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異世界原始炉とウラシマ少年  作者: 青井孔雀
2/6

このイカれた異世界へようこそ!

 見上げた星座は全くの別物で、日本に戻る方法などさっぱり見つからない。


 だから仕方なく、諸悪の根源な割に普及してるらしい「原始炉」を改良することにした。

 あんなものが街中にゴロゴロあるようでは命が幾つあっても足りないし、実際あの白装束は奇病でよく死ぬとのことだった。


 それから「原始炉」が稼働してしまっている理由にもちょっと興味があった。



 我ながらタフボーイな俺は、望郷の念を込めて、例の金属棒の元素をジャパニウムと名付けた。


 当然、文句は出なかった。俺は神様だし、ニホニウムなんて誰も知らない。

 ラテマジヲンなるこの妙な名前の国には、そもそも周期表って発想がなかった。

 例の大司教っぽいおっさんすら、


「元素ですか?火と水、土、気でしょうか?」


 なんて有り様だ。どこのアリストテレスだよお前。



 ただ面白いのは、ジャパニウムがただのウランとかではなさそうな点だ。

 濃縮ウランを作れるほどラテマジヲンの文明は進んでなかったし、プルトニウムより先なんて論外だ。


 とすると……二通りの可能性が頭に浮かんだ。


 一つ目は、ジャパニウムが天然の濃縮ウランか何かだって可能性だ。

 例えば地球上のウランは、役立たずな99.27%のウラン238と、核分裂する0.72%のウラン235で構成される。

 この世界では、ウラン235が20%以上とか極端なのかもしれない。


 もう一方は、案外こっちな気がするんだが、もっとぶっ飛んでる。

 未知の超ウラン元素、それも安定の島にいそうな重たい割に安定した奴が、天然に存在するって仮説だ。


 このどちらかであれば「原始炉」もどうにか説明できそうだし、後者なら俺は新元素の発見者だ。

 論理がK点を超えて世界新記録だが、もしかすると日本に戻る方法にも関係するかも。

 そう思うと心が躍った。



 そんな訳で、俺は「原始炉」を発明した、ラテマジヲンで一番の老錬金術師の研究所に押し掛けた。

 ラテマジヲンでは科学者を錬金術師と呼ぶらしい。


「私はこの物質…ええと、ジャペニウム?」

 新たな体系の言葉には、老錬金術師はまだ慣れていなかった。


「ええと、ジャプニウムでしたっけ、神様」

「ジャパニウムだ、この野郎」

 何か侮辱された気がするのでちょっと怒鳴る。


「申し訳ございません、ジャパニウムでした。とにかくジャパニウムを、ある田舎町で見つけたのです」

「へぇ」

「そこでは雨が降って暫くすると、地面から蒸気が噴き出まして」

「ああ、それで掘ってみたら見つけたと」

「まさしく」

 俺はなるほどと肯く。


 十分あり得る話だった。中性子減速材となる地下水が一定量溜まると、臨界するって寸法だ。

 実際、天然原子炉なんてものが20億年前の地球には存在したらしい。


「しかも大量の黄金やプラチナと一緒に、です。ジャパニウムに水を掛けると、黄金やプラチナに変わります。まあ鉛とか、よく分からない金属とかも出ますけど」

「はぁ、本当に錬金術なのかよ!」

 その情報には正直驚いた。鳥肌が立った。

 俺一人が提唱してるジャパニウム超ウラン元素説の、これ以上ない裏付けとなったからだ。


 主な核分裂生成物が金やプラチナ、鉛になるって時点で、天然濃縮ウラン説は消える。

 そんな核分裂の仕方をする元素があるとすれば、そいつは原子量が300とかあるはずだった。


 間違いない。ジャパニウムは長寿命の超ウラン元素だ!


 しかもジャパニウムはラテマジヲンに天然に、かつ豊富に存在する!


 空前絶後の大発見じゃないか!ノーベル物理学賞は俺のもんだぁ!


 ……でも俺、帰れないんだよな。



「それでな、これからが本題だ」

 とりあえず俺は心を落ち着かせ、そう宣言した。

 まずはサバイバル、「原始炉」の改良だ。現状、ストックホルムに報告しに行けないんだから。


「爺さん、黄金やプラチナを作るついでに、あの蒸気で動く機械を発明したんだな?」

「はい、神様。会心の作です」

「それは、凄い。超凄い。実際、一度に二度おいしいもんな」

「実は金やプラチナの値段が暴落して、そこまでは儲かりませんでした」

 そう言いつつも、老錬金術師はめっさいい笑顔。

 自分の作ったものが世に出回り、普及するなんてエンジニア冥利に尽きるってもんだろう。


 駄菓子菓子。


「ただな、足りないものが一つある!」

「ええっ…何でしょう、神様?」

「それはな、放射線防護だ!」

 俺はとりあえず高校物理の教科書の該当ページを開き、老錬金術師に見せつけた。



 老錬金術師は教科書を、当人曰く神様の本を、食い入るように読み始める。


 その間、俺はこの研究所に至るまでの道のりを思い出した。


 大司教っぽいおっさんの言葉は紛れもない事実で、「原始炉」の蒸気をしゅぽしゅぽと吹く列車が走り、真っ白い放射性の煙を上げて外輪をガラガラ回す蒸気船が航行していた。

 マジで卒倒ものの世界だ。


 当然、放射線は出まくり。転移直前に秋葉原で買っていたガイガーカウンターキットは反応しまくりで、市街地の線量は一番マシなところでさえラムサール並という始末。


 暇そうな役人を捕まえて話を聞けば、やはり列車や船の乗員、特に機関士に奇病が流行って治療法がないとか抜かす。なので、


「あんなん使ってたら当たり前だ馬鹿!」


 と怒鳴ったものだ。

 

 だが役人の弁解では、生活の豊かさには代え難いとのこと。


 豊かさと言われても、エアコンどころか扇風機もなくて暑いし、列車や船以外の乗り物といったら馬車くらい。道はウンコだらけで不衛生だし、宮殿の御馳走も香辛料の味しかしない。


 それでも昔より遥かに豊かになったというから、どんだけ文明の程度が低いんだ。



 ああ、早く日本に帰してくれ……。

原子力スチームパンク、第二話でした。

まともな人ほどfeel so bad(吐き気、嘔吐、全身倦怠、リンパ球著しく減少)


簡単に核分裂して金やプラチナになる超ウラン元素、あったらいいなぁ~。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさにファンタジーの代物だけど、ガイガーカウンターの針が振り切れるは、青い光があちこちに見えるようになりそうな賢者の石はお断りです。
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