第4話 勇者、魔物に返り討ちに遭う
魔王の城で捕らわれて2日目……奇襲作戦が失敗に終わったレイは、ため息をつきながら、自分の部屋を掃除していた。
今日は昼間から用事があると言われ、彼女をおいて魔王が何処かへ出掛けてしまっており、なにもすることがなかったため仕方なく部屋の掃除をすることになり、彼女はため息をつきながら愚痴を呟く。
「はぁ……専属の付人だからと思ってたらまさかのおいてけぼりだなんて………ってか、なんで魔王が自ら進んで出掛けるんだよ……てっきり城に篭ってばっかりだと思ったじゃないか……」
流石に魔王が城から離れることはないだろう……そう思ってたレイだったが、ものの見事に彼女を城に残してまで外出していったのにはただ驚くばかりでいた。
…因みに魔王が出てすぐに城から逃げ出せるかと試してみたところ、城の半径10メートル先に結界のようなものが張られていたため、どちらにしろ逃げることはできないことは彼女も承知済みだ。
「…そういや魔王のやつ、城抜け出しまでどこへ何しに………はっ!?まさかボクがいない間に自ら町や王国を攻め落としに………!?」
と、ふと彼女が魔王がそもそも何をしに出掛けたのかが疑問に思い、レイはそれについて考え出す。
そして魔王が他のところへ自ら赴いて侵略を始めたのではという考えに至ると、彼女は慌てふためきだす。
「ままままずい!流石に盲点だったよ!!どど、どうする!?どうすればいい!!?今から追いかける!?いやでもあいつに城から逃げ出せないように結界張られてしまったし、そもそもあいつがどこいったかわかんない!!あああどうすればぁぁぁ!!?」
彼女は慌てふためきながら知恵を振り絞るも、何もアイデアが思い浮かばず叫び続ける。
……が、しばらくすると彼女は何かをひらめいたのか「そうだ!」と声を出す。
「冷静に考えてみれば、ボクは他の魔物からも生かされている…つまり魔物たちはボクを攻撃できない……けどボクがここの魔物たちへの攻撃はできるんじゃ……!そうとなれば、今のうちにここの戦力を削ることができる!もしかしたら城に張られた結界を壊す手段もあるかもしれないし、そうと決まれば、城の探索だぁぁ!!」
レイは自分の立場上、他の魔物からも殺されることはないと思い、同時にこの立場を利用すれば敵の戦力を減らすことができるのではと考える。
実際に魔王はこの城にいる魔物に関しては「攻撃しないように言っておくがあまり期待はするな」と言っただけであり、自ら魔物に襲いかかることに関しては何も言及してない……
それにこの城の魔物たちなら、彼女が逃げ出さないようにと張られた結界を
そうとなれば善は急げと言わんばかりに、彼女は昨日もらったダガーを手に取ると、そのまま部屋を出ていった。
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一方その頃、魔王はというと……
「全く……村を襲うなとあれほど言ったであろうに………」
「す、すみませぬ魔王様……し、しかし、我々も食料がもう尽きそうでして……!」
「野生のポーグももうこの辺は狩り尽くしてしまった上に、果物に関しても村の人間共が……」
「それに関しては把握している……この時期は収穫期であるらしいからな……オーラム」
「御意……魔王様からの餞別です、これを植えれば5日以内には実をつけるでしょう……寿命は半月ですので、また食料で困ったら、遠慮なく申してください。それと、できたらその実を食べた感想などを後々教えていただければと」
「ポーグも我が後で蘇らせておくから、後で骨を持ってこい」
「「「あ、ありがとうございます!魔王様!!」」」
とある森林地帯にある、ゴブリンたちの巣で、彼らに施しを与えていた。
一通り件が終わり、魔王は深いため息をつきながら呟く。
「……繁殖に関してはまだ大丈夫だろうが、やはり食料に関しては厳しい思いをさせてしまっているな……」
「ですね……あの苗も、まだあれで試作段階………副作用などは未だに出てはいないものの、やはりあれだけで押さえられるかどうかですね……」
「…全く、人間共は相も変わらず余計なことばかりしてくれるな……忌々しい…」
「けれど滅ぼしたりはしない、のでしょう?」
「…今は、だがな」
オーラムの言葉に対し、魔王はそれだけ告げる。
そんな彼を見たオーラムは……やれやれと言わんばかりの仕草をとっていた。
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場所は代わり、再び魔王城………
(……まずは手始めに………あのコボルトだ…幸いまだ気付いてないな……次にやつが欠伸したら……一撃で仕留める!)
