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HUNTER・GIRL  作者: 一理
探索というな名ダラダラ
52/57

休憩

 ーーー ちょっと休憩してから、行くか。

 と言ってから、一日が経過した。


「お前のちょっとって長いんだな」

 サキの呆れたと言わんばかりの言葉に、みつこは心外だと言いそうな顔を見せた。

「誰かさんのせいで消費した体力と魔力を回復するのに、それほどの休息時間がいるってことだよ」

「せやせや。やりきった感があって、魔王の方行くのめんどくさいし」

「ヤスコ、本音言っちゃダメだって」

 みつことやすこのやりとりに何の言葉も発さないカーニャ。彼女も魔王の方へ行きたくないのか、それとも別の何かがあるのか、難しいカオでただ腕を組んでいた。

 どこもかしこも魔王との戦いに備え、店を閉めている。街の中を歩く人間も、動物すらもいない。

 そんな中、マイペースにお店のテラスに座る四人の女。

 全くの異形である。

「なー」

 カーニャがやっと口を開いた。

「あの黒いドロドロ……。多分やけど、カナタの相方じゃないんかな」

「?」

 ヤスコが首をかしげた。

「アポロにそんな能力あったっけか?」

「そうじゃなくて、もう一匹よ」

「もう一匹?」

 サキがふと、思い出したらしく「あぁ」と手を打った。

「あたしらの特訓ときに、闇属性発揮してたな。あれ、本の力かと思ってたけど、みつこみたいに相方もう一匹いたのか」

「そうよー。ハンター養成学校に通ってたとき、ドラゴンの群れに突っ込む任務クエストがあってな! その時に確か姿を見たんよ」

「どんなの?」

「確か、真っ黒な狼で……」

「ちゅちゅ(名前はパンドラ)」

「そうそう……って!」

 四人は机の上にいるねずみに驚く。

「アポロ!!」

「カナタのそばにいたんじゃないの?」

「ちゅ」

 どろん、と一匹増えて、消えた。

 どうやらお得意の分離能力でやってきたらしい。

「何? カナタになんかあったん?」

 心配するカーニャに小さい手を横に振るアポロ。

「ちゅちゅ」

「トゥディからの、ギフト?」

 みつこは手を差し出してそれを受け取った。小さな瓶。中身は液体らしくちゃぽちゃぽと音がする。

 アポロがそっと看板を差し出した。

「えー? これを大事にもってろって? 何入ってんの? 毒?」

 違う違うと手を振るアポロ。彼が出す看板の文字を読み上げると、意味のわからないものだった

「えー? ミスター・クレアに頼まれて作った謎の液体って……。作った人がわかんない挙句、なんでミーに渡すわけ?」

「とりあえず持っとけば? このあとミスター・クレアに会うわけやし、本人に聞けばええ」

「せやな」

 みつこは小瓶をポケットにしまった。

 アポロがちょろちょろーと移動し、カーニャの頭の上に乗り、看板を見せる


 なぜ、パンドラの名前を?


 との質問。

「サキが『闇堕ち』した時に、パンドラのようなドロドロが見えたんよ。たぶん、あんな感じの雰囲気だった思うし」

「ちゅうー」

 考えるような仕草をしたあと、それはパンドラだと思う、とアポロも同意した。

「なんで? カナタの相方なのに……どこぞのジャグラー同様、勝手に暴走してるってこと?」

「ちゅちゅ」

「めんどくさいから人間になってくれない?」

 みつこに言われ、渋々人間モードに変わってくれたアポロ。

 ふわふわの髪の毛をかきながら複雑そうな顔をしている。

「あー。パンドラに至っては、俺にもわからないところが多いんだ。なんせ、俺があいつとパートナーになる前からいたみたいだからな」

「そうなんだ」

「カナタ曰く、あいつは真の武器である『本』が無いと、あいつを操ることができないとは言っていた。パンドラが操る闇は、属性としては特殊なんだとか言ってたな」

「特殊? まあ、闇属性のパートナー持つのは確かに珍しいけど。……真の武器って、私たちの『意思』を武器化したものじゃなかったっけ?」

「そうだな、そう言われている。が、なんだろうなー」

 わしわしーと自分の頭をかき乱すアポロに、やすこが「ハゲるで」と一言。

「トゥディ曰く、今のカナタは死んでもおかしくない状態にも関わらず、眠っているだけで、何の異常もないらしい。この世界の人間は、『つまらない』というだけで死んでいくことがあるが、その時も昏睡状態が続いて永遠に目覚めなくなるだろう」

