六年生の襲撃
みつこは家でのーんびり、テレビを見ていた。
『今日のおすすめ商品はコレ! バンビ社とギロチン社共同制作開発品。『身代わりナイト』です』
「ふーん、やすぃんや儲けてんなー」
あなたの身の危険を感じると、盾として現れ剣として戦ってくれます。
という説明を耳にしながら、みつこは立ち上がり
「ロア、伏せ」
キッチンからコーヒーを入れたコップをもって、テレビの前に座らせたロアを背もたれ代わりにして座った。
背中から感じる体温と、もふもふ。
これぞ、セレブリティな休日。
「また三大アイテム会社の中でロード社だけまた、はぶられたってカナタ怒ってそうだなぁ」
寂しい独り言も、ロアが居れば反応してくれるので独り言ではなくなる。
コーヒーを飲みまったりしていると、乱暴に扉が開いた。
「誰? また師匠?」
嫌そうな顔で振り向けば、肩で息をしているサキだった。
「どったの。お土産は?」
「ねえよ!! そうじゃなくって、大変だぞ」
「あぁ?」
―――
サキに連れられ着いた場所は、懐かしのあの場所
ハンター育成学校が炎に包まれていた。
「意外性もなにもないけど」
「まあな。あたしもいつか壊れるとは思ってた」
周りの温度が1℃下がったと思ったら、ありえない速度で何かが横を通り過ぎて行った。
それを目で追うと、それはUターンしてこちらに戻ってきた。
「あぶね」
一歩横に飛びのくと、その場所にそれは停まった。
「海里が来た場所は、まるで蛞蝓が這ったみたいな跡ができるな」
「ぬめぬめじゃなくて、つるつるだけどな」
氷的なもの
ヤスコが海里の背中から飛び降りて、ヤっと手を挙げた。
「高みの見物? それとも野次馬?」
「ヤスコとおんなじ理由さ」
「暇つぶし」
3人は頑張って火を消している一行を目で追う。
勢い良く上がっている火はおそらく、ただの火ではなく。パートナーによってできた火であろう。だとしたら、消すのにはだいぶ時間がかかるだろう……みつこは二人の視線を感じ、左右を見た。
「お前ら、何かmeに言いたいことでも?」
「手伝ってやれよ」
「ヤスコでもいいじゃん」
「範囲広すぎて多分負ける」
「チッ。仕方ないな」
みつこは抱き上げていたロアを上に放り投げた。
「武器化」
子猫モードだったロアが武器化して、ロットになる。
それを手に掴み、振り下ろしながら叫ぶ。
「雨よふれ!」
突如空が曇り、雨が降り始めた。
「もっとふれ」
やる気なくみつこがいうと、学校の上だけまるでバケツをひっくり返したような大雨が降った。
おかげで火が完全に沈火。
「火が消えたぞ」
「おい見ろよ」
ざわつく人達がみつこたちをみつけ、こちらに駆け寄ってきた。
「ハンター・ガールじゃないか! ハンターの中でも特に優秀なモノにしか与えられない称号だって!?」
「え、初めて聞いたなそれ」
サキの言葉にみつこも頷いた。
前聞いたときは、ルーキーの中では秀でてるねっていう話だったはず。
いつのまにかレベルが上がっている。噂って怖い。
「実は最近『6年生』が暴れに暴れまわってるらしいんだよ」
「あぁ、あれ6年生なの」
そんな気は正直してたけど。
みつこはこの流れが嫌だなあと思って後ろにこっそり下がった。
「や、みつこやん。なにしょん?」
こんな時にリィシャが現れた
「あなたたちハンター・ガールに! どうか6年生の討伐をお願いしたいの!!」
「俺たちじゃ弱くて返り討ちに会うし、上級ハンターは6年生に興味ないみたいなんだよ」
「じゃあ中級ハンターに頼めば?」
ヤスコの言葉に、みつこはそうだそうだとのった。
「中級ハンターってさ、新しいダンジョンに行けるようになった場所が多すぎて、そっちばっかし行ってて、町にほとんどいないんだよ」
初級で行けなかった場所に行けるというのは、ハンターとしてとてもワクワクするので
たいていの人間がダンジョンめぐりでいない。
それはわかっているが
「だからって、meらに言われてもなあ。面倒だし」
「みつこ、お前結構前から思ってたけどさ」
サキがこっちを見ながら、急に神妙な顔で見てきた。
「クエスト以外すっげーめんどくさがりだよな」
「はああん?」
武器化したままのロアをサキに突き付ける。
「あ・の・さあー。なんか勘違いしてない?」
「なんか腹立つな……何をだよ」
「meらは、ハンターだよ?」
「あぁ」
