暗闇の中の歌
どこかで聞こえる鳥の歌。
高い音で奏でる曲に名など無く、そこに上品な美しさも流暢な言葉も無い。
ただ叫ぶように歌う鳥の歌。
その声から【鳥】と形容する方が難しいと思われる響きだが、すべてを知る君は鳥の歌を奏でる私に言った。
「鳥かごの中の鳥は、空を飛べずただ醜く囀り朽ちるんだろうな」
自嘲の鼻歌を奏で、私は今日も鳥かごの中で泣き叫んだ。
――――
みつこ、ヤスコ、リィシャの三人はレストラン仲村で食事をしながら、今後どうするか検討しあっていた。
「さて、普通に考えたら魔王討伐が正解なんだろうけど、所詮私らは初級。前回魔王と対峙した時も結局どうもできなかったしね」
「せやな。ほなもう上級ハンターに丸投げしたらええんと違う?」
「えー……戦ってみなきゃわかんないよ」
「「勝手に突っ込んで来いよ」」
好戦的なリィシャに冷たく突き放す二人。
冷たい目で沈むリィシャを見ていたヤスコの目の前に見事な大きさのプリンが置かれた。
「!」
「まあまあ二人とも、あんまりリィシャ虐めてあげないでさ!」
「おぉ、仲村のサービスとは……でかいな」
椅子が音を立てひかれたと思ったら、やすぃいん屋新屋カーニャだった。
長いおさげを机からそっとおろし、にっこりとほほ笑む。
「三人だけでなにしてんの?」
「師匠までメズラシイナ」
嫌そうな顔でプリンを頬張りながらカーニャを見るヤスコ。
「ねえねえやすぃんや」
「ん?」
みつこは机を指でなぞりながら、わりとどうでもよさそうな顔で聞いた。
「魔王って倒せると思う?」
空気が固まった。
「ちょ」
「……!」
「ちょおおおおお! 今なんて言った!? 魔王!? 倒せるわけないやん! あんたら強くてもまだぺーぺーの初級なんじゃきんな!!」
「ぺーぺー言うな!! 聞いてみただけだっつの! 声でかいし!!」
「まったく心臓に悪いこと言わんといて!」
「でもさー。無いとも言えないよ」
「なかむら!!」
仲村も椅子に座りながら真面目な顔で自分の考えを言った。
「最近大きな事件が起きるたびに地方とお城、両方同時に襲われてるじゃないか。まるで上級ハンターは城へ、もっと大きな敵がいるほうに……みつこたちを導こうとしてるような気がするんだ」
「呪われてるやん」
真っ青な顔で失礼なことを言うカーニャ。
みつこはじと目で彼女を見たが、パッと目をそらし仲村のほうを見た。
「私も思ってたんだよね。今までの『偶然的な』そういった経緯の原因は、鍵を手に入れたいが為のヤツラの一計だったと思ってたんだけど……」
みつこは足を組んで腕を上へと伸ばした。
「んー。ミスター・クレアじゃないけど、なんかきな臭いよね」
「大きな争いが起きなきゃいいけど」
「ん?」
みつこはマントに重みを感じ、横を見た。
「あれ、末っ子じゃん」
月の花を親にプレゼントしたいというクエストからちょくちょく仲良くなった末っ子。
小さく頷いた。
「どうかした?」
「さ……サキ、おねーちゃんが……変」
「いつものことだから大丈夫」
「こらこら」
失礼なことを言うとカーニャに戒められた。
「どう変だったのかな?」
彼女に小さなキャンディを上げながらそう微笑み聞く仲村。
末っ子は手の中に納まったキャンディを転がしながらつづけた。
「さっき……。どこかから帰ってきたサキねーちゃん。何人かの人を連れて『この世界を解放して、アタシも自由になるんだ』って意気込んでた」
「常日頃自由にやっといてよく言うわ」
遠い目で笑いながら言うカーニャ。
サキにも何か無茶ぶりされてきたのだろうか。
「まあ大丈夫じゃない?」
リィシャが珍しくサキのフォローに入った。
「ナニもなんか暴れるとかじゃないだろう」
外ですごい爆音が響き渡り、ここまで風の振動で扉が揺れに揺れた。
「し?」
リィシャは揺れた窓の外を見た
黙々と上がる黒煙。
ヤスコは腕を組んでリィシャのほうを見た。
「たいした予想やな」
ーーーー
みつこたちはレストラン仲村を出て爆音の下方向へ走っていた。
そして道を見て気が付く。
「これさ」
「うん」
みつこはロアに大きくなるよう命じ、リィシャの首根っこを掴んでその背に乗った。
