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異世界原始炉とウラシマ少年  作者: 青井孔雀
3/6

あと一万歩だけ前に進もう

「ああ神様…私は何と愚かだったんでしょうか!」

 老錬金術師は涙を滝のように流しながら悔やんだ。


「あの病の原因が、私の発明にあったなんて!何と詫びたらいいか…」

「うるせえよ、ちょっと静かにしろ」

 同じような台詞を何度も何度も繰り返すので、流石に俺もそう言った。


 まあでも、仕方ない部分はありすぎて困る。「原始炉」が原因で奇病が蔓延って噂は老錬金術師も耳にしていて、まさかと思いつつも気にしてたんだろう。


「嘆いたところで何も変わらねえだろ」

「しかし私には責任が…もはや命を以て詫びぬことには、恥ずかしくて生きて…」

「止めろ、どこの侍だよ」

 妙なところだけ太古の日本人みたいで、俺もかなり呆れる。

 言語が思考を決定するって与太話、案外信憑性あるんだろうか?



「いいかジジイ、責任ならあれをマシにしてからほざけ」

 腹を切ろうとする老錬金術師から短刀を取り上げ、俺は強烈に怒鳴った。

 俺は薩摩人じゃないし、介錯なんて絶対ごめんだ。


「今を変えるのは改良だよ、改良」

「しかし神様、どうしたら…」

「こんなこともあろうかと、改良案を作っておいた」

 まあ作ったの俺じゃないけど、とにかくスマホの電源を入れた。

 バッテリーは貴重だが、後生大事にしてもどうせ暗電流として消えちまうから、使う時は使うべき。


「これを見ろ。こうすれば少しは安全になる」

 画面に表示させたのは、沸騰水型軽水炉の簡単なgif画像群。ストレージに保存しておいたのだ。


 老錬金術師は絵が移り変わる様にまず度肝を抜かれ、続いてスワイプ操作に目を白黒させていたが、次第に沸騰水型軽水炉の構造に注意するようになった。

 細いクモの糸に縋るような視線。


「おお…これは凄い!まさに神業だ!」

「俺、神様らしいから」

「ははーっ!」

 老錬金術師が無駄に跪く。三跪九叩とかいう変ちくりんな礼が昔の中国にあったらしいが、実際あんな感じで極まりが悪いったらありゃしない。



「で、そういう妙な礼はいいから、ちょっと聞け」

「分かりました」

 老錬金術師が三跪九叩を止めて直る。最初からそうしとけ。


「まずな、遮蔽しろ。金属の覆いとかで。超危ないんだから」

「は、はい!」

「特に蒸気な、これ外に漏らすな。んでこのタービンってのを回した後に、復水器で冷やして水に戻せ。循環させろ。そうすればまた使えて効率的だし、安全になる」

「なるほど!」

 いい感じで進んでいく。


「神様、その杖は何でしょうか?」

 持ってきた純銀製の杖について老錬金術師が尋ねてくる。ぶっちゃけると、宮殿からかっぱらってきたものだ。

 流石に勘が鋭いと俺も思った。


「その図にある、制御棒だ」

「何かを制御……するのでしょうか?」

「そうだ。ジャパニウムは核分裂すると金やプラチナ、鉛みたいな重い元素と、その半分くらいの重さの何かと、あと高速中性子になる。その中性子が水で減速して、他のジャパニウム原子核と衝突、更なる核分裂反応を引き起こすんだが…」

 この辺は俺もかなり曖昧だし、ジャパニウムに関してはほぼ推測だ。ただの高校生なんだ、勘弁してくれ。


「銀は中性子を吸収しやすいって特徴があってだな。こいつを、ちくわみたいに中空にしたジャパニウム棒に差し込むとどうなる?」

「反応が抑制、停止…なるほど、炉の制御ができるから制御棒ですか!」

「理解が早くて助かるぞ!」

 そんな調子で進めていく。ほぼ某原子力情報サイトのまんまコピペだが、その程度でも一次冷却水をもくもく放出する「原始炉」よりは絶対マシにできる。


 というか、マシにしないと俺だって死にかねない。



「で、作れそうか、これ?」

 一通り、正直かなり自信のない講義を終えると、俺は尋ねた。


「いきなりで厳しいとこもあるかもだけど」

「作れます!作って見せます!」

 返事は奇跡が起きそうなくらい頼もしい。


「それと神様、錬金学会の仲間や、工房の連中にも声をかけてもよろしいでしょうか?そうすれば完成もかなり早まると思うのですが」

「そうしてくれ。とにかくあのウルトラ危険物を、一刻も早くどうにかするんだ」

「ありがとうございます!」

 老錬金術師は謝意を述べると、やる気全開で、猛烈な勢いでどっかへ駆け出した。


 妖怪御老人、そんな単語が頭に浮かぶ。

 でも、俺も将来あんな感じのエンジニアになって、人の役に立ちたいものだ。

 

 ただし、できれば日本で。



 そして何か月かの後、改良型「原始炉」は多少は安全に臨界した。

原子力スチームパンク、第三話でした。

ようやく内政チート(?)らしくなってきた…と思います。


あ、異世界に転移する際は、スマホは機内モードにするのがおすすめです。

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