戦い
「みんなまとめてぶっ飛ばしてやらああ!」
「おらおーら! ばっちこーい!」
みつこはこちらに迷うことなく突っ込んできたサキを、いい笑顔で挑発しながら後方へ下がった。
「ってーこ・と・で? カモン!」
「?!」
いつも先頭には必ず後方にて待機している、常に海里乗用中のやすこがみつこをかばうように前に突如現れ、サキに体当たりを食らわせようとした。
が、惜しくも炎の壁に阻まれてしまう。
「海里!」
名を呼ばれ、海里は燃え盛る炎に向かって氷の魔法を放った。
「!?」
歪な音と共に現れた煙が視界を遮る。
これ以上の追跡を警戒したサキは、一旦下がって様子を見ることにした。
「……」
追尾で来ると思われた攻撃は無く、時しばらくして煙は薄れていった。
サキは目を細めた。目の前に広がる光景に一計を案ず
「ふふふ。さあ、どれが本物でしょうか!!?」
無数もの数のみつことやすこがサキに向かって特攻していく。
サキは無言で炎の如意棒を握り締め、その誠の武器から放たれる業火の炎により敵を一網打尽にする。
抵抗もなく炎に包まれたたくさんの二人は轟々と燃え上がり、一瞬に炭へと化す。
「!」
そこで燃え損なったみつこから、白い綿が飛び出ているのが見えた
「……人形?」
「正解」
「っ!」
背後から聞こえた声に振り返ると、杖に光を貯めたみつこがそこにいた。
「ライ!」
「結界!」
攻撃が来ると思っていたのに、みつこは防御を選択した。
「な」
その行為に呆気にとられ、みつこの真意を見破ることができなかったサキは、ふいに後ろから聞こえてくる音に反応できなかった。
「ぐあああ!?」
硬い嘴が、サキの背骨を粉砕する。
氷の道を滑る海里がサキをぶっ飛ばしたあと、U字を描いて止まった。
「どや」
「いいタイミングだったよ!」
巻き込まれないように結界を張っていたみつこは、術を消しながらドヤ顔のやすこに近寄った。
大地と同じ色したクッションを頭にかぶせ、こっそり隠れていたカーニャはそっと顔を出す。
「今の、この世の音とは思えん音やったけど……平気なんやろか」
「生きてる生きてる」
吐血して倒れているサキに近寄り、みつこは覗き込んだ。
「これで元に戻ってたら、一先ずは…‥」
「があう!!」
ライの放電からみつこはサッと飛び避けた。
震えながらサキは起き上がる。
「どうやら、まだ足りなかったみたいだね」
「元に戻すイコール物理ってどうかと思うんやけど!」
言いながらカーニャが手に持つ金色に輝く針をひとふりすると、そこから透明な糸が生まれ、糸が分厚い頭巾を作り出した。
エリザベスの能力は、彼女の見たことあるものを布製で作り出すこと。
「うーん。ミーの魔法で動かして、ぬいぐるみを囮にして、ミーが突っ込むと見せかけてヤスコに特攻。うまくいったのになあ」
残念そうにみつこは言いながら、やすこの背後に隠れる。
「なんでうちの後ろ来るんねん」
「結界の能力はそっちのが強いっしょ」
サキの体から、ドロドロと垂れ落ちる黒い『何』か。
「……。シャドーシャドー?」
「あいつらは人に擬態する能力も、寄生する能力もないって聞いたけど」
怪訝な顔のやすこに、わりと冷静で涼しいカオで答えるみつこ。
カーニャが震えながら後方に下がる。
「あわわわ……。さ、サキが、や、闇堕ちしとる……」
「『闇堕ち』?」
確かにさっきまで炯々と赤く染まった瞳は、今や黒と紫に侵されており、焦点が合わない。
ゆらりと揺れ動くと、黒い炎を体から放出しながら走り出した。
「ヤスコ、海里! 走れ」
みつこはヤスコから離れロアを本来の白虎に戻し、その背に跨ってその場から離れた。
「うぎゃああああ!」
悲鳴のような雄叫びをあげながら、サキはそこにいた二人に向かって攻撃を放った。拳から放たれる炎は大地をどろどろに溶かした。
「ひえー」
とうとう逃げ出したカーニャを、真っ黒に染まったライが追いかける。
「ロア! カーニャを頼む! ノア! 武器化!!」
みつこはロアから飛び降り、盾剣に姿を変えさせサキに攻撃を仕掛ける。
「しゃああ!!」
サキと剣がぶつかりあったと思ったら、ノアが悲鳴をあげた。
びっくりしたみつこは急いで後退し、ノアを元の姿に戻す。
「ノア!?」
小さく震えるノアの手足部分が黒に染まっていた。
「……?!」
やすこが氷の魔法で作った檻にサキを閉じ込めた。
みつこはその檻を魔法によって巨大化させた。幾重にも結界を張り、サキを閉じ込めるヤスコ。
これでしばらくは出てこれない
「ぎゃあああ!」
悲鳴が聞こえ、振り返るとライに追い詰められるロアとカーニャがいた。
なんかライでかくなってない?
