俺が勇者パーティーを追放された理由は、足手まといではなく性格が悪いからでした。
ざまぁが好きで書きました。ちょっとギャグに走り過ぎたことは反省してます。
「ネスオ。お前をパーティーから追放する」
勇者ユウヤが俺に言った。俺を? パーティーから追放する?
きたあああああああああああああああああ!!!
追放きたあああああああああああ!!!!
追放の言葉を聞いた瞬間、俺の心は歓喜に満ち溢れた。追放だ! やっときた。思えばここまで長かった。
できないふりをするのは大変だった。いかにもパーティーの足を引っ張ってる感じを出すのにどんなに苦労したか。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
転生前の記憶を思い起こせば、俺は定職にもつかず実家の部屋に閉じこもっていた34歳の男だった。何をするわけでもなく、毎日毎日【ざまぁ】のタグを辿っては、なろう小説を読みふける典型的な子供部屋おじさんだったのだ。
あの頃の俺はとにかく【ざまぁ】が大好きだった。自分の人生では絶対にないと言い切れる爽快な逆転劇。そんな素敵な物語が、なんと無料で、しかも外に出かけなくても読めてしまう。そんな物語をネットに上げてくれる作者様には感謝しかない。誤字脱字? 視点が違う? そんな些細なことはどうでもいい。とにかく爽快感のある【ざまぁ】さえあれば何もいらない。はっきり言って出だしの半分は読んでないし。【ざまぁ】の部分だけあればいい。
そんな事を毎日思ううちに、「俺もざまぁしてみたい。異世界転生してみたい」と考えるのに時間はかからなかった。気がつけば走ってくるトラックを睨んでいる。そんな毎日を送っていた。
そんな俺についに異世界転生のチャンスが訪れた。最近ではおっさんでも異世界転生の可能性があると知っていたので、今か今かと待ちわびていたのだ。
いつものように、人通りが少なくなるのを見計らい、夜中にコンビニまで唐揚げと焼き鳥皮タレを買いに行った時のことだ。
前を歩いていた高校生の男の子の足元が突然光り輝き始めた。高校生はその光に驚いて体がすくんでしまったようだが俺は違う。自他ともに認める【なろう小説マニア】の俺にはすぐに分かった。あれが異世界転生の光だと。他のやつらはどうか知らんが、俺にとっては希望の光だ。
そうと分かると俺の行動は早かった。
自分でも信じられないくらいのスピードで高校生に向かって走っていた。
そして、次の瞬間、俺は、高校生を突き飛ばしていた。
高校生のいた場所に立つと、俺の体は徐々に光に包まれる。その時の感動は今でも忘れない。
異世界に行けるなら転生でも転移でも構わない。なんなら女神がクソ女神でも!
「な、な、な、なんで?!」
俺を見た瞬間、女神の口から出た言葉がそれだった。
「あ、あなたを呼んだ覚えはないんですが?」
「知ってる」
「じゃあ、なんで!」
「来たかったから」
「なにそれ!」
その後、俺は女神に如何に自分が異世界転生に憧れているかを必死に訴えた。若さで負ける俺には熱意しかない。はっきり言って、この熱意を就活に向けておけばどんな会社でも内定が貰えたと思うがもう遅い。
「わ、わかりました。その熱意を買いましょう」
俺の熱意が通じたのか、ようやく女神は俺の異世界転生を認めてくれた。
なんならこの時点でスキルの無い無能者として女神に廃棄されてもよかったのだが、「そんな酷いことするわけないでしょう! 女神を何だと思ってるんですか!」と怒られた。
こうして俺は、異世界転生に成功したのだ。突き飛ばした高校生には悪いことをしたと思っている。俺に突き飛ばされた瞬間「ああ? 僕の転生のチャンスが!」って声が聞こえてきたもんな。でも謝るつもりはない。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ネスオ。お前をパーティーから追放する」
何度も言うが、俺はこの日を待ちわびていた。
【追放】 なんといい響きだ。
勇者パーティーから追放される。できれば幼馴染が勇者に寝取られていればもっと良かったのに、勇者ユウヤはそんなことはしなかった。というか、そもそも俺には幼馴染がいなかった。
パーティーの中で虐められたり、馬鹿にされたり、荷物持ちをさせられて、あげくの果てには囮としてダンジョンに見捨てられる展開まで考えていたのだが、残念ながら俺のパーティーのメンバーは意外にヘタレだったのか、そんな事をする奴はひとりもいなかった。むしろ、みんなよくしてくれた。まったく困ったもんである。
でも追放された。よく分からないが追放された。これで俺も追放者だ! 胸を張って言える。俺は追放されたんだと!
