異変事件大問題2
みつこはカナタの眠るベットに腰を掛け、不敵な笑みを浮かべた。
「今の問題は二つ。一、魔王による魔王復活。二、サキの乱心」
立てていた指を二本、鋏のように横に動かしくっつけては離し、離してはまたくっつけ、Ⅴ字に決めてみんなに向けて強気な笑みを浮かべて見せ立ち上がった。
「戦力が足りない。時間もない。じゃあ、どうするか。」
「どうするん?」
やすこの言葉にみつこは「簡単だよ」と八重歯を見せた。
「こっちも二手に分かれりゃいいんだよ」
「いうても、どうするん? 王様にはサキのことは内緒なんで?」
カーニャの呆れたと言わんばかりの顔に、ピースの指をその目に向かって攻撃した。目を潰すのはかわいそうだったので寸止めにすると、すごい間の開いた後でその行為に気がついたらしく悲鳴を上げる。
「誰が今の総勢力から二手に分けると言った?」
「「え?」」
リィシャとヤスコが声をそろえてみつこを見る。
「ここから二手にわけんのさ」
と、いうみつこの「ここから」は、この部屋からだった。
つまり、とみつこが言う前にレストラン仲村が引きつった笑みを浮かべながら手を挙げる。
「それって、ウチラも含まれてたり……?」
「イエス」
親指を立てると、カーニャも立ち上がった。
「うちらに死ねってんかこの鬼畜金の亡者!!」
「おめーらmeの悪口言うときいちいち「金の亡者」言うん止めてくれない!?」
そんな金にこだわったこと……金って大事だよね!!
と、叫ぶみつこを余所に落ち着いた様子の男二人。
「どう分ける」
「ええええ、ハヅキさんまでうちら殺す気なんやあ!!」
「おちつけ商人。あくまで聞くだけだ」
「ん。meが考えてんのは『やすこ』&『やすぃんや』とmeで『サキ』の捕獲かな。残りは王様の指示通り魔王の方に向かえばいいと思う」
「うちはいっとんやんかあああああ!!」
「えー。なんでウチ?」
「うるせええ! やすぃんやその首絞めるぞ! んん? なんでヤスコかって? そんなの考えたらわかんじゃん」
言い方にカチンときたのか、手に何やら先程までなかった初心者にも優しい楽器『トライアングル』があった。ただのトライアングルだろうが、なぜだろう恐怖を感じるのは
やすこがそれを鳴らす前に、ミスター・クレアが「妥当でしょうねえ」と言った。
「サキさんは『炎』『雷』の魔法を使うに対し、やすこさんは『氷』ですし、『攻撃』重視で体力温存をしない彼女には『絶対防御』は好条件で必須ですからねえ」
「でも、うち負けたで普通に」
「あんときは不意打ちだったし、結界というより、氷の防御魔法だったからさ」
「何が違うんかさっぱりや。……それにうち、氷系以外出し方知らん」
「たまに使ってんのは無意識か……まあ、後でmeがコツ教えてあげるよ。で、なんでやすぃんや連れて行くか……だけど」
「嫌がらせやろ?」
「ほんとにただの嫌がらせしたろか?」
首を振るカーニャにみつこはため息ついた。
「こんな余裕ない状態でそんな意地悪しないって! つうかやすぃんやだって昔はハンターだったんだろ? んならもっと積極的になれよ。人のこと言えないぞ!」
と、最後の方チラッとやすこの方をみると、目を逸らされた。
「なんで僕だけこっち側なの」
不満そうなリィシャにみつこは親指を下に立てた。
「お前いると足でまといなんだよ。お前本来なら遠距離系の武器保持者の癖に、接近ばっかすっからな。サキの懐に早く入れても『雷』とサキのコンビネーションの前じゃクズだよ。お前なんかクズだ!!」
「なんの恨みがあると言いたくなるぐらいひどい言いようだな」
ドン引きだと言いながら、ハズキは近くにいたリィシャの頭に手を置いて慰める。
ミスター・クレアは魔法陣を錬成した。
「魔王と戦うのなら私も相方が必要になりますねえ。ということで、ジャグラー捕獲してきます」
「サキの捕獲とどっちのが早いんだろうな」
