1 魔法少女 みつこ
この世は不変の中にある。
同じことを繰り返し、決まった定めの中を人は何の疑問も抱かず生きては死んで、生まれては老う。
彼女らは知らない。―――始まりを
彼女らは知らない。―――終わりを
確固たる意思を持った者が『強者』として成り立つことができる、そんなちぐはぐな世界。
たった一つの国しか存在せず、いくつものダンジョンが存在し、村と隣接するように魔物が住む、そんな不思議な世界。
ハンターは戦う意思の強いものにとってまさに『天職』
一年前に正式にハンターになった彼女もまた、その能力をみごとに開花させた一人であった……。
「カナター?」
扉を足で蹴って開けて中に入ってきたのは見事なゴスロリの少女だった。
ロングフードから流れるように見える金髪が日の光を受けキラキラと光っていた。
カウンターからカナタと呼ばれた少女が顔を出した。大きめの紳士ハットがとても浮いて見える。
その顔は「私今とても不満です」といわんばかりである。
黙って見つめていると、もごもご口を動かした後、かすれた声で言った。
「あぁ、みつこか……。私は今猛烈に眠いから、……帰れ」
「働けクエスト屋」
金髪に似合わぬ名前のみつこと呼ばれた少女は乱暴に机を蹴っ飛ばした。
彼女の肩に乗っていた虎模様の白猫が机の上に降り立ち、一瞬で大きくなった。
―――いや、正しくはその猫の本来の姿、ホワイトタイガーに戻っただけなのだが
「なんでハンター・ガールはすぐパートナーを前に出すかな」
「こっちがよかった? 『武器化』」
虎の姿が糸の様に形をほどきながらその姿を全く違うものへと変化させた。
赤い玉が中央にあるロングロット。中央の周りをやや小ぶりの五つの紅い球が浮いている。
ハンター登録をハンターを統括している協会の受付で済ますと、相棒という変身できる動物をもらえる。
武器に変身する動物は希少なのでハンターにしか持つことを許されない。変身武器の種類は動物によってさまざま
カナタは脅しに屈せず、手元に光る本を開いて読み上げた。
「ハンター・ガール『みつこ』。新人の中で依頼コンプリート率100%」
「当然」
胸を張るみつこを無視して、つづける。
「オールマイティー魔法使用可能。光属性。パートナーは白虎、名前はロア。変身型は魔法のロット。生まれつき『大小魔法』を使える。天才型の金の亡者」
「最後余計じゃこら」
ロットでカナタの頭を叩く。
この情報こそカナタの能力。カナタの『本』はただの本ではなく。所有者の情報を基にさらに心理まで相手のことを知ることができるややチート本なのだ。
持ち手以外が持てば鉄筋の如く重く、投げるとすごい破壊力を発揮する。
これは俗にいうハンター素質ある人が持つ、『真の武器』と呼ばれるものだ。
「まあいいや。はい、クエストね。はいはい」
どこからともなく鼠が現れメモ用紙を渡して去って行った。
「……」
カナタの能力の一つか、いつも鼠が現れる、みつこは嫌そうに眺めながらカナタにリクエストする。
「楽で金のいい時間短縮系ないの?」
「あるわけねえだろ」
「チッ」
(なんでハンターって自我の強いやつばっかなんだ)
電卓をそっと、ミツコに見せた。
「安ッ」
「急ぎだから。はい、お願い」
電卓に目を向けていたら、紙をぐいぐい押し付けられた。少しぐらい待てよと言いながら持っていたものを机の上に置いて、正式なクエストの紙に目を通す。
「お母さんに『月の花』をあげたいから、死者の森につれてって。だあ?」
「よろしく」
「まちんしゃい」
紙を机の上に叩きつけながらみつこは睨む。
「死者の森っつたら中レベルダンジョンでしょ? そこに一般人つれてけってか」
「おう」
「おうじゃねーよ」
頭をつかむと帽子を盗られないように抑えている。
どんだけ大事なんだと叫んでもめていると、扉が開いた。
「時間ないよ! 連れてって」
「ほら、受理されたって聞いて急いできたんだから」
「……」
子どもがワラワラ集まってみつこのフードを引っ張った。みつこは自分よりも小さい子をみてめんどくさそうな顔をした。
「よろしく」
同じことを二回言った後、カナタはどこからともなく垂れてきた紐を引っ張った。
「あ?」
床がぱっかりと開いた。
「……おお!?」
そのままどうなったか分からないまま外へ放り出された。地面に潰される前に相方・ロアが下敷きになってくれたおかげで痛みはない。
子供たちはふつうに扉から「わーっ」て追い出されるようにでてきた。
相手が誰であれ容赦しないらしい。
少し感心していると、子どもの一人がみつこに気が付いて急かした。
「はやくー、月の花は満月の日にしか咲かないんだ」
「……(こくこく)」
「お母さんの誕生日明日なんだよ」
もう日が暮れてきている。どっちにしろ今日取りに行かなければ母親の誕生日に間に合わないだろう。みつこはため息を吐いてロアを元のサイズに戻し、背に乗った。
「ほら、いけばいいんでしょ」
「うん」
森へ向かう途中、子どもたちの名前を聞いた。
長女があかこ。長男があおや。末っ子が、末っ子って名前らしい。どうした親。
「と、着いたけど。どこにあるわけ?」
死者の森、そこはゴーストタイプやビーストタイプが蔓延るダンジョン。
正直アイテムの消費はんぱないから来たくなかった。