「そんな死に方するやつもいるね」

「カナタの今の状況は『つまらない』と、生きることを放棄した奴らと同じらしいが、そいつらと違って、ただ『眠ってる』状態なんだってさ」

「真の武器=心の意思……。想いの世界で、心の意思を失うことは、それすなわち死を意味する……か」

 サキが腕を組みながら再確認する。

「今のカナタは普通死ぬところを、死んでないってことか。能力をごっそり奪われたまま……」

「そんなことができるやつ、いんの?」

「魔王、ぐらいか?」

 疑問形で返され、肩をすくめるみつこ。

 確かに、そんなことできるのは魔王ぐらいだ。

「……」

 この場にいる全員黙り込んだ。

 喉元に引っかかる骨の如く、なにかが違和感と感じる。

「奪ったのが……魔王なら」

 ぽつり、カーニャが小さい声で確認する。

「いつ、カナタの能力を盗ったん?」

「サキが、カナタの家へ向かうまでは、カナタはその能力を保持していた」

 みつこが答える。アポロが同意した。

「炎の如意棒を片手に、六年制とともに攻めてきたサキと応戦してる時も、確かにカナタは本を開いていた」

「……んん? あたし、六年制なんかと一緒にいたのか?」

「そこも記憶ないの?」

「あぁ。うーん、みつこに対して怒ったこの苛立ちをクエストでもぶつけようと思ってたとこまでかな」

「夕方に?」

「あのあとだから、昼前だよ」

「「んん?」」

 ヤスコと二人顔を見合わせ首をかしげる。

 少なくともサキがカナタを襲ったのは昼後だったはずだ、別れてからだいぶ経っている。ということは空白の何時間かの記憶をサキは消されているということ。

「やっぱり魔王じゃないな」

 みつこは確信したように言った。

「魔王がこんな回りくどいまねする意味がわかんない」

「じゃあ第三者?」

「そうなるね」

 みつこはアポロを見た。

「カナタさ、魔王すける……なんだっけ?」

「ノーワルド?」

「に、ついてなんか言ってなかった?」

「ん? んー……一度俺が『ノーワルドについて、調べなくていいの?』って聞いたら、鼻で笑いながら『あいつはもう関係ないから、問題ない』って」

 関係ない。問題ない?

 どういうことだろう、と首をかしげてみせても、アポロは困った顔で笑みを作るだけだった。

 彼も、カナタの言動に理解を得ることができなかったということだろう。

「魔王ノーワルドは、この世界を破壊した魔王だよな。でも、神の力によってそれは復活した。そして、肉体を滅ぼされた……。んん? あれ?」

 みつこは頭を抱え込んで、異次元ポケットからペンと紙を取り出し、何かを書き始めた。

「魔王によって世界が一度壊れ、それを戻した神様が、魔王を倒した」

「うんうん」

「もともと魔物のいなかったこの世界に、神様は『扉』を開けて、魔物で溢れさせた」

「そうなん?」

 初耳と驚くカーニャ。

「んでもって、神様は魔王のいる冥界の牢へと捕まってた。まあ、何匹か城にいたけど」

「どういうことや」

「あのドラゴンの中にいたオヤジさ、神様だったらしいよ」

 よくわからんというメンバーを無視し、みつこは紙を見て眉をひそめた。

「神様は、私から鍵を取り出してくれた。一つは、魔王のさがす鍵。そしてもう一個が、時計だった」

「時計?」

「なんでんなもんミーの中にあったのか、わかんないけどさ。結局それも、なんかに奪われたんだよねー」

 そこまで言ってみつこはハッとなった。あの時の闇の気配と、サキと戦った時の闇の気配が一緒だったからだ。

「……」

 ということは、あれはパンドラだったのか? 

 だとすれば、あの時計にも何か意味があったということ?

 ふつふつと湧き上がる疑問に、みつこはモヤモヤとしながらも違和感としておくことしかできなかった。

「この紙にかかれたのをみると、神様いみわかんねーな」

 サキが指差す。

「魔王倒して、魔物あふれさして、自分も閉じ込められてんだろ? ……ん?」

「あれ」

 サキの言葉に、みつこも反応した。

「魔物のいなかった世界に、魔物をあふれさせたんなら、この魔王どっから湧いたっつー話だよな?」

「うん、おかしい。自分で牢屋に、しかも魔王の城に閉じこもるわけないわな」

 ヤスコが首をひねった。

「魔王サーガはいつ生まれて、いつ鍵を取られたんや?」

「……」

 みんなアポロの方を見た。

「お、俺はほら、ただの使いっぱしりだからさ」

 ねずみに期待してねーよ、とサキは言う。

 期待はしてないが、特にカナタからそういう情報は得ていなかったようだ。

「あいつ、未来は見えても過去は見えないんだな」

「未来見えてたら、こんなことにならんだろ」

 サキの皮肉の言葉に、ヤスコは少しだけ訂正する。

「重要なときに役にたたんのじゃし」

 と、毒を交えながら。

 アポロはため息を漏らした。

「お前ら、ことの状況をまとめ始めるのはいいけど、そろそろ救助に行かなくていいのか」

「なんの?」

「魔王討伐だよ! 向こうなかなか大変らしいぞ。槍使いがしつこくて、リィシャがヤケ気味になってる」

「あぁ、あいつか……」

 みつこの顔が黒くなった。

「あの時の恨み晴らさでか……。よし、準備してさっそく向かおう!」

「そうだな」

 立ち上がるサキに、みつこは「ひとまず!」と笑顔を見せる。


「ロード社の店いって、アイテムを奉仕してもらおう」

「「「歪みねえな!!」」」


 世界を守るためだよぉ、と嬉しそうに笑うみつこであった。

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