きっとこの後、ネコ耳の可愛い女の子が「にゃあ」と言って懐いてきたり、おっぱいの大きな格闘家が「昔から好きだったんですよ」とか言いながら近づいてきたり、美人の女騎士が「お前を追放するとは全く見る目のない連中だな」とか言って俺をサポートしてくれ、最終的にはハーレムを築いて元のパーティーにざまぁする。そんな輝かしい未来が俺を待っているに違いない。じゅる。あ、やばい、よだれが。パーティーのメンバーがドン引きしてやがる。
【ざまぁ】には【ざまぁ】の様式美ってものがあるからな。最後までちゃんとしないと。
「な、なんで、昨日まで仲良くやってたじゃないか? 足手まといにならないように頑張ってきたのに」
いいぞ俺。追放された時の正しい対処の仕方だ。
そんな俺に勇者ユウヤが静かに言った。
「足手まといになっているとは思ったことはない」
「え?」
「それどころか、ネスオは俺より強いだろ?」
「え?」
「正直、ネスオの方が勇者に相応しいとさえ思ってる」
「え? じゃあなぜ?」
ユウヤが言いにくそうに下を向いている。魔法使いのアリアも、賢者ドリーも、聖女サリーも下を向いている。
そして、みんなで目を合わせ、お互いにうなずいて、タイミングを合わせてこう言った。
「「「「性格が悪いから!!!」」」」
魔法使いのアリアが言う「あたしの怪我を治してくれたのには感謝してるけど、いつまでも恩着せがましいのよね」
賢者ドリーが言う「俺が何か言うたびに、「俺知ってた」というのには閉口していた」
聖女サリーが言う「村人の差し入れのお菓子を必ず一個多く取るのが嫌」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あれだよな? 俺が追放されるのは役立たずだからだよな?」
「そんなわけないだろう? お前ほど役に立つ奴はいないぞ」
「そうね。魔法は伝説級だし」
「知識は歩く図書館と言ってもよい」
「剣の速さと言ったら勇者の十倍は速いんじゃないか」
「「「「でも、性格が悪いから!!!」」」」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
結論から言う。夢にまで見た俺の追放物語はガタガタと崩れていった。
俺が追放されたことは瞬く間にギルドのあいだに広まった。ギルドの拡散スピードといったら半端じゃない。おそらく、大陸中のギルドに俺の噂は広まっているだろう。
能力が低くても、パーティーから追放されたら覚醒するのがこの世界のお決まりだ。それが分かっているから、能力の低い追放者は色んなパーティーで取り合うほどの人気だ。
それに、足手まといと言っても、それはあくまで勇者パーティーにとってであって、ランクの低いパーティーからすれば十分な戦力だったりするのだ。
だが、俺の場合は違う。
俺がパーティーを追放された理由は【性格】だ。大事なことだからもう一度言う。能力が低いんじゃない。【性格】が悪いんだ。
こんな俺だが腐っても勇者パーティーの元メンバーだ。ランクはS級だし、ソロでも十分魔物を倒せる能力はあるし、食べていくだけならソロでも十分やっていける。
しかし、俺は【ざまぁ】がしたいんだ。パーティーでは役立たず扱いで、見る目のない勇者に追放されたい。
できれば幼馴染を勇者に寝取られたかったが、残念ながら俺に幼馴染はいなかった。よく考えてみれば、性格が悪かったから幼馴染がいなかったのかも。いや、悪い方向に考えるのはやめよう。