「あそこ」
山のてっぺんらへんを大雑把に指差す子どもたち。みつこは指差す長男の頭を殴った。
「いってー!?」
「はよ言えや。降りなくてよかったじゃん。たくもー! ロア……れ?」
ロアの背中に乗っていたはずの二人がいない。
「どこいった?」
さらに振り返ると、長男消えたいた。
「……」
―――― まよわせーる まよわせ~る
「あぁ、ワーウルフのしずくまくの忘れてたわ」
森のダンジョンには必ずいるという『マヨウサ』
これの特性は名前のどおり通り人を迷わせる。攻撃はしてこないがめんどくさいことには変わりない。
「ロア、匂いで分かる?」
ワーウルフのしずく一個1200円を適当にばらまき、その背に乗った。
進んでいると毛猛武という当たるまで着いて来るイノシシ型のモンスターが現れたので、魔法で瞬殺した。
雑魚に用はない byみつこ。
「みっつけ」
近くに居たのでさっさと見つけ出した、なぜか木の上にいる兄貴を見上げる。
「怖くなんてないんだぜ、降りれなくなんてないんだじぇ」
最後まで言う前にみつこは黙って木を蹴っ飛ばし、兄貴を虫と同じように揺らし落とした。
長女は兄貴のいたところから大分離れたところで、この森の湖の精霊に助けられているのを見つけた。マヨウサ侮りがたし。
「さて、あとは末っ子だけど」
みつこは顔をあげた。
「げ」
そこにいるのは、ワーウルフ。
満月にはほとんど出現しないはずのワーウルフ。真っ黒の剛毛な毛を逆立て赤い目を光らせながら走ってきた。
「『武器化』! 結界」
ロアを急いで武器化し、結界を張った。しかしワーウルフの闇魔法で結界が数分と持たず解け始めた。みつこはひるまず攻撃魔法を唱えた。
が、闇属性はすべてを飲み込む。
「く、一旦退くか」
「末っ子がいない!」
「知ってる……ってマジでそんな名前か!?」
二人の首根っこを掴んで山の頂を目指す。こうなったらさっさと花手に入れてとんずらこいたあとで末っ子をゆっくり探す。
猛スピードでワーウルフから逃げるが、影から移動したらしいワーウルフが目の前に現れた。
「【氷柱】!」
魔法で出現させた氷柱を飛ばすが、闇に飲まれた。
「あーもう、闇属性と相性最悪」
みつこ自身は光属性だが、レベルがたりてないゆえに闇を退かせる魔法を持っていない。
舌打ちし、次の攻撃をと動いたとき、遠くからオオカミの遠吠えが聞こえた。
「!?」
ナカマか、と身構えたところ。光が目の前を通り、銀色に輝くオオカミがワーウルフに体当たりした。
「狼王!?」
「綺麗……」
森を荒らすものを許さず、魔法を使う高レベル獣神
「よっしゃ、逃げるぞ」
そのまま山を目指し、月の花が咲いているところまで着いた。
「あ、末っ子だ」
「一石二鳥!」
早く花を摘めというと、末っ子がしょんぼりした感じで首を横に振った。
「花がしおれちゃってるの」
なぜが本当に元気のない花。もしかしてワーウルフがここを通ったのだろうか。みつこが思案していると影からワーウルフが現れた。
「……この件はあとでカナタにいうとして」
ロアを武器化し、ロットを構えた。
「あんたらは下がってな」
「うん」
下がったのを確認し、ワーウルフと対峙する。
ワーウルフは唸りをあげ、駆け出し、飛び上がった。みつこはそれを見極め、叫んだ。
「光魔法『月光の恩恵』!!!」
月の光をロットに集め、膨大な攻撃技として発射した。
本当は満月限定の超回復魔法なんですけどね。
(応用できる私ってほんと天才)
自画自賛しながらみつこはやりきった。
攻撃魔法として使用したが、光魔法の効力が花にも届き、しょんぼりしていた花は復活した。好都合と花をいただいたが、問題発生。
ぶちっぶちい、ぶちぶつ、ぶちい
子どもって乱暴&乱雑だね。
「ちょーっと、君たち? 花を乱暴にツンダら」
唸り声が聞こえた。ゆっくりと振り向く。
「怖いオオカミが……」
狼王がうなってらっしゃる……これは、オワタ。
「うぎゃああああああっ!!」
みつこは死ぬ気で逃げたが、先回りされていた。
初級ハンターがどうして倒せようか
みつこは考えた。そして思いつく。
「ロア」
みつこはふっと微笑んだ。
「行くよ。光魔法『瞬間移動』」
倒せないなら逃げればいい!
魔方陣がいくつも重なる様に出現し、虹色の光を放ち始めた。狼王が飛び出した。間に合うか、ギリギリまで粘る。
「っ」
遠くにいたはずの狼王の牙がみつこに向けられる。やばい、ギリギリ間に合わない! ―――その鋭い爪が届くかと思ったその時
(……笛の音色?)
狼王の動きが鈍った。
「発動!!」
みつこは魔法を発動し、森を離れた。
森を出れば追うことはしない、ばくばくと早い鼓動を抑えながらみつこはしゃがみこんだ。
「くぉら糞餓鬼どもが、余計な仕事……」
ふわっ。
「!」
月の花でできた花冠を頭に乗せられた。
「ありがとう」
きゃっきゃと去っていく兄妹。
みつこは、じゃれつくロアの頭を撫でながらふっと笑った。
「いつ作ったんだよ」
上を見上げれば白い光が差し込んでいた。いつの間にか朝が来てしまっている。
「……行くか」
カナタに報告することがたくさんある。疲れ切った体を労わりながら、みつこは眩しい朝日の中消えていった。
その口に微笑みを残し頭の花冠に手を触れながら……