表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

崖の人

作者: ノト ハルオミ

僕は世間的に見たらおじいさんと呼ばれる年になる。

愛する妻もいるし、息子もいる。それと、つい最近待ちに待った孫が出来た。

孫の顔が見れないのがとても残念だが、きっと可愛いに違いないだろう。それが今の楽しみだ。

いきなりだが、僕は全盲なので何も見ることが出来ない。愛する妻も息子の顔すらも知らない。でも、心から愛していることに変わりはなかった。だがしかし、やっぱりこの目で見たいと思う事は未だにあるというのが本音である。 だが、僕はあの出来事を決して後悔はしない。何故ならこうして息子や孫にも会える機会が出来たのだから。


私はいつも通り、白杖を使って近所の公園に来ていた。そして、この公園のベンチに座ってまったりするのが日課だ。

すると、人が寄ってくる気配を感じる。

「芽口さんこんにちは、今日も暑いですね」

いつもの声が聞こえてきたので私も返事をした。

「合田くんこんにちは、その通りですな。」

すると、 いつもの声の男性が少し申し訳なさそうな物言いで返してきた。

「あ、そういえば...この前のお約束ですが本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、僕の目が見えなくなった頃の話だね、もちろん話していいけど、これはとても怖い話になってしまうが大丈夫かね?」

「はい...無理にとは言いませんが、差し支えなければお願いします」

その事について前々から気になっている素振りを僕は薄々感じていた。この男性とはもうかれこれ知り合って2ヶ月位になる。知ってる事は20代であること、今の仕事に疲れてしまっている事、サラリーマンであること、名前が勝太くんということ、趣味がバンジージャンプと人間観察という事は話を聞いて教えてもらった。

この話をするのは気が進まなかったが、何故だか自然に心を許していた。僕は、死ぬ前に恐らく最後になるであろう人生最大のトラウマの話をすることを決意した。

「じゃあ...話そうか。 僕が、何故目が見えなくなったのかを...」


これはもう50年近く前の話になる。

僕が21歳でまだ僕の目が見えていた頃、僕は友人と4人で車で行く宛のないドライブをしていた。

何時間走っただろうか、急な崖のある海辺に僕達は辿り着いた。僕は密かにこんな場所を求めていた。その付近の駐車場に車を停め、みんなで昼食のおにぎりを食べ終わった後、友人の持ってきた美味しいキャンディを舐めながら話していた。彼ら3人は仲良さげに話している。「ここまで来たし、もう帰ろうか?」 「いや〜運転疲れたな。しかしこんな崖みたいな所まで来るとは思わなかったぜ〜うひひひっ」 「なんか自殺の名称とかだったら嫌だな...でもドライブで引き返しは賛成だね!」

彼らの雑談の中、僕も言葉を口にした。

「確かにね。みんな休んでる間に先にちょっと散歩してくるわ〜」

そういって僕は1人で崖の先に向かっていった。向かう途中に崖の先に何かが居ることに気付いた僕は遠くからソイツを凝視した。

なんとそこにはとても大きな1匹のフクロウが止まっていた。


「え、フクロウ...? こんなと所に何故... あれじゃああそこまで近づけないな。 よし、びっくりさせて遠くへ追いやってやろう」

そうすると僕は、足元にあった小石を手に取り遠くのフクロウ目掛け投げた。

そうすると、どうゆう理由かフクロウは動かず立ち止まっていて当てるつもりもなかったその石は思いのほかかなりの衝撃で直撃してしまった。


「あ! 」

フクロウは飛ぶこともせずにそのまま痙攣したような動きをしながら前にもたれ掛かり始めた。

前には壁も何も無い、あるのは下に荒い海とゴツゴツとした岩場しかない。


その瞬間、とても妙な胸騒ぎがした。

僕はすぐに走って駆け寄ったが、そのままフクロウは頭から下に落ちていった。

「え......お、おい!!!!!!!!」

僕は叫んだ。

崖の先から覗き込むと、なんとさっきまでフクロウに見えたはずなのだが、若い男性に見えたのだ。 彼は頭の方から真っ逆さまに落ちながら僕と目が合った。

彼は言葉には表せられないような、まるでB級映画のゾンビのような今までに見たことのないような表情をして笑っていた。

その瞬間、岩場にぶち当たり彼は海に沈んでいった。彼が浮き上がってくる事はもちろん無かった。 その周辺が一瞬で赤色に染まった。

僕はすぐさま仲間たちの所に駆け戻った。

あれはフクロウだったのか。もしくは、本当に人間だったのか。分からないが、とてつもない恐怖が僕を襲った。

この事を誰にも言えなかった僕は慌てて友人と共に他の場所へ行くことにした。

崖を見たいという者に対しては、「地元の人に聞いたらあそこは呪われていて危険だから近づいてはいけない」と嘘を吐きただひたすら行かせなかった。

それでも友人の一人が崖の方に行ってしまった時には今までなら気にもしなかった人生の終わりを恐れいたのだけれど、不思議なことに何事も無かったかのように戻ってきて内心ホッとした自分がいた。ただただ、この出来事が飲み込めず恐ろしく震えが止まらなかったが必死で押し殺していた気がする。