とにかく、勇者に虐められ、魔法使いに蔑まれて、女騎士には馬鹿にされる。でも、俺が抜けたらパーティーは崩壊する! やっぱり俺がいなくちゃ駄目だったと勇者にはハンカチを口に咥えて悔しがってほしい。
でも、性格の悪いやつをパーティーに入れようなんて思うやつはいない。
「また来てやがるぜ、あの性格の悪いやつ」
「あいつ、仲間をダンジョンに見捨てたそうじゃないか」
「俺が聞いた話じゃ、勇者を後ろから撃ったそうだ」
「なんでも元村人の剣士の幼馴染を寝取ったとか?」
今日も冒険者ギルドでは俺の悪口が充満している。おいおい、性格の悪い男どころか完全にクズ勇者じゃねえか。【ざまぁ追放物】どころか完全に俺がざまぁされてる気分だ。自分の悪口なんて聞きたくもないが、金を稼がないと生きていけない。
「あいつ、性懲りもなくパーティーの仲間を探してるのかよ」
「でも腕はいいんだろ? S級だって聞いたぜ」
「あんな性格の悪いやつと組む奴なんているわけないだろ」
「どうせならあの性格が悪いことで有名な令嬢様と組めばいいんじゃねえか」
「そりゃいいな! お似合いだぜ!」
冒険者たちが噂している令嬢のことなら俺も知っている。
名前はメリー・アントワネット。名前からして性格が悪いのが伺い知れる。あの童話の中に出てくる性格の悪い王女と同じ名前だ。最後には怒った民衆に殺されるのだが。
「噂をすればなんとやらだぜ」
その声につられてギルドの入口に目をやると、いかにも性格の悪そうな女が眉間に皺を寄せて立っていた。
「ふん、あいかわらず吐き気がするほど臭いところ」
女はそう言うと、まるでゴミの中にいるような顔をしてハンカチで口を押えて受付まで歩いていく。今にも「お菓子を食べればいいじゃない」とか言いそうだ。
「ダンジョンに行きたいんだけど」
怯える受付嬢に対してさも馬鹿にしているような口ぶりで言う。
「あ、あの、おひとりでしょうか?」
「そうよ。ここのギルドにいる馬鹿たちとパーティーなんか組めないでしょ」
高慢ちき。生まれてこの方一度も使ったことのない単語だが、あえて使わせてもらおう。これぞ高慢ちきだ。
「も、申し訳ありません。ダンジョンに入るには最低2人で入ることが法律で決められたんです」
「き、聞いてないわよ! そんな法律いつできたのよ!」
「先週ですかね」
「なんなの、そのご都合主義は! 馬鹿なの作者は!」
ここからでもアントワネットの性格の悪さが伝わってくる。あれじゃあパーティーの仲間どころか友達だってできやしない。いや、俺も人のことは言えないんだが。
「このギルドにいる能力の低い冒険者と一緒にしないでよ! ダンジョンなんて私ひとりで十分攻略できるわ!」
「でも、法律で決まってますので……誰でもいいのでパーティーを組まれた方が」
「私はS級なのよ! この私と組むことのできる実力者がこんな汚いギルドにいるとは思えないんだけど?」
その時、受付嬢は俺の方をチラッと見た。いや、俺を巻き込むなよ。俺の性格が悪いってのは、みんなのお菓子を多めに食べたりとか、恩着せがましいとか、そんなみみっちいもんなんだぞ。そんな明らかに横にいるだけで不快感を覚えるような女を俺に押し付けようとするんじゃねえ! 俺は今でも【ざまぁ】がしたいんだよ! どうみてもその女は悪役令嬢だろうが!
「あそこに座って「俺は関係ない」みたいな顔をしているネスオさんはS級冒険者です! しかもソロ!」
なあみんな、あの受付嬢が一番性格が悪いと思う俺は間違ってるのか?
「ネスオ? あの性格が悪くて勇者パーティーを追い出された奴か!」
お前に言われたくねええええええええ!!
