4 燃えよ強き女 サキ
手紙に添付されていた地図通りやってくると、わりと沢山のハンター生が居た。これだけたくさんいても結局名を残せるのはほんの一部
みつこは己が埋もれるとは思っていなかったが、気を引き締めようと体に力を入れた……とたんに、気の抜ける声が横から聞こえてきた。
「まるでお城みたいやなぁ」
ヤスコの言葉にリィシャがそうやな、と同意した。
どうやらこの二人は何も知らないらしい。ハンターになると志したものなら知っておいて当たり前のことも知らないらしい。
みつこは頭を抱えながら説明する。
「あのね、お城みたいじゃなくて、昔はお城だったから」
「へーそうなん?」
「あんまり興味なさそうだな。世界に国は一つしかないけど、国の首都は昔から同じってわけじゃないんだ。つまりここは昔は首都だった跡地」
「ふーん」
「だから興味持てよ」
自分の世界のことぐらい少しは興味持てよ。みつこは相手するのは無謀だと感じ放置して歩き出すと、誰かとぶつかった。
「あ、ごめん」
「や、いいっすよ」
茶色い髪の毛にインテリ眼鏡の少女がこちらに目を向けた。
みつこは彼女からな何かを感じ取り、同じように目を見た。
――― こいつ、強いな。
相手も同じように思ったのか、それとも別のことを思ったのか。彼女の手はすっと相方のほうへ伸びた。
と
「きゅううん、きゅううん! わんわん! きゅうん」
相方はなでてもらえると勘違いしたのか、しっぽを千切れんばかりに振り回し、主でもある少女に飛びついていた。
「わあ!? もういいって、おちつ、ぶは」
全力で押し倒され転げる少女。
みつこは落ち着くまで放置して、ころあいに手を差し出した。
「ありがと」
「いいえ別に。随分パートナーに好かれてるね」
「まあな。あたしはサキ。……こら、落ち着けってライ」
こげ茶色の柴犬の様なこの犬は『ライ』というらしい。
横からリィシャが現れ、自己紹介を始めた。みつこはそれを見ながらこちらに歩いてくる人物に気が付いた。
羊面を被った紳士。
「お、おおう」
みつこは退いた。
羊面の紳士は手をひらひら動かしながらこちらに近寄り、声をかけてきた。
「ほらほら、早く移動しないと授業始まりますよー」
始業式? そんなものはない。
「誰アレ」
「リィシャお前知らないのかよ」
サキが信じられないと言いたげに叫んだ。
「邪神ジャグラーを倒した勇者クレアじゃん」
「強い?」
武器を構えたリィシャを連れて一行は教室へ向かっていった。
数人の生徒がいろんな獣を連れて座っていた。それにならい適当に座ると教室の扉が開いた。
入ってきたのはスラリと長身な、柔和そうな男の人だった。まるでクリームのような髪の色は優しそうで、ふわふわしている。まぁ、一言で言おう、軽そうだ。
「はいはーい、可愛い子ちゃんたち、俺が気になるのは分かるけど、座ってー」
「アレが、教師?」
よわそーと男子がコソコソと笑いあう。女子はナンパ系きもーいと笑っている。どっちにしろ笑われている。
ハンターの教師なのだから、きっと強いのだろう。が、とてもそうは見えない。
「はい、今日は純粋に基礎講座しまーす」
「純粋じゃないのってなに??!!」
みつこがつい勢いよく突っ込むが、答えは無い。
「はい、今日は『武器種類属』について覚えましょう。ま、覚えたからといってなにか有るわけでもないけど」
「まさかの!?」
「いいの?! それで!」
先生は笑うだけで説明はない。基本そういうのは無視するらしい。
―武器種類族別―
≪接近攻撃型≫
「ごく一般的で、まぁ主力だな、主人公精神まっしぐらだぜ!まぁ、そのまんま、近づかないと攻撃が当たらないタイプってことで、主な武器が剣・ダガー・拳・爪楊枝」
さりげなく最後おかしい武器の名前があり、何人かが抗議したが無視されていた。
このタイプに当てはまるのはサキの斧だろう。
≪飛行攻撃型≫
「遠くの敵や空の敵に攻撃できる遠距離型だ、よくある補助タイプだな。攻撃力は低いが回避力は高いだろう。だからどうしたって話だけどな。武器例は弓矢・銃剣・拳銃・手裏剣」
リィシャの武器もこのタイプだろう。ブーメランなら確かに攻撃力は低そうだ。そして、リィシャは寝ている。
≪絶対防御型≫
「普通に少ないのがハンター向きじゃないこのタイプ。狩りには向いていないがサポートは最高だな。主な武器は、っていうか盾は盾だろJK。たまに魔法属性結界ってやつもある」
ヤスコが小さい声でハンタージャンルにあったんやなぁ、と感心していた。
私まだ一度もあなたの武器化見てませんが、とみつこがいうと、する必要がないのは平和なことやで。と返された。
ハンターの台詞とはとても思えない。
「んで、そこそこ多いのが」
≪特殊部類≫
「別名『その他』攻撃系でも防御系でもない。武器例≪糸≫その人に糸をつけるとその人と同じ人形が生まれる、ようするにフェイクだな。ちなみに、この例はやすぃんや新屋のパートナーです」
「そうなの?」
「うん、キリンでエリザベスって名前」
「よく家に入るな!? って、あぁ」
やすこの海里がはいるくらいだもんな、まぁエリザベス見たことないけど。
「さて! 最後に紹介するのはコレです」
≪魔法特殊系≫
「みつこじゃない?」
「そだね」
「ま、コレ系統がハンターになることはまずありえないがな」
「なぜですかー?」
「禁止されたからさ」
え?
