塔の中3
「サキー! 生きてるかー」
みつこが声をかけると、雷の吠える声が聞こえた。おそらくあそこにサキがいると思われる。
その場所とは違う方向を向きながらカナタは叫んだ。
「雷のシンクロ率を上げて、こっちまで雷に同化してこい」
「なんでそっち? あっちじゃなくて」
「あれ? こっちじゃなかった?」
「お前、耳「も」悪いんだな」
「も?」
バチバチと何かがはじける音が聞こえたので二人は慌ててヤスコにくっついた。ヤスコは疑問な顔をしていたが、危険を察知したのか海里を武器化した。
ばっちぃぃん!
ひときわ大きな雷が目の前に出現すると、そこからサキとライが現れた。
「痛ってええ……こんな場所あったのか」
「凄い服破れと血やな」
ヤスコが海里を元に戻すのと同時にみつこも魔法をかけた。小さくなった海里を何も言わず抱き上げるヤスコ。
「たく、あの阿保と一緒にいたら命いくつあっても足りねえよ! まじで」
「だからmeは行かなかったのさ」
みつこはロアを武器化し、サキの体を回復させた。
カナタは目を細め、奥を見つめる。
「で? 大馬鹿者は?」
「喰われた」
「「ん?」」
不思議そうなヤスコとみつこに、カナタは本を取り出し説明した。
「この茨は罠じゃなくて、魔物が出現させたものだ」
「そうそう。ハエ取り草みたいな魔物がいてさ、最初寝てたから静かに通過しようとしたのに、あの阿保サル吉と喧嘩おっぱじめてさ」
「その様子が目に浮かぶようだ」
「よろしい」
カナタは本を閉じた。
「燃やせ」
「いいの?」
「腹の中なら多少燃えても死なん。その前に胃液で死んでるかもしれんが」
サキが真の武器、炎の如意棒を構えた
「行くぜ、炎の……」
ごつん。
如意棒を振り回すと天井にぶつかった。
この空間は振り回すには狭すぎた。
「サキ、もしかしてそれ振り回さないと炎出せないの?」
「出せるけど、炎飛ばせん」
「普通に点火しなさい」
みつこに言われ地味に茨に炎を点火するも、威力がしょぼすぎて全体に行き渡るまでに時間がかかり、かつ敵に居場所を知らせる形になった。
「うを!?」
茨がまるで槍のように突撃してきた。何とか間一髪で避けたサキの背後に大きな穴が開く。
「あぶないな」
真横に茨があるのに悠長に言うみつこ。
「じゃあお前やれよ」
「MP少ないのにヤレヤレ」
といいながらみつこはヤスコの後ろに隠れた。
「「おい」」
カナタは頭に乗っていたアポロを掴んだ。
「武器化」
「カナタ! 目の前!!」
ぴた。
迫りくる茨の攻撃が止まった。
「植物にも効くのか……」
蛇使いのように笛を吹きながら進み、茨を操って元の場所に戻していくカナタ。三人はその後ろをついていく。
「曲がチューリップっていうのに悪意を感じるな」
中心部に近づくにつれ大きな花が目についた。
黄色いひまわりのような花。その花のど真ん中にある赤いぷっくらとした厚い唇。
みつことヤスコは白い目をしながらサキを見た。
「あれのどこがハエ取り草やねん」
「おみゃーの目は節穴だぎゃーが」
「いや喰うときマジそんなんだったんだって!」
カナタは笛を短く三回適当に吹き鳴らすと、茎辺りがもごもご動き、頭を大きく振って何かを吐き出した。
「おえ、汚いな」
涎と胃液とよくわからないものにまみれたリィシャは、サル吉と一緒にへばっていた。
音楽を噴き終えるとなぜか眠りについた魔物。おそらく寝るよう指示したのだろう。魔物を操る能力はなかなか便利そうだがリコーダーってのがなあ。
ビジュアルが気になるみつこ的には、いまいちうらやましくないその力を見つつ、終わったなとつぶやいた。
「クエスト達成だな」
「さあどうだろうな」
「なんで」
帰ろうとしたみつこにカナタはアポロを再び頭にのせながら否定した。
「忘れたのか。ここは一度は入ったら頂上に行くまで出られないんだよ」
「あぁ……エレベーターで一気に」
「……まあ、それでもいいけど」
歯切れの悪いカナタに一抹の不安を覚えたみつこだったが、それよりも気になっていたことを先にすますことにした。
「ロア」
武器化した相棒を握り、リィシャのほうに向かって思いっきり振った。
「水」
ぶわっしゃーん。
汚かったリィシャの全身はびしょ濡れになった。
「これでましだな。あとはサキに燃やしてもらって乾かして……どひゃ!?」
みつこは突如向けられた殺意を横に飛びのいて難を逃れた。
あとを見れば茨が刺さっている。
「水なんて発動させるなよ。活性化して危ないぞ」
すでにエレベーターに乗っているカナタが遠くから忠告した。
「遅いわ!」
「移動は早いけどな」
ヤスコも急いで走り出した。
「くそ、今度こそ食らえ! 炎の如意棒!!」
如意棒から放たれる炎は、植物によって吐き出されたよくわからない汁によって消火された。
「なんかショックー!!」
全員なんとかエレベーターに乗ったのを確認して、カナタは扉を閉めた。
ぎりぎりこっちに来そうな茨はヤスコの結界に阻まれ、名残惜しそうに本体へと戻って行った。
上がるエレベーター室にて、無言が舞い降りる。
リィシャはまだへばってるのか、肩で息をしている。そしてこいつには回復してやらないみつこ。
「頂上指定したの?」
「まあ早く帰りたいし」
「さすが」
目の前に扉が出現した。
どうやらついたらしい。一番に扉の向こうへ足を突き出すサキにカナタはポツリと言った。
「落ちるぞ」
「うぎゃあああああっ!? あっぶーねええええ!! 早く言えよぉぉぉ!!」
「リィシャ元気なくてよかったな。いつもの調子やったら、確実落下してたで」
ヤスコの悪意のない皮肉に、リィシャは小さい声で「何が?」と尋ねたが、そのころにはすでにヤスコはサキの横に立ち、下を見ていた。
「すごいな……。どうやって降りるん」
「降りるのは降りれる」
カナタは何もない場所に降り立った。浮いているようにも見えるが、カナタはしゃがんでコンコンと叩いた。
「透明なバトルフィールドだ。じゃあ頑張って戦ってくれ」
みんなが降りたのを見て、カナタは再びエレベーター室に戻った。
「え?」
大きな影ができたと思ったら、甲高い鳴き声と共に大きな鳥が現れた。
「鳳凰だ。一番安全な帰り道は……そいつを倒し、下まで運んでもらう以外に特に方法はない」
「まじか」
足元は透明な床、敵は飛行系。
みつこはにっこりほほ笑んだ。
「これだから、リィシャと一緒に来るとロクなことがない」
サキが小さい声で「いうな」と言ったが、その声は風にかき消された。