魔王戦 2
ミスター・クレアの作り出した魔法陣から放り投げられるみつこ一行。
前衛を駆け回るリィシャとサキは見事着地を決めたが、ぼーっとしていたみつこと運動神経の悪いヤスコは尻餅付き、悶える。
「痛いわー……。ん?」
立ち上がると、その場所は大きな培養器の中に大量の魔物の肉片が漂っているのが見える、なんとも不気味な部屋だった。
「なんや、これ」
気持ち悪い、とヤスコはそれから目をそらした。
「!」
ずずず……。
影からノーワルドが現れた。相変わらずの色素の薄い骸骨だ。
「おやおやおやーん。こんなところまでー……予想以上にお早い到着だねえ~。あの人もまた予想が外れたと癇癪起こしそうで、怖や怖やだねえ~」
「……あの人?」
「おおっと、僕そんなこと言ったかね~? あちゃー、聞かなかったことにしといてね~」
マイペースな彼はトコトコと培養器の前に行くと、それに持たれるように手を置いた。
「これねー。僕の身体なんだってねー」
まるで他人事のように言い放つ。本人的にはどうでもいいのだろうか……
そんなこともお構いなしにサキは武器を構えた。
「つーことは、その培養器ごとお前をぶっ飛ばせば、ハッピーエンドだな!」
ライが放電し、雷が斧に集中した。
「砕け散れ!!」
斧が敵に当たる直前に、サキは何者かによって体当りされ、その場から消えた。
リィシャがさる吉を武器化し、サキが被害を受けたことによって空いた壁の向こうへと走っていく。
みつこも同じように続いた。
いくつかの部屋を超えると、外にでた。どうやらミスター・クレアの転移で城の中に侵入していたらしい。
魔法の強さが桁違いだと、みつこはミスター・クレアを見直した。
「サキ!」
「クッソ……が!!」
サキの上に乗っかり、押しつぶそうとしている黒いヤギのような角を生やした馬。
ライが放電すると、身軽な動きでサキから離れ人型へと姿を変えた。
「! お前」
「あー! そいつだよ、うっとおしくてしつこくて、めんどいの!!」
リィシャが苦戦した相手は、みつこも苦戦した相手だった。
「コーネリアン! 貴方城の実験室を壊す気なのかしら!!」
気だるげなメイド長が大きな声で怒鳴りながら現れた。
そんな彼女の手には、とても大きな鋏が……。
「肉、来る、喜び、私。食事の時間」
可憐な声が上から聞こえ、みつこは横回転でその場から避けた。肉きり包丁二刀流のゴスロリなメイドさんが、口からヨダレを垂らしながら振り返る。
「避ける、なぜ?」
「食われたくないからだよ!!」
ターゲットをみつこに決めたメイドが走る、が、リィシャが間に割って入り、攻撃を開始した。
ブーメランに視界を邪魔され、不服そうだ。
「僕と遊ぼうや!」
「肉、肉、喰らう!」
噛み合わない会話に、かち合う武器。
みつこは空を見上げ、ヤスコの後ろへと走った。
「なにゃ!?」
急に来たみつこより、空から降ってきた液体に驚くヤスコ。
自動的に盾化した海里から煙が上がる。
「溶けてん?」
「海里に影響はないだろ、あのおばさんの相手は任せた」
そう言ってみつこは笑顔でヤスコの肩を叩き、隙をみてその場から離れた。
上から「誰がおばさんだ!」と言ってるのが聞こえてきたが、無視するみつこ。
「おっと、逃がさないよ! 白いGちゃん!」
「ゴキじゃねーよ!!」
太い槍の攻撃を避けながら、みつこは叫んだ。
「おっ、っと」
みつこはロアを武器化し、結界を張った。
目の前に黒い炎が通り過ぎていく。
横を見ると、炎の如意棒を構えたサキが、体についた壁だったものの破片を払っている。
「てめーの相手はあたしだよ」
少し焦げたコーネリアンは笑みを浮かべたまま、サキの方へと体を向けた。
「死にたいなら、殺してあげるよ。だってほら……」
彼はにっこりと笑いながら走り出した。
「俺って、優しいから!!!」
「知るか!!」
激突する二人を無視し、みつこは走り出した。