レイは周囲の空き部屋に隠れながら、獲物を仕留めようとダガーを何時でも出せるようにしながら、機会を伺っていた。
彼女の視線の先には、1匹のコボルト……暢気に欠伸しており完全に油断しているのが目に見えて分かる。
そして数秒後……彼女が狙っているコボルトが欠伸をする。
その機会を逃すまいと言わんばかりに彼女は部屋を出ると、一気にコボルトへと襲いかかる。
流石に扉を開けたときの音には反応したようで、コボルトは自身に向かってくるのを見て驚いており、反応が遅れているのがわかる…
「うおっ!?な、なんっ……!?」
(貰ったっ!)
コボルトまで後2、3歩の所まで近づいたレイは懐からダガーを取り出す。
そして喉仏を狙うように腕を伸ばし……
「---人の弟に何をするんじゃあゴルァアア!!」
「っ!?…がっ!?」
ダガーを突き刺そうとした瞬間、突然大声と共に槍が振りかざされ、棒の部分が彼女の腕に当たる。
腕の痛みにレイは顔をしかめながらダガーを地面に落とし、腕をその場で押さえる。
そして槍が振りかざされた方向を見ると、そこには赤いバンダナをしたコボルトが仁王立ちしており、彼女に向かって尋ねる。
「おうおうテメェ人の弟に手を出そうとしたな……?」
「あ、兄者……!」
「っ……もう1体いたなんて……いったいどこから……」
「そ、そうですぜ兄者!人を呼びつけておいてどこにいたんですか!?部屋にもいなかったですし……ほんとにどこにいたんです!?」
「ふっふっふ……よく聞いたぞ弟よ……今さっき勇者のやつが俺の存在に気づかなかっただろ……?その理由は、これだぁ!」
弟と呼ばれたコボルトはレイの言葉に賛同するように何処から出てきたのかを尋ねる。
それを聞いた赤バンダナのコボルトは得意気な顔をすると、叫びながら近くの影に吸い込まれる。
それを見たレイとコボルト弟は驚いた表情をしており、
影に吸い込まれた赤バンダナのコボルトは影の中からジャンプしながら飛び出ると、ドヤ顔で先程の現象について話す。
「「!?」」
「ふっふっふ……どうだ弟よ。これが一昨日覚えた魔法………"シャドウダイブ"だ!」
(!?その魔法って確か…)
「シャドウダイブ!?すげぇじゃねぇですか兄者!魔物の中でも覚えているやつは数知れないシャドウダイブを使えるようになるなんて!」
「へ、へへっ……だろぉ!?もっと俺を誉めてくれやい!」
赤バンダナのコボルトは少々照れ臭そうにしながら、もっと誉めるように言う。
その一方でレイは、彼女が予想すらしなかった魔法を使ってきたことに驚きを隠せずにいた。
「う、嘘でしょ……コボルトの癖に、シャドウダイブみたいな上位の魔物でも使えない魔法を使ってくるなんて…」
「そりゃあそうだ……俺たちは幾度となく魔王様に挑んではボコられたからなぁ………経験値も溜まりに溜まっているお陰で同族の中では実力は高い方だからな!……んで、何でテメェは俺の弟に手を出そうとしたんだ?勇者さんよぉ……?」
赤バンダナのコボルトはレイのダガーを手に取ると、彼女を思いきり睨む。
しかし彼女は臆せず、武器を返せと訴える。
「も、目的なんか教えるもんか!そ、それよりそのダガーを返せ!」
「返せってか……まぁ、これ以上手を出してこねぇなら返してやるよ……ま、手を出してきたところで、テメェ一人ならこの城の魔物全員には勝てねぇだろうけどな」
「なっ……不意をついてボクから武器を奪い取ったからって調子に乗りやがって……!」
「いや俺としてはかの勇者が、堂々と人の弟に不意打ちで刺し殺そうとしてるのがどうかと思うんだが……」
「兄者、もしかしてあれじゃあねぇですか?流石に一人だけで倒せる自信がないから不意打ちをしかけたとか」
「あぁー……まぁここはこいつにとっては敵陣のど真ん中みたいなもんだしな、流石に考えもなしに突っ込むバカではないか」
(うぐっ、ず、図星を突いてきた上にバカにされてる……)
的確なまでに図星を突かれ、レイは思わずたじろいでしまう。
と、赤バンダナのコボルトがしょうがないなと言いながら、彼女の足元にダガーを投げ渡しながら告げる。
「…ま、かわいそうだから、と・く・べ・つ・に、返してやるよ……ほらよ」
(ぐうぅ……馬鹿にしやがってぇぇぇ……!せめて魔法さえ使えればぁぁぁ……!)
