叫んで叫んで叫んで
降り注ぐ刃に、みつこは目を閉じて嗤った。
「おっそいよ、みんな」
爆発音とともに壁が粉砕されると、そこから飛び出てきた灰色の何かがみつこに迫りくる武器をすべて薙ぎ払った。
レンに向かって赤い炎がまるで蛇の様にうねりながら飛びついて行ったが、彼は危険を察知して避けた。
「先走って結局やられてんじゃ世話ねーな」
「罠どうやって抜けたの? サキ」
赤い如意棒に炎を纏わせたまま、サキは鼻で笑った。
「仕方ねーから『真の武器』出して燃やした」
「それが真の武器?」
「あぁ、『炎の如意棒』だ。まんまみたいな顔すんじゃねーよ」
サキに蹴り飛ばされると体が動いた。
お?
「僕すごい迷子になってうろちょろしよったらヤスコがおってな、ヤスコがどっかーんってしたら僕ついてったらええかなって、こうやってきたんよ」
「お前小学生並な会話しかできんのか。意味わからん。ヤスコ通訳!」
「うちの真の武器『一掃の音色』でめんどくさかったきん壁壊して進んでたら、リィシャが居った」
「……もういいや」
大体わかったし、みつこが子猫の武器化を解くと、ロアが飛んできた。
そして、「なにこいつ!?」みたいな顔で驚いているのが見える。
「よし、ロア武器化」
ロットに姿を変えたロアを構える。
「今度こそ観念しろ」
レンに杖を突きつけると、彼はふふっと笑う。あくまで優位な表情を崩さない。
「なるほど」
彼が指を鳴らすと、再び体が動かなくなった。
「!?」
「予言通りですね」
(予言?)
彼はゆっくりと歩いてみつこに近寄ると顎を掬い上げた。
「悪を生み出す者現れし時、鍵を持つものこの世を支配する使徒を連れ現れん―――と」
「鍵……」
サキが反応した。ここに来る前にも聞いた単語。
「鍵を持つものが現れたとしたら、これは好都合」
みつこのフードを脱がす。
「!?」
「さぁ、どこに鍵があるのでしょうね」
みつこの服が脱がされていく。
「ちょ、なん? なんで? なんで脱がされれるん? 解せぬ! 変態! あとちょっと寒い!!」
「さあ鍵はどこでしょうね」
「なあなー」
リィシャがサキをつつく。
「こういうのって『エロ同人みたいに!』のやつ?」
「アホほざくな! つうかつつくな!! ……え?」
サキがリィシャを見る。
「リィシャ動けるん?」
ヤスコも首を傾げた。
「え? みんな動けんの?」
よく見れば海里とライも動けていた。
あれ? 催眠系なのか?
しかし体が動かない。
「!」
その様子を見ていたみつこは叫んだ。
「とりあえず助けて!!」
「何を?」
「見れば分かるだろ!! もういい! ロア武器化解いて助けて」
しゅるん、ロアが牙をむける。
レンは武器を構えて下がった。
「とりあえずあとでリィシャ処刑する。っていうか、なんであいつだけ動けるの? 理不尽だ」
「なんでやろな」
処刑宣言を気にせずサル吉を構えてレンを威嚇するリィシャ。
と、サル吉がみつこにとびついた。
「あ」
「バナナ入れんでいい! もぐもぐ」
手持ち沙汰になったリィシャは真の武器を自然な動作で出現させ構えた。
相も変わらず相方に興味ないようで。
「もぐもぐもぐ」
「うちもお腹すいた」
「うき!」
小さい声でつぶやいたやすこのほうにサル吉は走り去っていった。
そのさいみつこの躰から金属音をたてて何か落ちる。
「あ、時計が」
体が動いた。
「……」
レンを見るみつこ。
「魔法『振りかざす刃』正義の」
「遅い! ロア!! 『万能魔法』」
白い光がレンを飲み込んだ。
その際リィシャも一緒に飲み込んでいたのを、サキは見ていた。
(本当に処刑しやがったあああああ!!!)
