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HUNTER・GIRL  作者: 一理
探索というな名ダラダラ
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勇者の軌跡

 言いふらそうと思った時ほど人がいないもんだ。

 舌打ちしていると上から声がした。

「どないしたん?」

 海里の上に乗っているヤスコがいた。

「おぉ、ヤスコ……。実家帰るのびっくりするほど早いんだな」

「実家怖いから戻るのやめた」

「さっすが」

 一回北極ダンジョンまで家出したのに、実家が怖いってなんだろうな。

 しかし実家に帰りにくいという心情は同意できたのでそれは言えない。

 自分も反対を押し切ってハンターになったもんだから、勘当されてしまっている。いまだに連絡すらとっていない

 納得したようで納得できない微妙な気持ちでがいると、ヤスコは海里から降りた。

「で、何を急いどったん?」

「あぁ、そうなんだよね。実はさ~? さっきクエスト屋んとこいったらさ……」

「ミスター・クレアに会うたんやな」

「そうそう、なんだよ何でわかった……のかもわかっちゃったよーん」

 みつこは振り返ると、ヒツジ面の男が両手を広げて立っていた。

「何そのポーズ」

「驚かそうと思ったんですけどねー。遅かったみたいです」

「そういうのいいんで、ドン引きだわー」

「ええねん、いらんねん、そんな掛け合い。じゃきん二人して何急いでたん」

「いや別に急いではないんだけどさ」

「私は急ぎましたよお」

 ミスター・クレアに頭をつかまれた。

「よからぬことを言いふらされぬように、ね」

「えー、なんか心当たりあっるっのっかっなぁあ~?」

「ゲスい顔ですねえ」

 にやにやと笑うみつこ。

 クレアはふう、とため息をついた後に「そういえば」……と続けた。

「君は私に用があったのではないですか」

「魔王について聞こうと思って」

「ほう魔王ですか」

 ヤスコは海里の上に乗ったまま、お店を指さした。

「立ち話もなんやし、お菓子でも食べながら話そうや」

「今度はお前奢れよ。クレアの分はともかく、私の分は奢れよ。それが嫌なら前回の分の金返せ」

「何の話や」

 お店の前まで行き、海里を小さくしてヤスコは抱き上げた。

「いっつもどうしてんのかと思ったら、矮小の札を張ってたのか」

「せや。みつこみたいな能力あったら便利なんやけどな」

「ふっふーん」

「凍るか?」

 みつこのドヤ顔に目つきが鋭くなる海里とやすこ。

 クレアが二人の背を押し、席に着くよう急かした。

「君たちは行動が遅いですねえ」

「「女の子だもん」」

 ウェイトレスが来たので、注文を済まし。本題に入ることとなった。

 ミスター・クレアは懐から何かを取り出す。みつことやすこは同時にそれを覗き込み、首をかしげた。

「写真?」

「えぇ」

「孔雀?」

「その通り」

 写っているのは七色に輝く尾をもつ、目つきの嫌に鋭い孔雀だった。なぜか写真からでも伝わってくる殺気がものすごい。

「ちなみに私のパートナーです」

「変身すると何になるの?」

「槍です」

 これは意外。てっきり剣だと思ったのに。

 隣を見れば、ヤスコもそんな感じの顔をしているのがわかった。

 なんで唇とがらせてんの?