「……それと、マジでここの城のやつらに喧嘩を売るんじゃあねぇぞ?テメェが思ってる以上に、ここにいるやつらはレベルがヤバイやつばかり集められているからな」
「あ、兄者……敵である勇者にすら警告してやるその姿、カッケェっす!!」
「よ、よせやい!照れるだろうがよ……おら、魔王様を殺すための作戦を建てるぞ!今度こそ俺たちコボルトブラザーズXX……否、コボルトブラザーズVXが勝つぞ!」
「ハイっす!」
妥当魔王と言わんばかりに騒ぎ立てながら、部屋の中(どうやら彼らのうちどちらかの部屋のようだ)に入っていく。
そんな2匹を見送ったレイは、ナイフを拾いながらわなわなと震える。
「……あんな魔物の生体図鑑でも注意さえすればそこまで危険じゃない部類に入るぐらいの説明しかされてないコボルトに、心配されるなんて………舐めやがってぇぇぇぇ!!見てろよ!絶対お前たち含めたこの城にいるやつ、ボクがこの手で仕留めてみせるからな!!」
レイはまるで捨て台詞と言わんばかりの事を言いながら、次なるターゲットを探しにその場を後にした……
---そして、1時間後……
「…な、なん、で……こん、な…簡単、に………」
一通り城を探索し、色んな魔物に挑んだレイは、全敗した上軽くボロボロになった状態で、通路にうつ伏せで倒れていた。
とりあえず手始めに、世間では頑張れば一人でも倒せるレベルの魔物たちに挑み、その後少しだけヤケになって一人ではおろか、そもそも手を出すこと事態危険な魔物たちにも挑み、最終的には挑んだ魔物たちから「不意打ちしないと勝てないのかよ今の勇者は」と満場一致で言われたため2~3匹ほど真正面から挑んだものの、どれもこれもすべて、返り討ちにされていた。
「ご、ゴブリン1匹にすら…真正面から挑んでも、勝てない、なんて……」
正直、魔王のお陰で殺されはしないものの、ここまで圧倒的に返り討ちにされるとは彼女も思っていなかっただろう…
しかし彼女はここまで返り討ちにされた事実を信じられずにいた……若干目が虚ろになっていたが。
「うっ……こ、今回は調子が悪かったんだ……きっとそうだよ……うん、そうじゃなきゃゴブリンすら負けるなんて…そもそもあいつ、初っぱなからフラッシュの魔法唱えてきたんだし……うん、そうだよ、今回のは偶然だよ…………ん…?」
と、彼女の視界になにか蠢くものが写り、彼女は目を凝らしてよく見てみる。
…その視線の先にあったのは、液状のゼリーのような物体で、のっそりと動いている様子が目に見てわかる……
『♪』
「あ、あれは……スライム…?それも最下級種の……上位種ならともかく…なんでこんなところに……」
……スライム………この世界では知らぬ者はまずいない、メジャー級の認知度を誇る魔物…
見た目通り液状の体をし、体内にコアと呼ばれる小さいものを除いた、目すらも存在しないという、一見不気味な構造をしている。
そして様々な種類がいることで知れ渡っており、種類によっては危険視されるものや、逆に危険はほぼないものにまで別れている。
今レイの目の前にいるのはそのなかでも特に危険性が低く、それなりに固い木の棒で何度も叩けば倒せるほどの種類……要するに世間では【雑魚】と言われるほどの弱さである。
そんなスライムをレイはじろじろと眺め、ポツンと呟く。
「……なんであんなのがここにいるかわからないけど…今は少しでも経験値がほしいから倒すか…下級種のスライムは知能が低いし、流石に負けるわけないでしょ…」
レイはそう呟くと、ダガーを構え、真正面から突っ込む。
すると気配に気づいたのかスライムは蠢くのをやめ、彼女の方を向く。
しかし気づかれても問題ないと思っていたのか、構わず彼女はそのままダガーをスライムに向けて突き刺しにかかる。
『!』
「うぉぉぉぉ!ボクの経験値の糧になれぇぇぇぇ!!」
レイは大声で叫びながら、ダガーを振りかざす。
そしてダガーがスライムに接触する数センチ……の、はずだった…
「…えっ?」
ダガーがスライムに突き刺さる直前、彼女の視界からスライムの姿が忽然と消えていた。