「!」
ロットで迫り来る攻撃を抑えた。
目の前には大きな鋏、気だるそうなメイドが力を入れる。
「エスコートさせていただきますわ。……地獄まで」
「お前らの国がそうじゃねーの?」
鋏が肉を切ろうと暴れるが、ロットで上手く軌道を逸らして対処する。
みつこの額に小さく汗がにじむ。
(ヤスコよか断然ましだけど、正直me体力系じゃないんだよねー。いつまで持つか)
魔法を発動させるには、ロットを相手に向ける必要がある。しかし、相手の動きの方が早すぎて発動する間がないのだ。
みつこは周りに目を向けた。
スピード重視の魔物たちの攻撃に、みんな手一杯という感じだった。多少の攻撃なら当たったところでどうということもないが、何度もうければ致命傷。
「っ」
武器化を解き、ロアに体当たりさせ距離を取ろうとした、その瞬間。
ぐら
「!?」
地面が揺れたと感じたのと同時に、城が半壊し、壊れたところから魔王サーガとミスター・クレアが戦っていた。
彼の手には虹色に輝くハルバードがあった。
「城が……!」
「相方、戻ってきたんだ。……ロア!」
ロットの先端が光った。
「焼き尽くせ!」
炎がメイドを包み込んだ。
「ノア!」
悲鳴を上げてメイドが火を消そうと悶える。みつこが追撃でノアを剣に変身させ、メイドを切り捨てた。
「ぎゃああああ」
ヤスコは止めなく硫酸の銃を撃ちまくる黒衣の女に向かって、トライアングルを取り出した
「落ちてこいや」
そう言って鳴らす音。
響き渡る音が女に届いたと同時に、女の体が爆破した。
粉塵と地に還った女に、ヤスコはぽつり
「加減ミスったわ。ごめん」
全く感情の無い声に、敵も納得できないだろう。
「や!」
リィシャがメイドにブーメランを投げる。メイドは身軽に跳ねて避けた。そこに向かってリィシャは走り出した。
地につくメイドに、妖刀村正を出現させ
「抜刀!」
切り捨てた。
首と体が二つに分かれ、メイドの目が大きく見開かれた。
「に、く……私?」
血が大地に染み込んでいく。
残りは黒き騎士のみ。
サキは動きの速いコーネリアンに翻弄されているようだった。
「くそ」
「ははは、遅い遅い。でも、俺って優しいからさ」
槍がサキの頬を掠める。
「殺してあげるよ」
「さっきからそう言って、殺せてねーじゃん」
血を吐き捨てながら笑うサキ。
彼の笑みが消えた。
「だって、王様が殺しちゃダメだって。半殺しはいいらしいけどね!!」
槍がサキの肩をえぐる。
「うぐぁああ!」
「サキ!」
リィシャが敵に攻撃を仕掛け、サキを助け出す。
「大丈夫か?」
「ほっとけや!! あたし一人でも倒せるんだよ!!」
「!!」
そう叫んだあと、ハッとしたようにサキは口を抑えた。
「……。っ、お前らはさっさと魔王倒しにいけよ」
「強がんなよ、雑魚」
「誰が雑魚だ!!」
みつこの言葉に殺気を飛ばしながら噛み付くように叫ぶサキ。
冷ややかな目でみつこは腕を組みながら言う。
「お前の技は大技で攻撃力高い分、動き遅いんだよ。相性悪いなら低いのも手だろ」
「力があればどうってことないだろ!」
「当ててから言え!」
「今からやんだよ」
険悪なムードにヤスコはおどおどと表情を曇らせる。
サキに邪険に扱われ唇を尖らせ不機嫌そうなリィシャ。
「ははっ。所詮ハンター・ガールなんてそんなもんだよね!! 『壊す』ことはできても、『守る』ことなんてできない。『仲間』なんていないんだな!!」
地面から岩山が突き出してきた。
それぞれ避けるが、運動神経の悪いヤスコは攻撃こそ海里のおかげで受けることなかったが、岩山に囲まれ閉じ込められた。
敵の魔法によって、押しつぶされそうになる。
「ヤスコ!」
「はははっ」
みつこに迫る槍、みつこはヤスコの方に気を逸らしていたため反応に遅れた。
「危ない! みつこ!!!」
リィシャの声が遠くに聞こえるな、なんて思っていると。
目の前が黒に支配された。