お人好しなキツネの幸せな誕生日
逆さ虹の森。
ある人は、その森はこの世界の果てにあると言います。
他の人は、その森は別の世界にあるんだと言いました。
また別の人は、その森は夢と現実の隙間にあると言います。
更に違う人は、その森は心の中にあるのだと言います。
沢山の人が知っていて、行ったことがあるという人もいるのに、その誰も本当はどこにあるのかを知らない。 そんな不思議な森に、お人好しのキツネが住んでいました。
逆さ虹の森に、今年もまた冬が…… そしてクリスマスがやってきました。
森の仲間たちが嬉しそうにはしゃいでいるのを見て、キツネもとても嬉しそうです。
キツネの誕生日は、クリスマスと同じ日でした。
だけど、みんなには内緒にしています。 みんながクリスマスを楽しんでいる中で、自分の誕生日を祝って欲しいなんて言い出せなかったからです。
だから毎年、キツネは森で仲間たちとクリスマスパーティーをして、家に帰った後に自分だけで誕生日を祝っていたのでした。
だけど、キツネは満足でした。
「嬉しいな~! みんなが凄く楽しそうに笑っているよ。 こんな笑顔が見られるなんて、最高のプレゼントだよ。 クリスマスが誕生日だなんて、ぼくは幸せだなあ」
キツネは自分が祝ってもらえない事など、少しも気にしてなんかいませんでした。
大切な仲間たちが笑っているなら、それだけで幸せなのです。
なぜならキツネは、とてもお人好しだからです。
「さあ、そろそろパーティーの時間だね。 しっぽもオシャレに整えたことだし、出掛けようかな。
ああ、今年も沢山の笑顔が見られるといいなあ!」
いつもより張り切ってブラッシングしてふかふかになったしっぽを一度、フワリと振ってキツネはご機嫌で森の奥へと歩き出しました。
たどり着いた森の奥の広場には森の仲間達が集まって、すっかりクリスマスムードでした。
森の木々は飾り付けされてキラキラと光り輝き、その中で一番背の高い木の枝の上で、歌の上手なコマドリがクリスマスソングを歌っています。
みんなで仲良く料理を作って、広場の真ん中にある大きな大きな切り株をテーブル代わりに、その上に並べました。
いつも途中でつまみ食いしてしまう食いしん坊のヘビも、今日は真面目にお手伝いしています。
準備が終わると森の仲間たちは切り株のテーブルを囲みました。
「じゃあパーティーを始めるぜ! さあ乾杯だ! みんなコップを持て!」
そう言ったのはアライグマです。 乱暴で、機嫌の悪そうな顔をしていることの多い彼も、今日は機嫌よさそうに笑っていました。
全員笑顔でコップを掲げます。 その木のコップは森の木の実を七種類ミックスして作った特製のジュースで満たされていて、虹のように七色に輝いています。
「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」
みんなで乾杯してクリスマスを祝います。
料理を食べて、ジュースの飲んで、歌を歌って、ダンスを踊って……
そしてパーティーは終わりに近づいて、プレゼント交換の時間です。
逆さ虹の森には、煙突がありませんし、みんな裸足なので誰も靴下を持っていません。
だからサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれないので、仲間同士でプレゼント交換をする決まりになっているのでした。
「「「今日は~クリスマ~ス♪ 幸せな夜! 大切な友達と交換しようよプレゼ~ント!