突然姿を消したスライムに動揺を隠せず、思わずレイは間抜けな声を出す。
……と、それと同時だった……突然彼女の周辺の影が広がり始めるのに気づく……
そして何を思ったのか、彼女が上を向くとそこには…………体を大きく広げ、その体で彼女を包み込もうとした、スライムの姿があった…
~~~
その一方で魔王たちは、ゴブリンたちに感謝されていた。
「この度はありがとうございました魔王様!!」
「「「ありがとうございました魔王様!!」」」
「礼など要らぬ……帰るぞ」
「御意」
魔王はゴブリンたちを軽く無視しつつ、オーラムに城に帰ると告げる。
それを聞いたオーラムは返事をすると同時に、転移の魔法を唱え始める。
そしてオーラムが詠唱を終えると、魔王たちの視界の先には、自身の城が写っていた。
魔王城の周辺にまで転移し終えると、二人は城に向かって歩き出す。
「…全く、面倒なことをやらされたものだ……」
「えぇ……しかし、あの数だと2、3ヶ月後にはまた訪れないといけないでしょう」
「やつらは繁殖期が多いからな……それを考えるとまた面倒だ…」
「---魔王様ぁぁぁぁ!!」
二人が話していると、突然城の護衛を任せていた魔物が彼らの元へ慌てて走ってくる。
それを見た魔王は何があったと尋ねる。
「ま、魔王様!ようやくお戻りになられましたか…!」
「……何をそんなに慌てているのだ。何が」
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「…あったようだな…」
「は、はい……」
「今の声…勇者のですね……」
「…とにかく、勇者の元へ案内しろ」
「は、はい!」
城から出てきた魔物は返事をすると、慌てた表情をしながら魔王達をレイの元へ案内する。
そして数分後…彼女の元へたどり着いた魔王達(そして周りにいる野次馬している魔物達)の視線の先には……
「…オーラム…やはり今回の勇者を使うのはやめるべきではないかと思うのだが…このまま始末していいか?」
「駄目です。気持ちはわかりますが駄目です。それにこのままやったら戦力が減ります」
「しかし……勇者から奴を引き剥がすのはかなり面倒だからな……幸い殺すつもりまではないようだな……今日はこのまま放っておくぞ」
「放置しないで助けてくれぇぇぇぇ!!」
………スライムに体の殆どを覆われてしまい、床に這いつくばった状態で必死に魔王に助けを求める、勇者がいた…
それを見た魔王は付き合ってられないと言わんばかりにその場を立ち去ろうとするも、レイは必死に彼を呼び止める。
「ねぇ!お前魔王なんだろ!?だったらこのスライムどうにかしてくれよ!!」
(随分上から目線だな…)
「申し訳ないが、そのスライムは一度怒らせると中々手に終えなくて……そもそもなぜ襲われたんです?怒らせるようなことをしなければ襲ってくることは…」
「うっ、そ、それは…」
「そいつ、魔王様がいない隙に俺らに襲いかかってきたんすよ」
「えぇ、確か今この城にいる奴らの大半は襲われたはずですよ。聞いた限りじゃ全部返り討ちらしいですが」
「あぁ、俺も不意打ちで襲われましたよ」
「確かスラさんに襲いかかるとき経験値の糧になれだの何だの言ってたような…」
「ちょぉぉぉぉ!?」
理由を聞かれ、声をくぐもらせるレイだが、そんな彼女を余所に他の魔物達が彼女の行ったことをばらし始める。
それを魔王はチラリと彼女を見つめると……何も言わずに立ち去ろうとして再度呼び止められていた。
「…」
「おいこらぁ!?なんでボクをそんな憐れむような目で見るんだよ!…ね、ねぇ……冗談抜きにそんな目をするのやめて…?」
「…」
「あ、ちょ、置いていくなー!!ボクを死なせないつもりなんだろ!?今こんな状況だよ!?いつ溶かされて殺されるかわからないんだよ!?それでもいいの!!?」
(((自業自得の癖に何を言ってるんだあいつ…)))
(((あんなのが今の勇者って世も末だな…)))
「…行くぞ、オーラム」