要領を得ないサキに、いや彼女だけではなく、周りの人を見ながらみつこはハッキリ言った。
「ハンターは狩りをするものだぜ。人助けの為をするもんでも、人間を襲うものでもないよ。meらがやるのは魔物の討伐だけだよ。金をもらって、それで何でもやりますってなったらさ、もうハンターじゃなくて、何でも屋じゃん」
みつこはロットからロアにもとに戻し、いつものように頭に乗せた。
「学校が燃やされた? 6年生が強いから倒せ? ふざけんな」
みつこは親指を立てて、下に思いっきり突き付けた
ヤスコが横目でそれを見た後、無言で海里の上に乗った。リィシャは「これ、なに? どういうこと?」とサキに尋ねたが、無視されている。
「そういうときこそ、城に要請しろよ。meは自分のためになることの為にしか動かない」
「お前!」
サキがみつこの服を掴むが、みつこは何食わぬ顔でただ無言でみつめた。
「あたしはお前のそういう態度が気に喰わないと思ってたんだよ!」
「気に入られたいとは思ってないし、気に入られようとも思ってないし。っていうか思っただけのことを言って何が悪いの? いいことしようとして、なんの得になるの? そういうのって、やってるうちに『やってくれることが当たり前』になるんだよ」
「かといって最初っから全部否定することねえだろうが!」
「否定してないよ。ただ、最初っから人に頼むその弱い心をどうにかしたらっていってんの」
「んなこと、一言も言ってなかっただろうが」
サキがライを武器化して雷を放電する。
みつこの手にロアが武器化して収まった。
「やるの? いいよ。かかってこいよ」
僕も参戦したいといっているリィシャを、無言でヤスコは氷漬けにした。
怪しくなってきた雲行きに、周りの人間が狼狽する。
すると、焦げ炭になった学校が爆破された。
「なんだ!?」
「きゃあああ」
鎖鎌と、大きな手裏剣を持った二人の男組が不敵に笑いながら出てきた。
「仲間割れとは滑稽だな」
「ちょうどいい、このままここで死んでもらおうか!!」
二人が動き出す前に。サキとみつこがすでに動いていた。
「「うぜえから……引っ込んでろ!!!」」
二人の体がぶっ飛んでいき、みえなくなった。
やすこはヤレヤレと肩をすくめる。
「ほどほどにせえよ」
「と、止めないんですか」
「なんでうちが」
周りの人に、あの人たちを止めてくれと言われたヤスコは、冷ややかな目で群衆を見下ろした。
「うちだけであの二人止めれるわけないやん。それ以前に」
海里の目がギラリと光る。
「あんたらも見てないで、どうにかしたらどうなん?」
ひいと短い悲鳴を上げ、後ずさる群衆
バチバチと火花散らすサキに、轟々と光をチャージするみつこ。
一触即発の空気に、誰かの拍手が響き渡った。
「あの強い6年生を一撃で倒すなんて、すごいですねえ」
「ミスター・クレア!」
群衆がざわつく。
英雄と言われた男が目の前に現れたのだ、これ以上の救世主はないだろう。
「しかし、喧嘩とはいただけませんねえ。ハンター条約にもあるでしょうにねえ」
「うるせえ、ひっこんでろ!!」
雷を放ち、クレアに攻撃を仕掛けたサキだったが、次の瞬間、彼によって押さえつけられていた。
「!?」
驚いているサキとは違い、みつこは冷静につぶやいた。
「移動魔法……。それがあんた個人の所持魔法」
「そうですねえ。君の大小魔法と一緒ですね」
魔法属性は一つだけ、特別な魔法を相方無しでも使える。
それが、彼の強さの一つでもあるということなのだろう。
「さて、私はおせっかいが好きなのでねえ。このまま暴れるというのなら……相手になるよ」
みつこはスッと目を細めた。
「くそ、放せ」
「はい」
ミスター・クレアから解放されたサキを見ず、みつこはロアを大きな虎の姿に戻し、その背に跨った。
「やめとくよ。一銭の儲けにもならない労働なんてばからしいからね」
「また金か。この金の亡者が」
「金大事だろ。これだから熱血馬鹿は」
「んだと!!」
「こらこら」
みつこはロアに跨ったまま、その場を去った。
サキもイライラと殺気を放ったまま歩き出した。
ミスター・クレアはそんな二人を見送った後、首を傾げる。
「やれやれ、これからが大変だというのに……大丈夫ですかねえ」
「大変て?」
ヤスコが声をかけると、彼はそうなんですよ。と続けた。
「魔王、動くみたいなんですよねえ」