強大な魔法はその場に納まることなく部屋全てを消し去った。
後に残るは外の風景と、攻撃をまともに受けて倒れているリィシャ
そして
「!!」
相方を盾にしたレンの姿。
「ふふ、すこし遊びすぎましたね」
煙をあげて白目向いている鷹を投げ捨て、口笛を吹くと、空からフクロウが飛んできた。
それは武器化すると死神の鎌のような武器になった。
「特殊魔法『増援』」
レンが増えた。
それぞれ武器を携え、迫ってきた。
「くそ、コンテニューの多いやつめ!!」
「色々アウトだな」
素早い攻撃を避け、応戦する。
「武器化」
サキ、ヤスコは武器化し応戦する。リィシャはどうにかレンの懐に潜り込もうとしていたが、サル吉の襲撃にあい転んでいた。
「ロア、待機」
武器化を解いたロアが「えぇ!?」という顔でこちらを見ていたが、無視して子猫を抱き上げた。
「ノア! 武器化」
しゅるん。あえて同じ死神の鎌で退治する。
「いつの間に相方増やしてんだよ!」
「運命ってやつかな……ふ」
金属音が響き、刃をぶつけあう。
「鍵をよこしなさい」
「やなこった! パンナコッタ~! ってか、持ってないし」
挑発しながら攻撃をする、攻防を続ける中、意識が揺らいだ
「?」
「ふふ、ただの鎌と思って舐めてはいけません。付属魔法で『混乱』を与えるのです」
「ロア!」
「させません」
武器を薙ぎ払われた。ノアが自分で武器化を解いて着地した。
「にゃーん」
「おおう」
丸腰に迫る刃。
ロアがレイに体当たりを食らわした。
「よっしゃ、武器化」
動きの鈍くなってきた三人も含め、解毒魔法を放った。
しかしこいつ粘る。
「レン・ワールゾ……なんでそこまで粘るわけ?」
息を切らせながらも、問う。
「そこまでしてその地位にいたいわけ?」
「……ええ」
彼は悲しそうに笑った。
「実力社会、弱肉強食の世に、生き残るには己の価値を確固たるものにしておかなければ、『意思が強い』というだけで何も持たぬものが頂点に立つ」
あなた達のようなものがね、とあざ笑う。
「僕は生まれた時からエリートなのですよ、父も祖父もハンター協会のトップに君臨した。えぇ、この僕も」
実力も家系も備わった一族。
みつこはリィシャとヤスコをみた。
「それが何?」
「でも、それもこれも『魔物』が居てこそ、『魔物が人に危害を加えて』こそ」
ハンター協会の本来の仕事は『人に危害を加える魔物を倒すこと』
もともと生殖能力の弱い魔物が、生殖能力も強い人に勝てるわけもなく、いつしかハンターになる者が増え始め、自然と魔物の数が減少してきた。
これではいけない。
「このままではハンター協会はなくなります。鍵があれば魔物を呼び寄せることができると思いましたが、情報屋カナタに勘付かれましてね」
しかたなくまがい物の魔王情報で世情を混乱させ、それに乗じてミスター・クレアとカナタを暗殺し、鍵をゆっくり探そうと思っていたのだが
こうして再びカナタの手によって邪魔されている、と
そこまで語るとみつこはレンを殴り飛ばした。
「くだらない」
静まらぬ怒りにみつこは拳を握り叫んだ。
「それじゃまるで私らがカナタの手のひらに転がされてるみたいじゃないか!!」
「叫ぶことそれかよ!」
サキも叫んだ。
殴られた頬を撫で、切れた口を舐めるレン。
「僕は、初めて君を書類で見た時から思ってました……いずれ僕の邪魔をするんだろうなって」
鎌を構えた。
「邪魔するものは誰であれ死ね。死ね。死ね。死ねぇええええ!!!」
走り出した。
みつこも応える。
「ノア!」
武器を手に走る。
そして叫んだ。
「「いなくなれぇええええええ!!!」」
―――ザシュウッ
切り裂かれる音。
どちらのものとも分からぬ赤い血が飛び散った。
「みつこ!!」
「……」
レンの躰が、揺らいで倒れた。
サキ達が対峙していた偽りのレンも消える。
「……『意思の強さが勝敗を決める』そんな世だから……、諦めちゃいけないんじゃないの」
とっくに気が付いていた。
彼は諦めていた。自分の地位も、今の世も、だけど足掻くふりをしていた。
建前にばかり拘って、本当の目の前の道に背を向けて
駆け付けた城の兵士がレンを捕獲する。
「……」
それと同じく取材班がわらわらどこからともなく集まり、兵士につかまっていくレンを好き勝手に報道している。
その様子を見ながらみつこは小さくため息をついた。
「魔物がいない世も、人と共存する世も、悪くないんじゃないの?」
ハンター衰退期でも、人が栄えるなら、それで
みつこは脱がされたフードを拾い、身にまとった。
「結局、鍵ってなんのことだろう」
私たちのうち、誰かが持っているらしい『変革のカギ』
みつこはしばらく考えていたが、ハッとした。
「ハンター協会潰したらmeら廃業じゃん!?」
三人もハッとしたような顔をした。
結果、ある意味自爆したようなものだ。
「「「「まじかぁあああああ」」」」