2 侍少女 リィシャ
あくる日のこと、深い森の中、初級ハンターみつこはクエストにより、ドラゴン討伐に来ていた。
どう仕入れているのかクエスト屋のカナタ曰く「荒地や聖域などにしか棲息しないドラゴンが町付近の森にいるのはおかしい」との情報があり。悪さしているらしいので正式にハンター協会がクエストを出した。ということらしい。
しかしまぁフードに木の枝が引っかからないように歩くのにも、たいぶ慣れてきた。
「なーんか、いかにも~っていう雰囲気になってきてんすけど?」
いつもは神聖な雰囲気をかもし出していたような森も、なんだか鬱蒼としてじっとりとしている。最近ソレ系多くないッスか?
「お金払いがよければいいけどさ~。ねえロア」
ハンター協会はメンドっちークエストを依頼する割には、報酬が安い・少ない・評価も上がらない、誰もやりたがらない。
しかし、ハンター条約項目100条にて『ハンターは渡されたクエストに従うべし』と書かれているため、一度紙をもらったら、嫌でも止めることは……基本駄目なことである。
クエスト屋カナタは「クエストくれ」というハンターには、詳しいことをいわず黙って先に紙を渡す。
「最近あいつも知恵ついてきたな。まぁ、最初っからあんな態度だった気もするけど」
とにかく、みつこは嫌々森に来たので鬱蒼とした森に余計イライラするのであった。
「まぁーったくさぁ……。っ!!」
気配を感じて後ろを振り向く。『黒い』何かがこちらに特攻してきた。みつこはあせることなく冷静にそれを見定めた。
「もらったぁ!」
「ロア」
突如ふりかかる攻撃をロアに体当たりさせた。これだけで普通の人間なら骨何本か逝くはず。そう、普通の人間なら。
ばきっ……!
ロアのほうが木の棒より硬かったらしい。姿の分からぬ敵が持っていたらしい木の棒がからんっと音をたて地面に落ちる。
「何? ハンター狩り?」
冷めた目をしながらみつこはロアを傍に寄せた。しかし唸るロアの鼻先には誰もいない。
(……敵は一体どこに? ロアにぶっ飛ばされた様子ではなかったけど……?)
―――と
「すごい、すごい!! やっぱすごいなぁ!!」
物凄い賛美しながら上から人が降りてきた。
(あの一瞬で木の上に?)
「やっぱすごいなぁ! かっこええわ! 面白いなぁ君」
ショートヘアのボーイッシュな感じの少女で多分同じぐらいの年に見える。着ている服は侍のような、巫女さんの様な着物に見える。
とにかく和服少女
「……。ん?」
気のせいだろうか、下級とはいえモンスターがうじゃうじゃいるこの森で、丸腰のように見えるのは。
「で、誰?」
「え? 誰?」
「いやいや、聞いてんのコッチだから」
「僕リィシャ! よろしく!! 君強いよな一回殺り合おうや」
「やだよ!」
「えー」
心底つまらなさそうに口を尖らせる。いやいやそんな誘い文句で乗る奴逆に見てみたいわ。探せばいそうだけど
「じゃあ! 友達になろ!! ぼくハンターでリィシャっていうん」
「meもハンターみつこ……ところで、女だよね」
「胸ないけど、そうやで」
マイペースな彼女と、とりあえずの自己紹介を済ませ、何故ココにいるのかを聞いた。
「クエスト、『ドラゴン討伐』に」
「あれ? meと一緒じゃん」
「そうなん! あっ気をつけてな、ココ迷うけん」
「んー? そりゃ、そうでしょ。マヨウサいるんだから」
「マヨウサ?」
迷わせることが特徴の謎のモンスター森には必ず生息している。
そのウサギのような狐のしっぽをした目がぐるぐる模様のモンスターはどうやらみつこにしか視えないらしい。しかし見えたところで追い払えないのでどうでもいい。
「マヨウサも知らないの? 今までどうしてたのさ」
「んー? 適当に……あは」
「いやいやいや、無理だから。いつからココにいんの?」
「一週間前ぐらい」
「よく生きてるな!!」
なるほど、リィシャが身軽なわけがわかった気がする。しかし、何か一つ違和感を感じる。なにか、大事なものを持っていないような……。
「ああ」
みつこは手をぽんっと打った。リィシャに足りないものが何か、わかった。
「パートナーは?」
「え?」
リィシャは首をかしげた。
「え? じゃないから。ハンターでしょ? パートナーは? ほら、ロアみたいな」
ロアを抱っこしてみせる。元の姿に戻してから武器化までして見せた。MEの自慢です。魔法のロットとか、最強じゃない?