なにが当たっても文句なんか禁止さー!」」」
みんなで歌を歌いながらプレゼントを回していきます。 そして歌が終わった時に自分の前にあるプレゼントが自分の貰えるものなのです。
「わあ、凄く良い香りの花だね!」
「それは私が用意したものですよ。 私は…… まあ、貝殻のネックレスですね」
「おっ、オレは綺麗な透明な石だな! サンキュー!」
みんな、プレゼントを開けて嬉しそうに笑っています。
キツネはその笑顔を見ているだけでも幸せでしたが、やはりプレゼント交換はその場で開けたほうが楽しく盛り上がれるイベントです。
キツネは自分もプレゼントを開けてみることにしました。
「わあ、綺麗な小箱だね、何が入ってるのかな?」
キツネは、笑顔でそう呟きながら箱のフタを開けました。 すると……
パァン!! という音が鳴り響いて紙吹雪が飛び出しました。 そう、それはビックリ箱でした。
キツネは、「わっ!?」っと驚いて尻餅をついてしまいます。
そしてキツネの隣にいた怖がりのクマは、自分が引っ掛かったわけでもないのに、泣きそうな顔をしたまま腰を抜かしてしまっていました。
次の瞬間、アライグマが立ち上がり、向かい側に座っていたリスの小さな体を、乱暴に持ち上げます。
「おい! こんなイタズラをするのは、どうせオマエだろ!? せっかくのクリスマスにイタズラするなんて、悪ふざけしすぎだぞ! おいコラ! 洗うぞ! ゴシゴシ洗うぞコラ!」
「うわ~! ゴメン! ゴメンって! でも、イタズラだけじゃなくて、ちゃんとプレゼントも入れてあるから箱の底を見てよ!」
「あん? 箱の底だ?」
全員の視線が箱の底に集まります。 そこにはドングリがひとつ入っていました。
「へへっ、どうだい? なかなか良いものだろう? この前、木の穴の中にあったのを偶然見つけたのさ!」
そう言ってリスは胸を張りました。
そう、この森ではドングリは特別な物なのです。
この逆さ虹の森には、ドングリ池という不思議な池があって、願い事をしながらその池にドングリを投げ入れると、その願い事が叶うと言われているのですが、あんまりみんなが願い事をし過ぎるのを見ていた森の神様が、ドングリの木に、
「あんまり気軽にドングリをあげ過ぎたらダメだよ」と注意をしました。
その日からドングリの木はドングリを隠してしまうようになったので、今、この森ではドングリはたまにしか見つからない珍しい物になったのです。
キツネは、そのドングリを手に取り、リスにたずねました。
「こんな良いものをもらってもいいのかい? これを使って自分でお願いしたい事は無いの?」
するとリスは答えます。
「オイラの望みは皆に愉快なイタズラをする事なのさ! イタズラは自分でやるから面白いんだ!
お願いして叶っても面白くないだろう? だからオイラにそれはいらないのさ」
イタズラ好きなリスは、イタズラをする事にこだわりを持っています。
だから森のみんなは、リスの事を困ったヤツだと思いながらも嫌いになれないのでした。
「うん。 じゃあこれはありがたく貰うね。 どうもありがとう、リス君」
キツネは、嬉しそうに微笑んでそれを受け取りました。
「あっ、丁度パーティーも終わる所だし、これからドングリ池に行ってきたらどうかしら? 今日はクリスマスなんだから、いつもより願い事が叶いそうじゃない?」
そう言ったのはコマドリでした。
少し考えてから、みんなもその意見に頷きます。
「確かにそうだな、クリスマスならすごい願い事でも叶いそうだよな」
「このあと行ってみたら? 少しくらいワガママなお願いでも叶うかもしれないよ?」
みんなの声に押されるように、キツネは返事をしました。
「うん、みんなが言うならそうしてみようかなあ? じゃあ、パーティーの後に、ちょっとドングリ池まで行ってみるよ」
やがてパーティーが終わり、森の仲間たちは家に帰って行きました。
キツネは最後の最後まで残って後片付けをしていたので、一番遅くなってしまいました。