すごく仲悪いらしいが、とポツリと言うヤスコに彼の動きが一瞬止まった。
そして目をそらしながら「ははは」と小さく笑う。
「本当に使えねー似非勇者だなあおい」
「こら、みつこ! 失礼なこと言うな!! この人はすごいひとなんだぞ」
「へえ、どのぐらい?」
「ドラゴンに腹パン一撃で気絶させるぐらいすごいぞ」
「そりゃすごい!!」
この人にサキを任せたほうが良かったかもと思い直したが、すでに飛んでいってしまったので諦めた。 仲村がみつこに声をかける。
「あたしは?」
「仲村には、リィシャについてて欲しいんだよね」
「えー? 僕ー?」
「でも、あたし役に立てないよ?」
「客観的に見て、あいつが危なくなったら教えてやって欲しい。全体を見渡す目を持つyouなら出来ると思う」
不安げな面持ちだったが、覚悟を決めたのか頷いた。
彼女ならリィシャの良きサポーターになってくれるだろうことを期待して、みつこも頷く。
「さて、では俺も出陣するか」
師匠が立ち上がる。
「サキを一発ぶん殴って正気戻したら、さっさとそっち援護行くから」
「ふ、偉そうな口をきくな」
みつこのところまで行くと、その金色に輝く頭をいつものような雑な感じでなく、本当に情を込めたような優しい手つきで撫でた。
そんな急なことにみつこは驚き、ハズキを見た。
「焦らなくていいぞ。お前は、お前のできることをしろ」
「師匠?」
「今までの培ってきた経験に『無駄』なんてことはない。もし今のままでうまくいかない未来があったとしても、『絶望』するんじゃないぞ。たまには何も考えず欲望のまま、『想い』のまま突っ込むのも悪くない」
彼の手が離れていった。
「お前は誇っていい! なんせお前は……『俺』の『弟子』だからな!」
その言葉にみつこは笑みを浮かべた。
「成長した弟子を見て、泣かないでよ!」
そうして歩き出した師匠と、最後まで不満そうな顔のリィシャと怯えた様子の中村の背を最後まで見送らず、みつこは窓を開けてロアの名を呼びながら飛び降りた。
「んじゃ、さっさと行くぞ! やすこ! やすぃんや!」
「めっちゃ凄い気合の入りようやけど、ほんまにうちも行くん?」
「とりあえず先に行くのは、バンビ社っつーか、やすぃんやの家だな」
「あああ! やっぱりアイテム狙いやったんか!!」
「ちっげーよ!! 戻んのは……」
海里を小さくして抱き上げ、ロアとともに病室に窓から戻ってきたみつこ。
ロアを武器化し、魔法陣を出現させた。
「エリザベスを取りにさ」
陣を発動させ、颯爽と彼女の店へと飛んでいく。
残されたアポロと、眠るカナタ。
そして、空気化していたトゥディ。
「うち絶対存在忘れられとったよな」
そう言いながら椅子に座る。
「ちゅ」
「まあ、危ないとこ行きたくないからいいんだけどさ」
カナタの腕を取り、脈を測るトゥディ。
アポロが看板をそっと取り出した。
『外傷はなかったんだよな? 火傷も傷も』
「運ばれてきたときはなかったで。自己回復力が半端なく高いんやろう」
『魔力がないのにか?』
「あ」
力を奪われ魔力が消えたのなら、キズが治るはずがない。
傷もなく、力もなく、死ぬこともなく、ただ眠っているカナタ。
矛盾した状態にトゥディは判断に悩む。
「前例がないから、なにがどうなっとんかさっぱり分からんけど……まるでそうやな」
強い風が入り花瓶が揺れるため、トゥディは窓を閉めるために立ち上がった。カナタの長い紫の髪は影に包まれ黒に染まる。
窓を閉め、そのまま遠くを見ながらトゥディはつぶやくように言った。
「糸の切れた人形みたいやな……」
アポロは何も言わず、カナタの頬に擦り寄った。
天高かった太陽が沈んでいく、やがて暗闇が姿現す
しかしそれに誰が疑問を持つのだろうか、沈む世界に誰が気づくことができるだろう。
夜が来れば次は太陽が昇るなど、誰が決めたのだろうか
人知れず少女が笑ったのを、誰も気付かなかった。