第六話 魔物の国
私は今、部屋着から外服に着替えている。
着替えは、ルークの妹の服を借りる事となった。
そしてサイズは何故かピッタリ・・・動きやすそうな赤い服をチョイスし、黒っぽい長ズボンの裾ををブーツの中にしまった。
ベッドの上に置いてある鞄を腰に装着する。ベルトで固定が出来るので動きやすい。
これはルークが必要だろうとくれた物だ。
用意が出来たのでリビングへ向かった。
階段を降りて行くと、ルークがキッチンでゴソゴソしている。
また何か作ってるのかな?
「ルーク着替え終わったぞ」
私が声をかけてようやくこちらに気づいた。
「あぁ、どうだサイズは」
「何故か凄くピッタリだった。魔法でサイズでも変えたのか?」
「いや、妹が丁度今のシロナ位の体格だったんだ。シロナが男じゃなくて良かったよ」
「どうせ私は女らしく無いですよ!」
一言多い魔物だな・・・!
「さ、昼はこれを食べながら移動するから鞄に入れておけ」
そう言われ差し出されたのはサンドイッチだった。
この男は本当に器用だな・・・父さんとは大違い・・・
それともう一つ服を差し出された。
「はいこれも。家を出る時に着ておけ、魔物達に人間とバレない様細工をしてある。フードもちゃんとかぶれ」
「おぉ、分かった」
服を受け取りさっそく着てみた。
なんだか毛がモフモフしていてとても暖かく、ルークの髪色と同じ色をしていた。言われた通りフードもかぶってみたが、フードのてっぺんに獣耳がぴょこっと立っている。おまけにお尻付近に尻尾まで付いている!
かわいい・・・めっちゃ可愛い!! でもこれ・・・
「気に入ったみたいでよかった。俺と耳がお揃いだな」
別に気に入ってないッ!と反発しようとしたが、何となく遊ばれてる様な気がして、私は無視してそのまま外に出た。
魔物の国、これからそこに向かう。でも何処にあるんだろう?
あのトカゲめっちゃ早く帰ってきたし、そんなに遠くないのか?
「何ぼーっと突っ立ってる。行くぞ」
ルークが後ろからやって来て私の頭をワシャワシャして行く。
「あーもー!やめろ!後置いてくな!」
急いでルークの後を追う。
それから私達はサンドイッチを食べながら家の裏の森を進んでいく。
森に入るのは2回目だがまだ魔物には遭遇していない。
ただこの服のおかげなのかは分からない。まだ私に生きる欲とやらが無いのかもしれないし・・・。
まぁルークが居るから大丈夫だろう。
サンドイッチを食べ終わる頃にルークが着いたぞと言い、足を止める。
その場所は木々がアーチ状に曲がっていて何かの入口の様に見えた。
木のトンネルの向こう側は光り輝いている。
どこか、別の所に繋がっているのか。
好奇心がうずうずと騒ぎ出す。
「この向こう側が魔物の国だ」
やっぱり。
ここまで来るのに徒歩で10分くらいで本当にスグだったから、あのトカゲが早かった訳が分かった。
トトーはああ見えて時速50キロで走るらしい。本当かどうか知らないが、本人が自慢げに話していた。
それにしても、どういう仕組みになってんだろこれ、魔法なのは確かみたいだけど・・・
そんな事を考えているとルークが歩き出したので、あとをついて行く。
「すごい便利だろこれ、これ作ったの俺のお袋なんだ」
「へ〜、お母さん魔法使いだったのか」
ルークの親の話、すごく新鮮だ。
家族の話を出すといつも哀しそうな顔をするから、あえて私からその話題に触れないようにしていた。
「親父の仕事の効率を良くするのにってな。さぁ出口だ」
足元が青白く光り、ふわっと足が少し浮いた。視界も明るくなり目をつぶって開くと、もうそこは魔物の国だった。
すごい、これがルークのお母さんの魔法!