もうすぐ日が暮れる頃ですが、キツネは家には帰りません。
「一度家に帰ったら、遅くなっちゃうよね。 このまま直接ドングリ池に出発しようかな」
キツネは、あんまり願い事は思い浮かばなかったのですが、折角ドングリをもらったのに願い事をしなかったら、これをくれたリスさんに悪いかな? と思ってドングリ池へと歩き出しました。
ブドウの木が並ぶ道を進みながら、キツネは願い事を考えます。
「うーん、どんな願い事がいいかな? やっぱり、みんなが元気で楽しく過ごせますように……っていうのが一番かなあ?」
アレがいいか? コレがいいか? と首をひねりながら歩いていると、ある一本のブドウの木の下で、実に手を伸ばそうとしている影があるのに気付きました。 すでに辺りは薄暗く、その影の正体は分かりませんが、キツネよりは大きくて、クマよりは小さい背丈なのは分かりました。
気になったキツネは、その影に声をかけます。
「ねえ、そこの君。 もしかしてブドウを採ろうとしてるのかい?」
「わぁ! ごめんなさい! お腹が空いたからつい……!」
驚いて跳び跳ねたその影に、キツネは慌てて謝ります。
「あ、驚かせちゃってごめんね。 別にブドウを採る事を怒ったわけじゃないんだ。
ただ、そのブドウは酸っぱくて美味しくないよって言おうとしたんだよ」
「……えっ? そうなの? 凄く美味しそうに見えたのに……そんなに酸っぱいの?」
「うん。 誰も食べた事がないんだけど、そのブドウは酸っぱくて美味しくないって、僕の遠いご先祖様から言い伝えられているんだよ。 だからほら、お腹が空いているならこれを食べるといいよ」
キツネは、クリスマスパーティーで配られたクッキーを手渡そうとしてその影に近付きました。
すると、遠目では見えなかったその姿が見えてきました。
「あれれ!? 君は人間かい? 人間をこの森で見るなんて久しぶりだなあ」
「えー!? 君はキツネ!? な、何でキツネがしゃべっているの!?」
顔を見てお互いに驚きました。
キツネは数年ぶりの人間を見て。
人間の少年はキツネがしゃべっているのを見て。
ですが、先に落ち着きを取り戻したキツネが、口を開きました。
「ああ、そうか。 確か人間の国ではキツネはしゃべらないんだっけ? じゃあ驚くよね。 でも僕は何も怖い事はしないから安心して。 それより、お腹が空いているんだよね? さあ、このクッキーをどうぞ。 この森の食べものはどんな動物でも食べれるように出来ているんだ、ちゃんと人間だって食べれるんだよ」
クッキーを勧めるキツネに悪意が無いと感じたのか、それとも単純にお腹が空いていたからか、少年はクッキーを受けとると、凄い勢いでむしゃむしゃと食べ始めます。
お腹がいっぱいになった少年は、さっきよりも明るい表情で言いました。
「キツネさん、ありがとう。 果物みたいでナッツみたいでケーキみたいでチーズみたいで…… とにかく不思議な味だけど、とっても美味しかったよ」
「気に入ってくれて良かったよ。 ところでなぜ君はこの森に?」
キツネが少年に尋ねると、少年は顔を曇らせて首を振りました。
「わからないよ、気が付いたら森にいたんだ。 ……どうしよう、みんな心配しているよね」
「どうやって来たか分からないなら、帰り道も分からないよね…… どうしようか?」
しばらくの間、一人と一匹は考えこんでいましたが、考えていたって帰り道が分かるはずもなく、ただ時間だけが過ぎて行ってしまいました。
「ひっくっ……ぼ……僕、もう帰れないの? ううっ……」
やがて少年は泣き出してしまいます。
これにはキツネも困りました。
お人好しで、笑顔が大好きなキツネは、悲しい涙が大の苦手なのです。
「わあ! 泣かないで! 僕がきっと君をお家に帰してあげるからさ!」
「……ひっく……本当? 僕、本当に帰れるの?」
少年の表情が少しだけ明るくなりました。
キツネの気持ちも少しだけ明るくなりました。
