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HUNTER・GIRL  作者: 一理
ワンステップアップ
19/57

試合 四人目

 ヤスコは男の前で立ち止まった。

 頑丈な鎧に身にまとい、仁王立ちしている男はまさしく騎士

「むう」

 みつこの大小魔法で小さくしてもらっていた海里を前に出して、ヤスコは後方に下がった。

「みつこ」

「あいよ」

 みつこが指を鳴らすと、海里は元のビックサイズに戻る。

 観客がおぉっと声を上げた。

「始め!」

 王の声で開始される戦いだが、どちらも動かない。

(ヤスコにはもう少し積極的に動いてもらいたい)

 カナタはヤスコを見ながら思案する。

 さて、どう操るか

 ―――ガシャン


 騎士が動き、大きな剣がヤスコのほうを向いて振り下ろされたが、海里がヤスコを背に乗せ移動した。口から吐く氷で道を作りすいすい滑って行く。

(かといって、海里を使用禁止すれば『真の武器』をつかわざる得なくなる。できれば、ヤスコにはそれを使用してもらいたくないし)

 騎士は追わない。

 ただ剣を構える。

「……」

 ヤスコは海里の背中に乗ったまま何も言わない。

 海里は進路を変え、敵の方向へ突っ込んでいった。

「ガゼルを舐めるなよ」

 不敵に笑う将軍に、カナタは反応する。

(ガゼル……?)

「ガゼルだと」

 ハズキが反応した。

「知ってるの?」

 みつこが聞いた。

「ああ」

 

 海里が突っ込んできたのを、剣で切り捨てた。

「!!」

 赤い血が舞う。

 海里はバランスを崩し、大地を転がって行った。ヤスコは受け身をとることができずそのまま海里とは違うところに転がり倒れた。

「海里の猛攻撃を跳ね返した!?」

 サキが驚いて叫ぶと、リィシャが何かに気づいたようにハズキを見た。

「同じ気迫や」

「正解。よく気が付いたな」

 カナタが褒める。

「ガゼルはハズキの弟だよ」


 鎧をまとったまま、ガゼルは剣を構えなおした。

「海里……」

 主を守るため海里は起き上がった。

 口から氷を吐き出す。

 無数もの氷柱がガゼルを襲うが、彼は軌道を読み、避け、避けきれぬものは剣で切り捨て、確実にヤスコに近づいて行った。

 ヤスコはそれに気が付き、立ち上がって逃げ出した。

(良い判断だ、ヤスコ。でもお前じゃ逃げ切れない)

 サキがはらはらしていると

「ハンターが敵を前に逃げるか」

 という将軍の言葉に他の兵も笑う。

「なんだと!?」

 みつこはサキの肩を掴んで何も言わない。

 海里がヤスコとガゼルの間に入って武器化した。

 美しい模様が施された盾に剣が迫る。

「うう」

 半べそかきながらヤスコはその剣を受け止めた。

 ガゼルはそのまま剣で盾を押す。

「盾ごとつぶす気が! ヤスコ薙ぎ払え!!」

 サキのアドバイスに小さい声で「むりー」と返した。

 ただでさえか弱いのだ。

「新家が見たらキゼツものだな」

 のんびりどうでもいいことをいうカナタに、サキは八つ当たりを込めて殴った。殴られたほうは目を丸くさせながら「解せぬ」と異議を申し立てていた。


「た、盾……『氷魔法』」

 ヤスコが叫ぶと盾の面が光り、氷を出現させ飛ばした。

 ガゼルは持っていた盾で受け止めたが、盾が氷漬けになり惜しげもなくそれを投げ捨てた。

「ひゃう!」

 逃げることも動くこともできないヤスコは再び攻められる。

 盾を何度も攻撃される。

 振動が腕をしびれさせ、ヤスコは辛そうだ。


「ちなみに補足情報だが、武器化した盾の相方にはたいていの攻撃は効かないが、なんども同じように喰らい続ければいずれはそれはダメージになります」

「つまり、今ダメージ受けてるってこと?」

 みつこの言葉にカナタは頷いた。

 もし武器化がとけた海里が動けなくなれば、ヤスコに勝機はないに等しいだろう。

「降参制度ってないんかな」

 哀れに思ったらしいトゥディがそう呟く。

「ハンターに降参なんてないよ。魔物相手に降参してみろ」

「……うう」

 死ぬのと同義だ。

「きゃあああ」

 ヤスコがとうとう盾を手放した。

 地面に倒れるヤスコ

 騎士はヤスコのスカートを踏んで、動けなくした。

「やっ」

「安心しろ。峰打ちで済ます」

 剣を振り上げそういうガゼル。真剣持って峰うちとかいうところがさすがハズキの弟 

 みつこは感心しながらハズキを見た。

「なんだ」

「弟はモテるのかなって」

 絞められ中。


 ぶん。

 剣が振り落される。

 ――― バキィ

「う」

 ガゼルの兜が地面に落ちた。

「主に……手を出させは、せんぞ」

「おぉぉ!? 誰!?」

 観客がざわめく。

 海里の人型モード

「アレは有りなのか?」

 カナタが腕を組みながら思案している。

「一応パートナー=武器なら、有なんじゃないかな」

 審議している中、海里は氷の剣を作りだしガゼルに襲い掛かる。

 焦らず冷静にガゼルも対応する。

 魔法を放っても避けるガゼル

「あ、あ……」

 ヤスコはおろおろしている。

 どうしたらいいのか分からないらしい。

「あ」

 ガゼルが落とした兜が目に入る。


「くぅ」

 しょせんもとはペンギン、本職の剣技に押され、再び剣を首元に突き付けられる。

「悪いが、お前から消えてもらおう」

 剣がふるわれる。

 と

「えい」

 兜が飛んできた。

 ガゼルはそれを剣で弾き返した。それを見てヤスコは叫んだ。


「魔法!」

「承知」

 至近距離で放たれる氷魔法。

「………………」

 全身を氷づけされたガゼルは動けず、何も言わない。

 その様子を見ていた王が手を挙げた。

「ハンターの勝利。はやく氷を溶かすのじゃ」

 生きてるのか? と観客がざわめく中、ハズキは氷漬けにされた弟の前に立った。

「お前らしいな……わざと負けてやっただろう」

 氷にひびが入り、大きな音をたてて崩れた。

 中にいたガゼルは息を切らせながら笑い、兄の手を取る。

「騎士なら、同然、な、ことです……たとえ、相手がハンターで、敵でもね」

 真っ青になったガゼルにトゥディは毛布を渡す。

 ヤスコは獣化した海里の上にのってその様子を見守っていた。

「さすが師匠の弟、ハイスペック……そして兄より心広い。こっちに師事したほうがよかったかしらん」

「鍛え直されたいようだな。まず師を敬う心から教えようか」

「冗談ですよおやだなああ!」

「仲良いなぁ」

 和気藹々としているハンター・ガール。

 カナタは本を閉じて、満足そうに笑った。


「勝負はとっくの前に決まってますが、決着つけますか?」

「戦いを放棄などしない!」

 将軍は剣を持って戦いの場へ向かった。

 カナタは何も言わず、無表情でその背を追った。

 その手には木剣を携えて……。

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