試合 終わり
みつこがカナタの手にあるものに注目した。
「師匠、カナタの能力って何か知ってる?」
「ン? 剣だろ?」
「え? 剣?」
リコーダーじゃなくて?
将軍の前に立ち、カナタは肩に乗っていたアポロを投げ捨てた。
「ちゅう!?」
なぜ投げ捨てられたと悲しそうにおよよとなくアポロを無視してカナタは将軍に告げた。
「私はアポロを使いません。この木剣であなたと戦います」
「ふざけて、いるのか?」
血管を浮き上がらせる将軍をなだめるようにカナタは手をひらひらとさせた。
「いいえ、そもそもアポロは他のハンターの様に武器にはならないので、あえて使わないのです。能力を使えばあなたとは戦う前に決着がつく」
「確かに操りの能力だもんな」
そしてリコーダーだしな。
「なあみつこ」
サキがみつこの服を掴んで呼んだ。
「何?」
「あいつ何者なんだ?」
「クエスト屋情報屋ハンター協会幹部ロード社の社長」
「そういうことじゃなくって」
じゃあ何さ
「あいつ、俺たちをどうするつもりなんだ」
「どうって?」
「レベル上げさせて、何させるつもりなんだ」
「王様の前で不穏の気があるとか言ってたじゃん。たぶんあれに担ぎ出すつもりなんだろうさ」
どのぐらいの面倒事か分からないけれど。
サキの顔はまだ納得がいかないと言わんばかりの顔だ。
「……本人に聞いてみたら?」
そのほうが早い。とみつこがいうと、サキは首を横に振った。
「聞けるわけねえだろ」
「だろうね」
拳を握って首を掴まれた。怖い怖い
「開始!」
王の言葉に将軍は首を切りに入った。カナタはその動きを読んでいたのか高く飛びあがり、将軍の背後をとり、同じように首狙いで木剣を振るうが、ガードされた。
ランジェが歓声をあげた。
「あいつ引きこもりのくせに肉体派なのか」
真剣で半分になった木剣を投げ捨て、カナタは迫る攻撃をかわし、拳を構えた。
「ひゅっ」
カナタはその小さい背を活かし、将軍の懐に潜り込み膝に向かって正拳突きをかました。
「うっが!?」
崩れた将軍に追い打ちをかける。
「えぐいなあいつ!」
顔面、もしくは首、そして心臓のある部分に拳や踵を打ち込んでいく。
何度も立ち上がる将軍に飛び後ろ回し蹴りを食らわせ、地面に倒した。
「これが結果です将軍」
カナタは将軍に近寄りながら言った。
「ハンターは『命を狩るもの』……相手が魔物だろうが、獣だろうが、ましてや人だろうが」
気丈に立ち上がり、人語とは程遠い雄たけびをあげ、切れた唇から血を飛ばしながら将軍は剣を振り上げたが、カナタは下から将軍の顔面を殴り上げた。
「殺すときは殺します」
赤い血が地面に溜まる。
観客は何も言わない。
何人かの貴族のお嬢様は気絶したようだ。
「将軍が弱かったのか、それとも……」
カナタが強かったのか。
倒れたまま動かない将軍を見ながら、カナタは言葉をつづけた。
「だからこそ、騎士が必要なのです。悪を倒し、人を守るものが」
王のほうを見た。
「……ふむ」
「余計な劣等感から訓練を怠ることのないよう、軍事の強化をお願いします」
「言われずともじゃ」
王が頷いた。そしてすっと手を挙げた。
「この勝負、ハンターの勝利じゃ。皆解散せよ」
ランジェは何か言いたそうな顔をしていたが、女官に中に戻るよう言われ、王と一緒に城に戻って行った。
拍手もない中人々は去る。
みつこはカナタに近寄った。
「楽しかった?」
みつこは目を見開いた。
カナタが笑みを見せる。
「闘うときの昂揚感、臨場感、倒した時の爽快感、圧倒的な差に恐怖する人民の視線、痛みや恐怖……慣れた?」
そこにいるのは、カナタ。
なのに
「そんなもん、……感情じゃ、ないだろ」
「……」
カナタの顔に笑みが消えた。
そしていつもの口調でアポロの名を呼んだ。
「もう夕暮れだな。王の象の前まで送る。新家と待ち合わせしてるんだろ」
スタスタ歩いていくカナタの背を見ながらハンター・ガールは顔を見合わせた。
「あいつ頭オカシイの?」
やすこの言葉に、誰も否定も肯定もできなかった。
ハズキはみつこの頭を撫でた。
「俺はお前を信じてるぞ」
どういう意味だろうか。問う気も萎えていたみつこは何も返さず、歩き出した。
運命の輪はすでに回っていることに気が付かないまま。