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ネスオ、お前の剣技は凄いな。性格は悪いけど」
「お前こそ魔法の威力が凄すぎるぞ。性格は悪いけど」
「まあ、ダンジョンに入るにはネスオのような性格の悪いやつでも組まないと仕方ないからな」
「俺もパーティーを組んだほうが色々と都合がいいからな。性格が悪くても目を瞑ろう」
あの後、俺とアントワネットは結局パーティーを組むことになった。お互いに相手の悪口を言い合い、絶対に組まないとギャアギャア言い合ってたら、まわりから「結婚したら?」と囃し立てられ、お互いに気まずくなってパーティーを組んでしまったのだ。
「アンでいいわ。アントワネットって名前嫌いなのよ」
「なんで? いい名前じゃないか」
「小さい頃から何回言わされたか」
「パンがなけれ「殺す、それ以上言うな」」
「わかった。じゃあアンだな」
「うん。その方が作者も楽でしょうし」
いい奴じゃないか。
「この名前のおかけで、小さい頃からお芝居でも悪役ばかりやらされたのよ。サービス精神が旺盛だったものだから、期待に応えなくちゃと頑張ってたら立派な悪役令嬢の出来上がり」
「それは何と言うか、ご愁傷様としか言えないな」
「それでも王太子の婚約者に決まったときは嬉しくて頑張ったのよ。礼儀作法からダンスのレッスンや魔術の研究まで。殿下の力に少しでもなりたくて一生懸命頑張ったの。でも、あの婚約自体が嘘だったのよ!」
嘘? 婚約が?
「あのパーティーの日。婚約解消を殿下から言い渡された時。それはショックだったけど、それでも私は受け入れるつもりだった。私より相応しい女性がいるなら仕方ないと思ったの。でも、あとで教えてくれた人がいたの。そもそも王太子は最初からあの女と結婚するつもりだったのよ!」
「じゃあ、なんでアンと婚約したんだ?」
「あの女が【ざまぁ】したかったからですって! あの女が王太子に「わたし、ざまぁとかやってみたいな」と言ったらしくて、それで馬鹿な王太子はわざわざ私と婚約したのよ! あの女のざまぁのために! ていうかそれ、ざまぁなの? ざまぁの条件満たしてないじゃない」
「……」
「大体、ざまぁが好きとか言ってるやつ、意味が分からないんだけど? そんな力があるなら最初から出せってのよ! 意味もなく力を隠してたのはお前らが悪いんでしょ? 大体、地獄を見てから本気になるなっつうのよ! 最初から惜しみなく力を出してたら、村を追い出されたり、パーティーを追い出されたり、王室を追放になったり、女神様に廃棄されたりしないでしょ?」
「返す言葉もございません」
「何謝ってんのよ。あんたはいいのよあんたは。あんたは性格が悪くて追い出されたんだから」
「いや、俺は、あの……」
「大体ねえ、何年も勇者と一緒に旅してりゃ、そりゃ勇者に幼馴染も寝取られますって! あんたら男だって遠くの美人より近くのヤれる女を選ぶでしょうが!」
こいつ、【ざまぁ】になにか恨みでもあるのか?
