第十三話 相棒
怖い・・・そう感じてしまった。
「ルー・・・ク・・・?」
確認するかのように、そっと声を掛ける。
刀を鞘に戻し、1回瞳をとじてから私の顔を見た。
私の強ばっていた頬が緩む。
なぜなら。
いつものルークに戻っていたから・・・。
「シロナ」
呟くように名前を呼び、手を伸ばしてくる。
叩かれる・・・!
そう思った。
だって私はルークとの約束を破ってしまったのだから、怒って当然。
私は叩かれるのを覚悟し目をギュッと閉じた。
しかし、痛みはいくら待ってもこない。
ルークは私の頭の後ろに手を回し、胸元に引き寄せ、私を抱きしめていた。
触れて分かった。
ルークの手が震えていることに。
「また間に合わないかと思った・・・・・・でも生きてる・・・良かった・・・」
・・・何でこの魔物が、人間である私に対しこんなに心配してくれるのかは分からないが・・・。
私を必要としてくれるこの人に、怖い思いをさせてしまった事に、ひどい罪悪感がわいた。
まだ、叩かれた方が痛くなかったような気がする。
そう思うくらい心が痛かった。
ルーク・・・
「・・・ごめんなさい」
2人きりの様な空間にゴホンっと咳払いのメスが入った。
そうだ。この男の事をすっかり忘れていた。
「えっとー。お二人さん?イチャイチャしてるとこ悪いんだけど、命の恩人さんの事忘れてな〜い?ルークちゃん」
慌てて私はルークから離れる。
って待て、今ルークちゃんて・・・??
ルークはシロナから男に視線を変える。
すると親しげに話し出した。
「よぉ、ジェイト。まさかお前が助けてくれたなんてな」
「おぅよ〜。俺は神出鬼没なんだよ。久しぶりだな!相棒!」
相棒??
この2人、どういう関係なんだ??
「それよりルーク、この嬢ちゃんお前ん所のか?どーゆー関係なんだよ」
私に指さす。
それはこっちのセリフなんですけど!!!
「話せば長いんだが、簡潔に言って俺の助手だ」
「へ〜助手ねぇー」
私のことを頭から足先までジロジロ見てくるそいつに、だんだん腹が立ってきた。
でも、その腹立たしさも一気に冷めてしまう発言をしてきた。
「ふ〜んなるほどね。ルーク、お前も物好きだなぁ!人間のガキじゃねぇかよ」
・・・え?
ば、バレた・・・?!
ちゃんとローブは羽織っている。
フードも被ってる。
なのに何で??
汗がツーっと頬を伝った。
「何で?って顔してるな。俺は質屋でも仕事した事あって、その時に見極めるスキルを手に入れたんだ。正体を暴くなんて朝飯前だぜ?」
じーっと見つめてくるジェイト。
目を逸らせば何かされそうな気がしたので、私もじっと睨み返した。
しかし、彼は突然ニコッと笑った。
「なーんてね!んな怖い顔すんなよ、人間だからってとって食ったりなんかしねェって」
思わぬ返しに、私の口は開いたままだ。
「安心しろ、コイツは俺の幼馴染で信用出来るやつだ。あと、俺と同じ人と魔物のハーフだから、人間の事悪くは思ってない」
幼馴染・・・
なるほど、だから相棒なのか。
それを聞いて大きなため息がでた。
とりあえず私は生きてる・・・。
今はそれでいいか。
そして私は倒れているリザードマンに目をやった。
「ルーク、あの魔物死んだのか?」
ルークが一撃を与えてから、一向に起きてくる気配がない。
「いや、峰打ちにした。・・・一体何があった?」
「・・・・・・・・・分からない」
本当に分からない。
何故この魔物が襲ってきたか、何故私を狙ったのか・・・検討もつかない。
疑問ばかりがつのる。
「ルーク、俺アイツを蹴飛ばした時違和感を感じたんだが・・・」
「違和感?」
「あぁ・・・アレ純血の魔物じゃねぇかもしんねェ・・・。アレから魔物の魔力の他に、人間の魔力が微かに感じた」
「人間の魔力?ならハーフかなにかか?」
「・・・いや違うと思うぜ、思うけど・・・ん〜わっかんねぇな!」
するとルークは紙を取り出しそれに何か書き出した。
「とりあえず、ここでゴチャゴチャ考えても仕方ない。魔軍に引き取ってもらうのが一番だろ」
「魔軍ねぇ〜。アイツらまともに見回りとかしねぇクセして、呼んだ時だけ我先にって来るんだよなぁ」
「楽もしたいし、手柄も欲しいしって事なんだろうな」
ダメだ、全然話についていけない。
何?
