塔の中 2
みつこはため息をつきながら外を眺める。
まだ二階なので余裕で視界が低い。これからサキたちのいる上へ行くとなると気が重くなっていく。
宝もないし。
やっぱり安い任務受けるんじゃなかったと愚痴をこぼす。
宝もないし。
「なあみつこ。光魔法どっかーんって無いん?」
「どっかーんて無いよ。光魔法は基本回復とか、補助とかしかないし。攻撃したって今みたいに『うわ、まぶし』か『わー浄化されるー』程度だよ」
「魂を?」
「まあ、そうだけど」
ヤスコが言うと魔物が、じゃなくて人間がっていう風に聞こえるのは何故だろう。きっと気のせいだろう、そうだろう。
「ほなサキみたいに炎か雷でびっしゃーんてできんの?」
「やってもいいけど……」
「けど?」
ロットを構えながらマッチョを見る。
「闇属性はたまに光魔法以外を無効にするときあるからなあ。無効されたらMPもったいないし」
「ええきん、しなや」
「てめー」
やる気のない二人の掛け合いを見ていた海里は、三回瞬きをして目を閉じた。
武器のままのロアは小さく震えた。
「あぁ、うん。分かった分かった。じゃあ行くよ! ロア」
光をたまに集め。杖を高く振り上げた。
「発動!!」
光が闇まっちょを包み込み、敵は消滅した。
「目ぇ痛ッ」
光を直視していたヤスコは海里にもたれながら目を抑えている。みつこはちゃっかりサングラスをかけていたので無事だった。
みつこは横から感じる氷の殺気を無視して、マッチョが消えたことを確認した。
「お、今までなかった階段が出現した」
「うちには見えん」
「海里に乗ったら?」
ヤスコは海里の腹を探りながら背中のほうに回り、よじ登った。いつものポジションに彼女がついたことを確認した後、みつこは次の階段へ進んだ。
「おぉ、すごい」
みつこは感嘆の声をあげた。
そこは美しい花々が咲き誇る部屋だった。甘い匂いにカラフルな色に様々な種類の花が咲き誇るこの場所を見て、みつこは海里の後ろに下がる。
大体この部屋から察するに、出てくる敵は……
「何の音や」
やすこの言葉にみつこは確信を込めた声で言った。
「虫だろ」
ぶぶぶぶぶ……バイブが震えるような音と共に現れた敵。懐かしのビィンズ・クイーンだった。
一匹でも厄介なのに、女王の群れとか
「はは。笑えるー」
「何がおもろいんや」
「はは。ははは。……笑えねーよ!!」
ヤスコに跳び蹴りされた。降りるついでに蹴らなくてもいいのに
みつこは倒れた態勢のままヤスコを見ていると、ヤスコは海里を武器化した。
「おおお。『盾』はいつ見ても美しいな!!」
まるで神の芸術といっても過言ではない美しい細工の盾により、ビィンズ・クイーンの毒液を回避できた。
ヤスコは盾を構えたまま足でみつこを踏みつける。
「無言で蹴るのはやめて!」
「で、どうないしょうか」
「うーん。そうだなー」
結局ビィンズ・クイーンとは戦って勝ったことないからなー。毒液の雨ばかりはどうしようもない。
「仕方ない。もったいないが。仕方ない」
みつこは「よっこいせ」と言いながら立ち上がった。
「ロア」
杖の先をタクトのように降り、魔方陣を作り上げた。
「燃やし尽くせ」
炎が杖の先から飛び出し、ビィンズ・クイーンをけん制した。
ビィンズ・クイーンはギチギチと威嚇しながら下がったが、みつこはまだ炎を放出する。
「まるで火炎放射器みたいやな」
「ビジュアルを気にせず、少量の魔力でやろうとするとこうなる」
炎はやがて花々に点火し、美しい花園は炎の海と化した。
ヤスコがまぶしそうに眼を細めながらみつこのほうを見る。
「……」
「仕方ない。仕方ない」
首を横に振りながらみつこはロアを元の猫モードにして頭に乗せた。
ビィンズ・クイーンたちは悲鳴を上げて窓から逃げ出していった。人間は窓から出れないが彼女ら魔物は窓から逃げられるらしい。
どんな仕組みだ。
煙がもくもくと上がるのを結界内で見ながらみつこはつぶやいた。
「meらもサキたちとやってること変わらないかもね」
「これはみつこのせいやろ」
うちは違うと否定された。
氷漬けの部屋作っといてよく言うよ
火が消えたころには次の階段を見つけ、みつこたちはぼちぼちと次へ進んでいった。