「だけど、どうすれば帰れるの? キツネさんは帰り道が分かるの?」
少年の心配そうな声に、キツネは胸を張って答えます。
「任せてよ。 僕にはドングリがあるんだ。 これからドングリ池に行って、君がお家に帰れるようにお願いしよう」
この森について知らない少年は、ドングリ池だのお願いだのと言っても意味が分かりませんでしたが、胸を張るキツネの姿が頼もしく見えたので、信じてついて行ってみる事にしました。
薄暗くなった冬の森を、一人と一匹は歩き続けます。
暗い森の風景に少しだけ心細くなった少年は、キツネに話しかけました。
「もう暗くて道が見えなくないけど、迷子にならない?」
するとキツネは答えます。
「ずっとこの森に住んでるからね。 暗くても迷わないさ」
「今にも物陰から何か出てきそうな気がするなあ……キツネさんは怖くないの?」
するとキツネは答えます。
「この森の仲間はみんな優しいよ。 怖いものなんてここには居ないよ」
「ずいぶん歩いたね。 目的地にはまだ着かないの?」
するとキツネは答えます。
「もう着いたよ。 さあ見てごらん、ここがドングリ池だよ」
キツネの言葉に少年が顔を上げると、目の前には大きな池がありました。
辺りはもう真っ暗で水の色なんて見えないけれど、少年は、きっとこの池の水は澄んでいて綺麗なんだろうな、っと何となくそう思いました。
「じゃあ行くよ? それっ!」
キツネはドングリを池に放り投げて、願います。
「この子が自分の家に帰れますように!」
池にポチャリとドングリが落ちると、そこから波紋が広がっていきます。
波紋はそのまま大きく大きく広がって、そしてその中から、スゥッと不思議な扉が浮き上がって来ました。
そして扉はそのまま水面の上に立つと、ゆっくりと開きます。
その先に広がる風景は、花の咲く丘、少し古い風車小屋、そして白い壁の家。
それは紛れもなく少年の住む街の風景でした。
「僕の街だ! やったあっ! 本当に帰れるんだね!」
喜んだ少年は、すぐに池に飛び込もうとしましたが、キツネがそれを止めました。
「ちょっと待って。 この池は君の背丈よりも深いんだけど、大丈夫かい?
君は泳ぎは得意なの?」
それを聞くと、さっきまで喜んでいた少年の表情は、途端に悲しそうなものに変わってしまいました。
「ううっ…… どうしよう? 僕はほんの少ししか泳げないんだ」
そういって泣きそうになった少年に、キツネは、また胸を張って言います。
「少しは泳げるんだね? なら大丈夫、任せてよ!」
そう言うとキツネは池にザブンと飛び込んで、少年に言いました。
「さあ、僕につかまって。 僕が泳ぐから、君は沈まないように僕に掴まって、息継ぎだけ気をつけていてくれれば大丈夫だよ。 安心してよ、僕は泳ぎは得意なんだ」
「う……うん、ありがとう」
少年は恐る恐る池に入り、キツネの背中に掴まります。
すると、キツネは少年を乗せて、ゆっくりと泳ぎ始めました。
「ううっ、水が冷たいよう……」
「もうすぐだよ。 さあ、あと少しだけ頑張って!」
冬の池の冷たさに、泣きそうな声を出す少年を励ましながら、キツネは水面に立つ扉へ向けて泳ぎます。
凍える前足で、一掻き、また一掻きと一生懸命に泳ぎ続けます。
少年に気付かれないように平気な顔をしていますが、本当はキツネも体が冷えきってしまっているのです。
だけど弱音は吐きません。 どれだけ水が冷たくても、濡れた毛が重たくても、それでもキツネは困っている少年の力になれることが、とてもとても嬉しいのです。
なぜならキツネは、とてもお人好しだからです。
「さあ、着いたよ。 登れそう? 扉まで手は届くかい?」
「う……うん! 頑張ってみるよ! ……えいやっ!」
扉のふちに掴まった少年は、力を振り絞ってよじ登ります。
キツネも少年のお尻を下から押し上げて手伝っています。
やがて無事に登りきった少年は、扉の向こう側からキツネの方に振り返りました。
「ありがとう! キツネさん! 本当にありがとうっ!