「……あの姿、まるで‥…」
何かを思い出しそうになったのに、ロックがかかったように思い出せない。
ずきり、と一瞬だけ頭が痛む。
「ぎゃおおう」
「いやあああ!?」
「ロア! 発光!!」
カッ!!
目くらまし程度に思っていた光魔法を放つと、ライの体から黒いどろっとしたモヤが消え去った。
「…‥くうん?」
ライは二、三度首を横にふったあと、不思議そうに首をかしげた。
いつものライだ。
「……」
やすこと顔を見合わせる。
どこ・・・ん
振り返ると、サキが結界と氷の檻を突貫したらしい。
「ロア!」
名を呼ぶと、ロアがみつこのもとへ駆け寄り、武器化した。
「チャージ」
力を溜める。
サキがどす黒い炎を炎の如意棒に集め、如意棒だったものが、双刃が加えられ、まるで死神の鎌のように変形した。
どこから一体そんな力を手に入れたというのだろうか。
「うがあああああ」
叫びながらそれを力いっぱい投げつけてきた。
それは大地を溶かし、傷つけながらまっすぐみつこを狙ってくる。
「海里、武器化! 結界魔法! 倍増効果アイテム発動!」
カーニャの店のアイテムを取り出し、武器化した海里に貼り付けたヤスコは、みつこの代わりに攻撃を受けて後方に少しだけ飛ばされたが、踏ん張り跳ね返した。
みつこは光を貯めたみつこはやすこの横に立ち、武器を構え叫ぶ。
「輝光弾!!」
光を凝縮したものを一直線に体制を崩しているサキに向けて放つ。
「うぐうう!」
攻撃を見て、避けようと動くサキだったが、動けないことに気がづき、足元をみる。
「!!!」
透明な、それでいて頑丈な糸がサキの靴や服を大地に縫い付けていた。
「うぎゃあああ!」
サキの悲鳴とともに、光に包まれた。
その場を強い光が支配し、静寂に包まれる。
「……やった?」
カーニャの言葉に、みつこは目をそっと開けた。
「……」
横たわるサキに駆け寄るライ。
「う」
小さくうめき声を上げ、起き上がるサキ。
彼女からはもうあの禍々しい気配は完全に消え去っていた。
「うまくいったみたいだねえ」
ふう、と息を吐きながらみつこが言うと、号泣しながらカーニャはサキに近寄っていった。
「さーきーぃー!!!」
「うわ、何!? きもいんだけど」
「酷い」
みつことヤスコもサキに近寄る。
光魔法の付属効果である回復により、彼女の体に傷一つない。
「よお、気分はどう? こっちは最低だよ」
「誰かさんのせいでな!」
やすこが毒を吐く。
サキはきょとん、と首をかしげた。
「何起こってんだよ」
「は、記憶ないとか言う奴?」
「記憶?」
イマイチ事を理解していないサキに、今までの経緯を説明すると、ますます複雑そうな顔をした。
「あー、あたし何だっけ。確か、すっげー気分よくてさ、楽しくて、なんでもいいからもっともっと『戦いたい』って思ってた。それしか覚えてねーわ」
「六年制と一緒にカナタを襲ったことは?」
「あ? あんな奴らと一緒に行動するかよ!」
「んー」
みつこは首をかしげた。
嘘をついている様子は見られないということは、キャパシティオーバーな力のせいで記憶を失ったと考えるのが妥当だろう。
「過剰なその力、どこで手に入れたのか聞いても、わかんないんだろうね」
「あたしそんな強かった?」
「「しばくぞ」」
嬉しそうな顔をするサキに、ヤスコと二人で睨む。
「さて、ちょっと休憩してから援護いくか」
「どこの?」
「魔王討伐さ」