戻ってみた
投げられたみつこは地面に埋もれながら心の中で叫んだ。
「絶対リィシャぶっ殺す」
叫んでもなければ心の中ですらなかった。
死の宣告を呟きながらみつこは起き上がった。体についた泥を払い、周りに気を集中させる。
【うぉぉぉぉおおおん】
亡者どもの雄たけび、目の虚ろなモンスターが暴れ、お互い噛みつきあっている。
「はあ、なーんか狂気的な場面だね。ね、ロア」
横を見た。
いない。
「!!!」
みつこは360度回転してみたが、居ないもんはいない。
「最近ロア不在率高いな」
主にリィシャのせいで。
自分がリィシャに攻撃命令だしたことなどを棚に上げつつ、みつこは懐から『防護の札』(バンビ社アイテム500円)を体に張った。これで低レベルの攻撃はほぼ無効だ。
スタスタ。歩き出すと、フードの中がもぞもぞしだした。
「?」
「にゃあ」
「あぁ、ノアが頭に乗ってたからロア降ろしてたんだっけ」
ノアを腕に抱き、再び歩き出した。
幽霊には物理攻撃が一切効かないから、ノアが居てもしゃーないっちゃそうだけど、一人で肝試しするよりかはマシだ。
ちなみにどこに向かっているかって?
知らないよ!
薄暗い道を進んでいく。時々聞こえる雄たけびも、慣れれば馬鹿らしくなってきた。
「なーにが【うぉぉ】だっての。バッカじゃねーの?」
どどどどどdd……
「あん?」
みつこは後ろを振り返った。
毛猛武の群れがこっちにまっすぐ向かってきていた。
「うぉおおおおおお!!!???」
急なことにびっくりしつつ、みつこは先ほどバカにしていた雄たけびを上げながら走り出した。
綺麗な一列。
「うおおおおっ!? ちょ、何事? なんで? なんでなん?!」
なんでまっすぐこっち来るですか!?
必死に逃げながら周りを見る。
隠れるところも、逃げ込めそうなところもない。
「あら吃驚一直線レースゥうううううう!!!!」
回避力と素早さのあるみつこだったが、持久力はない。
「ヨダレでそう」
「にゃあ!」
ノアの鳴き声が聞こえるのと同時に、足が浮いた。
「え?」
足の下を見れば、轟轟と唸る川の激しさが見える。
上を見れば、緑ではなく青い空。
崖のようです。
これは……
「浮いてますね」
重力に逆らえず、落ちた。
「きゃあああー!」
と
「ぶひぃー!」
「ぐふうっ!」
背中をもうアタックされ、みつこは向こう岸にぶっ飛んだ。
毛猛武が川に落ちていくのが見える。
「助かったけど、助かってないかも」
背中がとってーも痛いんでーす。
札張ってなかったら、折れてたね。
「自分の判断にグッジョブ」
腰を抑えながら立ち上がった。
「!!!!」
空気が変わった。
重く淀んだ空気から、冷たい冷気の様な切れそうな空気。
憎しみから、殺意に変わったような、そんな気配。
「……ノア」
子猫のノアをおろし、大小魔法で大きくした。
「GO!」
ロアよりは大きくならなかったが、乗れなくもない。
木々を避け、気配のあるところへと向かっていく。
何故か、とても嫌な予感がした。
光がさした。
「っ」
どうやらうっそうとした森を抜けたらしい。
しかし、やはり何の異変もない。先ほどのは杞憂であったのだろう。
「あれ?」
サキのいつもつけているリストバンドが木の枝に引っかかっていた。
「器用な」
ノアから降り、リストバントを手にした。どうやらすれ違ったのだろう。ノアがふんふんと森の中のほうを向いて匂いを嗅いでいた。
戻るしかないのは分かるが……若干めんどくさい。
「チッ。しゃーない。もどるか」
再び森に足を運ぶ。と、入った途端、マヨウサと目があった。
いやーん。
「……こっちだっていやーん」
迷わされたら泣けるしな。
みつこはふとあることに気が付いた。
「リィシャがいるってことは、あいつら迷ったな」
迷子属性プラス先頭走るものについて行くという最悪コンボだな。きっとそうだ。
再び森の中に入る。ワーウルフのしずくをまくのも忘れない。
「あれ?」
森は先ほどとはうってかわって静かだ。
「ねーノア。うおおんが聞こえなくなったね」
「にゃあ」
ノアが急に走り出した。
川を越え、崖を駆けあがり、ついた中心部。
「ノア……」
頭をつかんだ。
「……舌噛んだぞ、この猫がぁああ」
しゃべってたのに急に走り出すから思いっきり舌を噛みまちた。
ここがロアとは違うところだ。
「調教が足りんようだなぁあああ」
【舌ぐらいで騒ぐなよ!!】
「重要だ!! ん?」
みつこは後ろを振り返った。
「あれ?」
サキ達がいつの間にか背後にいた。
ただ、違和感がある。……なんで?
