第十話 弟子
夢を見た。
あのドラゴンの記憶の夢を。
魔力が流れ込んだあの時に・・・。
ドラゴンの今まで生きてきた映像が断片的に、時間も飛び飛びだったけど。
その中に一つ気になることがあった。
まだ子供の頃の記憶。
誰かの肩に乗って、その人の頬に擦り寄る。
するとその人はこちらを向き、微笑みながら頭を撫でるのだ。
その人はフワフワの長髪に、私と同じ灰色の髪をしていた。
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そんな事を思い出していると、ルークが私の名前を呼んだ。
「シロナ?シーローナー?」
「え?」
「え?じゃない。さっきから呼んでるのに・・・大丈夫か?」
どうやら何回も呼ばれていたみたいだが、全く気づかなかった。
さっき気を失ったところだから心配されて当然だ。
ちょっと反省。
「大丈夫だ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「それならいいが、あまり無茶はしてくれるなよ・・・。それじゃあ少し時間もあるようだし、俺はこれから街に薬の材料の買い出しに行ってくるから、お前はここで待ってろ。いいな?」
分かったと返事をしようとしたら、私のお腹が代わりにグ~と返事をした。
朝から何も食べてないし、もう時計の針は1時を過ぎている。
当然お腹が減るに決まっている。
それでもやっぱり恥ずかしいので、急いでお腹を抑える。
でも、その音はしっかりルークの耳に入っていた。
「はいはい。ご飯だろ?先に買ってきてやるから、大人しく待ってろ」
「あーもー!うるさーーーい!!!!/////」
クスクスと笑いながらルークは外に出て行った。
「まったく・・・あの男にはデリカシーってのが無いのか!なぁ!おチビ?」
「クゥッ!」
子ドラゴンは元気よく返事をする。
本当に元気になって良かった・・・。
これから、この子が1人で生きていけるまで一緒に過ごす事になる。
あ、そういえば・・・
「おチビ・・・お前名前とかあるのか?」
「クゥ?」
「はは。そりゃ無いよな」
一応聞いてみたけど、聞いたところでなんて言ってるのか分からないし、ここは私が名付けるしか無いみたいだ。
「ん〜じゃぁ私が付けるか・・・。私がシロナだから、クロとかどうだ?」
我ながら安直すぎる名付け。
クロという名を聞いた子ドラゴンは猛拒否行動!
首を横に振って表現した。
「で、ですよね〜」
仕方ない、ちゃんと考えよう・・・
ドラゴンの子供、ホワイトドラゴン、白竜、ハク・・・
そこで私はピンときた。
「コハク・・・なんてどうだろ?」
「クゥ!クゥ!」
コハクという名に喜んでいるのか、子ドラゴンは宙をクルクルと回り飛ぶ。
どうやら気に入ったみたいだ。
「ならこれからお前の名は、《コハク》だ!よろしく」
こちらこそ!と言わんばかりに、コハクはシロナの頬をペロペロと舐める。
「コハク〜っくすぐったいぞー!」
「クゥ〜」
2人がじゃれあっていると、突然、店の扉が勢いよく開いた。
もうルーク帰ってきたのか??
随分早い帰りだな・・・
しかし、入ってきたのはルークではなかった。
シロナの腰の高さくらいの身長の子供が入ってきたのだ。
いや、ただの子供ではない。
頭にはルークの様な獣耳があって、タヌキのような尻尾も生えている。
そして、顔には左右に各2本ヒゲが生えていた。
どう見ても魔物だった。
「店長~!ごめんなさい遅くなっちゃいました!店番どうで・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
目が合い、沈黙が広がる。
あぁ・・・嫌な予感。
といいますか、これ、前にも同じような展開が・・・・。
「お、おおおおおおおお、おおおおお前!!!!何で人間がここに居るんだ!!!」
速攻人間とバレた。
まぁ仕方ない。ルークから貰ったローブはさっき店に入った時に脱いでしまっていたのです。
仕方ない。
仕方ない。
・・・さて、この状況どうしようか・・・。
相手は完全に私を警戒モード。
ルークも不在。エレティナは工房に籠っている。
私を弁解してくれる人がいない状況。
極めてマズイ・・・。
すると魔物が先に動いた。
「人間め!僕たちの店を乗っ取るつもりだな!そんな事させてたまるかァー!」
「!!?」
魔物はシロナに向かって走り出し、殴りかかろうとしてきた。
思わずシロナは目を閉じてしまうが、肩に乗っていたコハクが前に飛び出し、魔物の腕を思いっきりガブッと噛みついた。
コハクの歯は鋭い。私も噛まれた時かなり痛かった。
それは魔物だろうと同じこと。
悲鳴が店に響き渡る。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」
コハクのおかげで何とか魔物は落ち着いてくれた。
相当痛かったようで涙目になっている。
今なら私の話を聞いてくれそうなので、今までの経緯を説明した。
やはりこの流れ、トトーの時と同じような気がする・・・。
「何だ~!あんちゃんとこの助手だったのか~!それならそうと早く言ってよね。僕早とちりしちゃったじゃないか」
すんなりと信じてくれた。
え?ちょろすぎない?
ちょっと不安なんだけど。
「そ、そんな簡単に信じてくれていいのか??」
魔物はローブに向かって指をさした。
「あの毛皮ローブからあんちゃんの魔力を感じる。アレを持ってるって事で十分信用できるよ」
「そうなんだ・・・」
確かにアレにはルークが少し細工を入れたと言っていた。
何か魔法をかけているのかもしれない。
とにかく、信じてもらえたようで良かった。
ホッと胸をなでおろすと、魔物が手を伸ばしてきた。
「僕の名前はポルク!店長の弟子でここで働いてるんだ。よろしくね」
その魔物はニカーっと笑っている。
私もつられて頬が緩み、その手を握った。
「私はシロナ。この子はホワイトドラゴンのコハクだ。こちらこそよろしく」
挨拶を終えるとポルクは受付の椅子に座った。
ポルクはエレティナの弟子・・・なら魔具とかも作ったりできるのかな。
「まだ子供なのに弟子で働いてるってすごいな」
「まぁ弟子って言っても、ここで店番するのと納品に行くくらいしかさせてもらってないんだけどね」
「へ~納品もしてるのか・・・」
意外にもちゃんと店してたんだな、この店。
するとポルクは何か思いついて受付から身を乗り出した。
「そうだ!シロナ!これから僕納品に行くんだけど、一緒に行かない??」
「は???」
突然すぎるお誘い。
「今回の納品量が多くて僕一人じゃ一気に持ち運べないんだよ!お願いシロナ!」
両手の平を合わせてお願いされる。
え~・・・・
どうしよう・・・・・
数分後・・・・・
店の扉がギィっと開く。
「シロナ~。飯買ってきたぞ~」
ルークが屋台のごはんを持って帰ってきた。
しかし店内には誰もいない。
人の気配すらしない。
「・・・?トイレでも行ったのか・・・?」
机にご飯の入った紙袋を置く。するとその横に置手紙があることに気付き、それを手に取る。
「手紙?」
そこには、こう記されていた。
「(ルークへ エレティナのお弟子さん。ポルクと一緒に出掛けてきます。 シロナより)」