君のお陰で、僕は帰ってこれたんだ……! 君は僕の恩人だよ!」
お礼を言う少年のその目には涙が浮かんでいました。
だけどそれはキツネが嫌いな悲しい涙ではありません。
帰ることができた喜びと、キツネへの感謝の気持ちが流させた、とても綺麗な涙でした。
ゆっくりと閉じていく扉と、その向こうで手を振る少年の姿をキツネは笑顔で見送ります。
「バイバイ。 君に会えて良かった。 だけど、もう迷い込んじゃあダメだよ?」
扉はパタンと音を立てて閉じると、光りながら消えていきました。
キツネはそれを見て、もう一度「バイバイ」っと呟くと、池から上がります。
「もうすっかり夜中になっちゃったね。 急いで帰らなくちゃ」
クリスマスは……そしてキツネの誕生日は、もうすぐ終わります。
今年もまた、誰にもおめでとうとも言われずに終わっていきます。
折角もらったドングリは、名前も知らない少年のために使ってしまいました。
冬の池の水に濡れた体は、もう痛いくらいに冷えきっています。
オシャレに手入れしたふわふわのしっぽも、水に濡れてすっかり萎んでしまいました。
それでもキツネは満足でした。
キツネは少年を救えた。 そしてあの少年の、心からの『ありがとう』の言葉が聞けた。 それだけで、本当に本当に幸せな気持ちで満たされているのでした。
なぜならキツネは、とってもお人好しだからです。
パーティーをして、ドングリ池に向かい、少年と出会い、冷たい池で泳ぎ、そしてまた歩いて帰って来たのだから、キツネは家に帰る頃には疲れてフラフラでした。
疲れきった体で何とか家の扉を開けて、中に一歩足を踏み入れるとその瞬間、真っ暗だった部屋にパッと明かりが灯りました。
「遅いぞ! もう日にちが変わる寸前じゃないか!」
聞こえて来たのは、アライグマの声でした。
「いやー、驚かせようと思って部屋を暗いままにしていたから大変だったよ」
「う……うん。 暗くて怖くて……少し泣きそうだったよ」
「それよりボクはお腹が空いたな~、早くケーキを食べようよ」
アライグマの後ろには、リスとクマとヘビもいます。
……そして、テーブルの上には大きなケーキが用意されていました。
「今日がキツネさんの誕生日なのでしょう? この前、偶然知ったのよ。
……去年までお祝いしてあげなくてごめんなさいね」
コマドリが申し訳なさそうにそう言いました。
驚いたキツネは、目をパチパチとさせながら、呟きました。
「もしかしてみんな、僕の誕生日なんかのために、こんな夜中まで待っていてくれたの?
……ありがとう。 みんなお人好しだなぁ。 僕はこんなお人好しを見たことないよ」
そう言うと、皆、変な顔をしてしまいました。
「大変だ! キツネ君はお人好しを見たことが無いんだってさ。 来年の誕生日には大きな鏡をプレゼントしてあげなきゃいけないね!」
リスが冗談めかしてそう言うと、みんなが笑い出しました。
何のことか分かっていないキツネ本人だけはキョトンとしていましたが、アライグマがそのキツネの肩を引き寄せて家に招き入れます。
「なにいつまでも突っ立ってんだよ。 自分の家だろ? 遠慮しないで入れよ、ホラ」
すると今度はクマが椅子を引いて招きます。
「さあ、座って。 これからキツネ君の誕生パーティーを始めるよ」
キツネが椅子に座ったのを確認すると、みんなが声を揃えて言いました。
「「「「「キツネ君! 誕生日おめでとう!」」」」」
キツネはこの日、始めて誕生日をお祝いをしてもらいました。
その目には涙が浮かんでいましたが、それは悲しい涙ではありません。
祝ってもらえた喜びと、森の仲間たちへの感謝の気持ちが流させた、とても綺麗な涙でした。
キツネは幸せでした。
とてもとても幸せでした。
なぜなら、こんなに素敵な友達に囲まれているのですから。