第一話 私を殺せ
あれから数年が過ぎ、15歳になった私は今でもあの女の人と暮らしている。
いや、暮らすと言うよりはそこに縛られていると言ったほうが正しいかもしれない。
重い瞼を開く、暗い部屋にドアの隙間から微かな光が差し込んでいる。
ドアの向こうから男と女の人の声が聞こえてくる。
私はいつもその声を聞きながらこの狭く暗い部屋で過ごす。
あの人は父さんが死んですぐ新しい男を作ったのだ。
コツコツと誰かが近づいてくる音がする。ドアの一部に開閉式の小窓がついており、そこから小さなパンが投げ入れられた。
「今日の分よ、それじゃ私出掛けるからおかしなことしないでね」
そう言うと男の人と家を出て行った。
足元に転がったパンを拾い少しだけパンをかじったが味はしなかった。
ハァとため息をつく。
今が何年の何月で、時間も分からない。私は意味のない時間をただ生きている。
いや、こんなの死んでいるのと同じだなんて思っていたら酷い眠気に襲われた。
「このまま・・・死ねたら・・いいの・・・に・・・」
視界が暗くなり意識は闇の底へ消えていった。
あれから何時間たったのか分からないけど、意識が戻り始めた。
ガタガタと揺れる地面。
ここはどこ・・・?
何が起きて・・・
目を覚まし周りを見渡す。
あぁ私運ばれてるのか。
体を起こそうとするが足と手首を縄で縛られていた。
どこに向かっているか縛られている私に知る由もなかった。
キーッ
数十分後馬車が止まった。
聞き慣れた声が外から聞こえてくる、そして馬車の扉が開いた。
「さぁ降りなさい。シロナ」
女の人は気味の悪い笑みを浮かべて話しかけてきた。
男が馬車に乗り込み私を担いで外に運んだ。
外は夜だったけど、数年ぶりの外はやけに明るく感じた。思わず目を細めてしまう。
こんなに夜って明るかっただろうか。
馬車を道の端に止めて、私を担いだ男と女は丘を登っていく。
ようやく目が慣れてきた。
大分村から離れたところなのだろう、西の方角に微かな村の光が見えた。
そこで私はようやく自分がどうなるのかを悟った。
「なぁ、私を殺すのか?」
「あぁ??」
「夜中に村から遠く離れたこの地で、私は死ねるのか」
男はハッと笑い言った。
「誰が呪われた子を殺すかよ。そんなことしたらどんな呪いが俺に降りかかるか、う~ッ考えただけでゾッとするぜ」
何?殺さないだと。じゃぁ何故・・・
「どうしてって顔をしてるわね。ねぇ知ってる?」
少し後ろを歩く女の人はまた笑っている。
「この丘の上にわね魔物が住んでるって噂があるのよ、でね、村の人が確認に行ったみたいなんだけど誰も帰ってこなかったそうよ」
「魔物?」
「ふふ、だからわざわざ私たちが手を下さなくても、その魔物があんたを始末してくれるってわけ」
なるほどね・・・それで私をここに・・・
「私この人との子供ができたの、引っ越しも考えているのだけど、その計画にあんたが邪魔なのよ。だから許してね」
どうして父さんはこんな女に引っかかったのだろうか。
まぁそれもあっちで直接聞けばいい事か。
やっと会える。
そして私はその時を受け入れるかのように瞳を閉じた。
「着いたぜガキ、ここがお前の墓場だ」
「ッ!?」
男は私を草むらの中に放り投げた。
そこは魔物の家の庭のようだった。見たことのない草花が植えられており、何やら煙のようなのが漂っている。
家に明かりがついた。
そして影がこちらに近づいてくるように見えた。
その影は人のようなシルエットをしていたが、頭あたりに2つ尖がったものがついていた。
「ま、魔物!?噂は本当だったのか」
「何をしているの!早く逃げるわよ!私たちまで殺されたら意味ないじゃない」
「おおう、そうだな。じゃぁな【呪われた子】」
そう言い残し二人は丘を下って行った。
私は捨てられた。
いいさ。
私はもうあの日から死ぬ覚悟はできてる。
生きる意味が分からない。
生きていても何もいい事なんてなかった。
こんなくだらない世界私から願い下げ。
死んでやる。
そして
魔物の家の玄関が開いた。
来たな魔物。
もう覚悟はできてる。
「魔物!私を・・・殺せッ!!!!」