第十七話 先生
先生‥‥。
ルークがそう呼んだ人は、どう見ても私と同い年くらいにしか見えない。
私達は一旦魔法の練習を止めて、家の中に戻った。
お茶をルークが用意している間、ジェイトと先生はテーブル席へ。
私はソファーに座ってその先生の様子を伺っていた。
もうお気づきと思いますが、私は人見知りします。
警戒モードMAX。
そのオーラに気づいたのか、先生とやらは私に話しかけてきた。
「君がシロナだね。初めまして、僕はモノンと言います。君にとってはおじいちゃんにあたる者ですよ」
へ?おじいちゃん??
「モノじぃ、その言い方じゃ分かんねぇって。シロナ、この人はルークの師匠なんだ、だからルークの助手であるお前は孫弟子にあたるようなもんなんだよ」
戸惑った私に気を使い、ジェイトが言い直してくれたが、いまいち飲み込めない。
「は、はぁ‥‥」
じゃぁ師匠ってことは、やっぱり私より年上になるのか‥‥。
「君の事は少しだけジェイト君から聞きましたよ。僕も君の助けになるから、いつでも頼って下さいね。あ、あと僕の事はモノンって呼び捨てて構いませんから」
奇策に話しかけてくれるこの人は、いい人なのかもしれない。
ん?人?
どう見ても人。
魔物の国なのに?
よくわからないけど、ルークの師匠なら信用して大丈夫‥‥だよな‥‥?
私は小声でボソッと返事をした。
「どうも‥‥よろしくお願いします、モノン」
するとルークがお茶を持ってきた。
「シロナ、先生は魔法に関しては凄い人だ、魔法に関しては!だから後で教えてもらうといい」
そう言ってお茶を2人の前に置いていく。
「ルークも言うようになりましたね〜。もう僕も若くありませんから、武術はちょっとね〜。と、それよりルーク久しぶりに仕事場を覗いてもいいですか?」
「あぁ、いいですよ。あとお話したいことが‥‥」
「うん。分かってますよ」
ルークが敬語を使ってる‥‥。
なんか新鮮。
それと、話したい事って‥‥。
まぁたぶん私の事なんだろうな。
お茶を飲み終えたモノンは、ルークと一緒に仕事場の方へ行った。
リビングには私とコハクとジェイトが残って、二人の帰りを待つことに‥‥。
私は膝の上に座っているコハクの頭を撫でながら考えていた。
今ならルークはいない。
私とジェイトの二人きり。
ルークの過去を聞くには今のタイミングしかないのでは?
けど、ルークに直接聞かないのも‥‥
と、悩ませていたらジェイトは勘違いしたらしく‥‥
「おいおい大丈夫か〜、そんな落ち込まなくたって大丈夫だって!魔法なんてもんは経験積めば誰でも上手くなんだからよ。なんならルークなんか昔、全然魔法使えなかったんだからな」
「いや、落ち込んでるわけじゃ‥‥‥‥って魔法使えなかったのかッ?!ほんとに?!あのルークが?!」
思わずソファーから身を乗り出す。
だってそりゃ驚くだろ!
魔法使いこなしている姿しか見ていない訳だし、まさかそんな事が。
「ビックリしたろ?モノじぃがアイツの師匠になってからはスパルタ教育の賜物で、もう魔法なんてお手の物ってわけさ。だから焦る必要なんてねぇよ」
ジェイトなりの励ましだろう。
ルークの過去が少し分かっただけで、何故か嬉しい気持ちになった。
もっと‥‥知りたい。
「なぁジェイト‥‥ひとつ聞いていいか?」
「ん?どしたよ」
「あの‥‥昨日私をルークが助けた時、間に合わないかと思ったって言ったんだ。‥‥それってなんの事か分かる?」
質問の内容を察したジェイトは俯き、しばらくの間沈黙が続いた。
即答できないってことは、やっぱルークの過去に何かあったんだな。
するとジェイトは顔を上げた。
「俺から言っていいのか分かんねぇけど‥‥まぁ俺も全部知ってるわけじゃないしな‥‥。知ってる事だけ話すぞ」
「‥‥うん」
シロナがルークの過去の話を聞いている頃、ルークはシロナの事をモノンに説明していた。
「なるほど‥‥人の子がドラゴンのマナと対話し、更に魔力を受け継いだと‥‥信じられない話ですね。魔物同士でも限られた条件下でしか出来ない事を、ましてや人間が‥‥」
「俺も目の前で見てましたが‥‥驚くべき光景でした。まぁそのおかげで、コハクは命を救われたんですけど。今じゃシロナにベッタリです」
モノンは休憩室のハンモックに腰掛けた。
「よっこいしょっと!」
「先生‥‥ジジ臭い‥‥」
「いいじゃないですかー。大目に見てくださいよ。まぁ大体分かりましたが、先程の爆発は一体何ですか?」
先程の‥‥。
あぁ、庭でシロナが魔法を失敗させ爆発させた事だ。
「あれが初めてじゃないんですよね‥‥前にも1回ここでありまして、その時は魔具が無いからだと判断してエレティナに作らせたんですけど、また同じ結果で‥‥。」
「そうですか‥‥。なら魔力操作に異常があるのか‥‥それとも‥‥。ルーク、後でシロナを調べさせてもらっていいかな」
「いいですけど、何するんです?」
「いや、ちょっと確認しておきたいことがあるんですよ‥‥まさかとは思いますがね‥‥」
?
たまに先生の考えていることが分からない時がある。
それが、いくつもある先生の謎の一つだ。




