したらいいのかさえ思いつかない。ひんやりとした感触に蝕まれ、意識が朦朧としていく。

「そしたら、また……」

 視界が闇に溶けた。






「なんだっけ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