第十一話 お手伝い
メモ書きだけ置いて出てきてしまった。
きっと帰ったらこっぴどく怒られるのだろうと思うと、気が重くなる。
でもあんなに頼まれたら仕方無いだろ。
訳を説明すれば分かってくれるはずだ。
そうだ。そうに違いない。
と心の中で自分に言い聞かせた。
今、私達は麻袋を一袋ずつ抱えて街の中を歩いている。
外から袋を触るとゴツゴツしているので、少し痛い。
「ポルク、この袋の中何が入ってるんだ?」
少し前を歩くポルクが首だけ振り向かせる。
「はは、何言ってんのシロナ〜。僕の店は魔具店なんだよ?魔具に決まってんじゃん」
呆れられながら答えられてしまった。
まぁそりゃそうか・・・。
「まぁでもコレは僕が作った試作品なんだけどね」
先程の店でのやり取りを思い出す。
「ん?でも店では魔具はまだ作らせてもらえないって言ってなかったっけ?」
「売り物としての魔具はまだ作らせてもらえないけど、ある施設に無料提供して性能を試してもらってるんだ。先方もそれで了承してくれてるしね」
「じゃぁ納品場所はその施設?」
「そうそう!この角を曲がればすぐだから」
魔具が入った袋はそれなりに重かったので、もうすぐで着くと聞いて安堵した。
ポルクは前を向き進む。
その腰にはナイフがぶら下がっている。
護身用かな・・・?
それを見つめていると、視線に気づいたのかポルクはまた振り向く。
「何?僕に虫でもついてる?」
「えっ、あ、いや違う違う。商売人でも武装するんだなって・・・」
「あぁこれ?なんか最近凶暴化した魔物が暴れてるって噂でさ、護身用に。やっぱ持ってるのと、持ってないのとじゃ違うしね」
凶暴化した魔物?
「人間ならまだしも、魔物同士なら大丈夫なんじゃないの?」
「それがだよ、その魔物は魔物も襲うって話しでね!もぅ僕おっかないからさ。シロナも丸腰なら何かアンちゃんに買ってもらった方がいいよ」
魔物が魔物を襲う・・・。
まぁ人間も人間を殺すこともあるんだし、魔物の世界でも普通のことなのかもしれないな。
でも自分の身は自分で守りたいし、コハクも居るから帰ったらルークに話だけしてみよう。
「シロナ着いたよ!」
無料提供をしている施設。
なんの施設かなって思っていたけど、一目見て分かった。
建物の中から沢山の子供のはしゃぎ声が聞こえてくる。
そして、外には追いかけっこして遊ぶ子供たち。
「養護施設ってやつか」
周りをキョロキョロしながら歩いていると、ポルクに静止を促された。
「おっと、先客だ」
玄関口に背の高い男の人が保母さんらしき人と話をしている。
トトーと同じ帽子を被り、同じカバンを持っている。
便り飛びの魔物のようだ。
「じゃ手紙は預かったぜ」
「ありがとね。仕事には慣れたの?」
「オールマイティに仕事をこなせるのが俺のスキルなんでな。このくらい余裕余裕」
「そう、なら良かったわ。それじゃあよろしくね」
「おう、任されました〜」
手紙を受け取った彼は、振り向いてこちらに気づいた。
「おっポルクじゃねェか」
どうやら知り合いの様だ。
親しげに話しかけてきた。
「ジェイトじゃん!あれ?こないだまで鍛冶屋で仕事してなかった?」
「先週までな!もう鍛冶屋の仕事はマスターしたから辞めた!今は便り飛び師だぜ」
「相変わらずフラフラしてるみたいだね」
「まぁな〜」
その会話をポルクの後ろで聞いていた私とコハクに、そのジェイトと言う男が興味を持ったようで、、、
「お前見ない顔だな。ドラゴンまで連れちゃって・・・この街の新顔か?」
グイッと顔を覗き込もうとするので、私は慌てて持っていた袋で顔を隠した。
フードを被っているから人間とバレることは無いと思うけど、もしものことがあると面倒だしな。
するとポルクが止めに入ってくれた。
「こらこら!僕のお客さんなんだから!あまり詮索しないでよね!」
ナイスだポルク!