「あぁ~、おったよ」
「おったよ? ってなに?」
リィシャはマイペースに「いやぁ~」と笑いながら頭をかく。
「道探しに行かしたら、もどってこなくて!」
「だめだなこりゃ……。マヨウサいるんだから、そりゃ戻ってこれないでしょ」
まぁマヨウサの存在知らないんだから今更そんなこと言ったって仕方ないけど。
とりあえず、二人一緒のクエストなので、協力し合うことにした。
「な、みつこ」
「ん?」
「『ハンター狩り』ってなに?」
「知んないの? あのね……」
ハンターにつくパートナーは決してそこらへんにいるわけではない。獣から武器化するのは大変希少なので、売ったり、毛皮にしたり、自分の下僕に追加したり、そーゆう邪な心を抱いたハンターが別のハンターを襲い、パートナーを奪ってしまう事件があった。
そういうハンターによるハンター襲撃者のことを『ハンター狩り』というのだ。
「……わかった?」
「うん、たぶん……」
わかってねーなぁこいつ。
みつこは説明をあきらめることにした。
「もう少しで、つくころなんだけどな」
「どこに?」
「なにしに来たのお前」
「いて」
チョップする。素直にくらったリィシャは笑うだけだ。大丈夫なんだろうか
「全く。……っ!?」
地響きがなりはじめた、どうやら、お出ましらしい。
「くる! ロア武器!!」
ロアの形が杖へと変貌し紅い宝石がキラキラと輝く。
「てか、リィシャ大丈夫か?」
「何が?」
「武器、ないだろ!」
自分の手と腰と頭を叩いた後に目を見開いた。
「おぉ」
「頭ン中大丈夫……?」
みつこが心底心配していると地響きをあげながら壮大に大地からドラゴンが出現した。
「大地からドラゴン出てくるなんて……ハンター公式本には一文字も書いてないけどなぁ」
ハンター協会執筆『ハンターの心得』それを見ただけでリィシャは嫌そうな顔をした。
ただで渡される本ではあるが、小さい文字でびっしり黒に染まったように書かれた本を読む人はほとんどいないと聞いた。
(勤勉なみつこちゃん。なんちゃって)
みつこの知識の中ではそのありえないドラゴンは雄叫びを上げた後口から火炎放射を放出した。
「結界」
リィシャともども炎から守る。なにがそんなに興奮させるのか、大喜びで跳ねているリィシャ
「えーなぁ! おれもカッコよくやりたい」
やれば!? と叫ぶまもなく、向こうの攻撃は止むことなく炎が排出され続けていく。ありえないドラゴンの火炎の威力はすごい。
結界の端が解けてほころびていくのが見える。
「―――くっ」
もたないかも……。ロットを握りなおすと、隣で彼女が片手をあげて叫んだ。
「サル吉! 武器」
「ウッキィー!!」
「!?」
びゅうんっ!! 何かがみつこの頭上を物凄いスピードで超えていった。
「な」
わけが分からずあっけに取られていると、炎をわけてドラゴンの口にアタックしたらしいリィシャの武器は回転しながら主人の手の中へと戻ってきた。
「リィシャの武器って、飛行攻撃型なんだ?」
その姿がサルへと変わる、まぁるい耳になぁがい尻尾、愛くるしい目に、肩乗りサル。
はっきり言って、あってない。リィシャの性格にはあうが、リィシャの着ている着物にはあっていない。
「うき?」
「え? あ、うん。ありがとう……」
こんなときにサルからバナナもらってしまった。
っていうか、主人と似た性格しているなぁ。天然ぽいし馬鹿なとこが特に。
「てか、名前……まんますぎろう」
「え? これ以上にないぐらいぴったりやン?」
きっと、テキトーに考えたんだろうな……。あ、サルがリィシャの口の中にバナナ(皮付き)3・4個つっこんでる。うん、バカなんだろうな
「ぅあ! はふひゃい!!」
「あ? ハムない? ないよ!」
「ひゃうよ!! うふぃほ!」
「牛男?」
指を必死にさすので、後ろ振り向く。ドラゴンが口を大きく開けて突っ込んできていた。え? 突っ込んで……
吃驚しすぎて頭ん中、真っ白
