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HUNTER・GIRL  作者: 一理
探索というな名ダラダラ
36/57

魔物の軌跡

 城を襲ったという魔物のところへ行こうと思っていたみつこだったが、さっそく問題が発生した。

 ホーンドラゴーンはそもそも死者の墓場というダンジョンにいるのだが、そこは死者の森の向こう側の丘のほうにある。死者の森の向こう側は中級ハンターじゃないと入れない場所だ。

 自動的に捜査は打ち切られた。

 仕方ないね!

「やれやれ、どうすっかね」

 一緒に装備を買物したヤスコとお茶をする。

 大小魔法の力によって小さくなった海里を膝にのせ、お茶を楽しむヤスコ。黙っていれば美少女でとても絵になる。

 黙っていればの話だが。

「なんか失礼なこと思ってない?」

「いや?」

 こういう時の勘は鋭いな。みつこは店員にお菓子の追加を頼んで、紅茶を口に運んだ。

「ま、初級ハンターにできることなんて、こんな程度だよね」

 クエストをこつこつ受けて、評価あげて、レベルもそれ相応になって、みたいな……すぐに活躍なんて滅多にできないしな。

「思ったんだけど」

「ヤスコが思うことあったの?」

「しばくで」

「ごめん」

 ロアが紅茶を匂い、小さくクシャミをした。その頭をなでるとゴロゴロと喉を鳴らす。

 ヤスコは海里を机の上において、膝に落ちていたお菓子のくずを払う。

「魔王ってほんまに来るんやろか」

「ん?」

「鍵を探してこっちの世界きとったんやろ?」

「うーん、鍵を返したからって満足して帰るとも思わないけど?」

「まあ魔王やしな。でもなあ」

 やすこは納得していない表情でもう一度お菓子に手を伸ばした。

 しゃべるか食べるかどっちかにしなさい。

「魔王に会ったとき、理性的やったやん。今までのほらダンジョンボスみたいに、破壊行動を楽しんどるとか縄張り増やすぜへいへいって雰囲気じゃなかったし」

「へいへい……まあね」

 知恵のある男だったと、姫も言っていた。

 だけど、それがどうだというのだろう。

「でも、魔物の王ってことは、いずれかは破壊衝動はあるんじゃない? 動物的なほうが強いんだろうし」

「動物は」

「ん?」

 やすこは紅茶を飲んだ。

「動物は、手を出されない限り、捕食活動以外では攻撃してこん」

 寒い北極にいたからこその確信なのだろうか。ヤスコがあの場にいて白熊系魔物に襲われなかったのはひとえに海里がいたからじゃないだろうか。そう思ったが、そういう分析力はあるヤスコだ。