「えーと、私が倒したものの名前覚えていますか?」

「ん? えーっと邪神ジャグラーだっけ? 魔王じゃないね」

「どっちも似たようなもんだろ」

「どころがどっこい」

 ヤスコの言葉にミスター・クレアは指をビシッと指してきた。

 海里がその指を氷漬けにする。

「おおう!?」

「なにがや」

「指がッ」

「そうやない」

 みつこはロアを取り出し、武器ロット化して指を治してやった。

「治療費は奢りでいいよ」

「奢られまくりですね」

 飲み物が運ばれてきた。

 一人だけ特大パフェだが、みつこは視界に入れないように自分の分のコーヒーを手にして一口飲んだ。

 苦いが、香ばしいいい匂いだと小さく笑う。

「……」

「何? つうか続けて」

「えぇ」

 ミスター・クレアは治った指を触りながら言葉をつづけた。

「邪神ジャグラーは……邪でも神でもなく、ましてや魔王でもなく。孔雀なのです」

「ははははははっ。孔雀って……孔雀って!?」

 冗談だと思って笑っていたみつこはハッとして先ほどの写真を見た。

「私のパートナーです」

 やすこが口にアイスを入れて、ただ「ふーん」とだけ言った。聞いてみるものの実際興味ないらしい。

 さすがヤスコ

「つうことはよ、お前勇者でもなんでもなくて、自分のけつを自分で拭いただけってことじゃん?」

「汚い言葉ですが、まあそうですねえ」

「詐欺だ」

「私は一言も自分から勇者などと言った覚えも、名乗ったこともありませんねえ」

 そうひょうひょうとした態度でクレアは写真を懐にしまう。

 相方は使い方によっては何よりの脅威になると、わかってはいたものの……、まさか邪神とまで謂われるまでにその脅威さは激しいものだとみつこは知った。

 こうしてみれば相方が自分を好いてくれている、信頼のおけるということは恵まれていることではないかとさえ思えてくる。

(……多分、隣に座っているヤスコは何も思っちゃいないんだろうなあ)

 なるほど、とみつこはつぶやいた。


「だから、カナタはパートナーを操って動きを止め、各自のシンクロをあげようとしてたのか」

「……。それは知りません。正直、養娘の考えていることはほとんどわからないのですよ」

「父親とは得てしてそういうもの」

「誰目線や」

 話聞いていないようで聞いていたらしいやすこに突っ込まれた。

「そういうことです」

「「んん?」」

 二人で何が? という態度をとると、あれ? っていう声を出された。

「ですから、倒したのは魔王ではなく、ジャグラー……相方ですから」

「なんで相方と仲悪くなったん?」

「切磋琢磨しているうちに、お互いにライバル心が芽生え、その感情が暴走したのでしょうね」

「へえ、まあ、それはどうでもいいんだよ。meが聞きたいのはさ、魔王について」

「知りませんよ」

「冥界に行ったことは?」

「三度ほど」

「魔王に会った回数は?」

「その城の魔王はありませんが、気の良い感じの魔王になら会いましたよ」

「スケルトン?」

「ノーワルドな」

「あ」

 ミスター・クレアは何か思い出したといわんばかりの声を出した。

「何がわかったの?」

「分かったというか、思い出したのですよ」

「何を」 

 ぬるくなったコーヒーをみつこは飲み干した。隣を見ればヤスコはすでに完食していた。

「魔王ノーワルド……彼は自分で、自分は魔王と言えば魔王なのですけどねえ、居場所のない魔王なんですよねえ……と」

「「????」」

 クレアは立ち上がり、歩いていく。

「意味は分かりませんが、ヒントになればいいですねえ。……ああ、そうそう」

 くるり、っと振り返った。

「わが娘をどうかよろしくお願いしますね」

「カナタ? なんでmeらが? ぼっちだから?」

「も、ありますが……ほら、貴女は彼女と『双子の姉妹』なんですから」

 そういって去って行った。

 目をぱちぱちさせたあと、みつこは口を開けた。

「ええええええ!?」

「似てないやん。髪の色違うし! あ、でもうちも兄さんと髪の色違うわ」

「……」

「みつこ?」

「いや、別に双子だからどうってこともないけどさ」

 もしかしたら、今まで誰にも姿を現さなかったクエスト屋が、突如姿を見せるようになったのは、そういうことがあったということだろうか

 もしそうならそうと言えばいいのに

「じゃあ、愛しの双子の片割れんとこいくか」

「何しに?」

「もちろん、情報を得にさ」

 めんどくさそうな顔をしたヤスコを引きずってみつこは店を出た。

 もちろん、金はヤスコ持ちで……。

 

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