魔軍???
魔法陣のようなものを描いた紙を、倒れているリザードマンに貼り付けた。
魔力を込め始めたルークは、円を描く動作をし右腕を勢いよく空に指さした。
するとリザードマンの周りに、黄金色の光の膜が現れ、それは円柱になり空高くまで続いている。
「何・・・これ??魔法?」
もーさっきから何何しか言っていないような気がしてきた。
シロナの質問にジェイトが答えた。
「魔物の国の衛兵に知らせたんだ。ここに悪いヤツ捕まえました!みたいな感じでな」
「衛兵?まるで本当の国みたいだな・・・」
「ま、王様は居るような、居ないようなって感じだけどな〜。いや、女王様か?」
「???」
女王様??
もー後でルークにまとめて聞こう。
あ、そうだ一応これも伝えておこうか・・・
「あの、ジェイト」
「ん?(いきなり呼び捨て・・・)」
「1つ伝えておきたい事があって、あの魔物に追われる直前、アイツ私に魔女!って叫んできたんだ」
「・・・魔女?」
「私にも分からない。なにか手掛かりになるだろうか・・・?」
たぶん不安そうな顔をしていたんだと思う。
ジェイトは気を使ってか、またニカッと笑い私の頭をグシャグシャにした。
「おう!なるなる!お兄さんに任せとけ〜!」
割と強めにワシャワシャされたので、ちょっとイラついた。
「や、やめろーーーーーっ!!!!」
パッと離れて今度はルークと話し出した。
「ルーク、俺がここに残って衛兵に細かく状況説明しとくからさ。お前らはもう帰ってろよ」
「いいのか」
「おぉ、また落ち着いたら顔出しに行くわ。それに、俺アイツらと知り合いみたいなもんだし」
「・・・すまない。それじゃ後は頼んだぞ」
私とコハクは、ルークと共に店へ戻ることになった。
ルーク達を見送ったジェイトは、リザードマンの側でしゃがみ込んだ。
「さぁ〜てと、厄介な事にならなけりゃいいがな〜」
大きい独り言を呟いたあと、顔が真剣な表情になる。
・・・魔女か・・・・・・。
おとぎ話の魔女の事か・・・。
元始の魔女。
魔物を創造した魔女。
まさか・・・
考え事をしていたら複数の足音が聞こえてきた。
顔を上げると3人の魔物衛兵が軽めの甲冑を着けてやって来た。
「そこの者!信号魔法を使ったのは貴様か」
先頭に立っている男が偉そうな態度でジェイトに話しかける。
「おーう。待ってたぜ〜」
しかし、後ろにいる二人が焦りの表情を浮かべている。
「ば、馬鹿かお前!誰に向かってそんな口を・・・っ!」
「そうだぞ、お前知らないのか!」
何故二人がそんなに焦っているのか、理由が分からない男はそれを問いただす。
「な、何をそんな焦っている?相手は若造だぞ?」
「バカ!!す、すいません!ご無礼を働きまして!後できつく言っておきますので!」
すかさず謝る後方の二人。
「いいって、気にすんなよ」
訳が分からない男は、コソッと聞く。
「何者なんだ・・・あいつは?」
「あんた本当に知らないのか?!あの方は我ら魔軍騎士団長、スカーレット様の弟君であるぞ!」
「す、スカーレット様の?!?!」
小声でも、その会話はジェイトの耳に入っていた。
落ち着いたのを見計らって次の話題をふる。
「そろそろいーかい?魔軍さん。ちょーっとこのリザードマンの事をお話したいんですけど?」