毎度毎度上がるたび部屋にモンスターが待ち構えていて、必ず襲ってきてがさっさと倒し、次への階段を探しては進んだ。
もう何度めかの階段を上がりながらみつこが「ありえない」と繰り返しつぶやいていた。
「なんで、なんでなん? ふざけてるよ。こんなのありえない。ありえないよ」
「ウッサイな」
「だってありえないっしょ」
みつこは拳を握りしめ叫んだ。
「宝箱が一個もないなんてーーーーー!!」
「重要なん? レベル上がったんやし、それでええやん。魔物の素材も手に入れたしな」
「宝箱重要です! っとに、ここは糞だな!! レベル上げなんて気合いでどうにかなるんだよ! 魔物の素材ほしくなったらカナタから情報無料で奪い取って探しに行くし!? どうとでもなりますから?」
「知らんけど、お前糞やな」
女の子なのに下品な言葉使いをしながら次の部屋に入ると、二人はきょっとんとした。
「やったな。みつこ」
みつこの目が輝く。
「宝箱の山やん」
部屋に密集している宝箱
「わーい」
みつこは華を咲かせながら箱に手を伸ばしてふたを開けた。
(あ、鍵かかってるいうオチちゃうんか)
ヤスコが残念がっていると、宝箱が急に閉まった音が響いた。
「なんしてん」
みつこを見ると、宝箱に手を喰われていた。
「……」
たからばこは まものだった。 みつこ 5のダメージ せいしん100のダメージ
「え」
「?」
みつこは無事な左手でロアを構えた。
「エンド・オブ・メテオぉぉおおおおおおおおおおお」
へやは すごいばくはつおんと みつこのいかりにつつまれた。
やすこは ぼうぎょした。
数分経ってヤスコは仁王立ちしてみつこを見つめた。
ほとんどの宝箱は消滅していることから、魔物だったらしい。
「阿保みたいに魔力消耗させたな。阿保なことで」
「運営が悪い」
「お前が悪い」
みつこが立ち上がった。
と、視界の隅に映る箱に目を向けた。
「無事なのが一個あるな」
期待してない感じでみつこは箱を足で開けた。
(でも確認するんやな)
ころり、と箱から出てきた小さな鍵。
「ううん。微妙……まあ持っとくか」
みつこは鍵を回収した。
「さっきの阿保みたいな魔力放出したのお前か」
やすことみつこは振り返った。
「おお、カナタじゃん」
「意外と進んでてびっくりしたよ」
「ここ何階?」
「22」
「「あんまり進んでない……」」
「まだ日が暮れただけだぜ」
明らかにがっかりする二人にカナタは「まあまあ」といった。
「めんどくさいのはわかるが、いい経験になるだろ」
「なんの?」
「どんな状況でも判断できるようになる」
「阿保は怒りのあまり高魔法放出したで」
みつこは目をそらしている。カナタは遠い目をしながら周りをきょろきょろとみた。
「どうでもいいけど、なんかアイテム拾わなかった?」
「鍵か」
「お。早いな。助かる」
手を差し出すカナタにみつこは鍵を渡す。それを見てヤスコは意外と驚いた。
「みつこがスッと出すの珍しいな」
「人を何だと。……まあ、だってほら鍵に良い思い出ないし」
カナタは鍵を手にしてすたすた歩き出した。
「……どこいくん?」
「ついて来いよ」
二人はカナタの背を追った。
カナタは壁まで行くと、手を伸ばし
「?」
何かの紋を描いた。すると、何もなかった壁から扉が生まれた。
「まさか……お得意の移動陣?」
「正解」
中に入ると、何もない四角い空間があるだけ。カナタは床に座ると真ん中付近にあった鍵穴に先ほど手に入れた鍵を差し込んで回した。
「あいつらは……58階か」
アポロを見ながら確認したカナタは、鍵を逆方向に回した。
すると
「おお」
振動がしたと思ったら、部屋が上がっていく浮遊感を感じた。
「つーかやっぱりここつくったのミスター・クレアかい」
「ダンジョンは知らんけど、移動陣つくったのはそうだな」
てぃーん。扉が出現した。
「出るか」
扉を開けて出た。
するとその部屋は身動きの取り難い場所だった。
「なにこれ」
茨の檻が天井から床へ、壁から壁へ、隙間なく生えていた。でかい海里、エレベーター室から出れず、やすこはしれっと言った。
「さっさと回収してきなや」
「「無茶をおっしゃる」」
これなんていう無理ゲー?