私の中でポルクの好感度がかなり上がった。
「へいへい、わーったよ!じゃ俺はお遊びに戻らねぇとだから行くわ」
「働け!このフリーター!」
「俺にとって仕事は遊びなんだよ〜。じゃぁな!」
ジェイトと別れた後、私達は施設の中に入れてもらい、納品の手続きをする為、応接室へと案内された。
「今ハンコ持ってきますので少々お待ち下さいな」
保母さんは応接室から一旦退室した。
ふかふかのソファーに座り帰ってくるのを待っていると、窓の外から視線を感じそちらに目線をやった。
その視線の人物は、顔や腕には包帯を巻いて怪我をしている黒髪の少女だった。
目が合うとその少女はどこかへ行ってしまった。
ツノや獣耳も無い子供だった・・・。
まさか・・・人間?
でも、ここは魔物の国の隣街。
たとえ混ざり者や爪弾きにされた者が集まる街だとしても、人間がここにいるのはおかしいのでは・・・。
「どうしたの?」
驚いた顔で外を見ていた私を心配し、ポルクが声を掛けてきた。
「あ、今外に・・・」
話を続けようとしたが、保母さんのお待たせの言葉に掻き消されてしまった。
納品書を渡し、受領書にハンコを貰うと私達は玄関まで案内された。
「また来月納品に来るからね!」
「いつもありがとね〜助かるわ」
さっきの少女の事が気になる。
もし人間なら話してみたい。
聞くなら今しかない!
「あの!すいません。ここに黒髪の女の子って居ますか?」
突然口を開いた私に少しドキっとした様子の保母さんだったが、質問に答えてくれた。
「あぁ、居ますよ。最近入ってきたばかりの子なんだけどね」
やっぱりいた。見間違いじゃなかった。
「その子って・・・もしかして人間ですか?」
人間
というワードにポルクと保母さんは顔が強ばる。
もしかして違ってたかな。
それとも、不味いことを聞いてしまったのでは・・・
自分から聞いておいてなんだけど、やっぱ聞かなければよかったかなと、今のはやっぱり無しで!って言おうとしたら、保母さんはゆっくり口を開いた。
「そうよ・・・あの子は人の子・・・。数日前森の中を倒れている所を見つけて、私が保護したの」
「人の子なら親が居るんじゃないのか?僕達みたいな魔物の所で保護するより、村に返した方がいいんじゃないの?」
ポルクの言う通り・・・
ここに居るよりかは安全のはず。
「そうだと思って私達も探したのよ。でも、何処にもそんな人間は見当たらなかった。人間どころか村さえも。」
「どういうこと?それ」
「あの子の両親と村はね・・・襲われたの。魔物の手によって・・・ね・・・」
この世界で家族を失う事はざらにある。
敵国による襲撃。
人間同士の争い。
そして・・・魔物に襲われ殺される事。
魔物の集団が村を制圧する事なんて、よくある話だ。
そう、私の父さんの場合もよくある話。
だからって平気でいられるはずがない。
とても苦しくて、辛くて、哀しくて・・・。
でも、それは魔物も同じ事。
何もしていないにも関わらず、素材や討伐賞金に目がくらみ、残酷に人間に殺されていく魔物達もいる。
魔物を恨む人間もいれば
人間を呪う魔物もいるだろう。
そして憎しみの連鎖が生まれる。
けど私はみんなが皆悪い魔物だとは思わない。
あのドラゴンは私に生きろと言ってくれた。
そして気に食わないけど、ルークは人間の私に生きる理由と居場所をくれた。
あの子にも、きっと・・・そんな人がいれば・・・