転移した所にちゃんと、転移門と書いてあって銀狼の森行きという看板が立っていた。
あの家の裏の森はそんな名前だったのか!
街並みはレンガ造りの家が並び、大通りには沢山のお店が開かれていた。
ここは商業が盛んな街なのだろう。
賑やかな街。
私がいた村とは天と地の差だ。
そして、勿論魔物も沢山いる。
種類は多種多様。
ゴブリン、人狼、オーク、エルフ、リザードマン。他にも見たことのない魔物が買い物をしたり、食べ物を売ったりしている。
確かに、こんな所人間が来たりしたら一瞬にしてあの世行きだろうな。
ルークの後をついて歩いていると少し視線を感じた。
視線・・・ッ!見られてる?
や、やっぱりこの服効果がないんじゃ?!人間ってバレて・・・?!
「へへ、見ろよ。こんな所に混ざり者がいるぜ」
「本当だ。何しに来たんだあいつ」
出店の骨付き肉を立ち食いしている人狼がルークを見てコソコソ話している。
混ざり者?ルークの事?
こいつ、こっち側で疎まれてるのか?純血じゃないから?
人間からは討伐対象にされ、魔物からは忌み嫌われて・・・
なんか・・・
私と似てるな・・・
「シロナ、まだ着いてないぞ。こっちだ」
幸いルークには聞こえていなかったようだ。
ルークも私と同じ様な思いを今までしてきたのかな。
2人は細い路地を入っていく。
人1人が進めるくらいの狭さだ。
ほ、本当にこんな所に店が?!
いやいや、無理だろこれ。いくらなんでも狭すぎる!
足を止めるルーク。
目の前は、行き止まりでただの壁だ。
「ルーク?道間違えてるんじゃ」
「いや、ここで合ってる。ちょっと下がってろ」
言われた通り3歩ほど下がると、ルークは右手で壁に触れる。するとルークは魔力を右手に集めだした。
それに反応してレンガの壁も光だし、その光は壁から地面へ連動し私たちを光で包んだ。
光が消えると、目の前にあった壁は無くなっていて、違う街並みが見えた。
そして背後には、さっきまで通ってきた道が壁で閉ざされている。
これもワープってやつか?
「ねぇ、ここ魔物の国・・・だよな?」
一応聞いてみる。
「そうだが、さっきまでいた街とは違う。ここは俺みたいな混ざり者の街。イヂラード街だ」
「混ざり者の街?」
確かに街を歩いていると分かる。さっきの街との違いが。
まず、顔が人間に近い事!あと野蛮さが無く、街全体が落ち着いている。
ルークのように頭に耳がある者や、角が生えている者もいる。そして徹底的に違うところ・・・
それは、ルークがさっきから色んな人に声を掛けられている。
もちろん嫌味とかではない。
普通にこんにちはとか、今日は仕事かい?とか、この間はありがとう とか。
きっと仕事でのお客さん達なのだろう。ますます何の仕事か分からない。
後で聞こう。
「着いたぞ、ここだ」
その店の看板には【魔道具専門店 グリゼオ】と書かれている。
赤レンガの壁面にツルの植物が覆っていて、だいぶ古そうな建物なので、きっと何代も継がれてきた店なんだろうなと思った。
ドアを開けると
カラン
と、扉についていた鈴が店内に鳴り響く。
そのまま店の中へ入ると、店内は見たことのない綺麗な石が棚に並べられていて、ガラスケースの中にはイヤリングやブレスレット、髪飾り、ネックレスが入っている。
どれも綺麗な石が埋め込まれてある。あの棚にある石を加工したもののようだ。
「綺麗・・・」
と呟くと店の奥から女の人の声が聞こえた。
「その石はね、魔石って言うのよ。お嬢さん」
長く尖った耳。綺麗な薄緑の長髪。黄色のワンピースに大きな胸!
きっとこの人が手紙の主。種族はエルフかな?
「ハーフエルフのエレティナよ。あなたが・・・シロナちゃんね?待ってたわよ」