その後の事は正直あまり覚えていない。

くっきりと鮮明に覚えているのは、岩場にぶち当たり潰れる前の彼の顔だった。

その次の日、私は勤めている会社の窓をチラッと見た時だった。

急に何かが降ってきて驚いたと同時に凍りついた。そこにはなんと少し前に崖の先で見た、転落していった男だった。

なぜ生きているのか。なぜこんな所にいるのか。全く理解出来なかった。そして、その男はあの時と同じく言い表せれないような顔をして真っ逆さまに落ちていった。


それからというものの、電車に乗っていても、友人の家に居る時も、エレベーターでさえも崖の彼が出てきた。

その度に落ちて頭が砕けて無残な状態になっていった。 まるでビデオテープを再生するかの様だった。

僕はそんな事が度々続き、とうとう極度のノイローゼになり仕事はおろか外出もできなくなってしまっていた。

私もあの彼と同じく高い場所から飛び降りようと何度考えたか分からない。だが、自分も崖の彼と同じようになると考えると恐ろしくて僕には出来なかった。

僕は精神的に参ってしまっていた。いつしか幻聴や幻覚すらも見えてきてしまっていた。

いつでも崖の彼は僕の前に現れてはニヤリと笑っていた。

「僕には悪気は無かったんだ...なぜ僕の前で出てくるんだ...お願いだ...もう出てこないでくれ...」

その時僕の目の前の閉めていたはずのカーテンが空調を付けていないのにも関わらず大きく揺れ、その瞬間逆さまになった状態の崖の彼が現れた。そして有り得ない事に空中で静止しながらこう呟いた。

「オマエノコト...ズットミテルヨ...クスクス」

その瞬間、僕は台所の下の台に閉まっていた液体パイプクリーナーを取り出し、自分の目に浴びせた。

あまりの激痛に悶え苦しみながら、洗うことをせずにその場に倒れ込んだ。 意識が朦朧としてる最中、僕は自分の目が見えなくなれと念じた。


気がつくと、病院のベッドにいるみたいだった。そこから僕の真っ暗な世界が始まっていた。僕が起きると駆けつけた医師にはこう告げられた。「完全に手の打ちようが無かった。こんな状態は初めて見て背筋が凍った。自らがこんな危険なことをするなどと信じられない」と語っていた。

正直僕もあまり覚えてなかったものの、どこかで見えないことに安堵していた自分がいるのもまた事実であった。

僕は真実を警察に打ち明けたが、それらしい人物や証拠見つからず、相手にされなかった。

僕は精神病を患っているという事で精神病院に隔離されることとなったがやがてそこを出られるようになった。

それからというもの目が見えないものすごく不自由な生活を送ることとなったが、彼の呪縛からようやく解放されたみたいでもう彼が目の前に現れることがなくなった。

それから僕は、素敵な女性に出会ったことで人生を新しく歩み始めた。

今でもその時の友人とは仲良くしている。友人にはどういった経緯で両目を失ったかは結局言えなかった。 僕はあの時とある目的を持っていたのだが、結局実現することは無かった。でも、今となってはそれで良かった。

久しぶりにあった時に、あの美味しいキャンディをまた貰った。 あの頃は友達が持ってくる度にお願いしてよく貰っていたのを思い出してなんだか懐かしくなった。そんな時に僕は君にこの公園のベンチで出会ったんだ。



「ちゃんと最後まで聞いていたかい?僕は自らの意思で見えなくなってしまったんだよ。そして、フクロウなのかもしくは本当は人だったのかを殺めてしまったかもしれない。本当は何事もなくてあの時の僕の幻想だったのかとすら何度も考えた。それを自首した所で全く信じてもらえず死体も見つからなくて捕まらなかったんだけどね... ただ一つ言えることは、僕はあの場所に行くべきじゃなかった。今ならそう思える。 」

そうゆうと、しばらくの沈黙の後彼が口を開いた。

「クスクス、なるほど、やっぱりあなたの仕業だったんだ... あの時目が合った、俺を殺した人... 」


その瞬間目が見えないはずの僕の頭の中に何故か彼の顔が浮かび出した。

青白く、そしてそれは遠い昔見た忘れもしない彼の顔。

その顔が鮮明に浮かび上がった瞬間こう告げた






「ヤット... ミ ツ ケ タ 」







「麻生さん、この前この公園のベンチで心臓麻痺で亡くなった目の見えないおじいさんのお話知ってる?」


「あぁ、知ってるよ兄助さんだろ。いつもベンチに座りながら話しかけるように独り言言ってた人だよね」


「なんだか、幻覚を見ていたらしいわよ... 」


「危ない人でしたよ、崖から人を落としたことがあるらしいですから...うひひひっ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 美味しいキャンディ?明らかにヤバな雰囲気ですね。何故なめさせていたかは分かりませんが、随分愉快なオトモダチのようですね。
[一言] フクロウは知恵の象徴とも呼ばれる生き物ですし、その目に理智が宿っているようにみえるのもわかる気がします。 あと、首が反対に回るのもなんとなく落下死したあとの光景にマッチしている気がしていいチ…
[良い点] ∀・)視覚、その感覚を駆使して恐怖に堕としこむ感じでしたね。尚且つ主人公の罪悪感が恐怖へと成り立っていくのも構成として高評価したい感じでありました。何よりそっと添えるように綺麗に綴られてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