「なんで透けてんの? 幽霊みたーい、やっだー」
と、砕けた口調で言ってみたものの、心当たりがあるのがさらにいやだわ。
【死んじゃった】
てへっと言わんばかりの口調でリィシャは舌を出した。
「死ねぇええ!!!」
みつこはリィシャに殴りかかった。
しかし攻撃はカラぶった。
「チィッ!!」
【おいやめろよ! そんなぶちキレそうなことしたか?!】
【っていうか僕もう死んどんやけど……】
がさささっ。
木の上からなにか降りてきた。
「!」
みつこが身構えたが、おりてきたものはロアだった。
「ロアー!」
抱きつけばもふもふした毛皮が迎え入れてくれた。
【そいつもお前同様危機には敏感だったな】
【僕らおいてさっさと逃げたもんな】
「よしよしいい子いい子」
【聞けよ!】
私に支障でないなら問題ない。と、帰ろうとすると音もなくヤスコが目の前に現れた。一番幽霊幽霊してて怖かったです。
【なあみつこ】
彼女の背後には幽霊海里が、これが本当の背後霊なんちゃって(笑)
【コロスで】
「ごめんなさい」
【助けてくれんなら】
「文法オカシイ!?」
スー……白い霧が森に立ち込めた。
「お、何?」
【姫や】
まだ成仏してなかったのか。
【今失礼なこと思わなかった?】
「黙れリィシャ成仏させるぞ」
【えええ】
姫が目の前に降り立った。
【どうなされますか】
「え? いきなり?」
姫は厳しい顔をしていた。
【魔王サーガの魔法によって彼女らは幽体になってしましましたが、まだ大丈夫なんです】
「まだ大丈夫って?」
【死の魔法『冥界への道』は、受けて七日以内に魂を肉体に戻せば、無事生き返ります】
「ほほう」
みつこは周りを見た。
何もない。あえて言うなら名前も知らん花と草が生えている。
「お前ら死体は?」
【死体いうな。まだ生きてるんだろ】
【おそらく魔王サーガが持って帰ったんでしょう。なぜかは分かりませんが】
「抜け殻もってかえってどうすんだろうね。ふつう食べるなら魂じゃないの?」
【抜け殻言うな】
「もーさっつん我儘」
幽体から発せられる殺気が尚冷やっこい。
「分かった分かった。みつこ様がどうにかしてやるから、とりあえずお前らはお前らでどうにか策考えてろ」
【みつこどこいくん】
「カナタんとこ。あいつならなんかアイデアだすだろ。出さなくてもロード社のアイテムを出してもらう」
【狙っとる……】
みつこはノアを元のサイズにもどし、ロアに跨った。
「さあ、んじゃちょっくらいってくるわ」
去ろうとしたみつこに、サキが呼び止めた。
「あん?」
【なんか物を置いて行け】
「やーだあ、追剥?」
【ちげえよ】
目が光った。
【人質ならぬ物質だよ】
みつこは舌打ちした。
【つっても、なんでも揃えれるしなお前……よし、ノアおいてけ】
「ええええー」
【いいだろ、おいてけよ】
あまりにもひつこいので、ノアを置いて行くことにした。
なんてことでしょう。信頼がありません。悲しいことですねぇ
「よかろう」
ノアを置いて行く。
(いざとなればロアの移動魔法でノアぐらいならさっさと手元に戻せるんですけどね)
信頼のできない言葉を思いながらみつこはもどっていった。