呆けていると、物凄い速いスピードで何かが横切った。わかってる、たぶんリィシャだ
「『妖刀村正』!!」
何処からもなく日本刀が現れ、抜き放つ。
ぴゅっ
「終」
その言葉と共に、刃は鞘に収まり、ドラゴンの体が、ずれた。
「妖刀村正が、リィシャの真の武器?」
ハンターになる人には生まれつき特異な人が多い、運動能力が突発的に優れているもの、知恵が天才的で凡人を超越しているもの、運がものすごくいいもの、特異能力を持つもの……。
みつこの場合『特殊体質』の『大小魔法』という、モノを大きく小さく自由に大きさを変えられるというもの。
そしてそれともう一つ、生まれたときに『真の武器』と呼ばれる、己の最大の武器。
「見られちゃった……、まぁいいや」
己の最大武器は己のもつ力の度量を表しているので、弱点にもつながるので戦闘時『真の武器』を使うということは……あんまりない。本当に危険な時に使わなきゃ意味ないけど
「うっわー、強いんだな、リィシャ……敵にまわんなよ?」
「え? うん?」
わかってない。
「まぁいいや」
どうでも良さそうなリィシャみてたら、コッチまでどうでもよくなってきた。まあこいつがハンター狩りになるようなことはないだろう。
「いてて」
「?」
「!」
ドラゴンから人語が聞こえたと思ったら、中からハゲ・デブ・中年三拍子そろった親父が汗を拭きながら出てきた。そしてよくみると、ドラゴンは本物ではなく機械で出来ていた。
「な」
みつこの肩が震える。
「なんでやねん!!」
ロアを大きなハリセンに形を変えさせ、ぶっ飛ばす。
「あちゃああああ」
っていいながら親父は倒れた。結構力入れて殴ったんだけどな。なんだろう手ごたえ感じなかった、もう一発攻撃しようか、今度はハンマーで
「すごいなぁ、コレ。どうやってつくったん? っていうかおっさん何しよ……がふがふ」
「うきき、うきっき」
ドラゴンの機械に感心している主人に否応なくバナナを口に嬉しそうに突っ込むサル。あれ? こいつ結局なにしたっけ?
「バカらし……。帰るか」
リィシャにそういって振り返ると、リィシャの姿はなかった。
「……なにしてんのん?」
黄色いものの山の中にいるであろうリィシャに声をかけると、微かに「もうお腹一杯」ときこえた。いったいこの量のバナナ……どこから……。
苦しそうな主に反し、このサル一匹だけ嬉しそうに飛び跳ねるのであった。
「クエストかんりょー……っとぉ」
くたくたになりながらクエスト屋カナタのところに行ってから大事なことに気がつく。故に入ってこようとしたリィシャが入ってくる前に足で扉を閉める。
がらん! ごろん!
嫌な音でお客訪問のベルが鳴った。
扉の向こうでゴスッっていう音が聞こえた気がするが聞こえなかったことにしよう。
「……」
何してんの? って言う顔でカナタがみつこを見つめる。
「報酬くれ! あたしに!!」
みつこの至った考え。
リィシャと協力、イコール割勘(?)貰える金が!ただでさえも少ない金が!! 少なくなる
そんな邪な心をよんだのか、カナタは呆れた顔を通り越して、無表情な顔でみつこを見つめた。
「金、ちゃんと二人に同じ額渡すぞ?」
「え? そうなの? ……もー! リィシャなにしてんの。さっさとはいってきなよ~」
からんころん、っと扉が開けるとおでこを真っ赤にしたリィシャが若干涙目で入ってきた。
「みつこ~なにするん~」
「は? なにが? なんのこと?? リィシャが勝手にぶつかったんだろ?」
カナタがリィシャに哀れみの目を向ける。
「……。まぁ、はい」
クエスト完了報酬を二人は受け取る。カナタは引き出しから分厚い本を取り出して何か記し始めた。
「ハンターみつこ・リィシャクエスト完了、あと……」
二人はなんとなく黙って聞いてみる。
「謎の親父回収、これで十一匹目」
『多っ』
これが、俗に言う『親父狩り』と呼ばれるのであった。
「っていうか僕初めてクエスト屋のカナタ見た」
「え?」