 何かあるのかもしれない。

「一理あるね」

「世界を亡ぼした魔王が、そういえばおったな」

「魔王スケルトン?」

「ノーワルドな」

 ヤスコに突っ込まれる日が来るとは……

 地味にショックを受けていると、ヤスコは飲み終わったカップに紅茶を注ぐ。

 甘いにおいが風にただよって消えていく。

「あいつと、魔王サーガ……どっちのが先に魔王やったんやろうか」

「んー? サーガなんじゃね? スケルトンに対してなんのアクションもなかったし」

「魔物は扉がないと生まれんのやろ? 魔王はどないして生まれるんやろか」

「さあ?」

 珍しく饒舌のヤスコ。

 みつこはあまり興味がないので、適当に相槌打った。

「……うち、調べてみるわ」

「珍し。……でも、どうやって?」

 ヤスコは立ち上がった。

「うちの実家帰って、資料あさってみる。初代勇者の残したもんが、何かあるはずや」

「やだ、イケメン。じゃ、あたしはミスター・クレアのとこにでも当たって、なんか知ってるか聞いてみるわ」

「まず、ミスター・クレア探しからかかりそうやな」

「まあね」

「ほな」

 ヤスコとは別れた。最初に比べ、ヤスコもハンターとしての自覚が出てきたのだろうか

 ずいぶん積極的になって、やすぃんやも安心したことだろう。

 みつこはふと大事なことに気が付いた。

 そして体中を震わせわなないた。

「なん……だと!」

 ちりーん。

 店員にお金を払う。

「このmeが奢らされた……だとぉ!!」

 悔しくて思わず机をたたくと店員にドン引きされた。

 いつか必ず金を倍返ししてもらおう、そう心に決めたみつこであった……。


「ちゅ」


 その様子を眺めていたアポロは呆れ顔で移動を開始した。みつこの手助けをするべく、ミスター・クレア探しを行うため。

 アポロを通してその様子をみていたカナタはいつもの己の巣の中で、ただ髑髏が浮かぶお茶を飲んでいた。

「……さて」

 みつこはミスター・クレアを探すようだが、彼に会えるだろうか。

 情報通である自分ですら把握捕獲することのできない彼を

 薄暗い部屋の中で、ただ一人思案していると、背後が突如人為的に光を放った。

「暗い部屋ですねえ~。電気つけないと、目を悪くしますよ~?」

 噂をすれば、というやつだろうか。

「お久しぶりです養父とうさん。また移動魔法陣マーキング作りですか」

「嫌な言い方だねえ~、可愛い娘をおいて遊びまわっていたからすねたのかな?」

「それは別に、お好きにどうぞ。ついでに二度と帰ってくんなって言いたいです」

「言ってるじゃないかあ」

 つけられた電気が目にしみる。室内でかぶっていたお気に入りの帽子を目深にかぶった。

 ミスター・クレアは堂々と部屋の中を歩き、カナタの目の前に座った。相変わらずのヒツジの面からは彼の表情を察することができない。

「……」

 まあそれはお互い様なのだろうか。

 彼にもお茶を出すべく立ち上がると、彼はそれを察したのか片手でそれを止めた。

「まあまあ、たまにはゆっくりお喋りしようよ」

 つかまれた腕を見るカナタ。

 どうも、カナタは彼が苦手だった。

「……」

 カナタは座った。

「聞いたよ。魔王が出たんだって?」

「えぇ、そのようですね」

「その時と同時に、城が襲われたんだってね」

「えぇ、そのようですね」

「そういえば、お城で兵士たちと戦ったんだって?」

「えぇ、まあ」

「ハンター協会を作り直そうとしてるんだって? 偉いねえ」

「えぇ、まあ」

 目を全力で逸らすカナタに、クレアは寂しそうに斜め下を向いた。

「言葉のキャッチボールができてないよ~」

「ええ、まあ」

 降りる沈黙。

 しばらくして、彼が立ち上がった。

「ネズミ君はいるのかね?」

「今は出払って……る」

 ガタン、と椅子が音をたて倒れた。カナタは机に強くクレアによってねじ伏せられる。

 あぁ、あのコップ気に入ってたんだけどな。中身はすでに飲み干し、なかったのがまだ幸いだろう

「……どういうおつもりでしょうか」

「こちらのセリフだよ」

 捕まれた腕が痛い。いつもと同じ口調だが、その声音から怒っていることがわかる。

 カナタのお気に入りの帽子が床に落ちた。

「なぜだい?」

「……」

「なぜホーンドラゴーンを操って城を襲った」

 やはり、バレタか。

 カナタは小さくため息を漏らした。

 思った以上に早かったな。この人の耳に入るのはもう少し先だと読んでいたのだが……

「別に、悪意からではありませんよ」

「悪意があろうとなかろうと、危ないことはしてはいけないな。怪我人も出たそうじゃないか。それに、君の地位も危うくなる」

「貴方の地位もですか」

「僕の地位など、とうに無いけどねえー……で? なぜこんなことをしたのかな?」

「手、放してくれない?」

「そうしたら君、パンドラで逃げる気でしょ?」

「チッ」

「君のそういう露骨なところ嫌いじゃないよー」

 カナタは机を見ながら、痛む腕を考え、さっさと暴露する道を選んだ。

 どうあがいてもこの人から逃れることはできないのだから 

「ハンター協会のためですよ」

「失墜したハンター協会を立て直すのに、早急にする必要あるのかな?」

「何を悠長な、魔王が出たのですよ」

「そうだねえ~」

 マイペースな養父にあきれるカナタ。

「で?」

「で?」

 解放してもらえると思っていた腕は離されないままで、挙句続けろと言わんばかりの態度だ。

「まだ、あるでしょ」

「魔王以上の内容がありますか」

「何故パンドラを使用した?」

「はて、なんのことでしょう」

 つかまれた腕に感覚無くなってきた。

 さて、そろそろかな

「カナター!!」

 扉を手ではなく足で蹴破るみつこ。

 さすが店が開いてと閉まってようと堂々と入ってくる女だ。

「ミスター・クレアの居場所しらね……と」

 組み敷かれているこちらの様子を見て、みつこは白い目でクレアを見た。

「ろ、ロリコン」

「違います」

 冷静に訂正するクレア。

「ぎゃああああ、勇者は変態だったー! あ、もともとだった」

 と言いながらみつこは楽しそうに出ていった。

 あれは言いふらすな。

 クレアはその様子を見送り、そっとカナタから手を離した。

「ご指名されましたからねぇー。あちらのほうを優先しますが……また戻ってきますからねぇ~」

「へいへい」

「危ないことはしてはいけませんよ~」

 といって頭をぽん、となでられた。

「……」

 だから、この人は苦手なんだ。

 ヒビの入ったコップを見つめながら、カナタは目を細めた。

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