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異世界原始炉とウラシマ少年  作者: 青井孔雀
4/6

星に願いを

 改良型「原始炉」が完成して以来、ラテマジヲンの文明水準は暴走し始めた。


 物理や化学、数学の教科書や辞典を全部写させたのもあるが、先進文明に関する知識が俺の頭の中に多少はあり、優秀な者たちに青写真を提供できたのも大きかった。

 例えば、


「電波の強弱で情報を伝達する装置が欲しい」


 と言えば、ラテマジヲンの人間は頭を捻って、電信やラジオを作ってくれる。

 全く、シド・マイヤーのCivシリーズを、チートで遊んでるような感じだ。しかも俺は相変わらず神様扱い。本当に繁栄と進歩をもたらしちまったから当然だろう。


 そんなこんなで、最近は白熱電球も点いた。

 エアコンはまだだが、扇風機なら発明された。

 冷蔵庫も近々完成するらしいし、街の映画館は結構オシャレ。

 大変に嬉しい話だった。


 それに船や列車から出る放射線も、依然として一般の日本人なら発狂するレベルではあったが、マシにはなった。

 昔はジャパニウム棒を人力で水槽に突っ込む、一次冷却水ダダ漏れの「原始炉」だったんだから、類人猿が弥生人になったくらいの進歩だ。


 ついでに食事のメニューが増えたのは、ラテマジヲンがあちこちを軍事力で征服し、植民地にしてるかららしいが、まあそれはいいか。



「じゃあ、ちょっと旅してくるからな」

「「「「はい、いってらっしゃいませ」」」」

 妻たちが返事をする。俺もこっちに来て長いから、とりあえず結婚もしたんだ。


 相手は選び放題だったので、最近は国の指導者になったらしい大司教っぽいおっさんに、「神の国では妻は四人まで持てる」と出鱈目をこいた結果だ。

 俺はイスラム教徒じゃないが、突然どうかした異世界に飛ばされて、しかも放射線というデストラップまで食らった。

 だからこれくらいの役得、あったっていいだろ。



 深夜、俺は天文台にやってきた。

 可能なら、地球との位置関係を把握するためだ。


 ただそれで分かったのは、俺は銀河系を超えてしまったってことだ。

 俺の物理の教科書を参考に改良された望遠鏡は、肉眼では五等星くらいの渦巻銀河をきれいに捉え、そいつはあからさまに天の川銀河だった。


「あーこれ、最低でも百万光年は離れてるぞ…」

「神様、それってどれくらいですか?」

 天文台の親父が尋ねてくる。


「ここから宮殿までの百億倍」

「ええ…」

「で、その更に百億倍だ」

 そう言いながら、絶望的な溜息が漏れる。

 地球を観測可能な超高精度望遠鏡があれば、石器も火も手にしてない、ウホウホ言ってるご先祖様が見つかるだろう。

 


 だけど…俺は思う。この惑星は変だ。石油どころか、石炭すらないのだ。

 その一方、半減期が長く見積もっても一千万年くらいのジャパニウムが、探してみればゴロゴロ産出する。


 つまりこの星は、現地の言葉でオトショリサァは、かなり新しい惑星なんじゃないか?


 しかも妙な経緯で誕生し、普通でない生物進化史があったんではなかろうか?

 地球上では数十億年かけ、単細胞生物が多細胞生物へ、魚から脊椎動物、ほ乳類へと進化し、人類へと至った。そんな生物進化の形跡が、オトショリサァにはまるでないんだから。


 そして何より、地球から転移しちまった俺の存在。

 これは絶対何かある。



「ところでおっさん、空に変なとこ、ないか?」

 天文台の親父にそう尋ねてみる。


「変なとこ、でしょうか?」

「そう。例えば…いつ観測しても本当に真っ暗なとことか…」

 頭の中に浮かんだのはハリウッドのSF映画。

 『インターステラー』、いい映画だったな。設定が感動的なガチさだったし。


「あと周りの星が何か歪んでるとことか」

「ありますよ」

 天文台の親父は呆気なくそう言った。

「我々は、無の月と呼んでいます」



「やべえ、マジだ」

 無の月とやらを見て、俺は心底驚いた。

 夜明け前の瑠璃色な空の一角では、空間が思い切り捻じ曲がっていた。

 

 どう見てもワームホールです、本当にありがとうございます。いやマジで!

 こいつの影響でジャパニウムもできたのかもしれない。


「それに、結構近いかも」

 直感的にそう思った。そうであってほしかった。



 俺はそれから暫くを、無の月までの距離とその軌道を割り出すのに使った。

 天文台のジジイには、観測記録を全部持ってこさせた。すると驚くべきことに、無の月はオトショリサァと公転軌道が完全に同期していることが分かった。

「これなら…」

 オトショリサァの半径と自転周期、無の月の見かけの大きさから、彼我の距離を割り出すことが可能だ。


「よし、よーし!」

 胸が躍った。計算結果は三百万キロ、ロケットならば不可能ではない距離だ。

 そしてそこに突っ込めば地球へ、日本へ戻れるかもしれない。絶対こいつ、宇宙に悪戯するのが大好きな奴なんだから。


 しかし…どんなロケットをどう作らせたらいいだろう?


原子力スチームパンク、第四話でした。

内政チートで一気に飛躍です。正解を知っていることは半端なく強いと思います。


ところで本作、異世界と銘打ちながら、実は現実世界……という内容ですが、異世界ジャンルで大丈夫でしょうか?

地球と百万光年離れていて、移動手段がワームホールなので。

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