ヤスコも海里にスピードを上げるよう命じ、みつこについていく。
煙の上がる建物は既に炎に包まれ、どうしようもない状態。
「カナタ!!」
ロアから飛び降りみつこは叫ぶ。
「生きてるか!?」
燃やされ壊されたこの場所こそカナタの家があった場所だ。
アポロが焦った様子で人の足を通り抜け、みつこに飛び乗った。
『カナタと連絡とれない! サキが! サキが』
急いで綴られる文字が震えている。
じれったくなったアポロはヒト型かして、みつこの型を掴んだ。
「火を消してくれ! サキの能力で燃え上がっている炎は普通の水じゃ消え難い!」
「この勢いだと建物が崩れる。カナタは? 逃げてんじゃないの?」
おそらくいつものように仕事しているとサキに襲われ、完全油断していたカナタはアポロだけ逃がしたというのだろう。
「なんでパンドラを使わないんだ……! くそ」
「っ!?」
中から炎の塊が天井を突き破った。
まだサキとカナタは中で戦っているらしい。
「糞、カナタ!」
走り出したアポロの前に光の粒子がいくつも現れた。
「おや? 魔方陣が消えた気配がしたと思ったら、カナタの家が燃えている……?」
「ミスター・クレア! カナタが中に」
アポロがそう言い終える前に、ミスター・クレアが消えた。
みつこはロアを武器化し、後ろで茫然と見ているヤスコに声をかける。
「海里に乗ってた方がいいよ」
「なんで?」
とか言いながら素直に海里によじ登るヤスコ。
こういう時はリィシャのほうが鋭いのか、すでにサル吉じゃなくて真の武器・妖刀村正を構えている。
「!」
魔方陣が現れたと思ったら、数人の男たちが投げ捨てられるように地面に落とされていた。
どいつもこいつも生気抜かれたように虚ろな目でピクリともしない。
「?」
その光が消える前に新しい魔方陣が現れ、そこからカナタを抱えたミスター・クレアが現れた。
「カナタ!」
アポロが小動物化に戻りカナタに飛び乗った。
「だいぶひどい状態ですねえ傷だらけですし、意識もない。状況はきっと多勢に無勢だったのでしょう……しかし解せませんねえ」
ミスター・クレアはカナタを抱えたまま振り返った。
カナタの崩壊する家から出てきたのはやけど一つ、けが一つしていないサキの姿だった。いつもの愛嬌のある雷はうつろな瞳のままサキの背後についているだけ
手にする炎の如意棒を振り回し、炎をおこすサキに驚き逃げ惑う人々。
先ほどまでの心配の声は、悲鳴へと変わった。
「あはははっははははははっはははは!!」
大きく口を開け、腹から笑うサキ。
いつものこげ茶に色染めた優しげな瞳の色が、まるでその背にある焔の如く真っ赤に染まっていた。
「アタシは強い! アタシは強い!! あはははははは!! みんな塵となれええええ」
炎をから竜を出現させた。その矛先は逃げ惑う人々に向けて
「海里!!」
ヤスコは逃げ惑う人々の背後に回り、氷の結界を出現させた。
「うあっ! きゃあああ」
が、そのあとに来た雷に結界を貫通され海里ごと押された。
「ヤスコ!」
「サキ!! 正気に戻れ」
刀を構えたリィシャがサキに飛びつくが、ライが雷を放電し、壁を作ったせいでリィシャは跳ね返された。
「これは危険ですね。みつこさん」
カナタをパスされた。
「一旦消えていただきましょう」
サキの周りに無数の魔方陣が現れた。それが発動する前にサキが走り出したが、ミスター・クレアのほうが速かった。
ぱちん
指の音と共に先の姿が消えた。
「……どこに飛ばしたの?」
「とっさでしたから、飛ばしても問題なさそうな天空頂上のダンジョンへ飛ばしました。彼女は今エレベーター室の中でしょう」
確かにあそこなら出てくるのにしばしの時間がかかる。とっさにしては頭が回る、さすがとみつこは感心した。
「詳しい情報はあとで集めるとして」
ミスター・クレアは倒れているリィシャとヤスコを抱き上げた。
「今は医務のほうへ」
「そうだね」
みつこは握りしめていた武器戻しながら、歯ぎしりをした。
(あの状態のサキに、手も足も出なかった)
攻撃しようとした技は、すべて力で相殺される。そう思ったらあの二人のように動けなかった。
そんな自分が
「情けない……」