外
毒針を避けて、みつこは叫んだ。
木に背を預けるように立っていた一人の男が、ずれたメガネをクイッとあげ直しながらみつこたちを見て笑った。
小ばかにするような態度にイラついたのだろう、サキはライを武器化して相手を睨む。
「ふふふふ。君たちが噂のハンター・ガールですね」
「そうだけど」
みつこが肯定すると、男からカードを投げつけられた。
「それは……」
地面に刺さったそれを目で見る前に、みつこは男の目の前で踏みつけた。説明しようとした男も驚きで目を真ん丸にする。
「いらならいよ、こんな紙きれ。で? 戦うんでしょ?」
ロアを元の大きさに戻し、そばに侍らして、手にはノアを武器化し剣を構えた。
「かかってこいよ」
サキたちもみつこに倣い、殺気を込めて武器を構えた。
「!?」
男は頬をひきつけらせ、後ずさりした。が、何を思ったのか、顔を二・三度横に振った後、メガネをかけ直し不敵に笑った。
「ふ、ふふ。我々『悪夢の六年生』が、新時代のハンターにこの世界の恐ろしさを教えてあげますよ」
そういって彼の首にまとわりついていた蛇を武器化させ、叫んだ。
「ではまた!」
毒ガスを噴射された。
「武器がうちわっていう……そこは鞭やないんだ」
「やすこ、そこは個体差あるから……ね」
サキはみつこが踏みつけたカードを拾い上げた。
そこには宣戦布告と書かれ、闘う日時場所が事細かに書かれている。
サキはみつこのほうをみた。
「どうする?」
「放置」
ロアを小型化し、ノアを頭の上に乗せるみつこ。やすこも放置に同意なのだろう無言で頷いた。
リィシャは「いこうかなー」とか言っていたが、一人が行くとみんな巻き添えという流れができつつあるので、みつこが「ハウス」と町のほうへ指さす。
「僕、犬じゃない……」
「そうやな。犬のが賢いものな」
ヤスコの心無い一言が場を氷つかせる。
「さて、落ち着いたら腹減ったな」
みつこは歩き出した。
「仲村んとこでもいって、でら盛りチャーハン食べよっと」
「あたしも、飯食いたかったんだわ」
「うちもー」
「じゃあ僕もー」
結局四人で歩き出す道。
その背中を見送る一人の女。
「……」
帽子の中から薄い色のモルモットが現れ、下を見ようとして転げ落ちた。
地面に落ちる前に女が手をだし、なんとか落下を免れる。
「……アポロ」
「ちゅ?」
カナタは木の陰から日のもとに現れ、まぶしそうに眼を細めながら空を見上げた。
「この世界に、神様がいると思うか?」
「ちゅう?」
急にそんなことを言う主に、アポロは不思議そうに首を傾げた。
いつもなら決してそんな居るか居ないか分からないものについて問うことすらしない彼女が、なぜ急に
「この世界には、神様はいたんだよ」
そういって歩き出した。
彼女たちの姿が見えなくなりそうで、まだ見える距離を保ちながら。
「神様は居た……けど、今はいない」
彼女の口に笑みが浮かんだ。
アポロは彼女の手の上から、彼女の帽子の上に移動した。高く上がった太陽が照り付け少々暑かったが、彼女の冷たい手のひらにいるよりは随分とましだと思った。
「どうしていないんだと思う?」
彼女たちとの差が開いていく。
見えていた背中が頭までしか見えなくなっていった。
「アポロ、お前神様を信じるか」
まるで語るような口調。
「神様はな、神様は……。そんな偽善的なものは最初からないんだ」
断言する言葉。
アポロは彼女の首までおりて、小さな手で頬を撫でた。
「この世界に神はいない。いるのは魔王だけだ」
カナタは歩みを止め、指を鳴らした。
彼女の影が彼女とアポロを飲み込んだ。
「だから、この世界は誰の手でも、どうにでも変わる世界。そう」
彼女の笑みが消えた。
「まるでゲームの世界なんだよ」
とぷん、闇が静かに影に戻る。
残された日差しは、平等に大地に降り注がれた。