「魔法属性の武器及び魔法術者体質者はハンターにはなれない、させない。そういう規則だ。まぁ最近できた規則だけどな」
「なんで?!」
ついみつこは叫んでしまう。だって……じゃあ、自分ハンターっておかしくない?
「ん~、何でだろうな」
「おしえろよ! 教師だろ」
「君、あせる必要が、あるのか?」
口を紡ぐ、バレテはめんどうだ、ここは、一度流しておこう。
やみくもに動くは得策ではない
「べっつにぃ?」
謙虚な態度(?)で身を引く。なんだか教師が笑ったような気がした。むかつく。
「いいか~、パートナーは獣系だけじゃなく昆虫魚類ハチュウ類などもありだからな、難点を言えば適応しにくいんだがな」
「適応って何?」
ヤスコがみつこに聞く。みつこは軽く無視した。どうせ先生が言うと思ったからだ。
知らないわけではない、決して。
「パートナーは気が合うだけじゃ駄目なんだ、波長もあわせないとな。たとえば―――そこの君」
リィシャを指名する。
「あと、君も」
それからサキも
「?」
「あたしっすか?」
「そう、前に来い」
「例えば、この二人がバトルするとする。と、勝つのはどっちかな?はい、君」
ヤスコは指名され、ごもる。
「わかるわけないやん」
「そう、戦ってないんだから分からないだろう、だがもしも戦うとするならきっと、勝つのは彼女だろう」
と言って、サキの肩に手を置いた、がサキは嫌そうにその手を避けた。
「なぜかというと、パートナーの行動を見てみよう、二人が移動したとき、二匹はどう反応したかな?」
「え~と?」
二人が前に行くとき、サキのパートナーは言わずともサキの足元に駆け寄りついてきた。ソレに対し、リィシャのパートナーは何もしない。あえていうなら、バナナを食べていた。サルだから。
「つまり、この差」
「??」
リィシャはわかんないとでも言いたげに躰をゆらりゆらり揺らして落ち着きがない。
「信頼がない。波長を使いこなせていない。いいか?このサルはきっといざと言うとき役に立たないぞ」
サルの耳が反応する。
「恐らく、主人がピンチに陥っていてものん気にバナナくってんだろうな」
「うっきー!!」
おこったサル吉は先生に飛びついた。が、いともあっさりつかまれ行動不能になった。弱い……。
「あと、コレも問題だな」
「え?」
「こいつらは、ただ一緒にいるだけだ」
「そんなこと、ない……よ?」
そこは自信を持って言おうぜリィシャさん。
「戦闘時に大事なのはパートナーだ。もしピンチなことに陥ってもこいつらなら乗り切るだろう」
サキたちを親指で指差す。サキは少々誇らしげにライを見つめた。
「つまりは……友愛度が足りんのだよ!! お前は」
「波長がどうたらは?!」
「つまりはな、仲間意識が薄い! お前等は別々の行動ばっかしているだろう?ソレがだめなんだ、永遠強くなれない。雑魚だ雑魚」
「まじすか、なんで?!」
「え? さっきまでの説明聞いてたか?……まぁいい、ということだ」
もう、席戻っていいぞ〜と、二人は席に戻る。めんどくさそうに笑った後頭をかいた。
リィシャは納得できないという顔をしていたが。
「ま、とにかくただ仲良しさんじゃだめだ心の成長も必要だぞ」
「なんか、言ってることが毎回違っているような……」
「てゆーか一番大事なのは主が相方をもっと愛するというか、優遇してやることだと思います!」
「先生何言ってるか分かんないよ!!」
キーンコーンカーンコ――――――ン
「長っ!?」
「おぅ、終わり終わり、じゃ今日はココまで。さぁて、ナンパナンパ~」
