ぐたりんこ
「なるほど、魔王サーガね」
カナタはお気に入りの髑髏茶を淹れながら、ミツコの言葉を繰り返した。
淹れたてのお茶に浮かぶ髑髏の煙を吹き飛ばし、すぐに口に運ぶカナタはみつこに対し何もしないし、何も言わなかった。
「おい?」
「ん?」
「不気味なお茶飲んでないで、アイデアだせよアイデア」
「健康茶だ。飲み方間違えたら死ぬだけのな」
健康疑問形のお茶だな。みつこはボケをスルーした。
「このスリルが病み付きになるぞ」
「んな情報いらないんだよ。というかもはやお茶としての意味がない」
チョップを食らわせようとしたら、カナタは立ち上がった。
少し歩いて棚のところへ行き、何か取り出し戻ってきた。その手にはクローバーの模様のついた栞だった。
「あ、末っ子がくれたやつに似てる」
「奇跡の栞。末っ子に私が渡していたやつ。幸運が上がるアイテムでもある、が」
席について、みつこに栞を見せた。みつこはそれを見てカナタを見た。
「が?」
「奇跡なんて、偶然起きるから奇跡っていうんだろ? それを無理やり発生させるってことは何か犠牲がいるっていうカラクリだ。これはな、持っている人に奇跡をもたらす栞なんだ。他のやつの、幸運を奪ってな」
「……へえ」
言いたいことが分かったような分かってないような。
要するに、私のせいであいつらが運悪く魔王にやられたっていいたいらしい
「遺言はそれだけ?」
ロアを武器化して微笑めば、カナタは目を逸らし、栞を懐に戻した。
「つ、つまり、魔王はお前に用があったってわけだ。肉体を奪ったってことはお前を呼び出そうって腹だろう」
「そんな気はうすうすしてた。でも、魔王のいるとこってどこよ」
「あの世とこの世の境、冥界だ」
「冥界って、死んでね?」
「言葉に当てはめればそういう名であり、名をのければまた違うもの。めんどくさいからそこはパス」
カナタは真の武器である本をとりだし、開いた。
「行き方は簡単だ。死ぬ運命ではないものが死ねばいい」
「神は言っている……まだし」
「で、だ。痛い思いするのは嫌だろ?」
「うぇーい」
カナタは引き出しから何か取り出した。それは見て分かる様にドス紫色の人形だ。
「これを使う」
「なにこれ。呪いの人形?」
むしろ呪われている人形?
「『七日人形』うちの商品。これを抱いて眠ればそこにいける」
「何その好都合のアイテム……どういう原理? どういう需要あるの?」
「世の中そういうもんさ」
説明する気はないと、小さく笑い立ち上がる彼女。
みつこが黙ってみていると顎をくいっとしゃくられた。
「ところでお腹すかない? ご飯食べに行こうず」
「良いけど……今それどころじゃないんじゃないの?」
「七日までは死なないよ、運命じゃないから」
「神は言っているま」
「レストラン仲村にいこうず。お前結構宣伝して回ったみたいだな」
「うん、店が小さいから美味いのに誰も気づいてなかったから。勿体無いでしょ」
「たまにいいことするね」
みつこは店のカギをしめていたカナタを蹴り飛ばした。
ということでレストラン仲村。
「仲村ーいつものちょっと少なめでー」
「はーい。あれ? カナタ~超久しぶりだー」
「うんうん」
「わーおざなりの挨拶ー」
カウンター席に座れば、お茶が置かれた。
「つーかカナタ知り合いだったんだ?」
「この店の資金提供者です」
「へえ。幅広く手を出して、いやいや出しすぎだろ。あー……サキが言ってたけど」
「あ?」
お茶に手を伸ばし飲んでいるカナタ。一日何回お茶飲むんだよ。
みつこは目の前に置かれたいつもより少なめのチャーハンを手に取り、カナタのほうを向いた。
「お前に手のひらの上で転がされてるような気がするって」
「誰が誰に?」
「ワタシらがお前に」
「無理だろ」
「だな」
できたのチャーハンはおいしい。
カナタが頼んだのはサンドウィッチだったらしい、紅茶もついてきている。
「……みつこ」
「あ?」
(この二人呼び掛けに対して思いやりのない返事の仕方するなぁ)
苦笑いで仲村は二人にサービスに渡そうとデザートを作り始めた。
「自分の人生がさ、自分で生きていけてると思ったらそうじゃなくて……誰かに決められて、操られるように生きてるってしたら、………………」
その言葉の先は紡がれなかった。何と言おうか悩んでいるのかもしれない。
しかし、みつこにはどうでもよかった。
「生きてるならそれでいいよ」
「……へえ」
「うえへっへっへ」
「でっへっへっへ」
(この二人のテンションよくわからない……)
食事も終え、デザートも貰い上機嫌のみつこ。
お店を出ると、紳士ハットを被りなおしたカナタが「じゃ」と手を上げ去ろうとした。
「おいまてよ」
「んだこら」
「なんで喧嘩腰だこら……じゃなくって、一人で行くのあれだし。一緒に行こうよ」
「ヤダよ。なんで私も行かなきゃいけないの?」
「暇つぶし」
カナタは失笑した。
「忙しいから私」
「ほとんど鼠に情報集めさせてんだろ」
カナタのポケットからアポロが「呼んだ?」と顔出した。
否定しないのでぐいぐい押していく。
「他の奴に依頼渡すときだって鼠だろ? 良いじゃん行こうよー」
「なんでそんな一緒に行かせたいわけ? 私あれだよ。武器リコーダーと本だよ」
「死亡フラグ回避だよ」
(こいつ私を盾にする気だな)
よくよく見ればみつこの手には武器化したロアがいた。
(逃がす気もない……だと)
「お前のほうがあっちのこと詳しそうだしいくらでも危険回避できそうだしな」
カナタは少し思案した後、微笑んだ。
「分かった。じゃあ一緒に行こうか」
「そうそう、それでいいのだよ」
「上からか。そのかわり次の私の頼みは断るなよ」
「金による」
「お前は頼みを金で請け負うのか」
「HUNTERですから」
「滑舌よく言ってもゲスだぞ!」
仲村は店の前でもめている二人を、注意するかしないか悩んでいるのであった。
(ま、まあ、仲良きことはいいことかなぁあ~?)
お客さんも出れず、入れず、ちょっと困ってるんだけどね。
二人はまだ動く気配はなかった。