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
性格が悪いと言っても、そこはS級冒険者のコンビ。
俺たちは数々のダンジョンを攻略し、いつしか大陸ナンバーワンのパーティーと言われるようになっていた。
「知ってる? 勇者パーティーが魔王に返り討ちに合ったって」
その話なら俺も聞いていた。ユウヤは聖剣を折られ、アリアもドリーもサリーも大怪我をして王都で療養しているらしい。
「ネスオを追い出したパーティーでしょ? いい気味だと思ってる?」
確かに俺の夢は【ざまぁ】だった。それを考えれば今の状況は待ちに待っていた状況だと言える。
でも、俺を追い出したと言っても、あいつらは俺によくしてくれていた。【ざまぁ】がしたくてわざと手を抜いていた俺にだ。
それに、もし今の俺が魔王を倒してあいつらに【ざまぁ】をやったとしても、そこに爽快感などないだろう。
「思わないな。それどころか、俺がちゃんとしていればと……後悔しているくらいだ」
「まったく、性格が悪いからパーティーを組んであげたのにどういうことかしら」
「それはこっちのセリフだ。「お菓子を食べればいいじゃない」とか言いながら孤児院の子供たちにお菓子を配ってんじゃねえよ!」
「い、いいじゃない! あんたこそ捨て猫見たら全部拾ってくるもんだから家の中が猫だらけじゃない!」
「しょうがないだろ! 子猫が捨てられてたらお前ならどうするんだよ!」
「拾ってくるに決まってるじゃない!」
俺たちの言い合いを聞いていた若い冒険者が、ギルドの受付嬢に尋ねている。
「あ、あの人たちって?」
「ええ、性格が悪くて有名なS級パーティーですよ」
「とても性格が悪いようには見えないんですが?」
「性格が悪いって言ってるのは今ではあの二人だけなんですよ。まったく自虐にも程がありますよね。ま、そこが悪いっちゃあ悪いんですけど」
「しかもめちゃくちゃ仲良さそうですもんね」
「もう一緒に住んでるしラブラブにしか見えないんですけどね。本人たちは絶対に認めようとはしませんが」
そうなのだ。アンと俺は一緒に住んでいるのだ。もちろんその方が経済的にいいからであって、仕方なくアンの性格の悪いところは目を瞑っているのだが。
「だからそれはこっちのセリフだって言ったでしょ! 節約のために仕方なくあんたの性格が悪いのには目を瞑ってるのよ!」
「我慢してるのはこっちだ! 昨日も俺のプリンを食べただろ!」
「そんなにプリンが大事なら名前を書いときなさいよ!」
そんな俺たちの言い合いを見て、受付嬢はため息をつく。
「死ねばいいのに、このリア充」
「「何か言った?」」
「何も。それより早くこの依頼を受けてください」
受付嬢が出した依頼には【魔王討伐】と書いてあった。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
勇者たちが失敗した魔王討伐を俺たちはあっさりと達成した。
喜んだ国王は褒美を与えたいと俺たちを城に招待してくれた。
「まったくもってお前たちは凄い。あの勇者でさえ適わなかった魔王をあっさりと倒すとは。お前たちこそ真の勇者ではないか」
「そっすか? あんな雑魚、倒しても自慢にはならないっすよ」
「そうね。逆にあんな雑魚に返り討ちに合うなんて勇者ってよほど弱いのかしら」
俺たちの会話を聞いて国王が舌打ちをする。「ちっ、こいつら本当に性格が悪い」だんだん国王の目が濁っていくのが分かる。
「お前らの功績を考えれば、勇者の称号を与えて貴族の爵位と国王直属の騎士団長の地位を与えるべきなのだろうが」
「貴族って伯爵とか貰えるんすか?」
「何言ってるのよ、魔王を倒したのよ。最低でも侯爵くらいはね」
ここでさすがに国王がブチ切れた。
「だ、黙れ! お前たちが性格が悪いのはよく分かった! いくら強くてもそんな性格の悪い人間は我が国には必要ない! やはり我が国の勇者にはユウヤが相応しい。あの男こそ本当の勇者だ。お前らみたいな性格の悪い人間には用はない!」
国王に追い出され、俺たちはゆっくりと自分たちの家に向かう。
「あんた、ほんとに性格が悪いわね」
「お前には言われたくない」
「まあ、勇者はそう思ってはいないでしょうけど」
「俺にできることはこれくらいだからな」
「ざまぁできなくなったわね」
「もう必要ないよ」
俺はそう言いながらポケットから小さな指輪を取り出した。
アンが大きな眼をさらに開けて俺の眼を見ている。
「世界一性格の悪い男で申し訳ないが、俺と結婚してくれないか?」
俺の言葉にアンが息を飲むのが分かった。そして、アンの目から涙がこぼれていく。
時間にしたらほんの数秒だったかもしれないが、俺にとっては長い時間だった。
彼女がこの指輪を受け取ってくれたら、【ざまぁ】よりもっと素晴らしい物語が始まるはずだ。
アンが少しうなずき、ほんのり紅い顔を俺に向けて、微笑みながら言った。
「世界一性格の悪い女でよければ……」