ヤッパリ女たらしなんだ。他の生徒もぼちぼち教室から出て行く。残ったのはみつこと三人だけ。
みつこのまわりに三人はあつまり神妙な顔の彼女に声をかけた。
「どういうことなんだろう……」
「なにが?」
ヤスコが首を横に傾げた。
「ロアの武器のことか?」
「お、リィシャにしては珍しく一発正解……でも、まだあるよ」
「なに?」
「あぁ、君らは知らんのか、あたしの生まれつきの能力が大小変換ってのがあってね、ほら」
ロアを元のBIGサイズに戻す。モノを大きくしたり小さくしたりする程度の能力。これにはサキだけ吃驚した、二人はすでに知っていたから特に驚かなかったが、最初から二人は特に不思議と驚かなかったらしい。
「魔法使いじゃなくて魔法系はハンターになれないって」
「さぁ? 聞けば?」
「きけないよ! だってもし聞いてばれたらハンターのっ職業剥奪だよ!? やだよそんなの」
せっかくの金の儲けがなくなるぅ!! ……なんてことおもってませんよ?
「深刻な悩みだ……」
「聞いたら?」
「だから……」
「登録受付者にさ」
お客訪問のベルが鳴る。
「はぁ、学園終了時間後はハンターが多いな……。雑魚のくせに挑戦ばっかしにきやがって……て、お前らか」
カナタが一息もつけんとブツブツ文句たれる。何気失礼なこと言ってなかったかコイツ。
「今日はクエストじゃなくて、真相を聞きに」
「?!」
明らかにカナタが動揺した。みつこはカナタの前にどっしり構える。
「真相って何? 何の話??」
「とぼけんな! ハンター登録したのカナタだろ」
「はぁあ?」
別のことを気にしていたのだろうか、なんか素っ頓狂な声を上げた。
「あたし、魔法系なのにハンターなったぞ、知ってたんだろ?!」
「ふーん、そのことねハンター協会には『問題ない』って送ってるから大丈夫だ」
「なにが?!」
「みつこの能力は『大小魔法』のみ、この程度なら、ハンターになれる。」
「マジで? よかったぁ」
本当に安心したようにほっとした顔を見せる。しかしカナタは悪びれもなく続けた
「でも、ロアは別だけどね」
「え?」
「せいぜい見つからないことを祈るね」
「どうゆうことだよぉ!?」
首をつかんでがくがくがくがくと揺さぶる。
「ぁぁあああ~やめろ~」
「なんでロアはアウトゾーンなんだ~」
「それは言えない。規則だから」
「ンな規則あるかぁ!!」
「いやぁ~。やめい!」
ばしん!! と手をはたかれる。地味に痛い。
「今は、何も言えん。だけど気にするなら自分自身のことを考えるんだな」
「?」
協会じゃなくて? それ以上は何も言う気がないのか、口をつぐんだ。
「んー。何を隠してんのかは知んないけど」
サキがカナタの首をつかむ。
「もし、ハンター協会にこいつらのことチくったら、ボコすかんな!」
「それは、ない。安心しろ」
カナタはみつこの方を悲しそうに見つめた。
「?」
「みつこには、ハンターでいてもらわなければいけないからな」
「なんで?」
「……。内緒」
カナタはポッっと頬を赤く染める。
「お前は恋する乙女かぁああああ!!」
「ぎゃあああ!! 店内武器化禁止―――!!」
ライが雷を放つ斧に変身し、力を振るった。
どっかぁぁぁあ――ん!!
サキの理不尽な突っ込みでカウンターは真っ二つな上に少し焦げちゃったのであった。
「クエスト屋初めて見たけど、想像通り嫌味なやつだったな」
「ん? サキもなの?」
みつこは首を傾げて店を出た。
特攻型:パートナー:犬:斧