「…置いていかれるのですね…」
「うわぁぁぁぁぁぁ!待って!ほんとに待ってったら!!っ…こうなったらこいつを倒して無理矢理脱出して…あ、ごめんなさいそんなことしませんからそのヒリヒリするのやめて明らかに溶かそうとするのやめてぇぇぇでぇぇ!!」
~~~
その日の夜…あの後必死に魔王に助けを求めたレイは、自室のベッドでうつ伏せになっていた。
しかし今の彼女の服装は、大きなバスタオル一枚のみ……何故そうなっているのかと、服はおろか下着をもボロボロに溶かされたからだ。
とりあえずの応急処置としてバスタオルで身を包んだものの、今日の出来事で彼女はぐったりしていた。
「…しにたい……いやでもしんだらまおうを…」
--トントン…
「…はーい……」
彼女が疲れたような声で呟いていると、部屋の扉からノックが聞こえる。
それを聞いた彼女は念入りにバスタオルを巻き付けながら扉を開ける。
部屋の外には昨晩と同じようにオーラムが立っており、オーラムは彼女に何かを差し出す。
「…貴女が着ていた衣服です。総て直しておきました」
「あ、ありがとう……あ、もう一着メイド服が入ってる……」
「予備を用意し忘れていたので……それとあまり今回みたいな、馬鹿な真似はしないでいただきたいです」
「馬鹿な真似って……結構真面目だったんだけど…」
「十分馬鹿な真似です…魔王様なんか先程貴女のことを窓から投げ捨ててやりたい等と言い出す始末です」
「なんかそれやることちっちゃくない?」
「それだけ貴女に対し呆れているということだ…では、私はこれで…」
「あっ、ちょっと待って。幾つか聞きたいことあるんだけど」
目的を終えたオーラムが立ち去ろうとするが、不意に気になることが出たのか、レイが彼を呼び止める。
オーラムは再度彼女の方を振り向くと「何です」と聞く。
「えっと、まずは……あのスライム、なんなの?なんで種族上最も弱い個体のはずなのにあんなに強いの?」
「あぁ、あれですか…あれは総てのスライムの中であらゆる生物を唯一捕食したほどの実力を得ているんですよ…過去にはドラゴンをも捕食してました」
「ちょっと待ってドラゴンを捕食するってどういうことなの!?」
「そのためか経験値を大量に得ており、かなりの実力を有しています…少なくとも、今この城で1、2を争うほどには。因みにスライムは経験値によって姿が変わることもあるのですが、あのスライムはあえてあの姿のままにして、自分を餌にして餌を誘き出しているのだとか」
(い、生きて帰れてよかった……というかあんなのが1、2を争う実力って……後、まんまと釣られた自分が恥ずかしい…!)
レイは先程彼女が返り討ちにされたスライムのことを聞いて、心の底から安堵する。
それと同時に予想以上の実力を持っていた上に実質カモにされていたのを知り、彼女は落胆していた。
「…それで他には?」
「あ、そうだったそうだった…今日は魔王はどこにいったの?……村とか町を襲ったりしてないよね…?」
「なんだ、そんなことか…安心してください。どこも襲撃してませんよ」
「…ならいいけど……なぁ、お前達はいったいなにをしようとしてるんだ…?」
「…それについては答えられないので悪しからず…」
彼女の質問に答え終えると、オーラムはそのまま去って行く。
レイは納得いかないなーと呟くも、あまり深く考えるのも野暮かと思ったのか、おとなしくベッドに戻る。
(…なんで自ら外に出ていったのに、人間を襲ってないんだろう…てっきりどこかで襲ってると思ったのに…駄目だ、あいつの思考がわからん……今考えてもしょうがない、寝るか…明日こそは仕留めてやる…!)
レイは明日に備えて寝ようと考えると、新品のように修繕された下着を着用すると、残りをクローゼットにしまう。
そして部屋の電気を消し、ベッドに潜り込むと、そのまま眠りについていた。
(…そーいやなんで今朝の奇襲攻撃、わかってたかのように避けられたんだろ…まぁさすがに連続で奇襲されることはないと思ってるだろうからいっか…)